2011年01月03日

原武史『「鉄学」概論』



副題は「車窓から眺める日本近現代史」。

NHK教育テレビのシリーズ「知るを楽しむ」の中で「鉄道から見える日本」という題で放送された全8回の番組のテキストを増補改訂したもの。日本の近代化を支えた鉄道を通して、時代や歴史について考察する内容である。

既に他の著作に書かれている内容と重複する部分も多いが、どの章も著者の切り口がユニークかつ鮮やかで、ハッとさせられることが多い。一見何の関係もなさそうな事柄から時代の移り変わりや、日本人の意識の変化が浮かび上がってくる。
明治天皇も、大正天皇も、昭和天皇も、御召列車(戦後は「お召列車」)に乗り、全国各地を回っている。(…)近代日本においては、支配の主体である天皇・皇太子が行幸啓を全国レベルで繰り返し、彼らの姿を視覚的に意識させることを通して、人々に自らが「臣民」であることを実感させる、という戦略が一貫してとられていたのである。 (「第三章 鉄道に乗る天皇」)
関西では従来、大手私鉄が難波、梅田、上本町、淀屋橋というように別個にターミナルを持っていた。それが「官」からの独立を示すシンボルであったわけだが、(…)関東の私鉄には先に発達した旧国鉄=「官」=お上におもねる文化というのが基本的にあった。東急の渋谷ばかりか、西武や東武の池袋、小田急や京王の新宿、京急の品川、相鉄の横浜などのターミナルも、既存の旧国鉄駅に従属するような構造になっている。 (「第四章 西の阪急、東の東急」)

また、東京に都電の走っていた頃は「半蔵門」や「桜田門」といった停留所から、現実の皇居の門である「半蔵門」や「桜田門」が見えていたため、両者が緊密に結び付いて人々の地理感覚を形成していたが、地下鉄の「半蔵門」「桜田門」は単なる駅名に過ぎなくなってしまったという指摘も印象に残った。

2013年1月1日、新潮文庫、438円。





posted by 松村正直 at 00:16| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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