2010年12月22日

かわのさとこの詩(その4)

詩集『日常の鏡』(1976年)の中から一篇。
引用は「愛媛詩人会議詩誌」36号より。

  台所

働く女はうつむいて
だんらんに背をむけて日常を洗う。
ちゃわん。はし。皿。
食べのこしのやさいといっしょに
男たちの腕もこっそり一本もぎとって
ビニール袋に入れしらんふりしている。
男たちは腕が一本足りないことに気付かず
ギロンに夢中だ。とびちるコトバ。
だから、足もいらないでしょうとつぶやいて
ついでに足も一本もいでしまう。
男たちはときどきふりむいて
女の背をのぞいてみるが
うつむいて働きつづける背に安心して
またまたギロンに夢中だ。
女が“家事”という忙しさの口実の陰で
舌だしているのにも気づかずに。
台所。なめくじや野菜の切れっぱしと共に
女がいつまでもそこに在るとは限らない。
ふしぎな微笑をもらして
女は 包丁を 研ぐ。

かわのさとこさんの詩の紹介は、ひとまずここまで。
posted by 松村正直 at 00:59| Comment(3) | メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
すばらしい。
ごくろうさまでした。
Posted by まなか at 2010年12月22日 16:29
里子さんの詩を読んだのは初めてでした。

有難うございました。
「戸外診療」はなかなかに手強いですね。
この「台所」はまぁ、分かりやすいですが。
Posted by 永田淳 at 2010年12月22日 17:34
『窓―病棟抄より』は、かなりひりひりした作品が多いです。
大阪で詩の朗読会などもやっていたようです。
Posted by 松村正直 at 2010年12月23日 00:37
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