昨年3月30日に亡くなった竹山広の遺歌集。これが第10歌集になる。2008年11月から亡くなるまでの間に作られた304首が収められている。
その間、脳梗塞による軽い麻痺、帯状疱疹による入院、右肺の手術などがあり、多くは自宅のベッドで過ごす日々だったようだ。苦しみや痛みを訴える歌も多いが、一日一日死へと近づいて行く自分自身を見つめ、一首一首丁寧に言葉を紡いでいく中から生まれた歌には、作者ならではの静謐な味わいがある。
妻が今日漏しし一語ときながくわれはかなしむ「同じ日に死にたい」
いくたびか杖とわたりし国道の場馴れせる杖みごとにわたる
稲佐山の空にひさしくとどまれるひらたき雲も暗み終へたり
会ひにきて妻が一時間座りゐし丸椅子固し座りてみれば
祈りとは意志にて感情にあらざると気を向はせてけふは祈りき
隣室に臥床を移し己が本の運び出さるる音を聞きをり
洗面にゆける日ゆけぬ日のあればみがかざる歯も口は納むる
生きてゐるだけでよいからと言ひくるる汝をもやがておきてゆくべし
退屈といへばきりなきベッドにて救ひのごとし昼を痛むは
原爆を知れるは広島と長崎にて日本といふ国にはあらず
竹山さんには一度もお会いしたことがなかったが、もうこの世にいないんだなあと思うと、何だかさびしい。
2010年12月25日、角川書店、2381円。