誰か一人
殺してみたいと思ふ時
君一人かい…………
………と友達が来る
無限に利く望遠鏡を
覗いてみた
自分の背中に蠅が止まつてゐた
殺すくらゐ 何でもない
と思ひつゝ人ごみの中を
闊歩して行く
この夫人をくびり殺して
捕はれてみたし
と思ふ応接間かな
蛇の群れを生ませたならば
………なぞ思ふ
取りすましてゐる少女を見つゝ
こうした短歌は読者によって好き嫌いが分れると思うが、夢野久作の小説世界に通じる味わいがある。「格差、貧困、差別、抑圧の時代に夢野久作の〈怨磋の言葉〉が、よみがえる!」という帯文を付けて、一般の本屋で平積みになっていた。
「猟奇歌」の成立過程については、現代短歌研究会編『〈殺し〉の短歌史』(水声社)の中で、秋元進也が評論を書いており、参考になる。
2010年2月19日、創英社、1400円。