2010年05月18日

松村由利子歌集『大女伝説』

松村由利子さんの第3歌集。タイトルは「おおおんな伝説」と読む。「短歌研究」の作品連載を中心に編んでいることもあって、連作単位で読む歌集という感じが強い。

連作は〈天体の月〉と〈女性の月経〉を描いた「月と女」、〈真珠〉と〈沖縄〉を描いた「真珠考」など、いくつかのイメージが重層的に展開される内容のものが多く、いずれも確かな構成力を感じさせる。

「歌によって何か物語を紡ぐことができれば」(あとがき)という作者の狙いは成功していると言えるだろう。やや理が勝ち過ぎていると思う部分もあるが、多様に展開していく物語の中から、「女性」「沖縄」「仕事」といった作者固有ののテーマが見えてくる。

羊皮紙の地図捲(めく)れゆくにっぽんの湿度のような迫害なりき
観賞用鯨飼いたしふたつ三つ丼鉢にあおく泳がせ
ああ何か油まみれになりたくてペンネ・アラビアータの山崩す
スカラベの観察記いと仔細にてファーブル夫人の孤独思えり
腑分けする最後の臓の豊けさをかつて暗黒大陸と呼び
月の支配を逃れる日やや近づかんジョギングシューズの軽きを選ぶ
初恋という知恵の輪のようなものあなたに見せぬ抽斗の底
ああわれの太郎は人に育てられ電話の声も野太くなりぬ
一心にミルクを注ぐ幸いよ永遠はその静けき角度
メロスを走らせセリヌンティウスを捕縛せし王の孤独を子らは知り得ず

2010年5月11日発行、短歌研究社、2500円。

posted by 松村正直 at 16:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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