2024年07月13日

女性歌人の歌集シリーズ

黒木美千代『クウェート』(1994)は本阿弥書店の「ニューウェイブ女性歌集叢書」(1992〜1995、10冊)の1冊として刊行された。ラインナップは以下の通り。

1 梅津ふみ子『わらふ山鳩』
2 木畑紀子『女時計』
3 草田照子『天の魚』
4 久慈こうこ『星河原』
5 黒木三千代『クウェート』
6 五所美子『三耳壷』
7 斎藤佐知子『風峠』
8 高旨清美『珈琲パペット』
9 中野昭子『たまはやす』
10 吉宗紀子『緑の卵』

「ニューウェイブ」という名が付けられているが、短歌史的な意味での「ニューウェーブ」とは関係ない。全体にやや地味な印象と言っていいだろう。

この時期、河出書房新社も「同時代の女性歌集」(1991〜1994、15冊)というシリーズを刊行している。

俵万智『かぜのてのひら』
道浦母都子『風の婚』
李正子『ナグネタリョン』
林あまり『最後から二番目のキッス』
大田美和『きらい』
沖ななも『ふたりごころ』
松平盟子『たまゆら草紙』
井辻朱美『コリオリの風』
干場しおり『天使がきらり』
早坂類『風の吹く日にベランダにいる』
今野寿美『若夏記』
米川千嘉子『一夏』
永井陽子『モーツァルトの電話帳』
佐伯裕子『あした、また』
栗木京子『綺羅』

『サラダ記念日』がベストセラーになった俵の第2歌集をはじめ、錚々たる歌集が並ぶ。今ではベテラン歌人ばかりだが、当時はまだ30代・40代の若手・中堅歌人であった。彼女たちを選んだ河出書房新社の力量をまざまざと感じる。

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2024年07月12日

京丹波町へ

村山壽春の住んでいた家の大体の住所がわかったので、昨日、ダメ元で京丹波町まで行ってきた。電車とバスを乗り継いで約2時間。市町村合併などを経て既に地図には該当する地名が存在せず、目星をつけた集落で尋ねたところ、目的地は2キロほど離れた集落であった。

あとはひたすら聞き込みをする。突然の訪問にもかかわらず、みなさん親切な方ばかりでありがたい。なにぶん80年も昔の話なので、聞いても聞いても誰も知らない。村山という名の家も見当たらない。

帰りのバスの時間も迫って諦めかけたところ、なんと生前の村山を知っているお年寄りが現れた。子どもの頃に片腕で農作業をしている姿を見たことがあるとのこと。「昔の者はみんな亡くなってしまって、当時のことを知ってるのはもう私くらいだろう」とおっしゃる。

ご遺族の連絡先も判明して、電話でお話しすることができた。むちゃくちゃ嬉しい!

8/6(火)オンラインイベント「戦争で負傷した軍人は何を詠んだのか? 村山壽春の短歌」
https://yatosha.stores.jp/items/6688a1b2f06ae80578503259

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2024年07月11日

「戦争で負傷した軍人は何を詠んだのか? ― 村山壽春の短歌」

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8/6(火)に野兎舎主催のオンラインイベント「戦争と歌」で話をします。このシリーズも今年で5回目を迎えました。

2020年「『戦争の歌』を読む」
 https://youtube.com/watch?v=jN3CYty61oc
2021年「『戦争の歌』を読む」
2022年「軍医の見た戦争 ― 歌人米川稔の生涯」
2023年「軍人家庭と短歌 ― 戦後派歌人 森岡貞香の初期作品を中心に」

今年は戦争で負傷した村山壽春の短歌を取り上げます。
https://yatosha.stores.jp/items/6688a1b2f06ae80578503259

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ウクライナやパレスチナのガザ地区で戦争により多数の死傷者が
出ていることが報じられています。戦争は死者だけでなく多くの
負傷者を生みます。

日中戦争・太平洋戦争においては、戦傷者に対して治療やリハビリ
とともに慰安のための短歌の指導が行われました。傷痍軍人のアン
ソロジー歌集が「再起奉公」といった戦意高揚に利用された一方で、
歌作りは彼らの生きがいにもなったようです。

今回は戦争で失明した陸軍中尉、村山壽春(としはる)の歌を取り
上げて、その心情と生涯に迫ります。
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みなさん、どうぞご視聴ください!

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2024年07月10日

黒木三千代歌集『クウェート』

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第2歌集。ニューウェイブ女性歌集叢書5。

咬むための耳としてあるやはらかきクウェートにしてひしと咬みにき
  91・1・17
ペルシャ湾から「サダームヘ愛をこめて」まことに愛は迅くみなぎる
西側の二枚の舌がしんしんと嬲(なぶ)りしパレスチナにあらぬか
想ひ出といふやはらかな実りには敷藁が要(い)る、ぬくき敷藁
なにものと知れぬ獣に飾らるる壺ありてこの国のこんとん
この家のまはり坂ばかり 大いなる中華鍋の底ゆ日に一度出る
男でも女でもなく人間と言へといふとも桶と樽はちがふ
花鳥図に百年咲きて芍薬のひかりやうやう褪せゆくらしも 奈良県立美術館
すべての葉動かぬ桃の木はありつ 鈍牛(どんぎう)のやうな夏を感じる
戦利品・商品として女ある 野葡萄をこそ提げてゆくべきに
〈雌伏〉といひ〈雄飛〉といふを 〈奸婦〉といひ〈悍婦〉といふを 寂しみて繰る
赤松も蓖麻(ひま)もこぞりて戦争をせし日本を思ひつつゐる

1首目、湾岸戦争の歌。戦争と性愛を重ね合わせた表現が印象的だ。
2首目、艦艇から発射された巡航ミサイルに記された落書きだろう。
3首目、イギリスの二枚舌外交に始まる歴史。「嬲」の字が強烈だ。
4首目、思い出は単なる記憶とは違い、熟成されて育ってゆくもの。
5首目、混沌(カオス)でもあり渾沌(中国神話の動物)でもある。
6首目、「中華鍋」の比喩が面白い。地形的に窪地に家があるのだ。
7首目、性別は関係ないと思いつつも、現実には身体の違いがある。
8首目、絵の中の芍薬が100年生き続けているように詠まれている。
9首目、日差しが強く風も吹かない暑い昼。「鈍牛」の比喩がいい。
10首目、女性の扱いに対する異議申立て。下句に強い矜持を示す。
11首目、言葉のジェンダー格差。後半は女性だけに使われる言葉。
12首目、戦争末期には松根油やひまし油まで何もかもが使われた。

高野公彦の解説「比喩と諧謔」の最後の部分が目を引く。

歌のスタイルとか韻律の面で岡井隆の影響が見られる。影響といふより、意欲的な接近であるかもしれない。第三歌集では〈岡井ふう〉が払拭されてゐることを希ふ。

かなり率直な書き方だ。こうした批判的な文言は、最近の歌集ではほとんど見かけなくなったように思う。

1994年3月1日、本阿弥書店、2500円。

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2024年07月09日

オンライン講座「短歌のコツ」

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NHK学園のオンライン講座「短歌のコツ」が今月から新しいクールに入ります。この講座も4年目になりました。

日程は7/25、8/22、9/26、10/24、11/28、12/19。毎月第4木曜日(12月のみ第3木曜日)の開催です。

時間は 19:30〜20:45 の75分。前半に秀歌鑑賞をして、後半は提出していただいた作品の批評・添削を行います。質問の時間もありますので、何でもお気軽にお尋ねください。

https://college.coeteco.jp/live/5j0yc613

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2024年07月08日

講座「短歌―歌集の編み方、作り方」

7月27日(土)に朝日カルチャーセンター(くずは教室&オンライン)で、「短歌―歌集の編み方、作り方」という講座を行います。時間は 13:00〜14:30 の 90分。

なぜ私たちは歌集を出すのか? 歌集を編む意味とは何か? そんな出発点から、歌の選び方や並べ方、タイトルの付け方、出版社の決め方、費用や寄贈に関することまで、経験をもとに具体的にお話しします。

歌集作りというのは自分自身と出会い直す機会でもあります。そろそろ歌集をまとめようと思っている方、いつか歌集を出せたらと考えている方、ぜひこの機会にご参加ください。

【オンライン受講】
https://www.asahiculture.com/asahiculture/asp-webapp/web/WWebKozaShosaiNyuryoku.do?kozaId=7208162

【教室受講】
https://www.asahiculture.com/asahiculture/asp-webapp/web/WWebKozaShosaiNyuryoku.do?kozaId=7208161

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2024年07月07日

遠藤ケイ『鉄に聴け 鍛冶屋列伝』


「ナイフマガジン」1991年6月号から1997年6月号まで連載された「僕の鍛冶屋修業」を加筆・改題して文庫にまとめたもの。

全国各地の鍛冶屋を取材してきた著者が自らも鍛冶小屋を構えて修行する様子を記したルポルタージュ。

一口に刃物と言っても「鮎の切り出しナイフ」「猟刀フクロナガサ」「ヤリガンナ」「渓流小刀」「肥後守」「斧」「剣鉈」「菜切り包丁」など、大きさや形や用途など実にさまざまだ。

ある意味で、人間は頭(観念)でなく、手(感覚)で思考し、判断する動物だ。使い勝手のいい道具は美しい。そして美しい道具は使い勝手がいい。
かつて、どこの町にも野鍛冶がいた。使い手と作り手の顔が見えた時代があった。使い手は用途や、自分の資質や癖に合った道具を選べた時代があった。だが、いまは出来合いの道具が幅をきかせ、人間が道具に合わせていかなければならない時代になった。
鍛冶仕事は作り手の力量の差がモロに出る。偶然うまくいくということは一切ない。厳しく残酷な世界である。しかし、だからこそ面白い。
繊細さを要求される日本の手仕事はすべて座業だった。座業は、膝も臑も、足の指も治具に使える。

炭と鞴(ふいご)で火を自在に操り、鉄と鋼と金槌とヤットコで何でも造ってしまう鍛冶屋たち。手打ち刃物を生み出す職人の姿が生き生きと描かれている。

2019年9月10日、ちくま文庫、900円。

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2024年07月06日

『幕末の探検家松浦武四郎と一畳敷』


幕末から明治にかけて活躍した松浦武四郎(1818‐1888)の生涯と、彼が晩年に建てた一畳の書斎について、多数の図版や写真を織り交ぜて紹介した本。

探検家、著述家、古物蒐集家などマルチな顔を持つ松浦の業績を伝えるために、さまざまな工夫が施されている。松浦がフィールドワークに使った「野帳」の複製を綴じ込んだり、「新版蝦夷土産道中寿五六(すごろく)」の複製を折り畳んで綴じ込んだり、縦長の「北海道人樹下午睡図」を見開き2ページを使って横向きに印刷したり、眺めているだけで楽しくなってくる。

江戸で習得した篆刻で旅費の一部を捻出したが到底足りず、野宿でしのいだり、時には旅先で出会った人々の世話になったりもした。返礼として、彼らが伊勢参りをする際は、一宿一膳を提供するよう実家宛の書簡で頼んだ。

伊勢街道に面した土地(現在の松阪市)に生まれ育ったことは、松浦の生涯に大きな影響を及ぼした。帝釈天の参道に家がある寅さんにも似たエピソードだ。

松浦が全国から取り寄せた銘木などを集めて建てた「一畳敷」は現在、国際基督教大学の構内に保存されている。いつかぜひ公開されている時に見に行きたい。

2010年6月15日第1刷、2019年9月20日第5刷。
LIXIL出版、1500円。

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2024年07月05日

住吉カルチャー&フレンテ歌会

本格的な夏の暑さになってきた。

10:30から神戸市東灘区文化センターで住吉カルチャー。参加者9名。足立巻一『やちまた』の紹介をしてから、大辻隆弘『橡と石垣』の歌を取り上げて話をした。12:30終了。

昼食を挟んで同じ場所で13:00からは第81回フレンテ歌会。参加者13名。自由詠1首と題詠1首、計34首について意見交換する。歌に出てきた「オニキス」という石の名前を初めて知った。17:00終了。

その後、近くのロイヤルホストで食事をしながら2時間ほどお喋りした。フレンテ歌会も8年目になり思い出話も出るようになってきた。

今月は「パンの耳」第8号の歌評会、8月に須磨シーワールド吟行、9月には大阪文学フリマへの出店と、楽しみな行事が続いていく。

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2024年07月04日

高桑信一『狩猟に生きる男たち・女たち』


副題は「狩る、食う、そして自然と結ばれる」。

雑誌「渓流」に連載された「現代マタギ考」全17章を改題してまとめたもの。狩猟する人々への取材とともに、自らも狩猟免許を取得して猟をするようになる経緯が記されている。

土に残る微細な足跡が、いつ刻まれたものかの判定が重要になってくる。(…)しかし、雪が降れば話はべつで、見切りは格段に楽になる。きのうまでなかった足跡があれば、それはもちろん昨夜から今朝のものに決まっているのだから。
熊の脂は、古くから切り傷や火傷の特効薬として用いられてきた。しかし、医薬品と銘打てば薬事法に抵触する。だから、肌に潤いを与える商品として販売するのだ。つまりはスキンケアであり、化粧品として売るのである。
近年は、センサーによって罠の捕獲をスマホに伝えてくれるシステムまであるという。時代の変化といえばそれまでだが、その便利さが猟の上達に繋がるわけではない。むしろ額に汗して山に登り、罠を見まわって、山の囁きに耳を傾けてこそ、動物の動きが見え、工夫が生まれるのである。

奥会津、山形・小国、南会津の猟師に加えて、京都で罠猟をする千松信也さんも登場する。

2021年4月1日、つり人社、1800円。

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2024年07月03日

川村有史歌集『ブンバップ』

著者 : 川村有史
書肆侃侃房
発売日 : 2024-04-02

第1歌集。
タイトルの「ブンバップ」はヒップホップの用語らしい。

オリックス楽天アコム武富士母は貧乏なので歌を聴いてる
ヘッドスピンずっと回ってヘッドスピン止まらないことが美しい夜
父親がコンビニエンスストアから持って帰ってくる生パスタ
傘を差す人が歩道に立っていて陽が射したので日傘の人に
とびだすなキケンぼうやが飛び出ていて猛暑日続けばいいと思った
僕にでもわかる星座が描いてあるあれはたしかカシオペヤ 確か
ぼくの横を速い二輪が抜けてって前のセダンがパトカーになる
友達のジュニアが話しかけてくる親とは違うサイズで僕に
行進はたぶんそれなりにできる子どもの僕がやったのだから
はたらいてシャワーを浴びる日々あるある 緑地公園にふえる紫陽花

1首目、語順がいい。最初は野球の話かと思ったら消費者金融の話。
2首目、このままずっと夜が続いてここが世界の中心であるような。
3首目、「持って帰って」とあるので買ったのではない感じがする。
4首目、モノは変わらないのに「傘」から「日傘」に認識が変わる。
5首目、飛び出し坊や自身が飛び出していることに対するツッコミ。
6首目、「わかる」と言ってから自信がなくなっていくのが面白い。
7首目、スピード違反のバイクを見つけて追い掛ける覆面パトカー。
8首目、大きさは違うけれど顔かたちは似ていて相似形なのだろう。
9首目、小学生の頃にやって以来大人になると行進する機会がない。
10首目、仕事と睡眠を繰り返す日々に気が付けば紫陽花が満開だ。

ラップのような韻の踏み方や音の響かせ方が歌集の大きな特徴となっている。例えば、連作「退屈とバイブス」は「退屈」と「バイブス」がどちらも AIUU で響き合う。

〈怪物をだいぶ疲れた面持ちの男の人が追い出す映画〉の「怪物」「だいぶ(つ)」も同じ原理で、音の響きが言葉を呼び込んでいるのだろう。

〈ビルボードチャートをちゃんと追っている友達とポテトLを終える〉の「チャート」と「ちゃんと」、「トL(エル)」と「終える」なども、内容と言うよりは音が優先されている。

2024年4月9日、書肆侃侃房、1800円。

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2024年07月02日

今後の予定

下記の講座や歌会などを行います。
みなさん、お気軽にご参加ください。

7月15日(月・祝)第14回別邸歌会(京都)
https://matsutanka.seesaa.net/article/503430273.html

7月27日(土)講座「短歌―歌集の編み方、作り方」(くずは、オンライン)
https://matsutanka.seesaa.net/article/503408936.html

8月6日(火)講座「戦争で負傷した軍人は何を詠んだのか?」(オンライン)
https://yatosha.stores.jp/items/6688a1b2f06ae80578503259

8月28日(水)講座「現代短歌セミナー 作歌の現場から」(オンライン)
https://college.coeteco.jp/live/m331c69e

9月15日(日)第15回別邸歌会(奈良)
https://matsutanka.seesaa.net/article/503430273.html

10月6日(日)講座「タイトル未定」(大阪)

11月10日(日)鳥取県民短歌大会 講演「平明で奥深い歌」
https://toricul-kenbunren.jp/pages/50/detail=1/b_id=251/r_id=38/

11月16日(土)第16回別邸歌会(滋賀)【予定】
https://matsutanka.seesaa.net/article/503430273.html

11月24日(日)岩国市民短歌大会講演 講演「短歌と省略」

posted by 松村正直 at 22:49| Comment(0) | メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

樋口健二『忘れられた皇軍兵士たち』


1970年から72年にかけて各地の療養所に暮らす傷痍軍人を取材した写真集。版元が先月末で廃業したので今後は入手が難しくなるかもしれない。

脊髄に障害を負った元兵士が暮らしていた「国立箱根療養所」(現・国立病院機構箱根病院)や精神を病んだ元兵士のいた「国立武蔵療養所」(現・国立精神・神経医療研究センター)・「国立下総療養所」(現・国立病院機構下総精神医療センター)など、今では知る人の少ない施設の様子が写真に収められている。

元皇軍兵士であった傷痍軍人たちが、社会から疎外されたまま、にもかかわらず必死に生きていたことはまぎれもない事実なのだ。彼らは「皇軍」が人間をどのように扱ったのかの生きた証拠として、黙々と「戦後」を告発し続けていたのだ。

著者は2006年にその後の様子を追加取材しているが、傷痍軍人の多くは既に亡くなっていた。

2017年6月30日、こぶし書房、2000円。

posted by 松村正直 at 20:40| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年07月01日

雑詠(039)

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木目ではなく木目調、レンガではなくレンガ風、落ち着くけれど
あみだくじのようにわたしの休日の窓を伝って消える雨粒
安くなれば誰もキャベツのことなんて言わなくなってどんと積まれる
橋脚が燃えているとは知るはずもなく笑い合い渡りゆくひと
夏草に包まれてゆく公園に高さの違う鉄棒ふたつ
特急が普通列車を抜き去って立ち食いそばの暖簾が揺れる
じりじりと枇杷の季節の過ぎゆくを眺めるままに今年も食べず

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posted by 松村正直 at 21:40| Comment(0) | 雑詠 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする