『滝山コミューン1974』で少年時代の団地生活を描いた政治学者・原武史とニュータウンを舞台にした小説を数多く手がけている小説家・重松清。この同世代の二人が四回にわたって行った対談をまとめた一冊であり、団地を通して見た戦後日本史である。
今年読んだ本の中でベスト。
「コンクリートは善か悪か」「西武の弱点と、東急のイメージ戦略」「日本の団地はなぜソ連型なのか」「団地妻はなぜ浮気するのか」「団地にはSFがよく似合う」「共同性が否定される時」など、話はさまざまな方向に広がり、気ままで自由なお喋りを続けているように見えながら、そこから鮮やかに、そして多面的に戦後日本の風景が浮かび上がってくる。
今でこそ古さと懐かしさを感じさせるようになってきた団地であるが、六〇年代は当然そうではなかった。
要するに鉄筋コンクリートの方が近代的で、木造住宅なんていうのは地震や火災が起こればひとたまりもないんだと。団地の方が安全だし、丈夫なんだという優越感を持っていた。(原)
団地の盛衰は、戦後の日本社会やそこに暮らしてきた人々の歴史と深い関わりを持っている。短歌に詠われた団地につても一度きちんと調べてみたい。
原武史の通っていた小学校は久留米市立第七小学校と言うらしい。こうしたネーミングには親近感がある。僕の通った小学校も町田市立町田第五小学校であった。そして、こうした名前に当時は何の違和感も感じていなかった。
結婚して京都に移り住み、妻の出身が日彰小学校と言い、それが『中庸』の「君子の道は日に章(あき)らかなり」という言葉に基づいていると聞いた時、軽い驚きを覚えたものだ。本当に、人は生まれ育った環境から知らず知らずに大きな影響を受けているものである。
原武史はただの鉄チャンじゃなかったんだなあ。
2010年5月25日、新潮選書、1200円。