評論家・ジャーナルストである著者が、産経新聞大阪版夕刊に「複眼鏡」と題して連載したコラムをテーマ別にまとめたもの。全6章のタイトルは「ネットのルールと街の掟」「マスメディアの没落、ジャーナリズムの黄昏」「多様化せず、格差化する社会」「リスク社会を生きる」「新たな「核論」のために」「テクノロジーに飼い慣らされないために」となっている。
時事的な社会問題や事件・事故などを取り上げながら、著者が一貫して語っているのは「内向きに閉じずに開いておく」「排除せずに受け入れる」「忘れずに関心を持ち続ける」といったことだ。そこから逆にゼロ年代の社会というものの姿も浮かび上がってくるように思う。
本書は物事を違った角度から見ることの大切さも教えてくれるが、特にJR福知山線の脱線事故について書かれた文章の中で、鉄道の軌道幅をめぐる歴史的な経緯に触れながら、次のように記しているのが印象に残った。
(…)関西ではJRと私鉄が並行して走る路線が多く、熾烈な競争が繰り広げられているが、(…)JR在来線は狭軌、私鉄の多くは標準軌なのだ。つまりその戦いは、骨格で劣るJRが偉丈夫の私鉄に挑むようなもの。JRは初めからハンディを負っている。
事故の背景にこうした側面があったことを知っておくのは、大切なことかもしれない。
2010年11月30日、河出書房新社、1600円。