2010年10月01日

夢野久作『猟奇歌』(赤澤ムック編)

推理小説家・幻想小説家として有名な夢野久作は「猟奇歌」と呼ばれる短歌を作っていた。「探偵趣味」「猟奇」「ぷろふいる」といった雑誌に発表されたもので、合計251首ある。その中から約100首を選んだアンソロジー。
誰か一人
殺してみたいと思ふ時
君一人かい…………
………と友達が来る

無限に利く望遠鏡を
覗いてみた
自分の背中に蠅が止まつてゐた

殺すくらゐ 何でもない
と思ひつゝ人ごみの中を
闊歩して行く

この夫人をくびり殺して
捕はれてみたし
と思ふ応接間かな

蛇の群れを生ませたならば
………なぞ思ふ
取りすましてゐる少女を見つゝ

こうした短歌は読者によって好き嫌いが分れると思うが、夢野久作の小説世界に通じる味わいがある。「格差、貧困、差別、抑圧の時代に夢野久作の〈怨磋の言葉〉が、よみがえる!」という帯文を付けて、一般の本屋で平積みになっていた。

「猟奇歌」の成立過程については、現代短歌研究会編『〈殺し〉の短歌史』(水声社)の中で、秋元進也が評論を書いており、参考になる。

2010年2月19日、創英社、1400円。

posted by 松村正直 at 21:59| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。