いくつもの興味深いエピソードや歴史の一こまが描かれている。例えば十九世紀の自転車の発明について述べたくだりに、こんな一節がある。
有名な芸術家であり、科学者でもあったイタリアの巨人、レオナルド・ダ・ビンチの大量の遺稿が、一九六五年(昭和四〇)に発見された。その中に、見事な二輪車(自転車)のスケッチが混じっていたのである。
ハンドルらしきものがあり、八本のスポークが入った同じ大きさの二つの車輪、ペダル、チェーン、サドル……。自転車の初期のものよりはるかに優れ、現代のものと大差ない。ダ・ビンチの没年が一五一九年といわれているから、本当だとするとまさに驚異的な着想である。
ダヴィンチが描いたという二輪車構想図の模写が図版に載っていて、確かに現代の自転車とそっくりである。ただし、この本でも「本当だとすると」という留保があるように、これは現在では捏造(イタズラ書き?)であったことが判明している。歴史というのは、どこでどう転ぶかわからない。
一八〇九年、イギリスの学者、ジョージ・ケーシーは、鳥の翼を形どった滑空機を飛ばし、一五メートルの高さの飛行を実現した。この経験をもとに、彼はそれまで考えられていた「はばたき式」でなく、「固定翼型」が良いことを結論づけた。その時代まで、鳥のように羽根を上下に動かす方式が真剣に考えられてきたが、固定翼は飛行機開発の方向を大転換する重要な実験となった。
飛行機については、この部分が印象に乗った。飛行機開発は、まずは身近な鳥を真似た「はばたき式」が主流であったのだ。確かに鳥のモノマネをする時は両手をバタバタさせるから、これが自然な発想というものだ。そこから「固定翼型」へと移行した段階で、外見は似ていても中身というか考え方が全く別種のものに変化したということなのだろう。
1986年7月3日、東洋経済新報社、1200円。