2025年02月06日

良真実『はじめての近現代短歌史』


明治時代から現在にいたる短歌の歴史をまとめた本。

まえがきに「短歌史とは秀歌の歴史のことです」とある通り、まず第一部「作品でさかのぼる短歌史」では秀歌69首を読み解きながら現在から明治時代へと時代をさかのぼっていく。その後、第二部「トピックで読み解く短歌史」では、時代順に歌壇に起きた出来事や登場した歌人たちを紹介している。

かなり専門的な話も出てくるのだが、著者の文章は明晰で論旨もすっきりしていて読みやすい。また、すべての人名にふりがなを付けたり、文語助動詞の解説を付け加えたりという点も親切だ。「です・ます」調の文体も含めて、多くの人に読んでもらいたいという気持ちの表れだろう。

本書の大きな特徴として、男性に偏っていた短歌史の記述をできるだけ男女平等にしようと試みている点が挙げられる。従来の男性歌人中心の語りの問題について繰り返し言及するとともに、女性歌人の作品や動向について丁寧に記している。

また、「キリスト教」「沖縄」への目配りも、これまでの短歌史に薄かった部分だ。わからない歌として話題になった服部真里子の作品について「キリスト教の文脈を導入すれば容易に読むことができます」と解説している部分や、新城貞夫や沖縄戦を詠んだ歌を取り上げているところに持ち味が出ている。

以下、備忘のため印象に残った部分を引いておく。

モノの機能を捉え直す技法は「リフレーミング」と呼ばれ、投稿歌壇の入選作に多く見られますが(…)
子規庵歌会はそれまでの歌会と異なり、句会の形式を採用していました。(…)匿名互選によって歌会からヒエラルキーを取り払った点は革新的であり、この構造は少しだけ形を変えて、現在の歌会でも維持されています。
文語短歌は当時の言葉で「普通文」と呼ばれる書き言葉で書かれます。「普通文」とは明治期に確立した統一的な書き言葉の一種で、(…)平安時代の書き言葉に由来する助動詞を使います。しかし、動詞や名詞はある程度口語文と共通しています。
新興短歌は思いのほか少数派です。当時の大手出版社である改造社刊の『短歌研究』について、創刊年の一九三二年から新興短歌が終息を迎える一九四一年までの寄稿者を集計すると、新興短歌側の人名は全体の一〇%ほどにしかなりませんでした。
既存の短歌史は、多くの場合話題になった評論や論争ベースで書かれています。本書もそれを踏襲しました。こうした手法では男性歌人中心の短歌史記述となることを免れません。

過去百数十年の短歌の流れをたどり、これからの短歌について考えるのに絶好の一冊となっている。おススメです!

2024年11月6日、草思社、2300円。

posted by 松村正直 at 09:07| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする