題名の「アシンメトリー」はシンメトリーの反対で「非対称」の意味。直接には〈翅ひろげ飛び立つ前の姿なす悲という文字のアシンメトリー〉という一首から取られているが、他にも〈対をなす臓器ではない心臓にこころがあると思う雪の日〉という歌や、われと「君」との関係のようなものも意味しているように感じた。
あとがきに「雨ばかりの数年だとおもっていた」と記してあるように、雨の歌が多い。また内容的には「鬱烈しき」「鬱語りいる」と描かれる君との関係性を詠んだ歌が圧倒的に多く、痛みを伴った感情表現に作者の個性が感じられる。
明るさと呼ぶには少し翳りある桜も作り笑いするのか
とちおとめ煮詰めて女にしてしまう朝ごとに塗るジャムの艶めき
朝ごとに光のほうへ右折するバスの終点へ行きしことなく
びったりと寒鮃黒く黙しいる魚屋過ればわが影の無く
感情のもっとも薄き場所に打つホチキス今日は風強きゆえ
夕暮れが貼り付いたままの車窓へと頭ぶつけて君は眠りぬ
溝に散る花もきれいと言うのなら揺すってよわれという名の幹を
折れるほどの力を込めていたならば君の背骨を折ってしまえた
光にはなれぬ痛みの色なるか川べりに咲く菜の花の黄は
零れぬ水おんなは一枚持ち歩き顔を映せり昼ごと夜ごと
歌集の中ほどにある「真冬の漏斗」45首は、第一回中城ふみ子賞を受賞した作品で、非常に意欲的かつドラマチックな一連であるが、そのために後半の歌がやや色褪せて見えてしまうのが惜しい気がした。
2010年8月31日、短歌研究社、2500円。