圧倒的に男性が多い鉄道ファンの世界に、女性ファンの道を切り拓いた作者の鉄道エッセイ集。女性が入ってくることで、鉄道ファンの世界も少し風通しが良くなりつつある気がする。
鉄道は私に、「移動」という冒険をさせてくれます。しかしそれは全く先の見えない冒険ではない。行きつく先は絶対に駅で、走るのは絶対に線路の上。知らない駅から鉄道に乗る度に覚える、「冒険をしているのだ」という不安感と、駅と線路とが必ず与えてくれる安心感。両者を同時に得ることができるが故に、鉄道は魅力的なのです。
というあたりは、男女を問わずよくわかる心理だと思う。もちろん、女性ならではの目の付けどころもあって、営団地下鉄の制服のデザインを論じたり、Suicaペンギンの可愛さの秘密を探ったり、「都電もなか」が好きだったりといったあたりは、他の鉄道関係の本ではあまり見たことがない。
あと、これは鉄道本の宿命でもあるのだが、本書に登場する路線にも既に廃止されたところがけっこうある。のと鉄道(穴水―蛸島間)、高千穂鉄道、ブルートレイン「あさかぜ」「さくら」、鹿島鉄道など。自分が乗った時のことを思い出したりして、少ししんみりした。
2009年7月20日、光文社文庫、495円。