宗左近訳。
日本文化を素材にして、エクリチュールや表徴をめぐる問題を随想風に記した一冊。箸、すき焼き、天ぷら、パチンコ、文楽、俳句、筆、全学連など、実にさまざまなものが取り上げられている。
パチンコは、集団的で、しかも一人ぽっちの遊びである。機械は長い列をなして並べられている。自分の絵画の前に立ったお客は、おのおの自分だけで遊び、隣りの客など見もしない。そのくせ隣りの人とは、肱と肱とをふれあっている。
東洋の女形は女性をコピーしない。女性を表徴する。(…)女形は読みとられるものとして、女性を現前させるのであって、見られるものとして現前させるのではない。つまり翻訳なのであって、変容なのではない。
こんなふうに、随所にナルホドと感じられる部分があって、非常に面白かった。
1996年11月7日、ちくま学芸文庫、1000円。