2023年06月30日

土井礼一郎歌集『義弟全史』

著者 :
短歌研究社
発売日 : 2023-04-20

「かばん」に所属する作者の第1歌集。
独特な発想やイメージの飛躍がおもしろい。

鎮魂といって花火を打ちあげるそしたらそれは落ちてくるのか
別れればすぐに薄れていく顔の真ん中に飛び込み台はあり
脱がされていることさえも気づかないあの子はたまごどうふの子供
遺書にさえヴァリアントあり人のすることはたいがい花びらになる
どうかするたびこの部屋に朝がきて電子レンジで家族は回る
ベビーカーから逃れ出て指先は春をただよう柔らかい虫
幸せであることばかりを言う人の顔のまわりを衛星が飛ぶ
あとちょっとだけ見ていてと言いながら糠床どんどんきゅうり沈める
はだかんぼうの物干し竿に幾枚もストールを巻きつけるままごと
そんな小さなえんぴつばかりたずさえて夏の風景実習にゆく

1首目、花火を打ちげることがなぜ鎮魂になるのかという問い掛け。
2首目、目の前からいなくなると顔が思い出せなくなってしまう人。
3首目、つるつるした肌の感じ。無垢であるとともに危うさもある。
4首目、遺書を何度か書き直したのだろう。どこかちぐはぐな感じ。
5首目、忙しい朝に次々と回るターンテーブルが家族を統べている。
6首目、結句「柔らかい虫」が印象的。ちょっと薄気味悪いような。
7首目、無理に幸せであると思い込もうとしている様子が滲み出る。
8首目、少しだけのはずがとめどなく物事が進行していく不気味さ。
9首目、「はだかんぼう」の使い方が面白い。着せ替え人形みたい。
10首目、奇妙な実景とも読めるし、暗喩的な寓話とも読めそうだ。

全体を通して読むと、随所に死者や戦争、家族のイメージが出てくることに気がつく。暗喩や寓意に満ちていて、さまざまな読み解きへと読者を誘う一冊だ。

2023年4月20日、短歌研究社、1800円。
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2023年06月29日

堀之内、小出、只見(その1)

京都から長岡まで夜行バスに乗り、朝早く「越後堀之内」駅に到着。


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まずは、9:00に永林寺へ。

「日本のミケランジェロ」(!)とも言われる彫工・石川雲蝶が13年かけて制作した本堂の彫物108点を見ることができる。今回は魚沼市観光協会を通じて石川雲蝶ガイドの方に来ていただいた。説明を聞きながら見ると、雲蝶の技量の巧みさや遊び心が一段とよくわかる。


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続いて、10:30に念願の「宮柊二記念館」へ。


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昨年からずっと来たい来たいと思っていて、ようやく実現した。


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下村正夫館長の立ち合いのもと、2時間ほどかけて米川稔関連の資料21点をすべて見せていただく。


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「昭和11年前後の作歌ノート」

歌集『鋪道夕映』より前の時期のもの。
ニ・二六事件のことなどが詳しく記されている。


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「作品ノート 歌稿」

『鋪道夕映』のもとになった歌稿で、全部で4冊ある。吉野秀雄と宮柊二が選歌していて、採った歌の上にそれぞれ印を捺している。


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「陣中詠定稿」

昭和18年末に米川稔がニューギニアの戦地から送ったもの。
80年経った今も残っているのが奇跡のような一冊である。


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記念館の前に立つ歌碑。

「冬の夜の吹雪の音をおそれたるわれを小床に抱きしめし母」


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「亡き父のありし昔の聲のごと魚野川鳴るその音恋ひし」

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2023年06月28日

旅行中

旅の空です。
福島県です。

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2023年06月27日

旅行中

旅の空です。
新潟県です。

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2023年06月26日

第7回別邸歌会

昨日は神戸市垂水区の「結水荘」(ゆうみそう)で第7回別邸歌会を開催。参加者16名。13:00〜17:00、計32首の歌について和気藹々と議論を交わした。

この歌会の特徴は参加者の年齢幅が広いこと。今回も10代から70代まで、三世代くらいの方が集まった。世代の違う人と一緒に歌会をすると双方にとって刺激になる。

もう一つの特徴は、会場ごとに参加者が入れ替わること。関西2府4県を巡回しているので、メンバーが固定化せずに毎回新しい方が来てくださる。今回も16名のうち6名が初参加だった。


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会場の「結水荘」の模型。

「垂水駅から北に徒歩8分。時の止まったような路地に建つ、昭和の香り漂う一軒家」(チラシより)
https://youmeso.ts-network.co.jp/


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今回お借りしたのは12畳の洋室。
天井にはシャンデリアが光る。


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マントルピースの上に置かれた時計。


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部屋から眺めた庭の風景。

次回は8月11日(金・祝)に宇治市で開催します。
どなたでもお気軽にご参加ください。


「別邸歌会」チラシ 2023.05.15.jpg

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2023年06月25日

オンライン講座「短歌のコツ」

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NHK学園のオンライン講座「短歌のコツ」が7月から新しいクールに入ります。毎月1回木曜日の19:30〜20:45、全6回です。

https://college.coeteco.jp/live/8qz4czyd

前半は歌集から例歌を引いて歌作りのポイントを解説し、後半は一人1首の批評・添削をしています。ご興味のある方は、どうぞお気軽にご参加ください。初めての方も大歓迎です!

posted by 松村正直 at 09:00| Comment(0) | カルチャー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年06月24日

「COCOON」28号

結社「コスモス」の若手メンバーによる季刊の同人誌。作品、評論、時評、エッセイ、書評、コラムなど多彩な内容となっている。

「親が先生なのになるの?」と人は言う「だから」はからから転がっていく
教員はサブスクリプション驚きの低価格にて働かせ放題
/山田恵里「チョークかたかた」

子が教員になったことを詠んだ連作。作者も教員だ。1首目は「なのに」に傍点がある。かつては親の姿を見て教員を志す人も多かったが、近年は逆になっているのだろう。残業や休日出勤が多く、過重な負担に苦しんでいる。

「やせたい」は口だけでしょう?メガ盛りに豚汁(とんじる)つけて玉子もつけて
ないでしょう、やせる気なんて。吉野家の帰りにフラペチーノも飲んで
/伊藤祐楓「あずき色の看板」

牛丼チェーン店での飲食の様子を詠んだ作品。「やせたい」と言いながら、ついつい食べ過ぎてしまう。引用歌は連作の5首目と12首目。こんなふうに離れた場所に置かれることで、連作の横のつながりをうまく生み出している。

つり革にからだあづけておもひをりわが部屋にゐるまりも、さぼてん
春の日のアンリ・マティスの丸めがねしらくものうへにうかびつつあり
/岩ア佑太「菜種梅雨」

ちょっとした気分や雰囲気を醸し出すのがうまい作者。1首目は「まりも」「さぼてん」のひらがな表記が、生きものを飼っているみたいで効果的。2首目はマティスの絵ではなく眼鏡が思い浮かんでいるところが面白い。

ほんたうに雨になつた、といふ声を窓の反射に聞いてをりたり
人体の手がかりとして歯の治療してきた人とみる海のいろ
/有川知津子「手がかり」

1首目は、窓の外を見て独り言のように呟く人の声を部屋の中で聞いている。二人の距離感のようなものが印象的だ。2首目は万一事故などで亡くなった場合に身元確認の「手がかり」になることをふと思ったりするのだ。

ささやかな高揚のあり〈らっきょう玉〉ふたつひねって判子(はんこう)出して
これはかつて地層の一部だったもの唇(くち)は触れおり備前の土に
/大松達知「らっきょう玉」

「らっきょう玉」という言葉は知らなかったけれど、「判子」が出てきたのでわかった。印鑑ケースやがま口財布の留め具のことか。なるほど、らっきょうの形に似ている。2首目は備前焼の器。言葉によって認識や世界が変わる。

フィナンシェに飾られてゐる塩漬けのさくらが出会ふ今年のさくら
桜より櫻の漢字が合ひさうなやまざくら咲く百円硬貨
/杉本なお「さくらの釣銭」

舞台は桜まつり。1首目、お菓子に載っている桜は塩漬けで保存された去年の桜なのだろう。2首目、「桜」と「櫻」の密度の違い。百円玉にデザインされている八重桜は、確かに花びらの密度が濃い。思わず確認してしまった。

一人一人の作品は別々で多様だけれど、全体としてのまとまりや方向性は感じる。このバランスが、同人誌の大切なところだろう。みんな同じになってしまってはダメだし、かと言ってみんなバラバラでは意味がない。その加減がちょうど良くて心地いい。

散文では、梅田陽介「酒造りの歌から滴る情の露」が出色。中村憲吉の歌集『しがらみ』を取り上げている。

近代的な酒造りに必要な革新技術が形になったのは昭和十年頃とされているため、近代化直前の酒造りの情景を立体的に描写している点でも歴史資料的な価値がある。
この製法は生酛造(きもとづく)りといい、人工の乳酸菌を添加する安定した清酒製造法が確立した現代では希少なものになってしまった。

酒造りに関してとても詳しいなと思ったら、巻末の質問コーナー「最近食べたおいしいもの。」に「酒造りが終わって、四ケ月ぶりに食べた納豆」と書いていた。なるほど、同業者だったのか。酒蔵に納豆菌を持ち込まないように、仕込み期間は納豆を食べられないのだ。

今から100年以上前に刊行された歌集を取り上げているところに好感を持つ。こうした文章が載る同人誌には信頼が置ける。大地にしっかり根を張っている感じ。きれいで美しい花を咲かせることも大事だけれど、それと同じくらいに、太い根を張っていることも大事だと思う。

2023年6月15日、500円。

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2023年06月23日

『〈記憶の継承〉ミュージアムガイド』


副題は「災禍の歴史と民族の文化にふれる」。

戦争や差別、公害、震災などの歴史を語り伝えるミュージアムを紹介するガイドブック。全国にある23館が取り上げられている。

原爆の図丸木美術館、戦没画学生慰霊美術館無言館、ひめゆり平和祈念資料館、沖縄県平和祈念資料館、アクティブ・ミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」、東京大空襲・戦災資料センター、舞鶴引揚記念館、水俣病歴史考証館、水俣市立水俣病資料館、満蒙開拓平和記念館、国立アイヌ民族博物館、平取町立二風谷アイヌ文化博物館、在日韓人歴史資料館、2・8独立宣言記念資料室、ウトロ平和祈念館、もうひとつの歴史館・松代、高麗博物館、文化センター・アリラン、長島愛生園歴史館、重監房資料館、国立ハンセン病資料館、ホロコースト記念館、リアス・アーク美術館

実際に各資料館を訪ね、館長や学芸員の方に話を聴き、ミュージアムの趣旨や歴史、展示内容などを詳しく紹介している。カラー写真も豊富で、雰囲気もよく伝わってくる。

それだけでなく、コロナ禍による入館者の減少や語り部の高齢化など、ミュージアムが直面している課題も見えてくる。

23館のうち私の行ったことのあるのは、たった3館であった。早速いくつか見て回りたいと思う。

2022年4月8日、皓星社、1800円。

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2023年06月22日

Pippo編著『人間に生れてしまったけれど』


副題は「新美南吉の詩を歩く」。

新美南吉の詩に魅せられた著者が、南吉の故郷の半田市などを訪ね歩き、その生涯をたどった一冊。後半には南吉の詩21篇と幼年童話6篇も収めている。

南吉と言えば「ごん狐」などの童話が有名だが、実は童謡も含めると約550篇もの詩を残しているのだそうだ。タイトルの「人間に生れてしまったけれど」も南吉の詩「墓碑銘」の一節から取られている。

引用されている南吉の日記や手紙の言葉も印象深い。

文学で生きようなどと考へて一生を棒にふつて親兄弟にまで見はなされてこつこつやつてゐるのは神様の眼から見ていいことなのか悪いことなのか、そこのところもよく解らない
僕はどんなに有名になり、どんなに金がはいる様になつても華族や都会のインテリや有閑マダムの出て来る小説を書かうと思つてはならない。いつでも足に草鞋をはき、腰ににぎりめしをぶらさげて乾いた埃道を歩かねばならない
こんどの病気は喉頭結核といふ面白くないやつで、しかも、もう相当進行してゐます。朝晩二度の粥をすするのが、すでに苦痛なのです。生前(といふのはまだちよつと早すぎますが)には実にいろいろ御恩を受けました、何等お報いすることのなかつたのが残念です。

「ふるさと文学散歩」1〜4は地図と写真入りで、南吉の生家や墓、勤務先の小学校、杉治商会、高等女学校などの場所を紹介している。南吉作品とふるさとの風土の結び付きの強さをあらためて感じた。

2023年3月22日、かもがわ出版、1700円。

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2023年06月21日

講座「こんな短歌があるなんて!」

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7月2日(日)に大阪(梅田)の毎日文化センターで「こんな短歌があるなんて!」と題する講座を行います。時間は14:00〜15:30の90分。

岡部文夫、前田夕暮、加藤克巳、荻原裕幸、フラワーしげる、野村日魚子など、昭和から令和の歌の歴史を振り返りつつ、大幅な字余りや字足らず、破調、自由律などの「異形の歌」の数々をご紹介します。

その上で、短歌とは何か、定型とは何かについて、皆さんと一緒に考えたいと思います。

https://www.maibun.co.jp/wp/archives/course/43916

教室受講とオンライン受講の併用講座です。
みなさん、お気軽にご参加ください!

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2023年06月20日

中島裕介歌集『memorabilia/drift』


2013年から2017年までの作品を収めた第3歌集。

胸元に伏せられていたiPhoneの郷愁として光は消える
三つ栗のマウスを包む右手にてエゴサーチしても続く涼秋
うつせみの缶チューハイに含まれるウォッカほどの希死念慮 燃えよ
「批判するだけなら誰でも出来る」なんて批判を浴びて 爪が切りたい
強く握る鉄パイプから光沢が、遠くの沢の水が零れる
国道にちぇるるちぇるるとやって来てちぇるるちぇるりと去る冬である
したあとの小便いつもふたまたに分かれてしまう 愛してはいる
ガラス窓に風は激しく吹き付ける 老医師の耳鼻咽喉科には
シーリングファンは静かに回転を止めた ボトルシップの船長室で
手のひらに収まるほどの靴箆に踵を滑らせたから湿原

1首目、しばらく操作しないと画面が暗くなる。「郷愁」が面白い。
2首目、「三つ栗の」は枕詞ではなく3分割になったマウスの形状。
3首目、数パーセントではあるけれど死にたい思いを強く打ち消す。
4首目、結句に意外性がある。きちんと批判するのも難しいことだ。
5首目、「光沢」という言葉が光る沢のイメージを呼び寄せたのだ。
6首目、オノマトペの面白さ。最後だけ「ちぇるり」になっている。
7首目、岡崎裕美子の歌と同じ「したあと」の男性版という感じか。
8首目、昔ながらの町医者の佇まいや建物の雰囲気がよく出ている。
9首目、実際の部屋から模型の部屋へと場面が切り替わる鮮やかさ。
10首目、携帯用の靴箆の小ささから大きな湿原に足を踏み入れる。

詞書やレイアウトを工夫した連作が多く、1首単位の鑑賞をならべても歌集を読んだことにはならない感じが強い。

あとがきの「大文字のIではなく、小文字のiという虚数単位を追求している」という一文が、作者のスタンスをよく表している。

2022年11月20日、書肆侃侃房、2100円。

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2023年06月19日

司馬遼太郎『街道をゆく16 叡山の諸道』


初出は「週刊朝日」1979年10月19日号〜1980年3月28日号。

比叡山の延暦寺で行われる法華大会(ほっけだいえ)を見学するために来た著者は、日吉大社、赤山禅院、曼殊院門跡、横川、無動寺谷などをめぐりながら思索を深めていく。

子規と最澄には似たところが多い。どちらも物事の創始者でありながら政治性をもたなかったこと、自分の人生の主題について電流に打たれつづけるような生き方でみじかく生き、しかもその果実を得ることなく死に、世俗的には門流のひとびとが栄えたこと、などである。
江戸幕府は、天皇家に親王がたくさんうまれることをおそれた。それらが俗体のままでうろうろしていたりすると、南北朝のころのように「宮」を奉じて挙兵するという酔狂者が出ぬともかぎらず、このため原則として天皇家には世継ぎだけをのこし、他は僧にし、法親王としてその身分を保全したまま世間から隔離することにした。
かつて木造であったものが、一見木造風のコンクリートに模様がえさせられる場合、実体であるよりも実体の説明者(ナレーター)の位置に転落させられてしまうことを、建てるひとびとは考えてやらないのではないか。

話題は次々に連鎖し、時に脇道に逸れたりしながら、縦横無尽に広がっていく。そこが面白い。

ときに唐は、晩唐の衰弱期で、かつてあれだけ世界の思想や文物に寛容だったこの王朝が、仏教に非寛容になり、土俗信仰である道教を大いに保護しはじめていた。多くの理由があるにせよ、国家が衰弱して力に自信がもてなくなると、かえってナショナリズムが興るということであるのかもしれない。

この文章など、40年以上も前のものなのに、近年の日本のことを言っているようにも読める。そうした時代を超える力を持っているからこそ、「街道をゆく」のシリーズは今も読まれ続けているのだろう。

「週刊朝日」は先月で休刊になったところだけれど。

2008年11月30日、朝日文庫、580円。

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2023年06月18日

映画「幾春かけて老いゆかん」

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監督:田代裕
語り:國村隼
音楽:渡辺俊幸

副題は「歌人 馬場あき子の日々」。
馬場あき子の1年間を追ったドキュメンタリー。

新聞歌壇の選歌、能の鑑賞、舞台での解説、結社の会議、原稿の執筆など、さまざまな場面が出てくる。馬場さんの挙措動作や佇まいの美しさが印象に残った。

第七藝術劇場、113分。

posted by 松村正直 at 23:57| Comment(3) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年06月17日

今後の予定

下記のイベント、歌会、カルチャー講座に参加します。
多くの方々とお会いできますように!

・ 6月25日(日)第7回別邸歌会(神戸)
 https://matsutanka.seesaa.net/article/499372912.html

・ 7月 2日(日)講座「こんな短歌があるなんて!」(大阪)
 https://www.maibun.co.jp/wp/archives/course/43916

・ 7月17日(月・祝)現代歌人集会春季大会 in 富山(富山)
 https://matsutanka.seesaa.net/article/499174176.html

・ 8月10日(木)「軍人家庭と短歌―戦後派歌人 森岡貞香の
         初期作品を中心に」(オンライン)

・ 8月11日(金・祝)第8回別邸歌会(宇治)
 https://matsutanka.seesaa.net/article/499372912.html

・ 8月27日(日)人麿の里全国万葉短歌大会(益田)
 https://note.com/marumaruhaohao/n/n7abf91c7e0f7

・ 9月10日(日)文学フリマ大阪
 https://bunfree.net/event/osaka11/

・ 9月16日(土)講座「2023年上半期、注目の歌集はこれだ!」
                    (くずは)
 【教室受講】
 https://www.asahiculture.jp/course/kuzuha/378dcd78-5964-58c7-c708-644a26b57eae
 【オンライン受講】
 https://www.asahiculture.jp/course/kuzuha/4b344c1c-6ab9-9d5d-31a3-644a274f1a7f

・10月 1日(日)現代歌人集会福岡エリア歌会(福岡)
 https://site-7297482-2187-9948.mystrikingly.com/#_5

・10月 8日(日)「パンの耳」第7号を読む会(神戸)

・10月21日(土)第9回別邸歌会(八日市)
 https://matsutanka.seesaa.net/article/499372912.html

・10月28日(土)澄田広枝歌集『ゆふさり』批評会(大阪)
https://yururatanka.hatenablog.com/entry/2023/06/13/171954

・10月29日(日)大阪歌人クラブ秋の大会(大阪)

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2023年06月16日

近藤康太郎『百冊で耕す』


副題は「〈自由に、なる〉ための読書術」。

前著『三行で撃つ』の姉妹編。
https://matsutanka.seesaa.net/article/486715542.html

名物記者・ライターの記す読書論。長年にわたって著者自身が実践してきた内容でもある。

本は、読むだけではない。本は眺めるものだ。なで回すものだ。わたしは、それに生かされてきた。読んだ場所、読んだ時間、読んだ日差し、読んだ風の匂いを、五感を使って記憶に定着させる。
個々の読書体験が、ふとしたことでつながる。〈分かる〉とは、そういうことだ。
本を読む。そのもっともすぐれた徳は、孤独でいることに耐性ができることだ。読書は、一人でするものだから。ひとりでいられる能力。人を求めない強さ。世界でもっとも難しい〈強さ〉を手に入れる。

短歌に通じる話も、いろいろと出てくる。

「正しい読み/間違った読み」はないのだが、しかし、「おもしろい読み/つまらない読み」はある。
文章は、基本的に分からないものだ。分からない本を読まないで、むしろどうする。自分の知らないことを、知る。自分になかった視点を得ようとする。だから、本は難しくてあたりまえ。

いつも通り、歯切れ良く、テンポのいい文章が続く。

巻末の百冊選書には、ドストエフスキー『悪霊』、村上春樹『風の歌を聴け』、ヴェーバー『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』などとならんで、『与謝野晶子歌集』も入っている。

2023年3月13日、CCCメディアハウス、1600円。

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2023年06月15日

村上春樹『一人称単数』


2020年に文藝春秋社から刊行された単行本の文庫化。
特に熱心な読者ではないので、文庫になったのを機に読んだ。

8篇を収めた短篇小説集。

短歌が出てくると聞いていて、表題作の「一人称単数」かと思っていたらそうではなく、冒頭の「石のまくらに」という話だった。

「私は短歌をつくっているの」と彼女はほとんど唐突に言った。
「短歌?」
「短歌って知ってるでしょ?」
「もちろん」。

人生において偶然出会った人や、短い期間だけ付き合った人を回想する話が多い。人生には何が正しくて何が本当であるのか、永遠にわからないできごとがある。

(  )の挿入の多い文体も、読んでいるうちにだんだん中毒になってくる。

ふと気がつくと(数をかぞえることに意識を集中していたので、気がつくまでに時間がかかった)、ぼくの前に人の気配があった。
でも僕は暇があれば(というか、当時の僕はだいたいいつも暇だった)神宮球場に足を運び、一人で黙々とサンケイ・アトムズを応援していた。
私は中華料理をまったく食べないので(どうやら中華料理で使われる香辛料の中に、アレルギーを引き起こすものがいくつかあるみたいだ)、彼女は中華料理を食べたくなると、親しい女友だちを誘ってどこかに食べに行く。

さすが村上春樹。なんだかんだ言ってもやっぱり味わい深い。

2023年2月10日、文春文庫、720円。

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2023年06月14日

黒田一樹『すごいぞ!私鉄王国・関西』


関西の私鉄大手5社「阪急」「南海」「阪神」「近鉄」「京阪」について、その歴史や特色などを徹底的に分析した本。カラー写真も豊富で、内容も充実している。

著者がそれぞれの私鉄のキーワードに挙げるのは、「阪急=創業者、南海=バロック、阪神=スピード、近鉄=エキゾチシズム、京阪=名匠」。その意味するところは、本書を読むとよくわかる。

関西の私鉄の話が満載の一冊であるが、実は著者は東京に住む人。そのため、関東と関西の違いに関する話もたくさん出てくる。

関東私鉄は「小田急線」「西武線」のように「○○線」の呼び名が主流ですが、関西私鉄は「阪急電車」「南海電車」のように「○○電車」の呼び名が主流です。
のりば表示案内は、たとえば難波駅なら「堺 岸和田 泉佐野 和歌山市方面」と手前から書くのが関東流。「和歌山市 泉佐野 岸和田 堺方面」と終着駅を大きく書いたうえで奥から書くのが関西流である。
駅に備え付けの発車時刻表にも関東流と関西流がある。時間を縦軸にとるのが関東流、横軸にとるのが関西流だ。

私は京阪電車に乗ることが多いのだが、「京阪」に関しても知らない話がいっぱいあった。淀屋橋駅が1面3線しかないにもかかわらず、ダイヤの組み方や停車位置をずらす工夫によって狭さを感じさせないことなど、まったく気付いていなかった。

言われてみれば、なるほどと思うことばかり。

残念ながら、この本の著者はもうこの世にはいない。「編集が佳境に入った今年の1月、わたしは末期の大腸ガンと診断されました」と、あとがきに記されている。刊行から1年も経たず、2017年1月3日に45歳の若さで亡くなった。

ご冥福をお祈りします。

2016年5月3日初版、2016年8月31日4刷。
株式会社140B、1800円。

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2023年06月13日

水原紫苑歌集『天國泥棒』

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副題は「短歌日記2022」。

ふらんす堂のHPに2022年1月1日から12月31日まで毎日1首発表された計365首を収めている。「短歌日記シリーズ」は詞書や短いエッセイが付くことが多いのだが、この歌集はシンプルに日付と歌だけで構成されている。

愛しあふ椿たちたれも愛さざるひよどり共にうつくしきかな
わたくしは鳥かも知れず恐龍の重きからだを感ずるあした
雀たちわれを見捨てて砂浴びの快樂(けらく)に耽る~の庭かも
けむりぐさ吸ひたる昔不死と死にあくがれたりき今もあくがる
泣きながらわれに食まるるトマトなり泣くこと絶えてあらざるわれに
ポンペイはこことおもへばみひらけるまなこのままに木橋をわたる
肌も髪もさまざまなれどいきものの美しさにてはにんげんは勝てず
海あらぬ巴里の眞珠貝われと母 互みに互みをみごもりにけり
地下食堂にボードレールの詩句ありて移民勞働者ペドロ降り來(く)も
窓よりの眺めに男女天使なる一瞬ののちその子來たりぬ

1首目、鮮やかな赤い色に咲く椿の花と孤独で嫌われ者のヒヨドリ。
2首目、恐竜から鳥への進化の歴史を思う。鳥の軽さに対する憧れ。
3首目、人を警戒することなく無防備で無邪気に楽しむ雀たちの姿。
4首目、不死と死は正反対の概念だが、どちらも魅力を秘めている。
5首目、「われ」でなくトマトが泣いているところに意外性がある。
6首目、ポンペイの惨劇はいつどこの町で起きても不思議ではない。
7首目、生きものたちはフォルムや存在自体の美しさを備えている。
8首目、互いを育みつつ侵食し合うような母と娘の複雑な関係性か。
9首目、パリの街の様子がよく感じられる歌。生活の場に詩がある。
10首目、天使は人間と違って性別もなく子を産むこともない存在。

8月から11月にかけてのパリ滞在が、歌集の中で良いアクセントになっている。

2023年5月16日、ふらんす堂、2200円。

posted by 松村正直 at 19:12| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年06月12日

BOOTH商品追加

BOOTH 2023.06.12.png


ネットショップのBOOTHで第1歌集『駅へ』(新装版)と短歌時評集『踊り場からの眺め』の販売を始めました。

https://masanao-m.booth.pm/

歌集、歌書を割引価格で販売しているほか、無料でダウンロードできる評論やエッセイなどもありますので、ぜひご覧ください。

ご注文お待ちしております。

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2023年06月11日

石井正己編・解説『菅江真澄 図絵の旅』


菅江真澄(1754‐1829)は愛知県に生まれ、信越・東北・北海道を旅して多くの日記や地誌を残した。その中から112点の図絵を取り上げて、現代語訳の日記などとともに解説を付した一冊。

とても面白い。

彩色された絵が鮮やかで、当時の風景や人々の暮らしの様子がよくわかる。民俗学や自然史の資料としても貴重なものだろう。干拓前の八郎潟で月見をしたり、隆起前の象潟を眺めたりもしている。

1789年のクナシリ・メナシの戦いや1792年のラクスマン来航、アイヌの暮らし、北海道に残る円空仏、三内丸山遺跡や縄文土器の話なども出てくる。歴史が身近に感じられる内容だ。

また、和歌も数多く詠まれている。

極楽の浜の真砂し踏む人の終(つひ)に仏がうたがひもなし【青森県、仏ヶ浦】
むかし誰(た)が手に馴らしけん四つの緒のしらべかへたる松風の声【秋田県、独鈷大日神社】
千代を経て宇須(うす)となるべき木々はみな枝垂れ地(つち)に付くといふなり【長野県、碓氷】

当時、北海道の松前でも和歌を詠む人が多くいたようだ。

神々に和歌を献上したり、季節の移り変わりの歌題を設けて和歌を詠んだりしている。真澄は、藩主・松前道広の継母の文子や重臣の下国季豊、稲荷社神主の佐々木一貫、商人の土田直躬らと和歌を通じて交流を重ねている。真澄の長期滞在は松前歌壇の興隆に大きく寄与した。

和歌は土地褒めであり、神と人、人と人をつなぐコミュニケーションの役割も果たしていた。近代以降の自己表現としての短歌とは異なる和歌の意味について、あれこれ考えている。

2023年1月25日、角川ソフィア文庫、1500円。

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2023年06月10日

講座「こんな短歌があるなんて!」

 こんな短歌があるなんて202307-1.jpg


7月2日(日)に大阪(梅田)の毎日文化センターで「こんな短歌があるなんて!」と題する講座を行います。時間は14:00〜15:30の90分。

昭和から令和までの歌の歴史を振り返りつつ、大幅な字余りや字足らず、破調、自由律などの「異形の歌」の数々をご紹介します。その上で、短歌とは何か、定型とは何かについて、皆さんと一緒に考えたいと思います。

https://www.maibun.co.jp/wp/archives/course/43916

教室受講とオンライン受講の併用講座です。
みなさん、お気軽にご参加ください!

posted by 松村正直 at 18:44| Comment(0) | カルチャー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年06月09日

中村憲吉と片鉾池(その3)

以下、少し余談を。

片鉾池の上にある夙川公民館を見て思い出したのは、以前訪れた高安国世ゆかりのの恵ヶ池のこと。夙川からも比較的近い場所である。

恵ヶ池も現在は一部が埋め立てられて、苦楽園市民館が立っている。
https://matsutanka.seesaa.net/article/387139192.html

また、先日訪れた愛知県半田市で偶然通りかかった清城記念館。


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この写真ではまったく伝わらないけれど、この建物も親池という池の上にあるのだ。

ここからは仮説なのだが、ある時期、全国のさまざまな場所で池を埋め立てたり、あるいは池にせり出すようにして、公民館などを建てるのが流行ったのではないだろうか。

新たに土地を取得する必要がないとか、建物から池が見えて眺めが良いとか、いくつか利点は考えられる気がする。

posted by 松村正直 at 21:44| Comment(2) | メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

中村憲吉と片鉾池(その2)

中村憲吉が歌に詠んだ片鉾池は、現在どうなっているのだろうか。

JRさくら夙川駅(または阪急夙川駅)から歩いて5分ほど。桜並木で有名な夙川の西側に隣接している。


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夙川を渡る橋には「片鉾橋」の名前が付けられている。

橋を渡った正面に見えてくるのは片鉾池、ではなく西宮市立夙川公民館だ。実は、この公民館は片鉾池の上にある。


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池を一周してみると、凸型の公民館が池にせり出すように建てられているのがわかる。まずは北西側から。


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続いて西側から。
池の周囲は夙川河川敷緑地(夙川公園)の一部となっている。


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さらに南西側から。

池の一周は約300メートル。池の面積の4分の1くらいを公民館が占めている感じだ。


DSC01161.JPG

公民館の南隣にある四阿からの眺め。
周囲の木の枝にはアオサギがたくさん止まっている。


DSC01164.JPG

公民館の2階の窓から見下ろした風景。
この池を囲む住宅のどこかに、かつて中村憲吉の家もあったわけだ。

posted by 松村正直 at 09:20| Comment(0) | メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年06月08日

中村憲吉と片鉾池(その1)

「アララギ」の歌人中村憲吉は兵庫県の西宮に住んでいたことがある。1920(大正9)年から1926(大正15)年までのことだ。その間、彼は大阪毎日新聞の経済部記者として働いていた。

憲吉の住んでいた借家は片鉾池という池のほとりにあった。1920年5月3日付の平福百穂宛の書簡に次のように記されている。

家は西宮町外の香櫨園で故ウオーターシユートのあつた池の端にあります。池そのものは古いものだと申します。左手にすぐ夙川を挟んで両側に老松の並木があります。赤い大きな日がそこから上ります。夜は月が松頭から池面に映ります。池の向うは線路で汽車が通つてゐます。併し閑静でこの辺としては風情のある方です。

以前この付近一帯には1907(明治40)年に開設された「香櫨園遊園地」があり、池に向って大掛かりなウォーターシュートが設置されていたのである。しかし遊園地は1913(大正2)年に閉園となり施設も撤去されていた。


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第3歌集『しがらみ』(1924年)には片鉾池を詠んだ歌が多く収められている。

冬の日の暮るればさみし池に向く二階を下りて飯(いひ)食むひとり
わが宿の柳あかるく散りすきて池みづを広く見るべくなりぬ
夕ぐれの池に撃ちこみし銃(つつ)のおと岸の松原に人あらはるる
池ばたの借家に住みてひと年の雨夜じめりも我れ慣れにける
曇り夜の池はにほひて近くあり灯のとどく岸に蛙(かはづ)の鳴くも

池に面した家での暮らしの様子がよく伝わってくる。水鳥を狩猟で狙う人もいたようだ。歌集の編輯雑記の最後には、

大正甲子十三年初夏、屋前池畔に咲く鼠梓木の幽かなる花を眺めながら、摂津国六甲山麓、鉾池庵にて之を記す。

とある。「鼠梓木」はネズミモチ。片鉾池のほとりの自宅を「鉾池庵」と名付けていたことがわかる。

posted by 松村正直 at 00:09| Comment(0) | メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年06月07日

映画「憧れを超えた侍たち 世界一への記録」

監督・撮影:三木慎太郎
ナレーション:窪田等

2021年12月に栗山英樹さんが野球の日本代表チームの監督に就任してから、2023年3月にWBCで優勝するまでのドキュメンタリー。

選手選考会の様子や、ロッカールーム・ダグアウトの中の様子など、密着取材ならではの映像が豊富にあって見どころ満載という感じだ。栗山監督の信念の強さと気遣いのすごさがよくわかった。

3週間限定公開ということもあってか、平日の11:05からの回にもかかわらず想像以上に多くの人が見に来ていた。

Tジョイ京都、130分。

posted by 松村正直 at 06:07| Comment(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年06月06日

高橋博之『都市と地方をかきまぜる』


副題は「「食べる通信」の奇跡」。

2013年に食べ物付きの情報誌「東北食べる通信」を創刊した著者が、食と命、都市と地方、民主主義と当事者意識といった問題について記した本。関係人口という概念の創出や「食べる通信」の全国化など、具体的で実践的な内容となっている。

地方も行き詰まっているが、都市もまた行き詰まっている。そして、都市の行き詰まりを解決しえるものが、地方にはある。ならば、都市が地方を支える、助けるという議論とは別に、私たち地方が都市を支える、助けるという議論を堂々と展開していっていいのではないか。
生きる実感とは、噛み砕いていえば、自分が生きものであるということを自覚、感覚できるということ。生命のふるさとである海と土から自らを切り離してしまった都市住民が生きる実感を失っていくのも、当然のことではないだろうか。
田舎から都会に出ていく回路は、進学、就職と圧倒的に広い。対して都会から田舎に出向く回路は、観光と移住しかない。これをさらに拡大するには、関係人口という考え方で定期的に通ってくる人たちを増やすことだと思う。
繰り返すが、人間は食べないと生きていけない。その意味でこと職に関しては、すべての国民が当事者といえる。なのにこれまでの一次産業は、農家と漁師だけが当事者として孤軍奮闘してやってきた。私たち消費者も当事者なのに、観客席で高みの見物をし、まるで他人事だった。

かなり明確な理論と哲学があり、それに基づいて事業を展開している様子を見て取ることができる。一方で、現実の世界は理想通りには行かないことも多いようだ。

2016年の時点で「食べる通信」は全国34地域にまで広がり、それを100に増やすという目標が本書には掲げられていた。けれども、実際は2017年の41地域をピークに、その後は休刊や廃刊が続き、現在は22地域にまで減っている。
https://taberu.me/league

どこに誤算があったのだろう。

2016年8月20日、光文社新書、740円。

posted by 松村正直 at 19:10| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年06月04日

稲垣栄洋『はずれ者が進化をつくる』


副題は「生き物をめぐる個性の秘密」。

毎年何点もの新刊を次々と出している人気植物学者が、若者向けに書いた本。雑草などの植物の生態についての話をもとに、教育論・人生論を展開している。

雑草は図鑑どおりではありません。それが何よりの魅力です。/図鑑には春に咲くと書いてあるのに、秋に咲いていたり、三〇センチくらいの草丈と書いてあるのに、一メートル以上もあったり、そうかと思うと五センチくらいで花を咲かせていたりします。
激しい競争が行われている自然界ですが、そんな中で、生物はできるだけ「戦わない」という戦略を発達させています。ナンバー1になれるオンリー1のポジションがあれば、そんなに戦わなくても良いのです。
どこにでも生えるように見える雑草ですが、じうはたくさんの植物がしのぎを削っている森の中には生えることができません。/豊かな森の環境は、植物が生存するのには適した環境です。しかし同時に、そこは激しい競争の場でもあります。そのため、競争に弱い雑草は深い森の中に生えることができないのです。

身近なわかりやすい例を取り上げて、そこから意外な話や深い話へつなげていくところが鮮やかだ。

2020年6月10日第1刷、2021年10月25日第7刷。
ちくまプリマ―新書、800円。

posted by 松村正直 at 11:36| Comment(3) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年06月03日

小野市短歌フォーラム

兵庫県小野市で開催された「小野市短歌フォーラム」へ行く。
JR加古川駅から送迎バスで約35分。


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会場の「小野市うるおい交流館エクラ」。

きれいな建物だ。近くには市役所、図書館、警察署、総合体育館、セレモニーホールなどが集まっている。


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馬場あき子さんの歌碑除幕式(午前中)や小野市名誉市民称号贈呈式が行われる予定だったが、大雨による新幹線の運休によって残念ながら馬場さんはご欠席。


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第15回小野市詩歌文学賞授賞式。

大辻隆弘さんの歌集『樟の窓』(短歌部門)と小川軽舟さんの句集『無辺』(俳句部門)が受賞。

生前といふ語をつかひ語るときやや離(さか)りゆく岡井隆は
/『樟の窓』
どの顔も春待つ顔や通過駅
/『無辺』


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当初、馬場さんと選考委員の永田和宏さん、小島ゆかりさんの3名の鼎談が行われる予定だったが、小島さんもご欠席となったため、急遽、永田さんと受賞者2名の鼎談になった。

師との出会い、俳句と短歌の違い、短詩型における読みの大切さ、AIと人間の作る作品の違い、季語と詠嘆など、かなり突っ込んだ内容でとても刺激を受けた。

京都から出掛けるにはちょっと遠いのだけれど、久しぶりにいろいろな方ともお会いできて楽しい一日だった。

posted by 松村正直 at 22:46| Comment(0) | メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年06月02日

今後の予定

下記のイベント、歌会、カルチャー講座に参加します。
多くの方々とお会いできますように!

・ 6月25日(日)第7回別邸歌会(神戸)
 https://matsutanka.seesaa.net/article/499372912.html

・ 7月 2日(日)講座「こんな短歌があるなんて!」(大阪)
 https://www.maibun.co.jp/wp/archives/course/43916

・ 7月17日(月・祝)現代歌人集会春季大会 in 富山(富山)
 https://matsutanka.seesaa.net/article/499174176.html

・ 8月11日(金・祝)第8回別邸歌会(宇治)
 https://matsutanka.seesaa.net/article/499372912.html

・ 8月27日(日)人麿の里全国万葉短歌大会(益田)
 https://note.com/marumaruhaohao/n/n7abf91c7e0f7

・ 9月10日(日)文学フリマ大阪
 https://bunfree.net/event/osaka11/

・ 9月16日(土)講座「2023年上半期、注目の歌集はこれだ!」
                    (くずは)
 【教室受講】
 https://www.asahiculture.jp/course/kuzuha/378dcd78-5964-58c7-c708-644a26b57eae
 【オンライン受講】
 https://www.asahiculture.jp/course/kuzuha/4b344c1c-6ab9-9d5d-31a3-644a274f1a7f

・10月 1日(日)現代歌人集会福岡エリア歌会(福岡)

・10月 8日(日)「パンの耳」第7号を読む会(神戸)

・10月21日(土)第9回別邸歌会(八日市)
 https://matsutanka.seesaa.net/article/499372912.html

・10月28日(土)澄田広枝歌集『ゆふさり』批評会(大阪)

・10月29日(日)大阪歌人クラブ秋の大会(大阪)

posted by 松村正直 at 22:48| Comment(0) | メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年06月01日

映画「グッドフェローズ」

監督:マーティン・スコセッシ
原作:ニコラス・ピレッジ
出演:レイ・リオッタ、ロバート・デ・ニーロ、ジョー・ペシ、ロレイン・ブラッコほか

1990年の作品。
原題は「Goodfellas」。fellowではなく俗語のfella。

実話をもとに、ニューヨークのマフィアの一員として生きた主人公の半生を描いている。マフィアの幹部になれるのはイタリア系だけでアイルランド系はなれないとか、細かなところが面白かった。

それにしても、トミーは人を殺し過ぎだよ…。

京都みなみ会館、145分。

posted by 松村正直 at 18:38| Comment(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする