2010年05月30日

さらに検閲について

北原白秋『フレップ・トリップ』は、白秋が大正14年の夏に樺太を訪れた際の旅行記である(とても面白い)。以前、短歌の評論を書いた際に文章の一部を引用したことがあり、今回その引用の確認のために原文に当たったところ、古い文庫本と新しい文庫本とでは内容に違いがあることがわかった。

「イワンの家」というロシア人の家に天皇皇后の肖像が飾られていることを述べた部分。

(昭和15年、新潮文庫)
今上皇后両陛下の御尊像が並び立たせられた石版刷の軸が一本、まことにあり難さうに掛け垂らしてあつた。

(2007年、岩波文庫)
今上皇后両陛下に摂政宮と妃殿下の御尊像が並び立たせられた石版刷りの軸が一本、まことにありがたそうに掛け垂らしてあった、

一読してわかるように「摂政宮と妃殿下」の部分が古い文庫では見当たらない。大正14年の旅行記なので、この摂政宮とは昭和天皇のこと。昭和15年の発行という時期を考えると、何らかの検閲により削除された可能性もある。もちろん、単なる脱落かもしれないのだが。
posted by 松村正直 at 16:42| Comment(0) | TrackBack(0) | メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック