2010年10月21日

池内紀『文学フシギ帖―日本の文学百年を読む』


ドイツ文学者でエッセイストでもある著者が4年あまりにわたって北海道新聞に連載した文章をまとめたもの。森鴎外、北原白秋、高村光太郎、林芙美子、江戸川乱歩、村上春樹など明治から平成まで51人の文学者を取り上げている。一編につき3〜4ページと短い文章でありながら、それぞれの作家の特徴や本質を鋭く掴まえていて、面白い。
牧水には「漂泊の歌人」といったイメージがあり、気ままな旅をしたように思われているが、まるきり逆である。時刻表、地図、コンパスをつねに身につけ入念に準備していた。だからこそ自由気ままに旅程を変えることができた。 ―「牧水と言霊」
しかし現在、作家、劇作家久保田万太郎を知る人は、ごく少ないだろう。その名がのこっているのは俳人としてである。小説や戯曲はまずもって読まれないが、万太郎俳句は日本人の記憶にしみついている。 ―「久保田万太郎と湯豆腐」
小川未明の作品は、ごく簡単な構造をもっている。生涯、この人には「不器用な技巧家」といった趣があった。 ―「小川未明の模倣」


「書き手、つくり手の想像力はいいとして、問題は読み手、受け手のそれである。言葉のフシギを味わうためには、読者の側にも、フシギをつくり出す能力が必要なのではあるまいか」という著者の言葉は、短歌の読みにも当てはまることかもしれない。

2010年7月21日、岩波新書、720円。
posted by 松村正直 at 23:52| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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