新聞記者として科学環境部に勤めたこともある著者が、科学を題材にした短歌を取り上げながら、科学の問題についてわかりやすく解説した本。「細胞」「遺伝子・DNA・ゲノム」「がん」「脳死・臓器移植」「認知症」「月」「恐竜」「原子力」など、現代の生活において身近な様々な分野のことが扱われている。
体内に海抱くことのさびしさのたとへばランゲルハウス島といふ島 /大辻隆弘『水廊』
生殖医療の善悪もいう新聞はいつも新聞の匂いして /早川志織『クルミの中』
どんなにかさびしい白い指先で置きたまいしか地球に富士を /佐藤弓生『眼鏡屋は夕ぐれのため』
歌の読みと科学的な解説のバランスが非常に良く、短歌と科学の両方の魅力を味わうことができるようになっている。これまで、短歌の話は短歌の世界だけでされることが多かったが、この本のように短歌を外に向って開かれたものにしていくことは、実はけっこう大切なことなのではないかと感じる。
本書の中に、文系と理系をあまり早くから分けない方がいいと述べる人の話が出ているが、本当にそうだと思う。デカルトだって哲学者であるとともに数学者、科学者であったし、ゲーテもまた詩人、小説家、政治家であるとともに科学者でもあったのだから。
2009年7月2日、NTT出版、1800円。