2022年12月31日

2022年の活動記録

作品
 ・「ひがんばな」15首(「パンの耳」第5号)
 ・「子福桜まで」20首(「短歌研究」3月号)
 ・「ルーム」7首(「短歌研究」5月号)
 ・「海は見えない」10首(「ふらッと短歌」フリーペーパー)
 ・「「リアル(写実)のゆくえ」展」13首
                   (「短歌往来」9月号)
 ・「烏鷺の争い」15首(「パンの耳」第6号)
 ・「醤油差し」10首(「俳句四季」12月号)

連載
 ・啄木ごっこ(第39回)三回目の上京と「明星」の衰退
                   (「角川短歌」1月号)
 ・啄木ごっこ(第40回)観潮楼歌会(「角川短歌」2月号)
 ・啄木ごっこ(第41回)赤心館と金田一京助
                   (「角川短歌」3月号)
 ・啄木ごっこ(第42回)小説を書く日々(「角川短歌」4月号)
 ・啄木ごっこ(第43回)「散文詩」についてのノート
                   (「角川短歌」5月号)
 ・啄木ごっこ(第44回)「石破集」の世界
                   (「角川短歌」6月号)
 ・啄木ごっこ(第45回)問答短歌の系譜(「角川短歌」7月号)
 ・啄木ごっこ(第46回)自殺願望と「煩悶青年」
                   (「角川短歌」8月号)
 ・啄木ごっこ(第47回)菅原芳子への恋(「角川短歌」9月号)
 ・啄木ごっこ(第48回)蓋平館別荘から見える煙
                   (「角川短歌」10月号)
 ・啄木ごっこ(第49回)明治四十一年秋と「明星」終刊
                   (「角川短歌」11月号)
 ・啄木ごっこ(第50回)「鳥影」の新聞連載
                   (「角川短歌」12月号)
 ・近代人気歌人再発見「中村憲吉」@(「NHK短歌」7月号)
 ・近代人気歌人再発見「中村憲吉」A(「NHK短歌」8月号)
 ・近代人気歌人再発見「中村憲吉」B(「NHK短歌」9月号)

評論
 ・口語自由律と大正デモクラシー(「プチ★モンド」No.116)
 ・異民族への「興味・関心」と「蔑視・差別」―近代短歌に
   とってアイヌとは何だったか(「現代短歌」5月号)
 ・短歌でたどる鉄道の一五〇年(「短歌往来」8月号)
 ・手品のような言葉―岡部桂一郎没後十年
                   (「うた新聞」10月号)
書評
 ・高島裕歌集『盂蘭盆世界』評(「歌壇」3月号)
 ・西巻真歌集『ダスビダーニャ』評(「短歌往来」3月号)
 ・加藤孝男歌集『青き時雨のなかを』評(「短歌往来」7月号)
 ・上田清美歌集『喜望峰に立ちたし』評(「白珠」8月号)
 ・福島泰樹著『自伝風 私の短歌のつくり方』評
                 (「現代短歌新聞」8月号)
 ・岡井隆歌集『阿婆世』評(「短歌往来」11月号)
 ・畑中秀一歌集『靴紐の蝶』評(「現代短歌新聞」11月号)

その他
 ・第9回現代短歌社賞選考座談会(「現代短歌」1月号)
 ・アンケート「二〇二一年の収穫」(「ねむらない樹」vol.8)
 ・アンケート「文庫で読みたい歌集」(「短歌研究」3月号)
 ・秀歌を読もう「永井陽子」(「短歌春秋」162号)
 ・秀歌を読もう「石川啄木」(「短歌春秋」163号)
 ・秀歌を読もう「山崎聡子」(「短歌春秋」164号)
 ・25年前の出会い(「国際啄木学会会報」第40号)
 ・令和四年度「夏の誌上短歌大会」選評(入選作品集 6月15日)
 ・林宏匡『ニムオロのうた』解説(現代短歌社 第一歌集文庫)
 ・将来の読者のために(「六花」vol.7)
 ・五月の歌(「六花」vol.7)
 ・歌集歌書展望 2022年度4期(「短歌研究」12月号)
 ・現代短歌社賞過去5年を振り返る「異種格闘技戦」
                 (「現代短歌新聞」12月号)
 ・東郷悦子歌集『地図の断片』跋文
 ・『日本近代文学大事典』増補改訂デジタル版「近藤芳美」増補

出演
 ・NHK学園「令和4年度 夏の誌上短歌大会」選者
 ・NHK学園「くにたち短歌大会」選者
 ・第10回現代短歌社賞選考委員
 ・第24回「あなたを想う恋のうた」審査員
 ・講座「『石川啄木』こんな歌もあったの?」(1月23日)
 ・講座「文学者の短歌」(2月6日)
 ・講座「現代に生きる与謝野晶子」(2月19日)
 ・「伝わる批評とは何か 10年分の時評をまとめた歌人・
  松村正直さん」
(「朝日新聞」デジタル版 5月9日)
 ・「若い歌に息づく玉のようなもの」(「朝日新聞」5月11日)
 ・講座「アイヌと短歌」(5月22日)
 ・「ふらッと短歌」(5月28日)
 ・「“うまい・下手”だけじゃない 小説家たちの短歌」
           (「毎日新聞」地域版[大阪]6月15日)
 ・講演「読みつつ迷い、迷いつつ読む」(7月23日)
 ・オンラインイベント「軍医の見た戦争―米川稔の生涯」
                        (8月12日)
 ・講座「啄木日記から見た短歌」(8月27日)
 ・シンポジウム「大正デモクラシー期の文学と思想
             ―啄木・晶子・作造―」(10月16日)
 ・「くにたち短歌大会」オンライン選評座談会(10月20日)
 ・講座「永井陽子の奏でる言葉」(11月3日)
 ・講座「続・文学者の短歌」(12月3日)

posted by 松村正直 at 23:59| Comment(0) | 活動記録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

雑詠(022)

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目を閉じてヒヨドリについて考える映画はじまるまでの時間を
何歳で死ぬかだいたいわかるからきれいに食べる鯖の塩焼き
集まってくる感情は指ごとに異なる 薬指はにくしみ
ふたつでは足りなくなって三つめに手を出す夜の蜜柑がこわい
でも今も心はあって安売りのうぐいすパンの甘さをかじる
署名する場所も捺印する場所も○で囲まれわたしは自由
夕食の残りごはんを凍らせる寂しさはもっと深くなるから

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posted by 松村正直 at 07:42| Comment(0) | 雑詠 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年12月30日

映画「ラーゲリより愛を込めて」

監督:瀬々敬久
原作:辺見じゅん『収容所から来た遺書』
脚本:林民夫
出演:二宮和也、北川景子、松坂桃李、中島健人、桐谷健太、安田顕ほか

第二次世界大戦後、ソ連軍に捕まりシベリアに抑留された人々の姿を描いたストーリー。主演の二宮和也の好演が光る。舞鶴引揚記念館の展示などを思い出した。

一つ気になったのは、顔や衣服が汚れたり粗末なものになっているのに対して、歯並びの良さや白さはそのままであること。もちろんドキュメンタリーではないので、それで構わないのだけれど。

MOVIX京都、134分。

posted by 松村正直 at 09:41| Comment(0) | シベリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年12月29日

司馬遼太郎『街道をゆく9 信州佐久平みち、潟のみちほか』


1976年に「週刊朝日」に連載され、77年に朝日新聞社より刊行され、79年に文庫化された本の新装版。

時に理由はないのだけれど、年末になって「街道をゆく」が読みたくなった。「潟のみち」(新潟県)「播州揖保川・室津みち」(兵庫県)、高野山みち(和歌山県)、信州佐久平みち(長野県)の4篇が収められている。

半世紀近く前に書かれた文章だが、今でも特に引っ掛かりなく素直に読むことができる。ものを見る目が公平で偏りがないからだろう。途中、雑談になったり、同行者の観察をしたりと寄り道も多いのだが、それが味わい深さになっている。

極端にいえば、特に化(か)していることは定着して稲作をしていることであり、特に化していない(化外)ということは、稲作をせずにけものを追ったり、魚介を獲ったりしているということであったにちがいない。
(三木)露風は一貫して象徴詩の立場を持(じ)し、反自然主義や、北海道の修道院の講師になってからは自然の感情からはほど遠い宗教詩なども書いたが、結局はわれわれ素人の胸にのこっているのは、この童謡「赤とんぼ」であるかもしれない。
信州は鎌倉以来、上方圏に属せず、関東圏に属し、交通網もそのようになっている。鎌倉幕府ができると鎌倉へできるだけ早く到着できるように信州の各地で多くの「鎌倉往還」が開鑿された。
空海の教学は後継者によって発展しなかった。発展する余地がないほどに空海が生前完璧なものにしてしまっていたからである。これに対し最澄の後継者たちはちがっていた。(…)この系統から無数の学僧や思想的人物が出、ついに鎌倉仏教という日本化した仏教世界を創造するにいたった。

この本を読んで特に印象に残ったことが2つある。

一つは湿地帯であった土地を排水して広々とした水田に変えた「亀田郷」のこと。私の好きな菓子メーカー「亀田製菓」は、なるほどこの地の生まれであったのか。

もう一つは「播州揖保川・室津みち」の案内役を、歌人の安田章生がしていること。安田は司馬とも画家の須田剋太とも、古い友人なのであった。

2008年10月30日、朝日文庫、700円。

posted by 松村正直 at 11:07| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年12月28日

小熊英二『日本という国』


中学生以上を対象とした「よりみちパン!セ」シリーズの1冊。2018年に「決定版」が出ているのだが、今回読んだのは2006年初版のもの。

全体が二部構成になっていて、「明治時代」と「第二次世界大戦後」という二つの時期が取り上げられている。どちらも日本という国のあり方を方向づけた重要な時期であり、日本の現在や今後を考える際にも欠かすことのできない論点を含んでいる。

日本の近代化は、国民全体に西洋文明の教育をゆきわたらせながら、同時に政府や天皇への忠誠心をやしなうという方向で進んでいった。
講和条約と同時に日米安全保障条約を結び、アメリカ占領軍は「駐留軍」とか「在日米軍」と名前を変えただけで、日本にあった米軍基地といっしょに居残ることになった。
日本政府は、アジアの民間からの補償要求には「国家間で解決済み」といいながら、自国民が被害をこうむったシベリア抑留問題では、「国民個人の請求権は放棄していない」と表明したわけだ。

中学生でも理解できる平易な文章で書かれているが、内容は十分に深くて濃い。

2006年3月30日、理論社、1200円。

posted by 松村正直 at 12:59| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年12月27日

鈴木加成太歌集『うすがみの銀河』


2015年の「革靴とスニーカー」50首で角川短歌賞を受賞した「かりん」所属の作者の第1歌集。2011年から2022年までの作品347首が収められている。

ボールペンの解剖涼やかに終わり少年の発条(ばね)さらさらと鳴る
ゆめみるように立方体は回りおり夏のはずれのかき氷機に
白鳥の首のカーヴのあの感じ、細い手すりに手を添えている
「あ」の中に「め」の文字があり「め」の中に「の」の文字があり雨降りつづく
夜汽車なら湖国へさしかかる時刻 研究室の四つの灯を消す
はつなつの水族館はひたひたと海の断面に指紋増えゆく
尾ひれから黒いインクに変わりゆく金魚を夢で見たのだったか
もう足のつかない深さまで夜は来ておりふうせんかずらの庭に
かうもりのおほかたは残像にして埋み火いろのゆふぞらに増ゆ
カーテンのレースを引けば唐草の刺繍に透けて今朝の雪ふる

1首目、分解でなく「解剖」としたのがいい。少年自身の体みたい。
2首目、謎めいた上句からの展開が鮮やか。うっとりと削られる氷。
3首目、手すりの感触から白鳥の首をイメージする。その生々しさ。
4首目、文字遊びの歌だが、「雨」「つづく」と意味も当て嵌まる。
5首目、車両と研究室の像が重なる。夜行列車に乗っていれば今頃。
6首目、アクリル板を「海の断面」と表現した。実際にはないもの。
7首目、金魚のひれの透明感と夢の朦朧とした感じ。結句も印象的。
8首目、水に浸っているような夜の暗さにふうせんかずらが浮かぶ。
9首目、上句がいい。はためくような予測の付かない飛び方をする。
10首目、唐草模様と雪の重なりが美しく、K音とS音の響きが静謐。

2022年11月25日、角川書店、2200円。

posted by 松村正直 at 10:52| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年12月26日

映画「夜、鳥たちが啼く」

監督:城定秀夫
原作:佐藤泰志
出演:山田裕貴、松本まりか、森優理斗、中村ゆりか他

佐藤泰志原作の映画は「海炭市叙景」「そこのみにて光輝く」「オーバー・フェンス」「きみの鳥はうたえる」「草の響き」と、これまですべて見てきた。

どれも暗澹とした中に、わずかな希望だけがあるような話だ。

主人公の小説家は「なんで自分のこと書くの?」と聞かれて、「終わらせたいから」と答える。

そうだよな、ほんとに。

115分、MOVIX京都。
posted by 松村正直 at 20:50| Comment(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

松阪へ(その3)

さらに、城跡を歩き続ける。


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本居宣長記念館

重要文化財1,949点を含む約16,000点を収蔵し、自筆稿本や遺品、自画像などを公開している。今は「宣長と春庭」という企画展が開かれていて、これがとても良かった。実物の手紙や稿本の持つ生々しい迫力を感じる。


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本居宣長旧宅(鈴屋)

宣長が60年住んだ家が城跡に移築・保存されている。築300年。


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1階はこんな感じ。
店の間、中の間、奥中の間、仏間、奥座敷などがある。


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2階へのぼる階段

2階に宣長の書斎(鈴屋)があるのだが、見学できるのは1階のみ。建物の外の石垣に上がると2階の書斎が見えるとの案内がある。


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というわけで、外から望遠レンズで捉えた「鈴屋」。

広さは四畳半。床の間に「縣居大人之靈位」(あがたいのうしのれいい)という掛け軸(複製)が見える。これは本来、師の賀茂真淵(縣居大人)の命日に掛けられたものらしい。

posted by 松村正直 at 08:00| Comment(0) | 国学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年12月25日

松阪へ(その2)

近鉄松坂駅に移動して、市の中心部を見て回る。


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「新上屋跡」

本居宣長と賀茂真淵が会った「松阪の一夜」の舞台となった旅籠のあった所。宝暦13年(1763)5月25日の夜。宣長34歳、真淵67歳。この後、宣長は真淵に入門して手紙で教えを受けることになる。


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三井家発祥の地

豪商三井家の基礎を築いた三井高利(1622‐1694)が生まれ場所。門の中には、高利が産湯を使った井戸や記念碑などがあるらしい。


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松阪城跡

1588年に蒲生氏郷により築かれた城。建物は何も残っていないが、石垣が実に素晴らしい。


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松阪市立歴史民俗資料館

1912年に飯南郡図書館として建てられた建物。1階は松阪商人や松阪木綿、松阪城に関する展示。2階は「小津安二郎松阪記念館」となっていて、青春期を松阪で過ごした小津安二郎の日記や資料が展示されている。


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城跡からの眺め。御城番屋敷のあたりを見下ろす。


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天守閣跡

何重もの高い石垣に沿ってぐるぐる回るようにして、ようやく天守閣跡までたどり着く。天守閣再建の議論もあったらしいが、これだけ立派な石垣や城構えが残っていれば、天守閣なんて要らないでしょう。

posted by 松村正直 at 08:15| Comment(0) | 国学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年12月24日

松阪へ(その1)

昨日は松阪へ行ってきた。


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目当ては「松浦武四郎記念館」!
近鉄松阪駅の3つ手前の伊勢中川駅から直線距離で約3キロ。

平日だけ運行される「たけちゃんハートバス」(1日5便)というコミュニティバスに乗って約10分で到着。このところ旅先でコミュニティバスに乗ることが増えてきた。


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1994年開館の施設で、今年4月にリニューアルされたばかり。
展示内容が充実していて、工夫されていて、おススメです!


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記念館前の松浦武四郎の歌碑。
「陸奥の蝦夷の千島を開けとて神もや我を作り出しけむ」

(蝦夷地の島々を調べて明らかにするようにと、神様は私を生み出したのであろうよ)という内容で、強い使命感がにじむ。


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近くの松阪市立小野江小学校のコンクリート塀には、松浦武四郎に関する絵が描かれている。


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松浦武四郎の縁で植えられたエゾヤマザクラ。
春に咲いている姿を見に来たい。


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松浦武四郎誕生地。
記念館から歩いて7分くらいのところにある。

主屋と離れが昔の姿に復元保存されているほか、土蔵2棟と納屋も残っている。受付におられたボランティアの方が、とても丁寧に説明をしてくださり、地元の方の武四郎愛を強く感じた。


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家の前を通る道が伊勢街道。伊勢神宮に参拝する人々が大勢行き交った道である。現代の道路を見慣れた目からすると、道幅の狭い脇道にしか見えないが、ここがかつてのメインストリートだったのだ。多くの旅人の姿が武四郎の心を外の世界に向けさせることにもなった。

posted by 松村正直 at 13:45| Comment(0) | 旅行 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年12月23日

「コスモス」2023年1月号

奥村晃作さんが、8月に行ったオンラインイベント「軍医の見た戦争 ― 歌人米川稔の生涯」のことを歌に詠んで下さっている。

正に〈死地に赴(おもむ)きし〉老軍医なる四十五歳の米川稔
「自決ではなく病死かも」新説を交えて松村正直語る
              奥村晃作

ありがとうございます。
posted by 松村正直 at 05:18| Comment(0) | 米川稔 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年12月22日

武田尚子『ミルクと日本人』


副題は「近代社会の「元気の源」」。

日本における牛乳の歴史をたどりつつ、近代社会の成り立ちや、経済と福祉の発展について考察した本。切り口がおもしろい。

日本でミルクが近代以降の産物であるからこそ、ミルクを手がかりに、日本近代の特徴を深く探る醍醐味を味わうことができる。

文明開化とともに牛乳が栄養豊富な飲物として推奨されたこと、少ない資本で参入できる商売として牛乳販売業が起こり、やがてミルクプラントの寡占化が進んでいったこと、都市の住民の間でミルクホールが流行ったことなど、明治・大正期の牛乳の広がりが資料に基づいて描かれていく。

私たちがよく知っている人物も登場する。一人は芥川龍之介であり、もう一人は伊藤左千夫だ。

築地「耕牧舎」は芥川龍之介の生家である。後年、芥川は「僕の父は牛乳屋であり、小さい成功者の一人らしかった」と記している。小さい成功者どころではなく、あっという間に一頭地を抜いた大変な成功者で、牛歩のなかのダークホースのようなものである。
牛乳配達人から独立自営をめざして、見事に実現したのがアララギ派の歌人伊藤左千夫である。(…)四年間で七カ所の搾乳所・販売店に勤め、二十五歳のときに同郷者一名との共同経営であるが独立自営を達成した。

さらに、関東大震災の被災者や栄誉不良の児童に対する牛乳の配給や、戦後の学校給食における脱脂粉乳の提供まで、牛乳をめぐる話は続いていく。

給食で毎日牛乳を飲んだ(飲まされた?)頃のことを懐かしく思い出した。

2017年6月25日、中公新書、880円。

posted by 松村正直 at 18:40| Comment(2) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年12月21日

エムバペ

サッカーのワールドカップで活躍したフランスのエムバペ選手。ユニフォームには「MBAPPE」とある。実際の発音はどんな感じなのか知りたくて、いろいろと調べてみた。

https://www.youtube.com/watch?v=47fa_hXcpL0
https://www.soccerdigestweb.com/news/detail/id=30136

「エム(エン)」を1音で読む感じらしい。あと、同じ綴りでもフランス語では「エム(エン)」だけど、アフリカでは「ム(ン)」と読むようだ。

以前、エムボマというサッカー選手がいた。カメルーン代表としてだけでなく、日本のガンバ大阪でも活躍した人物で、彼もMBOMAという表記だった。実はエムバペの父もカメルーン出身で、しかも二人は同じドゥアラという都市の出身なのだった。

エムボマも2歳で家族とともにフランスに移住したそうで、カメルーン→フランスという移民の流れが見えてくる。

posted by 松村正直 at 23:22| Comment(0) | メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年12月20日

映画「擬音」

監督:王婉柔(ワン・ワンロー)
出演:胡定一(フー・ディンイー)

2017年製作の台湾映画。

40年にわたって音響効果技師(フォーリーアーティスト)を務めてきた胡定一をはじめ、擬音に関わる人々のドキュメンタリー。

撮影現場では雑音が入ったり音が小さかったりしてうまく録音できない音声を、場面を再現したり、様々な道具を使ったりして採取する。靴音ひとつでも、ハイヒールの場合、スニーカーの場合、革靴の場合、それぞれ実際に履き替えて音を採る。また、現実に存在しない宝刀を抜く時の音などは、それらしい音が出るように道具を工夫する。

こうしたアナログな職人技は、時代とともに使われなくなってきている。現在ではデジタルな音をミキサーで編集・加工して音を生み出すようになっているのだ。

そうした時代の変化によって失われた世界が、丁寧に鮮やかに記録されている。

京都シネマ、100分。

posted by 松村正直 at 09:23| Comment(0) | 台湾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年12月19日

服部文祥『アーバンサバイバル入門』


登山家で猟師でもある著者が、横浜の自宅で行っている自力生活のノウハウを、写真700点・イラスト50点とともに詳しく記した本。

服部文祥は好きな作家の一人で、これまでにも著書を読んできた。

『狩猟サバイバル』
https://matsutanka.seesaa.net/article/387138731.html
『サバイバル登山家』
https://matsutanka.seesaa.net/article/387138924.html
『百年前の山を旅する』
https://matsutanka.seesaa.net/article/387139332.html
『ツンドラ・サバイバル』
https://matsutanka.seesaa.net/article/433185162.html
『サバイバル登山入門』
https://matsutanka.seesaa.net/article/465418615.html
『サバイバル家族』
https://matsutanka.seesaa.net/article/479454510.html

衣食住それぞれの分野に関して具体例が示されている。「ニワトリを飼う」「野菜を育てる」「魚をおろす」「ミドリガメを食べる」「刃物を研ぐ」「庭で排便する」「ウッドデッキの設置」「自転車の修理とメンテナンス」といったもの。もちろん、同じようなことが誰にでもできるわけではないが、読むだけで元気になってくる。

自然環境の中を自分の力だけで移動していると、文明の力で広く薄まっていた自分の移動能力が、すっと本来の自分に戻ってくる気がする。自分という生き物の輪郭がはっきりするのである。
命とはお互い食べたり食べられたりしながら、この世に存在しているものにほかならない。食べ物は生き物であり、生き物は食べ物。同時代をいっしょに生きる「命の仲間」である。人間は、一方的に食べるばかりなので、ちょっと実感がないだけだ。
道具が使い手の意志を具現化し、使い手は道具によって自分のできることを増やしていく。そうした「正」の循環が道具と使い手の幸せである。

できるだけお金に頼らずに自力で行うのは、単に理念のためではなく、純粋に楽しいからであり、また生きている実感を味わえるからなのだ。そうした姿勢に共感を覚える。

2017年5月26日、デコ、3000円。

posted by 松村正直 at 19:39| Comment(0) | 狩猟・食肉 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年12月18日

栗木京子歌集『新しき過去』

著者 : 栗木京子
短歌研究社
発売日 : 2022-09-26

2017年から2022年までの作品446首を収めた第11歌集。
94歳で亡くなった母を詠んだ歌が印象に残る。

こころといふものを手にのせ眺めたしみづからさへも信じ得ぬ日は
草野球終へし子供ら(立ち飲みはせねど)てんでに焼鳥を買ふ
けやき落葉散り敷く道を画布として白きコートのわれ歩みゆく
葉桜にみどりの風の吹くゆふべ餃子に小さくひだ寄せてゆく
嘔吐せぬ強き胃袋もつ母は最期に三匙のゼリー食べにき
真夜中の電話はもう無し母の死の代はりにわれに安眠来たり
風邪引けば母に叱られ霜月の暮れゆく窓の桟を見てゐき
岸辺にてトランペットを吹く人をり川はそこより西へと曲がる
散り落ちて互ひの距離の縮まりぬ紅むらさきの木蓮の花
一万個分のプールの水収め積乱雲は朝をかがやく

1首目、心は自分にとっても謎のもの。すべて把握できてはいない。
2首目、大人たちなら、一杯飲んでという場面。見せ消ちが巧みだ。
3首目、白い画布に色を塗るのではなく、色のある画布に白を塗る。
4首目、上句の葉桜の揺れる様子と下句「ひだ寄せて」が響き合う。
5首目、亡くなるまで経口摂取を続けられた母。「三匙」が悲しい。
6首目、施設からの突然の連絡に慌てる日々がもう戻らない寂しさ。
7首目、病気の時ほど母には優しくしてもらいたかったのにと思う。
8首目、景がよく見えてくる歌。カーブするところで練習している。
9首目、発見の歌。三次元の空中に咲いていた時の方が離れていた。
10首目、視覚化された大量の水が雲の中にあることに驚かされる。

2022年9月1日、短歌研究社、2000円。

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2022年12月17日

近藤康太郎

近藤康太郎の書く文章が好きだ。

新聞社に勤めながら、農作業をして、狩猟をして、文筆活動をして、文章塾も開いている人物。

『アロハで猟師、はじめました』
https://matsutanka.seesaa.net/article/475827441.html
『おいしい資本主義』
https://matsutanka.seesaa.net/article/476124710.html
『三行で撃つ』
https://matsutanka.seesaa.net/article/486715542.html

現在は朝日新聞の天草支局長であり、不定期で「多事奏論」というコラムを書いている。今日の朝刊の文章から引く。

つまり、文章は〈交換〉なのだ。書き手と読み手が、文字という象徴(シンボル)体系を使って思想や感情を、手渡し、手渡され、発想を膨らます。ときに価値のある誤読までして、回す。だいたい、読者を想定しない文章なんて書けないものだ。

なるほど。これは、短歌や歌会にも当てはまることだと思う。
来春にはまた新刊が出るとのことなので、楽しみだ。

posted by 松村正直 at 13:13| Comment(0) | メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年12月16日

今年の12冊

今年のカルチャー講座で取り上げた歌集は以下の通り。

1月:山下翔『meal』
2月:嶋稟太郎『羽と風鈴』
3月:山名聡美『いちじくの木』
4月:田村穂隆『湖とファルセット』
5月:米川千嘉子『雪岱が描いた夜』
6月:大下一真『漆桶』
7月:toron*『イマジナシオン』
8月:竹山妙子『さくらを仰ぐ』
9月:渡辺松男『牧野植物園』
10月:鯨井可菜子『アップライト』
11月:小池光『サーベルと燕』
12月:平出奔『了解』

年齢や性別のバランスも考慮して選んでいますが、どれも印象に残る良い歌集でした。

posted by 松村正直 at 18:12| Comment(0) | カルチャー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年12月15日

映画「天上の花」

監督:片嶋一貴
原作:萩原洋子『天上の花―三好達治抄―』
出演:東出昌大、入山法子、吹越満、浦沢直樹、萩原朔美、有森也実ほか

主人公は詩人の三好達治と、萩原朔太郎の妹慶子(本名アイ)。太平洋戦争も終盤の昭和19年から20年にかけて2人は福井県三国町で同居生活を送る。

わずか10か月で終った凄絶な日々を、そこに至るまでの16年間の回想も交えつつ、生々しく描き出している。

山なみ遠(とほ)に春はきて
こぶしの花は天上に
雲はかなたにかへれども
かへるべしらに越ゆる路
     『花筐(はながたみ)』(昭和19年)

三国町は東尋坊を見たことがあるだけ。また行ってみたいな。

125分、京都みなみ会館。

posted by 松村正直 at 08:23| Comment(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年12月13日

吉田篤弘『なにごともなく、晴天。』


2013年に毎日新聞社より刊行された旧版に書き下ろしを加えた増補版。装幀・装画はクラフト・エヴィング商會。

鉄道の高架下の商店街を舞台に、古道具屋の店番をする主人公と、様々な住人たちが織り成す連作短編集。章題が「食べる。」「眠る。」「考える。」「隠す。」「泣く」など、すべて動詞になっているのが面白い。

私は神も仏も信じないが、ただひとつ、祖母がよく口ずさんでいた「お天道様は見ているから」のお天道様を信じていた。それゆえ、空をめぐるあれこれを憎めない。
この歳になって銭湯に通ってみると、そこは思いがけず賑やかなところで、その賑やかさも、裸になっているせいか、ひとつも嘘がなかった。
おいしいものというのは、たいていの場合、手間ひまがかかっていて、そのうえ、何かしらを思い出させる。昔のことや、遠いところや、ずいぶん会ってないひとや(…)

小説を読むのは久しぶりだったけれど、何だか少し元気になった。

2020年11月20日、平凡社、1800円。

posted by 松村正直 at 11:14| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年12月11日

第4回別邸歌会

本日、13:00〜17:00、奈良県橿原市の「今井町にぎわい邸」にて、第4回別邸歌会を開催しました。参加者は11名。


DSC00677.JPG


一人2首、計22首の歌について4時間かけてじっくり議論を深めました。20代から70代まで幅広い年齢の方が集まり、いろいろな読みが出て面白かったです。ご参加くださった皆さま、ありがとうございました。

会場の「今井町にぎわい邸」は古民家ギャラリー&貸スペースで、築200年の町家をリノベーションした建物です。
https://nigiwaitei.com/


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太い梁などの構造部分や外観はそのまま生かしつつ、部屋の中はおしゃれな空間に生まれ変わっていて、とても快適でした。

posted by 松村正直 at 23:28| Comment(0) | 歌会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年12月09日

津幡修一・津幡英子『高蔵寺ニュータウン夫婦物語』


副題は「はなこさんへ、「二人からの手紙」」。

2017年公開の映画「人生フルーツ」に登場したつばた夫妻の原点とも言える共著。T章が英子、U章が修一の執筆。孫に宛てた手紙のように、それぞれの人生や40年に及ぶ結婚生活について記している。

母を見ていて、年をとれば頭も体も弱るのがあたり前。それでも自立の意欲を失わないためには、いつでも誰かの役に立つ働きを心がけなければ。「自分一人のためには、人間って、生きられないんだなあ」と、しみじみ思いました。
半田の家は、約千坪あまりの敷地に、酒蔵、精米、樽屋などの酒造りの工房と一緒に、中庭を囲むように建てられていました。子供心に、奥の深い大きな家といった印象でした。
「卒業したら、自由な、個人の建築家として生きてみたい」と、私は決めた。フリー(自由)、プライベート(家族)、アーキテクト(都市計画家)という、その後の人生を決めることになったキーワードが、私の心のなかに育ちはじめた。
「一枚の水田に、一〇倍の里山」という環境認識が、昔の農家には常識としてあった。米をつくる一枚の水田に、薪を採り、炭を焼き、また水田に必要な水を供給してくれる雑木山の里山が一〇倍なければ、そこで生活を続けられない。

ホームメーカー(主婦)として畑作りや食べ物作りに励む英子と、建築家・自由時間評論家として都市計画や執筆活動に励む修一。夫婦の成長がそのまま戦後の日本の成長と重なった時代だったと言っていいだろう。その幸福な姿がここにはある。

1997年12月20日第1刷、2017年11月10日第2刷。
ミネルヴァ書房、2200円。

posted by 松村正直 at 18:48| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年12月08日

映画「人生クライマー 山野井泰史と垂直の世界 完全版」

監督:武石浩明
出演:山野井泰史、山野井妙子ほか

単独登攀で世界の数々の巨壁に登ってきた山野井泰史の密着ドキュメンタリー。

現在の伊豆半島での生活やトレーニングの様子に、1996年にヒマラヤ・マカルー西壁に挑戦した時の映像も織り交ぜ、約50年にわたるクライマー人生が描き出される。

難関を一つクリアすると、また次の難関に挑戦する。凍傷で手や足の指を失っても登ることをやめない。まさに山に憑りつかれた人生と言っていいだろう。

命の危険と常に隣り合わせであり、この映画に出ている人の中にもその後に亡くなった人たちがいる。そう考えると、57歳の山野井が今も生きていることの素晴らしさをあらためて強く感じる。

アップリンク京都、109分。

posted by 松村正直 at 23:16| Comment(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年12月07日

平出奔歌集『了解』

著者 : 平出奔
短歌研究社
発売日 : 2022-10-25

2020年に「Victim」30首で短歌研究新人賞を受賞した作者の第1歌集。「塔」「えいしょ」「半夏生の会」「のど笛」所属。

うん……までは言った記憶が残ってる喫茶店、チェーンじゃないどこか
着るだけで痩せるって書いてあったのを着ながら想う日本の未来
本名で仕事をやっていることがたまに不思議になる夜勤明け
おみやげは人数に足りないほうがみんなよろこぶような気がした
水・日でやってるポイント5倍デー そのどちらかで買うヨーグルト
差し出したポイントカードがここじゃないほうので ちょっと笑ってもらう
Amazonで2巻と3巻を買ってメールでおすすめされる1巻
洗濯が自動で終わる 乾燥も 生きてる意味がわからなくなる
夕立が  泣く、って涙が出てるってことじゃないじゃん  屋根を打ってる
いつかあなたの目の前でやって見せたいよ涎の出るような眠り方

1首目、別れ話だろうか。周辺の部分は消えてしまった記憶の感じ。
2首目、右肩上がりの時代とは異なる現代の空気感がよく出ている。
3首目、本名も数あるハンドルネームなどの名前の一つに過ぎない。
4首目、もらえる人ともらえない人に分かれると、もらいたくなる。
5首目、ヨーグルトを買う点に限れば水曜日と日曜日は等価である。
6首目、レジの人が笑ってくれたので、ミスを救われた気分になる。
7首目、当然1巻は持っているのにAIにはそれがわからないのか?
8首目、自分がいなくても洗濯物は仕上がるし、社会も回っていく。
9首目、挿入句の上下二字アケ。悲しくても涙が出ないことはある。
10首目、無防備な姿を相手の前にさらけ出すことのできる関係性。

2022年11月1日、短歌研究社、1700円。

posted by 松村正直 at 21:11| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年12月05日

「パンの耳」6号のチラシ

chirashi-pan6.jpg


同人誌「パンの耳」第6号を刊行しました。
15名の作品15首とエッセイ「海のうた」を掲載しています。

弓立 悦  「三日月の匂い」
鍬農清枝  「パワースポット探して」
雨虎俊寛  「メーデーコール」
長谷部和子 「銀色のトランク」
紀水章生  「風のリンカク」
添田尚子  「銀色のオリーブ」
甲斐直子  「青い魚」
佐々木佳容子「いもうとの息」
松村正直  「烏鷺の争い」
和田かな子 「青きおむつの」
岡野はるみ 「木々のにおいの立ち込めていて」
河村孝子  「数学少年」
木村敦子  「谷から丘」
乾 醇子  「たゆたひうかぶ」
澄田広枝  「曼珠沙華まで」

定価は300円。(送料込み)
現在、BOOTHで販売中です。
https://masanao-m.booth.pm/

よろしくお願いします!

posted by 松村正直 at 22:42| Comment(0) | パンの耳 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年12月04日

現代歌人集会50周年記念大会

13:00からアークホテル京都で「現代歌人集会50周年記念大会」が行われた。本当は一昨年に行う予定だったのだが、コロナ禍で2年延期となり、今回ようやく開催の運びとなった。

第48回現代歌人集会賞は、竹中優子『輪をつくる』と田村穂隆『湖とファルセット』。おめでとうございます!

永田和宏の講演「あの時代の熱気〜現代歌人集会発足の頃〜」は、1970年〜80年代にかけての思い出を具体的な資料に基づいて語る内容で、知らない話がたくさん出てきて興味深く面白かった。

パネルディスカッション「現代短歌・西からの発信」(道券はな、藪内亮輔、鈴木晴香)は、ちょっと難しいテーマ設定であったけれど、三人の話をそれぞれ新鮮な気分で聴いた。

参加者は約100名。久しぶりに懇親会も開くことができ、多くの人と話もできて良かった。
posted by 松村正直 at 22:21| Comment(0) | メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年12月03日

岡井隆『岡井隆の忘れもの』


単行本未収録のエッセイ・論考・講演・対談などを収めた散文集。生前に本人が準備していた内容をもとに、死後にまとめられて刊行された。

生前の岡井さんとは全く交流がなかったが、歌集や評論集はよく読んでいる。本棚を数えて見たら、岡井さんの著書は44冊あった。一番多いかもしれない。

写実系のエコールが桜を特別扱ひしないことは始めに言つた。事実、赤彦にも茂吉にも文明にも、またあんなに名所の歌を作つた憲吉にも、桜の秀歌といふものはない。第一、桜の歌そのものが、少いか、ほとんど無いのである。
キリスト教の賛美歌にはいろんな形がありますけれども、基本的な歌詞の選び方には和歌や歌謡の影響がすごく強いです。つまり仏教の釈教歌というものがずっと伝わっていて、その言葉をかなり取り入れている。
時評などは(わたし自身も、その例に洩れないが)つい、一方的に評価して書いてしまう。実は、後になって、「あの時の評価は違うな」と思い返すことがある。ということは、他人が評価した意見を、たやすく鵜呑みにしてはいけないということでもある。
このごろ、修辞(レトリック)について、その冴えをいやがる言説をきくことがあるが、どんなに素朴にみえている歌でも、人を打つ歌には、それなりのレトリックが物を言っているのであって、そもそも修辞を馬鹿にしていたら、一首の歌といえども成功しない。
(香取)秀真は、子規の死後も、歌人であった。しかし、「アララギ」が置き忘れてきた歌人たちの一人であった。短歌史は、子規の弟子の中でも、伊藤佐千夫、長塚節をクローズアップした方向に進んだ。書かれた歴史が、いかに多くの人を置き忘れるか、忘却してしまうか、というのは、一般に〈歴史〉の特質といっていいが、短歌史の場合も同じである。

どこを読んでも含蓄に富んだ内容ばかり。文体にも味わいがあって、いくらでも読めるし、もっと読みたくなる。でも、もう新しい散文が書かれることは永遠にない。

2022年8月10日、書肆侃侃房、3000円。

posted by 松村正直 at 21:39| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年12月02日

おめでとう

21歳の誕生日、おめでとう!

posted by 松村正直 at 23:45| Comment(0) | メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年12月01日

講座「続・文学者の短歌」

12月3日(土)に講座「続・文学者の短歌」を開催します。
https://www.maibun.co.jp/wp/archives/course/36106

今回は、柳田国男、高村光太郎、加藤楸邨、中原中也、三浦綾子の5名の短歌を取り上げます。

さらぬだに家こひしきを枕崎夕くれかけて五月雨の降る
/柳田国男
小刀(こがたな)をみな研ぎおはり夕闇のうごめくかげに蟬彫るわれは/高村光太郎
少女騎手アイヨンチクは十歳ぐらゐなり競馬に勝ちて包子(パオズ)を食ふ/加藤楸邨
可愛ければ擲(なぐ)るといひて我を打ちし彼の赤顔の教師忘れず/中原中也
ああ逢ひ度しとギプスの中に臥してゐぬあの廊下を曲れば君の病室なのに/三浦綾子

時間は13:00〜14:30の90分間。オンラインでも教室(大阪梅田)でも、どちらでも受講できます。当日10時まで受け付けておりますので、ぜひご参加ください。

posted by 松村正直 at 10:33| Comment(2) | カルチャー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする