2025年03月23日

早尾貴紀『イスラエルについて知っておきたい30のこと』


「シオニズムはどのように誕生したか」「イスラエルには誰が住んでいるか」「〈10・7〉とは何だったのか」など30の問いに答える形で書かれたパレスチナ問題の解説書。

シオニズム運動とは、十字軍やレコンキスタのころから一貫している、他者を排斥するキリスト教社会の排外主義・人種主義、そして中東地域に対する植民地的な欲望が生み出したのであって、徹底的にヨーロッパ諸国の都合によるものです。
ヘブライ語は聖書の古語として受け継がれていましたが、日常用語としての話者はいませんでした。文法的にも語彙的にも近代言語として通用するものではなかったので、文法を整理し直し、アラビア語やヨーロッパ諸語から持ってきて単語をつくり、近代言語として現代ヘブライ語が創出されました。
西洋文明を守る戦争という言葉は非常に象徴的です。イスラエルによるガザ攻撃は、まさに西洋中心主義的な植民地主義的世界を守るための戦争なのです。

本書の最後30番目の問いは「私たちになにができるのか」である。引き続き考え、自分なりに行動していきたい。

2025年2月10日、平凡社、1900円。

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2025年03月22日

重延浩『ボクの故郷は戦場になった』


副題は「樺太の戦争、そしてウクライナへ」。

1941年に樺太で生まれ1946年12月に函館に引き揚げた著者が、樺太で見た戦争や戦後の生活、そして平和に対する思いを記した本。

幼い私はカレオフとの親交によってロシア人は怖い人という印象がきれいに消えていった。怖いのはロシア人ではなく、戦争というものだったのだ。戦争は人間を敵味方に分断する。でも戦争がなければ、ロシア人と日本人は敵味方ではない。
日本では1954(昭和29)年に『空飛ぶダンボ』という題名で初公開された映画である。私はその映画を日本公開より8年も早い、1946(昭和21)年に見てしまったのである。
引き揚げはすべての財産を樺太に置いていくということでもあった。家や土地だけではなく、銀行との取引は停止され、樺太での預金は預金者の請求には及ばないものになるというのが外務省の見解だった。
昭和24(1949)年7月に終結を見るまでに、函館は総数31万1877人の引き揚げ者を迎えた。敗戦時の樺太の日本人の数は約40万人といわれているので、その多くが函館に上陸したということになる。

以前、函館を訪れた時に「樺太引揚者上陸記念碑」というものを見たことがある。
https://matsutanka.seesaa.net/article/460306601.html

著者はテレビ制作者となってから、「北のグルメ―樺太への旅」「ベルリン美術館―もう一つのドイツ統一」など国際交流の番組制作に携わった。幼少期の戦争や引き揚げの記憶が、平和に対する強い思いを生み出したのだろう。

2023年8月18日、岩波ジュニア新書、940円。

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2025年03月21日

現代短歌セミナー 作歌の現場から

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次回の「現代短歌セミナー 作歌の現場から」は4月16日(水)の19:30〜21:00に開催します。ゲストは花山多佳子さん(「塔」選者)、テーマは「ユーモアの歌」です。

花山さんは昨年第12歌集『三本のやまぼふし』を出されたところ。ユーモアのある歌を詠むことでも知られています。

みなさん、どうぞご視聴ください!

https://college.coeteco.jp/live/87wpc0ll
(4月16日の回のみ)

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2025年03月20日

矢部雅之歌集『Another Good Day!』

著者 : 矢部雅之
書肆侃侃房
発売日 : 2025-01-11

現代歌人シリーズ39。

第1歌集『友達ニ出会フノハ良イ事』(2003年)以来21年ぶりの第2歌集。2008年から2014年までカメラマンとしてニューヨークに住んだ日々が詠まれている。

転ぶのもしだいにうまくなるものか上手に転び子が立ち上がる
おのが心おのが歩みにおくれつつ聖堂のさむきくらがりをゆく
ひともわれも黄葉か流れの上に落ちしばしを絡みやがて隔たる
ツグミまで腹の出てゐる国にありむしろ痩せ気味の日本人われ
裏切りを未だ知らねば三歳は「どしてなの?」と幾たびも訊く
孤独にも金また銀の孤独あり 錆びたる鉄の孤独を吾に
カウチにて雌猫の背を撫でをれば鏡の中の妻と目が合ふ
一目見んと思(も)ふは思(も)へども座すほかなし半日白昼のつづく機中に
なにごとも差別のせゐにする人とせぬ人ありてけふも晴れの日
風船は風の船なり風吹けば小(ち)さき手を発ち風中を行く

1首目、小さな子の様子を見ての発見。転び方も上達するのである。
2首目、上句がいい。異国の教会の雰囲気に少し気圧される感じか。
3首目、別れた前妻を詠んだ歌。川面を流れる二枚の黄葉のように。
4首目、同じ鳥でも日米で姿が違うように痩せや肥満の基準も違う。
5首目、イソップ物語の裏切りの意味がわからずに尋ねてくる幼子。
6首目、格言みたいな響きがかっこいい。孤独にも種類があるのだ。
7首目、何となく気まずい感じ。妻が嫉妬するわけでもないのだが。
8首目、母危篤の報せを受けて帰国する。矢部版「死にたまふ母」。
9首目、差別が問題なのは前提としてその後の人の態度は分かれる。
10首目、風船が飛んで行っただけなのだが、言葉がとても美しい。

2024年12月28日、書肆侃侃房、2200円。

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2025年03月19日

新宮&別邸歌会(その3)

熊野速玉大社への参拝を終えて熊野川を見に行く。


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ちょうど三反帆の遊覧船が下ってくるところだった。
かつては本宮大社から速玉大社まで舟で下って参拝したらしい。


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大石誠之助宅跡。

住宅街を通っていたら、偶然見つけた。
調べて行って見つけるより偶然見つける方が価値がある。

その後、丹鶴ホール4階の新宮市立図書館に寄って中上健次コーナーを見学。熊野川を見わたす素晴らしい環境の図書館だった。

そして、午後からは第18回別邸歌会を旧チャップマン邸で開催。参加者15名。13:00から17:00まで計30首について楽しく議論した。

終了後、近くのハンバーガー&クレープの店「マジックピエロ」で懇親会。短歌についてあれこれ話す。

16日(日)

大雨の予報だったが、朝起きると雨はほとんど止んでいたので、バスに乗って熊野本宮大社へ行くことにする。


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熊野本宮大社。


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前登志夫の歌碑。
「那智瀧のひびきをもちて本宮にぬかづくわれや生きむとぞする」


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馬酔木がきれいに咲いていた。

帰りは新宮から特急くろしおに乗り、大阪経由で京都まで。行きは松阪経由だったので、往復で紀伊半島をほぼ一周した感じになった。

posted by 松村正直 at 20:51| Comment(0) | 旅行 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年03月18日

新宮&別邸歌会(その2)

15日(土)

新宮に「大逆事件資料室」があると聞いたのだが、ネットにはあまり情報が出ていない。常時開いているわけではなく、担当の方に電話して予約する必要があるようだ。

9:00過ぎにホテルから電話して「今日の午前中か明日見学したい」と話したところ、9:30には開けてくださるとのこと。対応が実にスピーディーでありがたい。


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熊野新宮大逆事件資料室。


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1910(明治43)年に起きた大逆事件の概要のほか、新宮グループ6名(大石誠之助、成石平四郎、高木顕明、成石勘三郎、崎久保誓一、峯尾節堂)についての詳しい展示がある。

2001年に新宮市議会は「6人は冤罪であっただけでなく、平等・非戦を唱えた先覚者」として犠牲者顕彰碑を建立。2018年には大石誠之助を新宮市の名誉市民に認定している。

見学後、午後の歌会までまだ時間があったので、熊野速玉大社へ参拝に行く。


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熊野速玉大社。
新宮駅から徒歩約20分。


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佐藤春夫の句碑。
「速玉の竹柏(なぎ)や芝生や時雨けり」


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野口雨情の詩碑。
「国のまもりか速魂さまの御庭前まで神さびる」

posted by 松村正直 at 11:58| Comment(0) | 旅行 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年03月17日

新宮&別邸歌会(その1)

14日(金)

京都から近鉄で松阪へ出て、そこからJR紀勢本線に乗る。
熊野市駅で降りて海岸沿いを歩く。


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熊野灘。

このあたりは「七里御浜」と呼ばれている。三重県熊野市から紀宝町に至る約22キロの砂礫海岸だ。


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獅子岩。

高さ約25メートル。岩を何かの形に見立てるというのは全国各地にあるけれど、これはかなり獅子っぽい。


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花窟(はなのいわや)神社へ。


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社殿はなくて、高さ約45メートルの巨岩がご神体になっている。
圧倒的な存在感だ。


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再び七里御浜。

ひたすら海。波音のほか何もない。人もいない。

その後、有井駅まで歩いて列車に乗り新宮へ。新宮まではJR東海のテリトリーであった。

posted by 松村正直 at 22:30| Comment(4) | 旅行 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年03月16日

新宮から

新宮から帰ってきました。
楽しい2泊3日の旅でした。

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2025年03月14日

新宮へ

今日から2泊で和歌山県新宮市へ行ってきます。

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2025年03月13日

「作歌の現場から」のアーカイブ

2か月に1回開催しているNHK学園のオンライン講座「現代短歌セミナー 作歌の現場から」(永田和宏×松村正直)は、過去の回のアーカイブ受講もできます。

@「意味を詰め込みすぎない」小池光
https://college.coeteco.jp/live/5vxlc4y2

A「過去形と現在形」小島ゆかり
https://college.coeteco.jp/live/809gce7v

B「社会詠をどう詠むか」栗木京子
https://college.coeteco.jp/live/5vxlc437

C「情と景の取り合わせ」三枝ミ之
https://college.coeteco.jp/live/5ynjc6g4

D「てにをはの使い方」大辻隆弘
https://college.coeteco.jp/live/mk1dc2y6

E「モノの見方の新しさ、発見の歌」奥村晃作
https://college.coeteco.jp/live/m331c6z3

F「文語と口語」松村由利子
https://college.coeteco.jp/live/mk1dcy62

G「直喩と暗喩、比喩のさまざま」吉川宏志
https://college.coeteco.jp/live/mgzjcxod

H「自然、風土の歌」伊藤一彦
https://college.coeteco.jp/live/5ynjcwnr

I「具体と抽象」川野里子
https://college.coeteco.jp/live/8qz4ck96

ご興味のあるテーマやゲストの回がありましたら、
ぜひご視聴ください。よろしくお願いします!

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2025年03月12日

滝本賢太郎歌集『月の裏側』


「まひる野」所属の作者の第1歌集。

近代と呼ばれて冷ゆる美術史の空より鮭が吊るされている
帰らなくていいのかと問えばいいと言う死にたるひとの娘の声が
両岸にはしゃぐ男女をちりばめてネッカー川はひと房の夏
鯉の吐く泥より重く眠ってた旅の終わりの特急のなか
秋深き動く歩道で動かずに駅の終わりに着くまで話す
黒瑪瑙(オニキス)のカフスを通し冬立てば清しきまでに冷たしシャツは
フラミンゴの首をゆっくり締め上げる心でほうれん草絞るべし
殉国の碑をたちまちに黒く染め首都のはずれを驟雨は駆ける
触れたれば感電死してしまうだろう白梅は花あんなにつけて
川魚ひっそりと売る商店を見つけたり、きっと買うことはないが

1首目、高橋由一の「鮭」だろう。近代の洋画の出発となった作品。
2首目、留学中に祖母が亡くなった場面。母である以上に娘なのだ。
3首目、葡萄の房を思い浮かべた。短い夏を楽しむドイツの人たち。
4首目、もう家に帰るだけとなってどっと疲労感が押し寄せてくる。
5首目、少しでも長く相手と話をしていたいという心境なのだろう。
6首目、初句の表記が秀逸。季節感と身の引き締まる感じが伝わる。
7首目、茹でたほうれん草の絞り加減。上句の嗜虐性が印象に残る。
8首目、三句の「黒く染め」が戦争や殉国者のイメージとつながる。
9首目、語順に工夫がある。梅の枝ぶりや花の付き方のバチバチ感。
10首目、四句の途中で句割れして文語から口語に転ずるのがいい。

2025年2月26日、六花書林、2500円。

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2025年03月10日

父の入所

今日、父が介護付き有料老人ホームへ入所した。

神奈川県の団地で長らくひとり暮らしをしていたのだが、昨年の夏から身体が衰えて、もう一人で生活するのは限界を迎えた。

施設は兄夫婦の自宅のすぐ近くなので、その点は今よりも安心だ。

父と電話で話をしたところ、思ったより部屋が広く、食事も美味しかったと喜んでいた。「早く慣れるように頑張るよ」とも言っていたので、心配をかけまいと思っているのかもしれない。

父が毎日少しでも楽に過ごせますように。

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2025年03月09日

「パンの耳」第9号の歌評会

13:00から神戸市東灘区文化センターで、楠誓英さんをゲストに迎えて「パンの耳」第9号の歌評会を行った。1作品あたり約10分かけて全20作品について批評した。17:00終了。

その後、近くのイタリアンレストラン「アティックスタイル」で懇親会。連作のこと、時事詠のこと、結社のことなど、あれこれお喋りして20:30に解散。楽しい一日だった。

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2025年03月07日

住吉カルチャー&フレンテ歌会

神戸市東灘区文化センターで、10:30〜12:30 住吉カルチャー、参加者11名。滝本賢太郎歌集『月の裏側』を取り上げた。

13:00から同じ場所で第88回フレンテ歌会、参加者10名。自由詠と題詠の計26首について議論して17:00に終了。

その後、近くのロイヤルホストで夕食を取りながら、「パンの耳」第10号のことなどあれこれお喋りして、20:00解散。

長い一日だった。
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2025年03月06日

講座「短歌を通して考えるガザ、パレスチナ」

現在、ガザではイスラエルとハマスの間の停戦が続いています。けれども、今後の状況はまだ不透明なままです。

今朝は、「アメリカとハマスが異例の直接協議」というニュースが流れていました。
https://news.yahoo.co.jp/pickup/6531538

3月22日(土)に朝日カルチャーセンターくずは教室&オンラインで「短歌を通して考えるガザ、パレスチナ」という講座を行います。

1950年代から現在までに詠まれてきた数々の歌(馬場あき子、岡井隆、三井修、黒木三千代、齋藤芳生、吉川宏志など)を紹介しながら、みなさんと一緒にこの問題について考えたいと思います。

教室でもオンラインでも受講できますので、ぜひお気軽にお申込みください。よろしくお願いします。

【教室受講】
 https://www.asahiculture.com/asahiculture/asp-webapp/web/WWebKozaShosaiNyuryoku.do?kozaId=7651546

【オンライン受講】
 https://www.asahiculture.com/asahiculture/asp-webapp/web/WWebKozaShosaiNyuryoku.do?kozaId=7651547

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2025年03月05日

山川徹『鯨鯢の鰓にかく』


副題は「商業捕鯨 再起への航跡」。

2007年、2008年の調査捕鯨、2022年の商業捕鯨と、三度にわたって捕鯨船に乗り込んだ著者が、捕鯨に従事する人々の姿や捕鯨のあり方について記したノンフィクション。

タイトルは「けいげいのあぎとにかく」と読む。鯨に飲まれそうになって顎に引っ掛かるような状況を意味する慣用句。

捕鯨砲で撃ったクジラをウインチで引き寄せる作業の途中、砲台に立つ平井にはクジラと目が合う一瞬がある。やがてふっと瞳から光が消える――。そのたびに自分が命を奪った現実を、実感をともなって突きつけられる。
キャッチャーボートで、てっぽうさんが特別な存在なように、大包丁も仕事ぶりを見込まれた者だけが任される、捕鯨母船の花形である。
捕鯨は日本の伝統文化――そんな主張をしばしば耳にするが、(…)船団で行う母船式捕鯨の歴史は、日本では一〇〇年に満たない。近代に興った産業を伝統文化と呼ぶにはムリがある。
二〇二〇年度の供給量は牛肉が約八二万トン、豚肉が約一六〇万トン、鶏肉が約一七〇万トン。対して鯨肉は輸入を合わせて約二五〇〇トンに過ぎない。

一昨年、共同船舶は新たな捕鯨母船「関鯨丸」を進水させた。母船式捕鯨を今後も続けるには、昭和の商業捕鯨とも、平成の調査捕鯨とも違ったやり方が求められる。

そして、鯨肉の需要拡大と販売価格の上昇も欠かせない。また、クジラの資源管理にも引き続き取り組む必要があるだろう。

クジラ関係ということで手に取った本だったのだが、著者は以前読んだ『カルピスをつくった男 三島海雲』の人であった。
https://matsutanka.seesaa.net/article/498940434.html

「おわりに」に、著者が写真家の市原基から言われた言葉が記されている。

「山川、フリーランスにとって、本は墓標みたいなものだ。これから墓標を建てるつもりで取材して、本を書け……」

なるほど、確かにそうだよなあと思う。これは歌人にとっても、きっと同じことだろう。

2024年10月2日、小学館、1800円。

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2025年03月04日

高橋和夫『なぜガザは戦場になるのか』


副題は「イスラエルとパレスチナ 攻防の裏側」。

ガザをめぐって戦争が起きる歴史的な背景や国際情勢について、コンパクトにわかりやすく解説した本。

パレスチナ問題は、しばしば「イスラムとユダヤの2000年来の宗教対立」といった言葉で語られる。しかし、こうした解説は事実と対応していない。(…)争いはパレスチナという地域を誰が支配するかをめぐってである。これは土地争いであり、それに付随する水争いである。
第一次世界大戦の終結まで、オスマン帝国という国が存在した。この帝国は、現在のトルコのイスタンブールに首都を置き、ヨーロッパ、アジア、アフリカに及ぶ巨大な領域を支配していた。パレスチナは、この帝国の一部であった。
中東最強の軍隊と、世界最先端のテクノロジーを持ち、世界で最も「テロ対策」が進んだ国で、なぜ世界で最もテロ≠ェ起きるのか。その理由と向き合うことなしには、イスラエル国民の本当の安全はないのではないか。
現在でも、アメリカの対外援助の相手国のランキングでは1位がイスラエルで、2位がエジプトというのが通常は定位置である。エジプトが援助を受け続けることができるのは、イスラエルとの関係を維持しているからである。

入門書といった程度の内容なのだと思うが、初めて知ることも多く理解が深まった。

2024年2月25日、ワニブックスPLUS新書、990円。

posted by 松村正直 at 07:51| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年03月03日

山中千瀬歌集『死なない猫を継ぐ』


第1歌集。

暴力から生まれた暴力太郎から生まれた暴力太郎太郎、あたしは
花のくき手折れば爪に花のにおい 花のたましいがどこにあろうと
先生が森さんを海(モーリェ)さんと呼ぶ 教室はさざなみに洗われる
サーカスは黙って行ってしまった。置いていかれた町で暮らした
すれ違いを続けるあたしの人生と郵便局の営業時間
枝分かれした運命のいくつかのピーマンだけが具のナポリタン
花を火の比喩として手に集まって交わす世界を燃やす約束
水筒のみずぬるくなり放課後の教室、ともだちごっこはだるい
たわいないこころのささえ なし狩りの梨がとってもぬるかったこと
いい桃を分けてもらって持ち帰る 友だちの心臓を運ぶみたいに

1首目、虐待の連鎖をイメージした。名前が増殖するようでこわい。
2首目、花びらや蕊だけでなく茎からも花の匂いがするという発見。
3首目、「モーリェ」はロシア語で海のこと。下句への展開がいい。
4首目、空き地などで興行していたサーカスが去った後のさびしさ。
5首目、「すれ違い」と捉えたのが面白い。平日の昼には行けない。
6首目、あみだくじのような事情を経て玉ねぎもウインナーもない。
7首目、手に手に花火を持って話している。上句の表現が印象的だ。
8首目、表面上の付き合いを続ける気怠さが水のぬるさと響き合う。
9首目、結句に意外性がある。木からもぎ取ったままの自然な温度。
10首目、上句の「も」の連鎖から下句の個性的で鮮やかな比喩へ。

2025年1月20日、典々堂、1800円。

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2025年03月02日

連載完結

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現在発売中の「NHK短歌」3月号で、2年間にわたって連載してきた「こころ以上ことば未満」が完結した。


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最終回はオノマトペの話。


連載にあたって注意したのは、引用歌の作者が偏らないようにすること。毎回4首の歌を引いて文章を書いたのだが、できるだけ違う作者の歌を取り上げるように心がけた。

計24回の連載で引用したのは、下記の92名の方々の歌。

阿木津英、秋山佐和子、石川啄木、石川美南、伊藤一彦、伊藤左千夫、岩尾淳子、上田三四二、梅内美華子、江戸雪、大滝和子、大辻隆弘、大松達知、岡井隆、奥村晃作、奥村知世、尾崎まゆみ、香川ヒサ、川口慈子、川野芽生、河野裕子、北山あさひ、紀貫之、久々湊盈子、草田照子、鯨井可菜子、楠誓英、黒木三千代、小島なお、小島ゆかり、小中英之、小林真代、小林幸子、三枝ミ之、斎藤茂吉、佐伯裕子、坂井修一、相良宏、佐佐木幸綱、佐藤佐太郎、里見佳保、嶋稟太郎、菅原百合絵、鈴木ちはね、高木佳子、高野公彦、竹山妙子、俵万智、千葉優作、鶴田伊津、時田則雄、toron*、中井スピカ、永井陽子、永田紅、中津昌子、西村曜、西村陽吉、橋本喜典、長谷川麟、花山多佳子、馬場昭徳、林和清、東直子、日高堯子、平出奔、広坂早苗、藤島秀憲、穂村弘、福士りか、本多真弓、前田康子、前田夕暮、松村正直、松本典子、松村由利子、真中朋久、光森裕樹、睦月都、安田純生、山川登美子、山木礼子、山崎方代、山階基、山田航、山名聡美、山本夏子、横山未来子、与謝野寛、吉川宏志、米川千嘉子、渡辺松男

作者のみなさん、ありがとうございました!

posted by 松村正直 at 17:48| Comment(0) | メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年03月01日

雑詠(047)

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トンネルを出るたび海のあらわれて「南紀」は冬の半島を行く
庭に出て走り過ぎゆく特急に手を振り続ける女の子あり
見上げればまた降り出して明日には新聞にのる雪の金閣
十八年前に死にたる叔父の骨 団地の父の寝室にある
冬に食べる海鮮丼のつめたさに首のうしろが海へとしずむ
そんな人とは思いませんでしたと言う人がわたしの何を知っているのか
まだ咲いていないけれども明るくて二月の末のミモザのつぼみ

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posted by 松村正直 at 09:11| Comment(0) | 雑詠 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする