永田さん、河野さん、淳さん、紅さんの四人(のちに植田裕子さんも)が産経新聞夕刊に連載していたリレーエッセイ「お茶にしようか」をまとめた一冊。産経新聞は取っていないので、このエッセイをまとめて読むのは今回が初めてである。一回あたり見開き2ページに短歌一首+エッセイ約1000字という内容。河野さんの病気と死に関する話がもちろん多いのだが、それ以外にも印象に残るエピソードがいくつもあった。
河野さんが亡くなった時の永田さんのエッセイに
遺すのは子らと歌のみ蜩のこゑひとすぢに夕日に鳴けり 河野裕子『母系』
という一首が引かれている。そう言えば、河野さんの出産の時の歌に
しんしんとひとすぢ続く蟬のこゑ産みたる後の薄明に聴こゆ 『ひるがほ』
という有名な一首があったなと思い出した。この蟬の声は、河野さんにとって生と死をつなぐ一本の線であったのだろう。どちらも昼と夜との境目である「夕日」「薄明」の時間帯であることも象徴的な気がする。
短歌と散文との組み合わせというのは、簡単そうでけっこう難しい。それこそ歌の上句と下句のように、即かず離れずの距離感が大切になる。
砂時計砂をこぼせる秋の日に指折りながら言葉をつなぐ 永田紅
という歌の後に、家族で連歌をした話があり、「砂時計の砂が落ち始めるのと同時に自分の句を考え始める」と書かれているのを読んで、アッと思った。この部分を読むまでは「砂時計砂をこぼせる」を序詞として読んでいたからだ。そして、歌の鑑賞としてはその方がはるかに良いように思ったのである。
この本には、家族それぞれの視点から描かれた河野さんの姿がなまなましく息づいている。河野さんの最後の一年がつまった本が、こうして一冊にまとめられたことを喜びたい。でも、表紙やサブタイトル、そして帯については、できればもっとシンプルなものにして欲しかったと思う。
2011年2月13日、産経新聞出版、1200円。