文学小説の中に出てくる鉄道を取り上げて、さまざまな角度から考察するユニークなエッセイ集。全8編。登場するのは夏目漱石『坊っちゃん』をはじめ、佐藤春夫『田園の憂鬱』、芥川龍之介『蜜柑』など文学史に残る名作ばかり。
ある作品を読んで面白かったと満足すると、その作品を目を皿のようにして読み返し、作者が書いてくれなかったこと、ちょっとだけ書いてやめてしまったことなどをほじくり返して、もう一度別の、あるいは裏の物語をでっち上げたくなるのが、わたしのくせなのだ。
と書いているように、歴史的な事実と照らし合わせながら作品の背後に潜む物語を浮かび上がらせる手腕が見事だ。小説の中のわずかな描写や台詞などを手がかりに、一つ一つ推理を重ねて、見えない謎を解き明かしていく。
宮沢賢治『銀河鉄道の夜』をめぐる話(「銀河鉄道は軽便鉄道であったのか」)の中に、岩手軽便鉄道や釜石鉱山鉄道のことが出てくる。少し前に読んだ『ニッポンの穴紀行』にも、ちょうどそのあたりの話が載っていた。全く別のジャンルの本が、こんなふうにクロスする偶然というのも嬉しい。
2008年10月1日、新潮文庫、400円。