2010年11月25日
柳瀬尚紀『日本語は天才である』
ジェイムズ・ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』の翻訳をしたことでも有名な著者が、翻訳を通じて感じた日本語の特性や豊かさを自由に論じた本。どの話も翻訳の現場や自らの体験から生まれており、説得力がある。
柳瀬はカタカナ・ひらがな・漢字・ルビなどの多彩な表記と古語や文語、日常あまり使われない言葉まで駆使した語彙によって、翻訳不可能と思われる言葉遊びやアナグラムまでも翻訳してしまう。その手腕の根底にある言葉に対する愛情は、この本からもひしひしと伝わってくる。
翻訳の日本語と言うと、得てして「翻訳調」といった感じに日本語が貧しく狭くなる方向へ向かうものだが、柳瀬の場合はそれが反対に日本語の豊かさや可能性へと向かっている点が特徴的だと思う。その他に、生まれ育った根室の話や、愛猫ぶり、将棋に対する思いなど、著者の素顔も垣間見ることができる。
2009年10月1日、新潮文庫、400円。
この記事へのコメント
コメントを書く