2025年01月31日

雑詠(046)

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アメリカの四角い背を撫でているどこにお灸を据えればよいか
山火事にロサンゼルスが燃えている風船を飛ばしたわけではないが
いつもその先にあるのがゆうやみで薄くまつ毛の先が濡れゆく
かばんにも靴にも胃にも穴があく五十四年を生きてきて今
どのみちという道があり門を抜けあかるい冬の墓地へとつづく
順調に父の身体は衰えてしばしば部屋のなかでも転ぶ
終ったら呼んでと言って扉を閉める便座のうえに父を残して

*******************************

posted by 松村正直 at 10:29| Comment(0) | 雑詠 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年01月30日

現代短歌セミナー 作歌の現場から

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次回の「現代短歌セミナー 作歌の現場から」は2月19日(水)の19:30〜21:00に開催します。ゲストは川野里子さん(「かりん」編集委員)、テーマは「具体と抽象」です。

川野さんは現在「NHK短歌」の選者を務めているほか、先日、対話集『短歌って何?と訊いてみた』(本阿弥書店)を刊行されたところです。

みなさん、どうぞご視聴ください!

https://college.coeteco.jp/live/8dqlckqq
(2月19日の回のみ)
https://college.coeteco.jp/live/mnrxcqj0
(2月、4月、6月の3回分)

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2025年01月29日

逢坂みずき歌集『昇華』


「塔」所属の作者の第2歌集。前作『まぶしい海』は短歌だけでなく日記やエッセイも収めた作品集なので、「歌集」にはカウントしていないようだ。

・『虹を見つける達人』(2020年)
https://matsutanka.seesaa.net/article/476161815.html
・『まぶしい海 ― 故郷と、わたしと、東日本大震災』(2022年)
https://matsutanka.seesaa.net/article/486137241.html
https://matsutanka.seesaa.net/article/486186998.html

都会での一人暮らし、そして故郷の宮城県女川町に戻ってからの生活。ひりひりするような心情を詠んだ歌も入っている。

うっすらと雪平鍋に染みついた線は一人分の味噌汁の嵩
自販機で買った緑茶がへこんでるゴールデンウィーク最終日
たちあおい 比べるなって言いながら一番比べているのはわたし
建設中のマンションの前に停まってるトラックにたくさんの浴槽
セーターの毛玉ちみちみつまみつつ広告動画が終わるのを待つ
友はもう母をおばあちゃんと呼んでいてわたしの裡を野分がめぐる
わたしの中に女があるのはいいけれど女の中にわたしは居たくない
結婚をするのも仕事の一つにて家族経営のどん詰まりにいる
幸せの定義は深く考えない かっぱえびせんを覚えたかもめ
親戚がほとんど枝のたらの芽やほとんど竹のたけのこくれる

1首目、具体がよく効いている歌。一人暮らしの様子が見えてくる。
2首目、中身には別に問題ないのだけれど、ツイてないなあと思う。
3首目、直立するタチアオイの姿と二句以下の取り合わせが絶妙だ。
4首目、100戸のマンションなら100個の浴槽が必要になるわけだ。
5首目、動画広告を所在なくやり過ごす様子。「ちみちみ」がいい。
6首目、結婚して子を産んだ友人と自分の差を感じて心がざわつく。
7首目、性別は属性の一つに過ぎないのに、窮屈さを感じてしまう。
8首目、水産業を営む実家で男手や跡継ぎを期待される現実がある。
9首目、上句と下句の取り合わせがいい。かもめは無心に食うだけ。
10首目、たくさん採ってきたのだろう。親戚同士の気安さが滲む。

2024年9月18日、短歌研究社、2000円。

posted by 松村正直 at 11:14| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年01月28日

「角川短歌」2025年2月号

「角川短歌」2月号の連載「啄木ごっこ」(第76回)の題は「啄木死す」。ついに啄木が亡くなった。連載は80回で終了予定なので残り4回。いよいよゴールが見えてきた。

他にも「啄木と帽子」「啄木とルナパーク」「啄木と何となく歌」など、連載に書けなかったネタが残っているので、またどこかで気楽に書いてみたいと思う。

posted by 松村正直 at 23:35| Comment(0) | 石川啄木 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年01月27日

大阪自由大学公開講座

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2月25日(火)に小竹哲さんの「短歌に詠まれた宝塚少女歌劇 ― 三十一文字に彩られた草創期の宝塚 ―」という講座が行われます。
https://kansai.main.jp/

小竹さんは2023年に『宝塚少女歌劇、はじまりの夢』という本を出されています。
https://matsutanka.seesaa.net/article/499458717.html
https://matsutanka.seesaa.net/article/499484425.html

時間は14:00〜15:30、場所は中楽坊情報館(大阪淀屋橋)。
参加費1000円、定員20名です。

posted by 松村正直 at 23:27| Comment(0) | カルチャー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年01月26日

東京より

東京(神奈川)の父の家に2泊して帰ってきた。

父は血液がんの一種である骨髄異形成症候群にかかっていて、2週間に1度、赤血球と血小板の輸血が欠かせない。日常生活においても、頻繁に立ち眩みを起こして身体が硬直したり転倒したりしてしまう。

一緒にご飯を食べたり、相撲を見たり、雑談したりして過ごす。父は几帳面な性格なので部屋は片付いている。それでも、風呂場やトイレの掃除はできなくなったようなので掃除した。

マグロが食べたいと言うのでマグロ尽くしの寿司のパックを買ったところ、握りや鉄火巻は食べるのに、ネギトロには手を付けない。好きではないのかと聞くと、一度も食べたことがないと言う。84歳になって新しいものを食べようという気にはならないようだ。美味しいのにな。

もう自力で外出することはできない。治る病気ではないので、少しでも楽しいことのある日々を長く送れるようにしてあげたいと思う。

posted by 松村正直 at 21:39| Comment(0) | メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年01月25日

講座「短歌を通して考えるガザ、パレスチナ」

3月22日(土)に朝日カルチャーセンターくずは教室&オンラインで、「短歌を通して考えるガザ、パレスチナ」という講座を行います。時間は13:00〜14:30の90分です。

ご興味・ご関心のある方、ぜひご受講ください。

2023年10月から始まったガザ地区での戦闘により、既に4万人以上の人々が亡くなりました。ガザ、パレスチナに関してはこれまで何十年にもわたって数多くの短歌が詠まれています。それらを通してパレスチナ問題を学ぶとともに、時事詠・社会詠のあり方についても考えます。

満身に怒りの花を噴き咲かせガザ回廊に死んでいる我
       岡井隆『土地よ、痛みを負え』(1961年)
西側の二枚の舌がしんしんと嬲(なぶ)りしパレスチナにあらぬか     黒木三千代『クウェート』(1994年)
液晶にガザの血は映りこちらまで溢れ出さねば卓上に置く
       吉川宏志『叡電のほとり』(2024年)

【教室受講】
 https://www.asahiculture.com/asahiculture/asp-webapp/web/WWebKozaShosaiNyuryoku.do?kozaId=7651546

【オンライン受講】
 https://www.asahiculture.com/asahiculture/asp-webapp/web/WWebKozaShosaiNyuryoku.do?kozaId=7651547

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2025年01月24日

東京へ

ひとり暮らしをしている父の様子を見に、東京(神奈川)へ行ってきます。

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2025年01月23日

映画「本を綴る」

監督:篠原哲雄
出演:矢柴俊博、遠藤久美子、宮本真希、長谷川朝晴、加藤久雅ほか

小説を書けなくなった作家は、手紙や写真に導かれるように、那須・京都・観音寺・高松と旅をする物語。

那須塩原市図書館みるる、恵文社一乗寺店、待賢ブックセンター、半空、本屋ルヌガンガなどが登場する。本の好きな人にはたまらない内容だった。

映画の後は近くにできたパレスチナ料理店「Bisan京都店」で昼食。

出町座、107分。

posted by 松村正直 at 15:04| Comment(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年01月22日

澤地久枝『石川節子』

副題は「愛の永遠を信じたく候」。

堀合節子が石川啄木と出会って結婚し、さまざまな苦労を重ねながら亡くなるまでを描いた評伝。節子の未発表書簡の引用もあり、啄木全集からは見えてこない節子の心情が浮き彫りになっている。

数多くのノンフィクション作品を手掛けた著者の筆力ならではの一冊と言っていいだろう。読みやすく、ぐいぐい引き込まれる。そして、中身も濃い。

「吾望みのすべては君なり」という節子の手紙は、孤独な窮地にいる啄木の心を甘く揺らし涙を誘った。しかし活路はどこにも見出せず、敗残者として心萎えたと伝えるには重すぎる、枷のような信頼と讃美の恋文でもある。
この歌が詠まれる現実的な情景は小樽のこの朝のほかにない。そして常に啄木の歌よりは現実の世界の方がはるかに苛酷である。
「古今を通じて名高い人の後には必ず偉い女があつた事をおぼへて居ます。私は何も自分を偉いなどおこがましい事は申しませんが、でも啄木の非凡な才を持てる事は知つてますから今後充分発展してくるやうに神かけていのつて居のです」

啄木の没後に日記を焼却せず、多くの遺稿とともに整理・保存した節子は、後に啄木が世に知られるようになる立役者と言っていいだろう。27歳で亡くなった節子に対する著者の心寄せも胸に沁みる。

1981年5月12日、講談社、980円。

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2025年01月21日

「パンの耳」第9号刊行!

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同人誌「パンの耳」第9号を刊行しました。
20名の作品15首とエッセイを掲載しています。

澄田広枝   「アクアリウムと兵器」
和田かな子  「この春を聞く」
佐々木佳容子 「ブランコ」
岡野はるみ  「帽子が飛んで」
多治川紀子  「薬瓶のダイアモンド」
仲内ひより  「言い訳を踊る」
鍬農清枝   「夏炎えて」
畑中秀一   「青きシリウス」
星乃三千子  「回転レシーブ」
木村敦子   「雲のヴェール」
乾 醇子   「海ぶだう」
伊東 文   「ウメエダシャクガ」
弓立 悦   「トライアングル」
長谷部和子  「胸に抱くパンの香り」
添田尚子   「塞の神」
紀水章生   「ifふいに」
甲斐直子   「夏が来ている」
松村正直   「岩魚とミズナラ」
河村孝子   「往生さまざま」
米延直子   「西陽に向かう」

エッセイ「土のうた、砂のうた」
会員紹介

A5判、64ページで定価は300円。

現在、BOOTHにて販売しております。(送料無料)
https://masanao-m.booth.pm/

どうぞよろしくお願いします!

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出したい本あれこれ

これから出したいと思っている本。

・第6歌集
・『啄木ごっこ』(角川短歌に連載しているもの)
・『こころ以上ことば未満』(NHK短歌に連載しているもの)
・「戦争の歌」シリーズのオンラインセミナーのまとめ
・『やさしい鮫』復刊
・『午前3時を過ぎて』復刊
・『短歌は記憶する』の続篇
・第7歌集

夢はどんどん膨らむけれど、お金がなければどうしようもない。

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2025年01月20日

映画「キノ・ライカ」

副題は「小さな町の映画館」。

監督・撮影:ヴェリコ・ビダク
出演:アキ・カウリスマキ、ミカ・ラッティ、マウステテュトット、ヌップ・コイヴ、ジム・ジャームッシュほか

映画監督のアキ・カウリスマキが自らの暮らす町に映画館を作るまでを追ったドキュメンタリー。

舞台はフィンランドの人口9000人の小さな町カルッキラ。森と湖の広がる町の工場跡に仲間とともに映画館を作っていく。

冒頭から何度も日本語の曲が流れるのに驚いたのだが、これは1976年からフィンランドで暮らす篠原敏武さんという方が歌っているのだとか。とても印象的な歌声だ。

昨年観た「枯れ葉」で「竹田の子守唄」を歌っていたのもこの方だったそうだ。

フランス・フィンランド合作、81分、京都シネマ。

posted by 松村正直 at 22:48| Comment(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年01月18日

第17回別邸歌会

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大阪府泉南郡田尻町の「田尻歴史館」にて第17回別邸歌会を開催した。参加者は14名。そのうち2名が初参加。遠く富山から来られた方もあって嬉しい限り。

13:00から17:00まで計28首の歌について議論した。自分では思いもしなかったような読みに出会えるのが歌会のいいところ。今日もそんな醍醐味をたっぷりと味わった。


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田尻歴史館の建物は、もともと大阪合同紡績の社長や日本綿業倶楽部の初代会長を務めた谷口房蔵(1861ー1929)の別荘として大正12(1923)年に建てられたもの。

洋館と和館がつながっていて、さらに庭には茶室もある。建物の見学は無料。また、今回は洋館2階の一室を借りたのだが、貸室料金も何と無料!

1階にはカフェレストランRISIA CODAがあり、食事やお茶も楽しめる。おすすめの場所です。

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2025年01月16日

『駅へ』7刷!

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2021年に私の第1歌集『駅へ』の新装版が野兎舎から刊行されました。元の歌集は2001年の刊行なので、20年ぶりの復刊でした。

幸いなことに、新装版は多くの方にお読みいただくことができ、昨年11月に7刷まで版を重ねています。


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在庫はまだまだありますので、版元の野兎舎のオンラインストア、またはアマゾン(電子書籍)、あるいは私のBOOTHにてお買い求めください。よろしくお願いします。


野兎舎オンラインストア
https://yatosha.stores.jp/items/600d346831862555b743dcdb

アマゾンKindle版(電子書籍)
https://www.amazon.co.jp/gp/product/B098T581V3/ref

松村正直BOOTH
https://masanao-m.booth.pm/

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2025年01月15日

亡くなった人とテレビ

昨晩、たまたまテレビをつけたところ「家政夫のミタゾノ」を放送していた。そこに中山美穂が出演していた、喋ったり笑ったり怒ったりしていた。

中山美穂は昨年12月6日に亡くなったが、ドラマの収録はそれより前だったので、亡くなったばかりの人がテレビ画面の中に生きていたのである。

「あれっ? これと同じ事が前にもあったな」と思った。

調べてみると、それは3年前の2022年5月20日放送の「家政夫のミタゾノ」でのことだ。直前の5月11日に亡くなったばかりの「ダチョウ倶楽部」の上島竜兵が出ていたのである。

その時、ちょっと胸に来るものがあって「海は見えない」という連作10首を詠んだ。
https://masanao-m.booth.pm/items/3908160

あの時と同じことが同じドラマのシリーズでまた起きたのである。

posted by 松村正直 at 17:44| Comment(0) | メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年01月14日

朝日新聞の社説

今日の朝日新聞の社説を読んでいて気になったことがある。

「デジタル化社会を生きる」「「人間であること」という一線」という題の文章で、内容には特に異論はない。気になったのは、文中の短歌の引用に関してである。

 ジタンとかタイパと言ってせわしなく時間に追われる令和の日々かな――先月の朝日歌壇にそんな投稿があった。

という形で、朝日歌壇の入選歌が引かれている。

これは、昨年12月15日の朝日歌壇に掲載された横浜市の西前敦子さんの作品だ。でも、社説には歌だけが引かれていて作者名は載っていない。

こうした引用の仕方には強い違和感を覚える。「西前敦子」の四文字をなぜ入れなかったのだろう。有名歌人でなく投稿歌だから構わないと思ったのか。あるいは作者など誰でもいいと思っているのか。

同じ新聞に掲載された短歌なので著作権の問題はないのかもしれないが、短歌やその作者に対する敬意がまったく感じられない。他人が苦心して詠んだ作品を、ちょいっとつまみ食いしているようなものではないか。

こうした作者名抜きの引用はダメだと、一歌人としてはっきり言っておきたい。

posted by 松村正直 at 14:00| Comment(0) | メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年01月13日

村上春樹『海辺のカフカ』(下)


小説を読む楽しみはいろいろあると思うが、村上春樹の場合、会話の随所にあらわれる箴言のようなものに惹かれる。

でも私は思うんだけど、生まれる場所と死ぬ場所は人にとってとても大事なものよ。もちろん生まれる場所は自分では選べない。でも死ぬ場所はある程度まで選ぶことができる。
思い出はあなたの身体を内側から温めてくれます。でもそれと同時にあなたの身体を内側から激しく切り裂いていきます。
人間にとってほんとうに大事なのは、ほんとうに重みを持つのは、きっと死に方のほうなんだろうな、と青年は考えた。死に方に比べたら、生き方なんてたいしたことじゃないのかもしれない。

この小説にはさまざまな登場人物が出てくるけれど、最も魅力的だったのはナカタさんかもしれないな。

2005年3月1日発行、2024年11月10日55刷。
新潮文庫、950円。

posted by 松村正直 at 20:35| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年01月12日

村上春樹『海辺のカフカ』(上)


村上春樹の熱心な読者ではないのだが、時おり何かのきっかけで手に取って読み、そのたびに引き込まれる。『海辺のカフカ』もそんな1冊(上下2冊)だった。

僕らの人生にはもう後戻りができないというポイントがある。それからケースとしてはずっと少ないけれど、もうこれから先には進めないというポイントがある。そういうポイントが来たら、良いことであれ悪いことであれ、僕らはただ黙ってそれを受け入れるしかない。
エジソンが電灯を発明するまでは、世界の大部分は文字通り深い漆黒の闇に包まれていた。そしてその外なる物理的な闇と、内なる魂の闇は境界線なくひとつに混じり合い、まさに直結していたんだ

一つだけ気になったのは啄木に関する記述。

そのお父さん、つまり先々代は、自身歌人でもあり、その関係で多くの文人が四国に来るとここに立ち寄った。若山牧水とか、石川啄木とか、あるいは志賀直哉とか。

小説の主要な舞台となる高松の「甲村記念図書館」に関する話である。架空の図書館の話なので別にこだわることもないのだけれど、啄木は四国には行ってない。四国どころか横浜より西には一度も足を運んだことがない。

そのため、読んでいて「えっ??」と思ってしまったのだった。

2005年3月1日発行、2023年9月30日59刷。
新潮文庫、900円。

posted by 松村正直 at 23:48| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年01月11日

オンライン講座「短歌のコツ」

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現在、NHK学園のオンライン講座「短歌のコツ教室」の受講者を募集中です。

初回は1月23日(木)。毎月第4木曜日の19:30〜20:45、75分間の講座になります。前半に短歌のコツに関する講義を行って、後半は一人1首の批評・添削という流れで、質疑応答の時間も多めに取っています。

ご興味のある方は、どうぞご受講ください。

https://college.coeteco.jp/live/m331crpq

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2025年01月10日

住吉カルチャー&フレンテ歌会

この冬一番の寒波が来て朝からJRのダイヤが乱れていたが、何とか無事に神戸に到着。

10:30〜12:30、神戸市東灘区文化センターで「住吉カルチャー」を行う。初参加の方もいて、参加者は計12名。今日は斎藤美衣歌集『世界を信じる』を取り上げた。内容にも修辞にも見どころが多くて話が盛り上がった。

13:00からは同じ場所で「フレンテ歌会」、参加者11名。寒さや体調不良のためにお休みの方が多く、ちょっと残念。自由詠1首、題詠「変」1首の計30首について議論した。17:00に終了。

今日はとにかく寒くて交通機関の乱れも心配なので、食事には行かずにそのまま解散。

住吉カルチャー(毎月第1金曜日定例)はどなたでも参加できますので、興味のある方はご連絡ください。初心者の方もベテランの方も、どなたでも大歓迎です!

posted by 松村正直 at 23:32| Comment(0) | カルチャー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年01月09日

連載で文章を書く

「角川短歌」に連載中の「啄木ごっこ」の第77回を書いている。2018年11月号から始まった連載は、気づけば丸6年を超えた。

これまで、雑誌の連載をもとに2冊の本を出している。

『高安国世の手紙』(2013年)は2009年から2011年まで「塔」に計35回連載した文章をまとめたものだし、『樺太を訪れた歌人たち』(2016年)も「短歌往来」に2013年・14年に計24回連載した文章が中心になっている。

連載で文章を書く際に大事なのは、「黙々と書く」ことだ。読者からの反応は連載の初めの数回だけで、それ以降はほとんど(あるいは全く)反響はない。書いているうちに、一体自分は何をしているんだろうという疑問も湧いてくる。

そんな時に忘れてはならないのが「黙々と書く」ことである。反応があろうがなかろうが、ひたすら書き進める。書いていくうちに自分なりの発見もあるし、道筋が見えてくることもある。とにかく、黙ってこつこつ書くだけだ。

幸いなことに「啄木ごっこ」は連載の終わりが見えてきた。第80回の完結に向けて、引き続き残りの4回を黙々と書いていきたい。

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2025年01月08日

七宮A三『晩年の石川啄木』

1972年に冬樹社より刊行された単行本(宮守計名義)の新書化。著者名がペンネームから本名に変っている。

啄木と啄木が晩年に親しくしていた丸谷喜市(1887‐1974)の関わりを記した本。丸谷は当時、東京高等商業学校専攻部(現在の一橋大学)の学生で、後に経済学者となり神戸経済大学(現在の神戸大学)の学長などを務めた。

許嫁七宮きよとは、大正三年に結婚。息子四人、娘二人を得たが、二人の娘には、それぞれ、京子、節子と名づけた。

丸谷が二人の娘に、啄木の娘と妻の名を付けていたという事実を初めて知った。これは丸谷の啄木に対する深い尊敬を示す話だろう。

著者は丸谷の義理の甥であり、1970年に晩年の丸谷から直接数々の貴重な証言を聞き出している。

丸谷 啄木は、当時、五十年前のロシヤの青年のヴ・ナロード≠ノ非常に感激していたことは事実だ。しかし、その受け取り方は感情的、空想的なものだったと思う。
丸谷 啄木はやはり無政府主義を文学者の見方で見ている。どうしてそこにいくか、それをどういう風にするか、そこまでは考えておらんのですわ。可能性も考えていない。

こうした証言は、啄木の晩年の思想を理解する上で大きな示唆を与えてくれる。

1987年3月10日、第三文明社レグルス文庫、680円。

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2025年01月06日

映画「グランメゾン・パリ」

監督:塚原あゆ子
出演:木村拓哉、鈴木京香、沢村一樹、及川光博、冨永愛、オク・テギョン、正門良規ほか

年末にたまたまスペシャルドラマ「グランメゾン東京」をテレビで見て、その流れで正月にTverで2019年放映のテレビドラマ「グランメゾン東京」全11話を見て、その流れで公開中のこの映画も観た。

これは、まさに制作サイドの思惑通りではないか。

映画は残念ながら今ひとつ。テレビドラマの方が面白かった。舞台がパリということで、日本人がフランス語を話す場面が多くあるのだが、そのたびに何だか緊張してしまってゆったり見られなかった。別にフランス語はわからないのだけれど。

MOVIX京都、117分。

posted by 松村正直 at 13:23| Comment(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年01月05日

久々湊盈子『加藤克巳の百首』


「歌人入門」シリーズの12冊目。
副題は「生きていることの実感」。

加藤克巳の歌100首の鑑賞と解説「歌人加藤克巳の出立」を収めている。70年以上にわたって歌を詠み、さまざまに作風を変えていった加藤の魅力がよく伝わってくる内容だ。

まつ白い腕が空からのびてくる抜かれゆく脳髄のけさの快感
/『螺旋階段』(1937年)
鶴はしづかに一本の脚でたちつづけるわらひのさざなみにかこまれながら
/『宇宙塵』(1956年)
かなしみとおかしさが一緒にやってくるトランペットトランペット野から山から
/『球体』(1969年)
たましいのあくがれいずるごとくして朴の高枝を花離れゆく
/『万象ゆれて』(1978年)
いとじりを撫でたりするなまだ早い老いぶるなんておかしいではないか
/『矩形の森』(1994年)

写実的な作風とは違うので、一首をどのように読み取るか、さまざまな迷いや試行錯誤が繰り返される。

いずれも超現実的な絵画を思わせるような作りだが、字面をそのまま追ってもつまらない。
高度成長期に入った日本経済の、成功を夢見て逸る青年の姿、などといった小賢しい講釈など抜きに味わってみたい。
いや、ここではそんな対比など思わずに発展をつづける大都会の光景としてのみ鑑賞すればいいのだろう。

画家の瑛九(1911−1960)との交友について知ることができたのも収穫だった。

隣市に住んでいたフォト・デッサンで世界的に著名な瑛九とも親交があり、歌集『宇宙塵』『球体』の表紙絵としたことを無上の喜びと語っていた。

加藤は与野市(現・さいたま市)、瑛九は浦和市(現・さいたま市)に住んでいた。新歌人集団が浦和で発足したことや、「浦和画家」と呼ばれる画家たちがいることを考えると、浦和が芸術・文化の大きな磁場であったことがよくわかる。

2024年10月11日、ふらんす堂、1700円。

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2025年01月04日

桑原憂太郎『現代短歌の行方』


第40回現代短歌評論賞を受賞した著者の初めての評論集。

全体が三章に分かれていて、Tは現代口語短歌に関する評論、Uは時評集、Vは歌論集となっている。日本語文法や物語論を踏まえた分析が随所に見られ、説得力のある内容となっている。

現在、様式化していると思われる特徴的な技法として、1動詞の終止形、2終助詞、3モダリティ、の三つの活用による技法について取り上げる。
近代短歌が「静止画的リアリズム」で、現代口語短歌が「動画的リアリズム」だとして、では、なぜ、現代口語短歌はこんな「動画的リアリズム」の手法をとることになったのか。
「私」のことを詠っていれば、〈私性〉ということにはならない。いくら実体験であろうが、短歌文芸で〈私性〉を彫琢するには、そのための技法というものが必要になる。
現代口語短歌には、こうした〈語り手〉の語りと〈主体〉の「心内語」の混然が現時点で確認できる。こうした〈私〉の混然は、少なくとも小説世界の文体では出現していないだろう。

あとがきに「しばらくは書くことが尽きることはないから、これからも短歌の世界で、あれやこれやと書き続けることになるのだろう」とある。今後のさらなる活躍が楽しみだ。

2024年9月30日、六花書林、2400円。

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2025年01月03日

近刊!「パンの耳」第9号

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同人誌「パンの耳」第9号は、1月20日発行予定です。

今回も充実した内容となりました。
みなさん、どうぞお楽しみに!

posted by 松村正直 at 23:29| Comment(0) | パンの耳 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年01月02日

くにたち短歌大会選評座談会

 くにたち短歌大会選評座談会+短歌plus特別編-1.jpg

1月29日(水)19:00〜20:00、NHK学園「くにたち短歌大会」の選評座談会があります。選者の沖ななもさん、佐佐木定綱さん、米川千嘉子さんと私の4人で、入選歌について語り合います。参加費無料ですので、ぜひご視聴ください。

さらに、座談会をご視聴くださった方は、続く20:00〜21:00の「N学短歌plus」オンラインライブ講座も無料でご視聴いただけます。2つ合わせて2時間無料というお得な内容です。お申込み、どうぞよろしくお願いします!

https://college.coeteco.jp/live/5zzwcx0d

posted by 松村正直 at 20:16| Comment(0) | カルチャー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年01月01日

謹賀新年

新年あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いします。

今年の目標は…

・ 第6歌集を出す。
・「啄木ごっこ」の連載を完結する。
・「パンの耳」第9号、第10号を発行する。
・ 父に会いにできるだけ多く東京に行く。
・ 部屋を清潔に保ち健康に過ごす。

posted by 松村正直 at 03:10| Comment(0) | メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする