500ページを超す大著。明治末〜大正期にかけての森鴎外・木下杢太郎・斎藤茂吉の三人の足跡を作品や書簡などを通じて丁寧に描いている。前作『『赤光』の生誕』の時と同様に、話題があちこち飛んだり時間が前後したりと自在な書きぶりであるが、それが混乱の元にはならず、逆に重層的に時代の様相を浮かび上がらせているように感じる。
全体としては明治末〜大正期の文学者たちがどのように新しい詩や短歌の言葉を作り出していったのか、また医者であり文学者であった三人が二足のわらじの生活をどのように送ったのかといったことが大きなテーマになっている。しかし、読んでいて面白いのはディテールだ。そして、それはとても大事なことだと思う。
自分の関心がある部分では、例えば
○鴎外が「仮名遣意見」を私費で刊行して、文部省案を葬ったこと
○鴎外が「陸軍次官石本新六」と対立したこと
(この石本新六は高安国世の次姉の夫・石本巳四雄の父に当たる)
○「祖母」を「おおはは」と読ませるのは、茂吉の『あらたま』が初めてであること
などが面白かった。
細かい話になるが、いくつか誤植があったので忘備のために書き留めておく。
○P424 「一九一一年」→「大正十一年」
○P444 「一九〇〇年生まれ」→「一八九〇年生まれ」
○P481 「重るる」→「垂るる」
岡井さんは既にこの続編に当る「森鴎外の『うた日記』」を「未来」に連載中である。すごいことだと思う。
2008年10月10日、書肆山田、4800円。
2010年05月23日
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