2023年01月31日

雑詠(023)

*******************************

畳に射す午前十時の陽をあびる 今日の気力を蓄えるため
冬の道まっすぐのびて冷たさが確かさとなる私のからだ
ひとりきりになれば体が大切で白菜を切り銀だらを焼く
町会費三千円を払いたりのどかな夢のなかの職場で
だれを恨むこともできずに包丁でざりざりと削ぐ鯵のゼイゴを
生活はしていけるのかと父が聞く ごめん、いつまでも不甲斐ない子で
アップリンク京都より出て現実の町にプラスチックの湯たんぽを買う

*******************************

posted by 松村正直 at 08:37| Comment(0) | 雑詠 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月30日

松田純佳『クジラのおなかに入ったら』


ストランディングネットワーク北海道の副理事長を務め、クジラの食性について研究している著者が、自らの研究者としての履歴や研究内容について記した本。

クジラの「ストランディング」(漂着・座礁)については以前にも読んだ記憶があり、同じ本を買ってしまったのかと思ったが別の本であった。

田島木綿子『海獣学者、クジラを解剖する。』
https://matsutanka.seesaa.net/article/484281329.html

ちなみに、本書にもこの田島さんは登場する。

今、世界では91種の鯨種が確認されている。そのうち日本周辺では、なんと41種もの鯨類が確認されている。
クジラの胃内容物からイカの新種が見つかることだってある。深海からクジラがイカを運んで来てくれているのだ。
ストランディングというのはだいたいタイミングが悪い。何かやろうと計画しているときに限って何か打ち上がりがちだ。ストランディング調査を任せてもらえるようになってから、ストランディングが発生すればすべての予定をキャンセルして調査に行く。

道内でストランディングがあったと連絡を受けると、著者はすぐに現地へ調査に出掛ける。「函館から羅臼までは車で10時間くらいかかる」「函館―稚内間は意外と9時間くらいで行ける。稚内で1泊したあと、朝イチのフェリーで利尻島を目指した」といった具合だ。

北海道は広い。そして、研究者には体力が必要なのであった。

2021年12月3日、ナツメ社、1300円。

posted by 松村正直 at 16:33| Comment(0) | 鯨・イルカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月29日

池内紀詩集『傀儡師の歌』

DSC00757.JPG


池内紀は私の大学時代の先生だが、詩集を出していたことを最近になって初めて知った。32歳の若さで刊行したもので、ユーモア、言葉遊び、エロ・グロ・ナンセンスに満ちている。

 殺しのバラード

おまえを殺(や)った。
竹蜻蛉の要領で
おまえを削(そ)いだ
ざくろに割った
むしむし嗅いだ
おまえの肉体(にく)を

(以下略)

クリスティアン・モルゲンシュテルンの『絞首台の歌』や夢野久作の『猟奇歌』、『マザー・グース』に通ずるような味わいだ。

1973年9月15日、思潮社、500円。

posted by 松村正直 at 10:04| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月28日

ネットショップ BOOTH

2023-01-28.png


2021年2月にBOOTHにネットショップを開設してから約2年。
https://masanao-m.booth.pm/

書店に並ぶことの少ない歌集・歌書を、読者の皆さんにお届けするのにとても役立っている。これまでの売上の合計は約23万円。

よく売れているのは、『やさしい鮫』53冊、『紫のひと』31冊、『短歌は記憶する』28冊など。

また、無料でダウンロードできる作品や評論もありますので、どうぞお立ち寄りください。

posted by 松村正直 at 07:33| Comment(0) | メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月27日

映画「すずめの戸締まり」

原作・脚本・監督:新海誠
声:原菜乃華、松村北斗、深津絵里、染谷将太、伊藤沙莉ほか

主人公が宮崎、愛媛、神戸、東京、岩手と旅するロードムービー。1970〜80年代の懐かし過ぎる曲が、挿入歌として数多く出てくる。

ファンタジー色の強い話なのかと思っていたら、震災を描いた生々しい作品だった。

Tジョイ京都、122分。

posted by 松村正直 at 20:36| Comment(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月26日

桑原亮子さん

NHKの朝ドラ「舞いあがれ!」の登場人物が短歌を詠むと話題になっている。詠むだけでなく短歌賞にも応募したりと本格的だ。

ドラマの脚本を担当している桑原亮子さんとは、かつて同じ塔短歌会に所属していて、全国大会や歌会でご一緒したことがある。

桑原さんは2010年に歌会始に入選しているし、「日々のクオリア」にも取り上げられている。
一首鑑賞 ≫ Archives ≫ 血は出口探して巡れるものならず夜の運河と遥か釣り合ふ (sunagoya.com)

2013年には歌壇賞の候補作になって、「火の夢」30首が誌面に掲載された。
「歌壇」2月号(松村) | 塔短歌会 (toutankakai.com)

その後、ラジオやテレビの脚本家として知られるようになり、今回の朝ドラへの抜擢となったのだ。
桑原亮子さん脚本のテレビドラマ | 塔短歌会 (toutankakai.com)

「舞いあがれ!」も好調なようで嬉しい限り。ますますのご活躍を!

posted by 松村正直 at 13:34| Comment(0) | メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月25日

雪の京都

DSC00759.JPG


全国的に強い寒波が襲って、京都でも昨日の午後3時頃から夜にかけて雪が降り続いた。


DSC00758.JPG


今朝は晴れ。関西のJRはまだほとんど止まっている。
気温は低いが日は射しているので、午後には雪も溶けていくだろう。

posted by 松村正直 at 09:49| Comment(0) | メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月24日

林えいだい『《写真記録》関門港の女沖仲仕』


副題は「近代北九州の一風景」。

貫始郎の短歌を読んで沖仲仕の仕事のことをもっと知りたいと思って買った本。記録作家である著者が1975年から80年代にかけて撮影した写真と、1983年に刊行した『海峡の女たち―関門港の沖仲仕の社会史』からの文章の抜粋で構成されている。

沖仲仕の花形は、なんといってもスコップや雁爪(がんづめ)で荷をすくい入れる入鍬(いれくわ)であろう。しかし、その陰に隠れて地味ではあるが、針(はりや)の存在を忘れることはできない。作業中に小麦や砂糖の袋が破れれば、すばやく飛びついて穴を繕う。
門司では長らく、「けがと弁当は仲仕持ち」と言われた。人力に頼っていた時代は、事故があってもあるていど軽傷ですんでいた。ところが、日中戦争前後にウインチが導入され、荷役設備が機械化され始めると、死ぬか重傷かどちらかというほど、命取りになりかねないものになった。
夏のダンブル内は「地獄窯」。船内荷役に不慣れで脱水症状を起こし、救急車で病院へ運ばれる者も出る。

沖仲仕の仕事の過酷さだけでなく、仲間同士の助け合いの強さや仕事に対する誇りも描かれている。しかし、港湾設備の機械化が進み、次第に沖仲仕の仕事はなくなっていく。

入港する船の数が減ったのに加え、港湾設備の急速な機械化が、港と沖の仕事に決定的な影響を及ぼしている。昔のように大勢の日雇沖仲仕は必要とされなくなった。職業安定所に日参しても、アブレる日が増えた。
「ああ、もう一度だけでいい、ぶっ倒れるまでバンカーの天狗取りをしたいのう」
一人が大声で叫んだが、その声はむなしく波間に消えた。港は、もう彼女たちを呼んではいないのである。

1988年に新港湾労働法が制定され、門司港の名物であった女沖仲仕は完全に姿を消した。けれども、彼女たちの生きた証は、この本にしっかりと刻まれている。記録することの大切さをあらためて思わされる一冊であった。

2018年3月25日、新評論、2000円。

posted by 松村正直 at 09:35| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月23日

歌集・歌書の販売

DSC00582.JPG


歌集・歌書を割引価格にて販売中です。
https://masanao-m.booth.pm/

・『やさしい鮫』(2006年)
・『風のおとうと』(2017年)
・『紫のひと』(2019年)

・『短歌は記憶する』(2010年)
・『樺太を訪れた歌人たち』(2016年)
・『戦争の歌』(2018年)

いずれも在庫の数に限りがありますので、どうぞお早めに。

posted by 松村正直 at 21:07| Comment(0) | メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月22日

中央公論新社編『開化の殺人』


副題は「大正文豪ミステリ事始」。

「中央公論」大正7年7月臨時増刊「秘密と開放号」掲載の小説5篇と戯曲2篇、さらに関連する随筆2篇を収めたアンソロジー。

・佐藤春夫「指紋」
・芥川龍之介「開化の殺人」
・里見ク「刑事の家」
・中村吉蔵「肉店」
・久米正雄「別筵」
・田山花衣「Nの水死」
・正宗白鳥「叔母さん」

大正期の小説家が書いたミステリだがどれも面白い。特に「肉店」はゾッとするような迫力があった。

また、北村薫の解説「大正七年 滝田樗陰と作家たち」も素晴らしい。27ページにわたって様々な蘊蓄を傾けていて、一つの作品になっている。

もう一つ、「刑事の家」の登場人物が「ツルゲエネフの散文詩集」を読んでいるのも印象的。啄木にも影響を与えた本だが、当時の人気のほどがうかがえる。

2022年3月25日、中公文庫、840円。

posted by 松村正直 at 13:04| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月21日

映画「柳川」

監督:チャン・リュル
出演:チャン・ルーイー、シン・バイチン、ニー・ニー、池松壮亮
原題:漫長的告白

中国人の兄弟がかつての恋人を訪ねて日本の柳川を旅する物語。柳川の掘割や古い町並みを舞台に、現在と過去が交錯する。

チュンとチュアンがベンチで話している前を自転車でドンが行ったり来たりする場面が、最高に良かった。

柳川は何度か行くチャンスがあったのだけど、まだ訪れたことのない町。この映画を見て、ますます行きたくなってきた。

京都シネマ、112分。
posted by 松村正直 at 13:08| Comment(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月20日

廣野翔一歌集『weathercocks』

著者 :
短歌研究社
発売日 : 2022-11-20

「塔」所属の作者の第1歌集。三部構成で394首を収めている。
タイトルの weathercock は風見鶏。

図書館の窓は大きくふと見れば他人の余生なども映りぬ
両眼だけ奪うなという契約のドナーカードの緑やつれて
洋室に光は溢れ人生を巻き戻してもたぶん一緒だ
デンマーク船が突然現れてターナー展は春まで続く
ビルヂングの中に小さき池ありて外の雨には濡れず動かず
辞める未来、辞めない未来どちらにも寄らず離れず割る茹で卵
回想の映像を見ておれば急に祖父の顔付きが変わる時期あり
小牧・長久手の間はやや遠く営業地域(エリア)の外にあるぞ長久手
白飯をコーンスープにほぐしおり金も誇りもおかずも無くて
はしゃいでたつもりだけれど泣いていた積雪に足跡が深くて
移民の孫が移民を拒む寂しさの中でもうすぐ築かれる壁
dolphinの傍らに人泳ぎおりかすかに泡を浮かばせながら
電話口の声の暗さに気をとられそこから別れまで速かった
「残酷なことをしていた」そうなのか残酷だったのか今までは
抗菌化されし車両の中に居て本読むほどの力もあらず

1首目、図書館では来館者や書物に描かれた様々な人生が交差する。
2首目、悪魔との契約みたい。「眼球」の項目だけ×をつけている。
3首目、何度やり直してもまた同じ道をたどるのだろうという思い。
4首目、絵の中の話から展覧会の期間の話へつながるのが不思議だ。
5首目、ビル内にある池なので雨に打たれない。その奇妙な静けさ。
6首目、会社を辞めるか迷う。結句「茹で卵」の取り合わせが絶妙。
7首目、亡くなった祖父の生前の姿。死の近い顔になったのだろう。
8首目、日本史では「小牧・長久手の戦い」と一括されるけれども。
9首目、白飯とコーンスープの合わない感じが何とも悲しげである。
10首目、流れ出た涙によって、はじめて自分の心に気づいたのだ。
11首目、トランプ前大統領の祖父はドイツからアメリカへの移民。
12首目、水族館のショー。dolphinという表記と下句の描写が光る。
13首目、恋人との別れ話の場面。一首の中での言葉の展開も速い。
14首目、お互い楽しく過ごしていたと思っていた日々だったのだ。
15首目、抗菌化によって、まるで自分まで無力になったみたいだ。

2022年11月20日、短歌研究社、1700円。

posted by 松村正直 at 11:15| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月19日

平田オリザ『ともに生きるための演劇』


「学びのきほん」シリーズの1冊。

演劇教育やワークショップを通じて、対話やコミュニケーションの方法を広めている作者が、これからの時代に演劇が果たす役割について記した本。

「多様なままでともに生きる世界」を成り立たせるためには、何よりも「対話」の力が必要です。そのような「対話」の力は、演劇を通してこそ、確実に学ぶことができると私は考えています。
演劇は、「世界を見る解像度を上げる」ことができる。演劇には、日常生活では見えないものを顕在化させる働きがあるのです。
演劇に限らず、「共同体の中で最も弱い人をどう活かすか」ということが、全体のパフォーマンスを上げる秘訣なのです。黒澤明の『七人の侍』でも若くて弱い侍が登場するように、集団のドラマでは必ずその中に弱い人が含まれています。
私は、社会のセーフティーネットとして、自由に参加することや離脱することが可能で、趣味や嗜好によって集まり、離合集散を繰り返しながらゆるやかに発達していくような「関心共同体」を作ることが必要だと考えています。

これらはすべて「演劇」についての話なのだが、おそらく「短歌」や「歌会」や「結社」にも当て嵌まることではないだろうか。

2022年8月30日、NHK出版、670円。

posted by 松村正直 at 22:39| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月18日

映画「理大囲城」

監督:香港ドキュメンタリー映画工作者

2019年に起きた香港理工大学事件のドキュメンタリー。

民主化を求めるデモ隊が大学構内に立て籠もり、包囲する警官隊との間で激しい衝突が起きた。13日間に及ぶ籠城の末に、一連の運動の中で最多の1377名の逮捕者が出たのである。

カメラは立て籠もりの始めから終わりまでを追い続ける。逃げ場のない状況に追い込まれ、次第に疲労の色が濃くなっていき、デモ隊の内部に対立も生じる。

警官隊や教員の説得を受け入れて投降する者、警官隊と戦って包囲網を突破すべきだと主張する者、粘り強くあくまで籠城を続けるべきだと考える者。

どんな戦いでも、勝つに越したことはない。でも、たとえ負ける戦いであったとしても、いかに負けるかが大事なのだと、強く感じさせられる内容であった。

出町座、88分。

posted by 松村正直 at 23:55| Comment(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月17日

別邸歌会のご案内

「別邸歌会」チラシ 2023.01.16.jpg


2か月に1回、関西各地で歌会を開催しています。
今後の日程は以下の通り。

・2月12日(日) 大阪府高槻市
・4月22日(土) 和歌山県和歌山市
・6月25日(日) 兵庫県神戸市

20代から80代まで年齢もさまざま、歌歴もさまざまな人の集まる歌会です。どうぞお気軽にご参加ください。

posted by 松村正直 at 09:25| Comment(0) | 歌会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月16日

風来堂『カラーでよみがえる軍艦島』


面積0.063㎢という狭さにもかかわらず、最盛期の1959年には人口5259人に達した長崎県の端島(軍艦島)。2015年には「明治の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」として、他の諸施設とともに世界遺産に登録されている。

その島の歴史や炭鉱の様子、島民の生活、住宅状況などを、カラー化した写真とともに紹介した本である。

1972(昭和47)年当時、新卒の月給は5〜6万円だったのに対し、軍艦島では月約20万円受け取っており、極めて恵まれた生活をしていたと想像される。
端島病院には外科だけでなく、内科、眼科など一通りの診療科目がそろっていた。歯科だけはなかったが、端島病院とは別のアパート棟に個人歯科医院が営業していた。
軍艦島には、病院から学校、床屋、麻雀店まであらゆる施設が揃っていたが、墓所と火葬施設はなかった。亡くなった人は舟に乗せられ、軍艦島から北に700mほど離れた中ノ島の火葬場で荼毘に付された。

軍艦島には以前に一度、上陸ツアーの船で訪れたことがある。この時は出航したものの、残念ながら波が高く上陸できなかった。
https://matsutanka.seesaa.net/article/422902360.html

この本にも「端島は荒波の影響もあり、年間100日程度しか一般人が立ち入れない」とある。次の機会を楽しみに待ちたい。

2022年5月20日、イースト新書、1000円。

posted by 松村正直 at 22:54| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月15日

池内紀『昭和の青春 播磨を想う』

著者 : 池内紀
神戸新聞総合出版センター
発売日 : 2020-11-27

姫路市文化国際交流財団が発行する地域季刊誌「BanCul」(播州カルチャー)に掲載された作品18篇を収めた本。

姫路市出身の著者が、取材に基づく実話と創作を織り交ぜた文章を書いている。播州の自然や暮らし、産業、時代の移り変わりなどが巧みに浮かび上がる内容だ。

聞き書きのような体裁の小説とでも言おうか。どこまでが事実でどこからが脚色なのか、はっきりとわからない虚実皮膜の味わいである。

兵庫県福崎町出身の歌人、岸上大作の名前も出てくる。

名前を岸上大作といい、神経質そうな顔に眼鏡をかけていた。啓一が幼いころに極端な恐がりだったと聞くと、声をたてて笑って、自分もそうだったといった。スイボウは「水莽」と書いて中国からきた毒草だと教えてくれた。

そして、著者が高校時代に短歌を詠んでいたことも書かれている。

高校生の私は数学ができず、もっぱら短歌に熱中していた。寺山修司が先鞭をつけ、全国の高校生に短歌や俳句のブームがあった。最初の女性誌が出たころで、文芸欄に姉の名前で投稿して賞金をせしめた。

そうだったんだ、池内先生。

2020年11月16日、神戸新聞総合出版センター、2000円。

posted by 松村正直 at 20:37| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月14日

映画「土を喰らう十二ヵ月」

監督・脚本:中江裕司
原案:水上勉
料理:土井善晴
出演:沢田研二、松たか子、西田尚美、火野正平、奈良岡朋子ほか

水上勉『土を喰う日々 わが精進十二カ月』ほか何冊かのエッセイ集を元にしたオリジナルストーリー。本の表記は「喰(くら)う」だが、映画では「喰らう」にしてある。「くう」と読まれると困るからだろう。

主演の沢田研二が良かった。料理もどれも美味しそう。最終的に恋愛モノにしなくて正解だったと思う。

京都シネマ、111分。

posted by 松村正直 at 23:01| Comment(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月13日

細馬宏通『浅草十二階(増補新版)』


副題は「塔の眺めと〈近代〉のまなざし」。

明治・大正期の浅草にあった凌雲閣(通称「十二階」)に関する本。単に歴史的な事実を述べるだけでなく、塔の上からの眺めや塔を見上げる眺めなど、近代のまなざしのあり方やその変遷について深い考察を記している。

凌雲閣からの「望み」は、まさしく二つの「望み」、まなざしと欲望を兼ね備えていた。そしてことばは、所有の欲望を喚起した。
私たちは、あるメディアから次のメディアへと単に発展的に移行しているわけではない。メディアを移行することで、何かを忘れ、何かを失うのである。
パノラマのリアルさは、単に絵が写実的であるがゆえに生まれるのではない。むしろ、見る側が積極的に奥行きを生み出していくがゆえに生まれる。

これは、短歌におけるリアルや写実を考える上でも大事なポイント。読者の能動性や参与を引き出すことが、歌のリアルには欠かせない。

凌雲閣とゆかりの深い啄木に関する話も多く、多くの学びを得ることができた。

2011年9月10日、青土社、2400円。

posted by 松村正直 at 20:01| Comment(2) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月12日

オンライン講座「短歌のコツ」

s76emf8biw8j5dekiihu.png


NHK学園のオンライン講座「短歌のコツ」が2月より新しいクールに入ります。短歌に興味・関心のある方は、ぜひご受講ください。

https://college.coeteco.jp/live/5oe0cx9n

日程は2/16、3/23、4/27、5/25、6/22の全5回。基本は第4木曜日ですが、2月は祝日の関係で第3木曜日になります。

時間は19:30〜20:45の75分。前半に秀歌鑑賞をして、後半は提出していただいた作品の批評・添削を行います。質問の時間も取りますので、何でもお気軽にお尋ねください。

posted by 松村正直 at 10:34| Comment(0) | カルチャー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月11日

富田武『抑留を生きる力』


副題は「シベリア捕虜の内面世界」。

シベリア抑留の制度や政策よりも抑留者の内面世界に焦点を当てた抑留の社会・文化史。数々の資料に基づき多くの抑留者の軌跡を追っている。ただ、他の媒体に発表した文章やロシア語資料の翻訳なども混ざっていて、全体にやや雑多な印象を受ける。

よく「シベリア抑留」と一括りにしますが、実際はソ連でいわれるシベリアは、ウラル山脈の東側で、極東(沿海地方、ハバロフスク地方、及びその北部)までの間です。日本人が抑留されたのは、旧ソ連のほぼ全域に及んでいました。

現在の国名で言えば、カザフスタンやウクライナにも「シベリア抑留」者は送られていたのである。地図を見るとその範囲の広さに驚かされる。

ロシアのウクライナ侵攻を受けて、旧ソ連の満州侵攻やシベリア抑留を重ねる論調を見かけるが、少なくともウクライナは当時「旧ソ連」の一部であった事実は押さえておく必要があるだろう。

日本人捕虜が送り込まれたのは、ウクライナでもドニエプル河左岸の東部であった。

「ザポロージエ」や「ハリコフ」などウクライナの5か所の収容所に、ドイツ兵とともに日本兵も収容されていたのであった。

映画「ラーゲリより愛を込めて」の主人公のモデルになった山本幡男に関する記述もある。

ハバロフスク収容所第二一分所で「アムール句会」がまずは三人から結成されたのは、一九五〇年の夏だった。選者は山本幡男で、東京外語学校出身、満鉄調査部からソ連事情分析など固い仕事ばかりしていたが、発会に当り「俳句は人なり」と人間を磨くことを強調した。

映画には引揚げ船を泳いで追いかけて日本に移住した犬が出てくるのだが、これが実話であることを本書で知った。やり過ぎな演出だなあと思って観ていたのだけれど。

2022年6月25日、朝日選書、1600円。

posted by 松村正直 at 10:44| Comment(0) | シベリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月09日

新聞記事について

子どもの頃から新聞が好きで、今もよく読んでいる。でも、年々、記事の書き方に違和感を覚えることが増えてきた。

例えば、昨日の朝日新聞の社会面。介護施設の職員による高齢者虐待に関する記事が載っている。虐待事件が起きた後の施設の取り組みについての話である。施設長は入居者や職員から話を聞く。

今の配置基準では、夜間帯などに職員1人が入居者24人ほどを担当し、対応が追いつかないおそれがあることがわかった。

それを受けて、職員を増員してワンオペをやめるとか、配置基準の見直しを求めるといった話になるのかと思ったら、そうではない。

こうした状況下で、職員の怒りをコントロールするための外部講師による研修を導入した。居室に見回り用カメラを設置し、職員が効率的に介助に回れるようにすることも検討している。

えっ? そこっ?

もちろん、そうした取り組みも改善の一歩ではあるけれど、それで十分なはずがない。それなのに、本質的な問題に迫ることなく記事は終ってしまう。読み終えた後にモヤモヤした感じが残るばかりだ。

posted by 松村正直 at 22:55| Comment(0) | メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月08日

映画「乳房よ永遠なれ」

監督:田中絹代
脚本:田中澄江
出演:月丘夢路、森雅之、葉山良二、杉葉子、大坂志郎ほか

1955年公開のモノクロ映画。日活110周年記念特集「Nikkatsu World Selection」の一篇として上映された。

若月彰『乳房よ永遠なれ 薄幸の歌人中城ふみ子』や中城ふみ子の歌集『乳房喪失』『花の原型』を元にした内容。ストーリー自体は既に知っているものであったが、戦後の札幌の風景が映されているのが印象に残る。

また、「短歌研究」50首応募1位入選(1954年4月)、歌集『乳房喪失』刊行(7月)、中城の死(8月)、歌集『花の原型』刊行(1955年4月)、若月彰『乳房よ永遠なれ』刊行、映画「乳房よ永遠なれ」公開(11月)という映画化までのスピードの速さにも驚かされた。

京都みなみ会館、110分。

posted by 松村正直 at 08:50| Comment(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月07日

日々のクオリア

2009年から続いている砂子屋書房HPの一首鑑賞「日々のクオリア」。アーカイブには4000首以上の歌が収められている。
https://sunagoya.com/tanka/?cat=1

アーカイブは執筆者名や掲載年月ごとに分類されているのだけれど、本当は検索機能を付けてもらいたい。引用歌を歌人名で検索できるとありがたいのだけどな。

ちなみに、私の歌はこれまで15首引いていただいた。

春の海。誰も見てないテレビから切れ切れに笑い声は響けり
/『駅へ』/江戸雪(2009/04/04)
https://sunagoya.com/tanka/?p=480

いまだ日は長きに夏至の過ぎたるを繰り返し言う追われるごとく
/『やさしい鮫』/魚村晋太郎(2009/07/06)
https://sunagoya.com/tanka/?p=884

戦争をなくす呪文を口々に唱えて人のつらなりが進む
/『やさしい鮫』/大松達知(2010/03/06)
https://sunagoya.com/tanka/?p=2089

さらさらと真水のような飲み物を飲み終えて今日も齢を取らない
/『駅へ』/中津昌子(2010/07/23)
https://sunagoya.com/tanka/?p=2923

テーブルを挟んでふたり釣り糸を垂らす湖底は冷たいだろう
/『駅へ』/黒瀬珂瀾(2011/09/16)
https://sunagoya.com/tanka/?p=5892

手を出せば水の出てくる水道に僕らは何を失うだろう
/『駅へ』/吉野裕之(2013/08/21)
https://sunagoya.com/tanka/?p=10748

狂うことなくなりてより時計への愛着もまた薄れゆきしか
/『午前3時を過ぎて』/前田康子(2014/05/12)
https://sunagoya.com/tanka/?p=12272

新春の空の深さをはかるべく連なる凧を沈めてゆきぬ
/『午前3時を過ぎて』/三井修(2016/08/10)
https://sunagoya.com/tanka/?p=15114

「駄目なのよ経済力のない人と言われて財布を見ているようじゃ」
/『駅へ』/光森裕樹(2017/04/05)
https://sunagoya.com/tanka/?p=16587

古屋根に雨ふる駅の小暗さがのどもと深く入りくるなり
/『風のおとうと』/今井恵子(2017/09/14)
https://sunagoya.com/tanka/?p=17441

体調のすぐれぬ妻に付きまとい世話をしたがる息子を叱る
/『風のおとうと』/染野太朗(2018/02/10)
https://sunagoya.com/tanka/?p=18207

鉛筆のごとく心はとがりゆき朝の道路がまっすぐになる
/「うた新聞」2020年2月号/岩尾淳子(2020/02/17)
https://sunagoya.com/tanka/?p=22191

轟きをしばらく宙に残しつつこの世の淵へ降りてくる水
/『紫のひと』/久我田鶴子(2021/04/16)
https://sunagoya.com/tanka/?p=24620

「めし」とのみ書かれた店に入りゆく石仏めぐりの旅の終わりに
/『やさしい鮫』/山下翔(2022/03/29)
https://sunagoya.com/tanka/?p=27423

反り深き橋のゆうぐれ風景は使い込まれて美しくなる
/『やさしい鮫』/井上法子(2022/11/14)
https://sunagoya.com/tanka/?p=30211

posted by 松村正直 at 18:35| Comment(0) | メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月06日

短歌、短歌、短歌

8:40に家を出て、10:30から神戸市立東灘区文化センター(JR住吉駅前)で「住吉カルチャー」。参加者12名。大辻隆弘歌集『樟の窓』を取り上げて話をする。12:30まで。

13:20より同じ場所でフレンテ歌会(第65回)。参加者17名。自由詠1首と題詠「明」1首、計34首について議論する。途中10分ほどの休憩を挟んで17:00に終了。

その後、駅近くのレストラン「Atik style」に5名で行く。来月の懇親会の下見を兼ねて夕食。貸切にするのにちょうど良い広さで、料理も美味しかった。短歌と人生についてあれこれ話をして21:30まで。

23:20帰宅。ひたすら短歌な一日であった。

posted by 松村正直 at 22:53| Comment(0) | 歌会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月04日

水上勉『土を喰う日々』


副題は「わが精進十二ヵ月」。

もうずいぶん昔に読んだことのある本だが、このところ料理について考えることが多いので再読した。版を重ねているだけあって、実に味わい深い本だ。

9歳で禅寺に入って精進料理を覚えた著者が、軽井沢の山荘暮らしで作る料理を一月から十二月まで季節を追って紹介している。

何もない台所から絞り出すことが精進だといったが、これは、つまり、いまのように、店頭へゆけば、何もかも揃う時代とちがって、畑と相談してからきめられるものだった。ぼくが、精進料理とは、土を喰うものだと思ったのは、そのせいである。
道元さんという方はユニークな人だと思う。「典座教訓」は、このように身につまされて読まれるのだが、ここで一日に三回あるいは二回はどうしても喰わねばならぬ厄介なぼくらのこの行事、つまり喰うことについての調理の時間は、じつはその人の全生活がかかっている一大事だといわれている気がするのである。
ぼくが毎年、軽井沢で漬ける梅干が、ぼく流のありふれた漬け方にしろ、いまは四つ五つの瓶にたまって、これを眺めていても嬉しいのは、客をよろこばせることもあるけれど、これらのぼくの作品がぼくの死後も生きて、誰かの口に入ることを想像するからである。

読んでいると、時々、読者に向けて語り掛けてくるところがあるのも面白い。

みょうがは、私にとって、夏の野菜としては、勲章をやりたいような存在だが読者はどう思うか。
これが水上流の大根の「照り焼き」だ。いちどやってみたまえ。物事は工夫ひとつだな、ということがわかってくる。

調理風景や料理を撮影したモノクロ写真も随所に差し挟まれている。どれも美味しそうだ。

1982年8月25日発行、2021年10月20日第30刷。
新潮文庫、550円。

posted by 松村正直 at 21:58| Comment(2) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月03日

千葉優作歌集『あるはなく』


「塔」「トワ・フール」所属の作者の第1歌集。
2015年から2021年までの作品291首を収めている。

思ひ出の手紙の墓となるだらう鳩サブレーの黄なるカンカン
チャリを押すおれと押されてゆくチャリの春は社交(ソシアル)ダンスの距離に
営業をやめてしまつたコンビニがさらすコンビニ風の外観
印象派絵画のごとく頓別(とんべつ)の原野に楡の五、六本あり
こんなにも素直に花は反省のすがたに折れて水をもとめる
たぶんなにもわかつてゐない後輩の「なるほどですね」がとてもまぶしい
生きづらいつて息がしづらいことですかかもめは霧におぼれてしまふ
かつて蝶、だつた靴跡もつれあふひどく寡黙な秋の渚に
風のやうに記憶はひかる ふところにLARK(ひばり)を抱いてゐるひとだつた
こんなにも小骨を肉にひそませて苦しいだらうニシンの一生(ひとよ)
すんすんと伸びゆく竹のうちがはに竹の一生(ひとよ)が閉ぢこめる闇
睡蓮が水面をおほふ夏の午後こんなに明るい失明がある
アキアカネその二万個の複眼に映る二万の夕焼けがある
にはとりの卵に模様なきことを思へばしづかなる冬銀河
いちにちのはじめに休符置くやうに白湯を飲みをり雪の夜明けは

1首目、黄色い缶の明るさと「手紙の墓」の寂しさの落差が印象的。
2首目、比喩がおもしろい。確かに自転車を押す時はこういう感じ。
3首目、コンビニ特有の外観というものが、廃業後もそのまま残る。
4首目、頓別という北海道の地名が目を引く。風景の存在感が強い。
5首目、花首の垂れてしまった姿。人間はそんなに素直になれない。
6首目、話を理解してない様子を批判するのではなく羨ましく思う。
7首目、言葉遊びのような上句と、下句の景の取り合わせが巧みだ。
8首目、もつれ合うような靴跡から歩いて行った二人の姿が浮かぶ。
9首目、ラークが好きだった人。空のイメージと「ひ」の音の響き。
10首目、身離れが悪く肉に食い込んでいる骨。下句が実に個性的。
11首目、竹の内部の空洞には、伐られるまで光が射すことはない。
12首目、池を眼球に喩えている。反転する明るさと暗さが美しい。
13首目、数万個の目から成る複眼を持つ蜻蛉。圧倒的な夕焼けだ。
14首目、下句への展開に意外性がある。模様が銀河になったのか。
15首目、まずは一服。「白湯」の「白」が雪の白さも感じさせる。

2022年12月1日、青磁社、2200円。

posted by 松村正直 at 12:02| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月02日

映画「サーカス」「一日の行楽」

チャールズ・チャップリン映画祭(没後45周年「フォーエバー・チャップリン」)で上映中の「サーカス」(1928年)と短篇「一日の行楽」(1919年)を見る。

私が言うまでもないことだけれど、チャップリンは面白い。100年前に撮られた作品なのに、今見ても十分に楽しい。近くに座っていたお客さんは、上映中ずっとゲラゲラ笑い続けていた。

それにしても、檻の中でライオンと一緒になるシーンとか、鋪装中のアスファルトに入って身体が斜めになるシーンとか、どうやって撮影したんだろう。

全15篇の上映なので、また他の作品も見に行きたい。

アップリンク京都、72分、18分。

posted by 松村正直 at 21:33| Comment(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月01日

謹賀新年

新年明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。

既にご存知の方もいらっしゃると思いますが、昨年11月より一人暮らしになりました。当面は京都のもとの家に暮らす予定です。短歌についてはこれまで通り取り組んでまいりますので、再出発を見守っていただけましたら幸いです。

posted by 松村正直 at 07:46| Comment(0) | メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする