2010年10月09日
有吉佐和子著『日本の島々、昔と今。』
昭和54年から55年にかけて、作家の有吉佐和子が日本各地のの離島を旅したドキュメンタリー。焼尻島・天売島、種子島、屋久島、福江島、対馬、波照間島、与那国島、隠岐、竹島、父島、北方領土、尖閣列島が登場する。
まず驚くのは有吉の積極的で意気盛んなバイタリティである。悪天候や様々な障害にも負けずに、ひたすら自分の見たいもの知りたいものを目指して突進する。タイプ(上品さ)は全然違うが、その姿は『崩れ』取材時の幸田文を思い出させる。
200カイリ問題や石油の値上がりをめぐって漁協に話を聞きに行き、領土問題をめぐって海上保安庁に取材する。とにかくいろいろな人に話を聞きつつ、しかもそれを鵜呑みにするのではなく、資料に当って自分自身で考え、必要があればインタビュー中にも反論をする。
この人に取材されたら大変だなと思いつつ、読んでいる分にはすこぶる面白く、文章のテンポもいい。以下、この本で知った雑学。
○焼尻島は江戸時代は庄内藩、天売島は米沢藩。
○屋久島のウイルソン株の本体(?)は秀吉が建立した方広寺大仏殿中央の真柱となった。
○文永の役で対馬の島主宗助国は戦死、壱岐の守護代平景隆は自害した。
○壇の浦で入水した安徳天皇は後鳥羽天皇の兄である。
○択捉・国後島は海洋性気候で北海道より暖かく、温泉も出る。
ちょうどこの本を読んでいる時期に、尖閣諸島をめぐるトラブルが勃発した。有吉は尖閣諸島を訪れようとして海上保安庁に断られ、結局民間のヘリコプターに乗って上空から見たのだが、今日も同じようなニュースが流れていた。三十年経っても状況は何も変っていない。
「尖閣諸島問題について、我々の世代には知恵がない。次の世代がこれを解決するだろう」(1978年のトウ小平副首相の言葉)という希望が実現するのはいつの日のことだろう。
2009年2月17日、岩波文庫、940円。
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