2022年10月31日

雑詠(020)

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台風のニュースとなれば裏返る傘もつ人をカメラはねらう
指先のあわき力にあらわれるこのつややかな朝顔のたね
元気があれば何でもできるを体現し猪木死にたり衰え果てて
盤面に駒打つごとく透明なパネルに触れて席を確保す
アレッポの石鹼と言えば売れるから、シリアの人の知らぬ世界で
どんぐり橋あたりに来ると鴨川もひと少なくてひとり本読む
生きていた日々がなんだか懐かしいお弁当など作ったりして

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2022年10月30日

松葉登美『群言堂の根のある暮らし』


写真:山口規子。
副題は「しあわせな田舎 石見銀山から」。

石見銀山のある島根県大田市大森町で、ファッションや雑貨のブランド「群言堂」や、古民家宿「他郷阿部家」を運営する著者が、土地に根差した暮らしの魅力について記した本。

古い家の修復をしながら、わたしたち夫婦が強く思うようになったのは、「世の中が捨てたものを拾おう」ということでした。都会では経済性や効率性が優先されますが、わたしたちはあえて非効率なことやものを大切にしようと考えました。
手を動かし、手を汚してこそ、わたしのものづくりはできるのだと考えています。机の前でじっと考えているだけでは、決してよいものは生まれません。
一〇〇%でやろうとすると、お客さまも期待をするでしょう。そうすると、期待に応えようとして不自然な部分が出てきたり、しんどくなったり、考えがかたくなったりすると思うのです。
ものづくりというのは、どんなものでも最後には天にゆだねるような部分があります。私自身も、自分がつくる服は、七、八割方の完成度で市場に送り出すという気持ちでやってきました。

作者の周りには、夫の松葉大吉、中国人留学生の姚和平、彫刻家の吉田正純、職人の楫谷稔、藍染め研究家の加藤エイミー、刺繍家の望月真理、染織家の滝沢久仁子など、多くの人たちが集まってくる。

人を惹きつけ、人と人をつなぐ力こそ、作者の一番の持ち味なのかもしれない。

2009年9月1日第1刷、2016年12月26日第4刷。
家の光協会、1524円。

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2022年10月29日

小池光歌集『サーベルと燕』

koike.jpg

2018年から2021年の作品576首を収めた第11歌集。

すごい歌は一首もないけれど、すごい歌集。読んでいて思わず泣いてしまった。別に泣くような内容の歌集ではないので、なぜ泣いたのかを説明するのが難しい。

ゆふやみは土より湧きてたちまちに並木の杉をくろく濡らせり
「国境なき医師団」に月々わづかなる金おくりゐし妻をおもふも
足立たずになりたる猫がおそろしき目付きにかはりしこと忘れ得ず
ベートーヴェンのピアノソナタを聞きながら赤いきつねを食ふのも一生(ひとよ)
駅階段一段とばしに駆けあがり空に消えたり女子高生は
知盛の子の知章(ともあきら)父よりもさきに討たれしことのあはれさ
雪の夜に迫りせまりて養魚場より錦鯉をば盗む人あり
橋のなかばに自転車とめて川を見るひとりの人がわれなりしかも
戒名をつけてもらひて支払ひし二十万円は惜しくもあるかな
種付けの苦(く)はいかばかりディープインパクト千七百余頭の子を残したり

1首目、夕暮れが暗くなっていく様子を霧や水のように描いている。
2首目、「月々わずかなる」に、亡き妻の人となりや人生が浮かぶ。
3首目、動けなくなることは、本来動物にとって死に直結していた。
4首目、「ベートーヴェン」と「赤いきつね」の取り合わせが絶妙。
5首目、女子高生の圧倒的な元気のよさ。「消えたり」が鮮やかだ。
6首目、知名度の高くない知章に着目したのが印象的。数え16歳。
7首目、現場を目撃しているような臨場感がある。初二句がうまい。
8首目、結句で鮮やかに反転する歌。そんな自分の姿に自分で驚く。
9首目、よく考えれば戒名があったところでどうなるわけでもない。
10首目、血統が重要視される世界の姿。「苦」と捉えたのが発見。

「国境なき医師団」の歌(P49)には、だいぶ後に〈「国境なき医師団」にわづかなる送金しつつ年くれむとす〉(P240)という続きのような歌がある。この2首が並んで載っていたら何でもないのだけれど、完全に忘れた頃に出てくるので胸に迫る。

2022年8月26日、砂子屋書房、3000円。

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2022年10月28日

幸徳秋水『二十世紀の怪物 帝国主義』


幸徳秋水(1871‐1911)の最初の著書『二十世紀の怪物 帝国主義』(1901)と、獄中で書かれた絶筆「死刑の前」(1911)を現代語訳したもの。山田博雄訳。

「二十世紀の怪物 帝国主義」は、当時世界的に隆盛を極めていた帝国主義について記したもの。幸徳は帝国主義を「「愛国心」を経とし、「軍国主義(ミリタリズム)」を緯として、織りなされた政策」と分析して、その危険性を示すとともに、人々に社会の変革を訴えている。

日本人の愛国心は、日清戦争に至って史上空前の大爆発を引きおこした。日本人が清国人を侮蔑し、ねたましいと思って見、そして憎悪する様子といったら、まったくなんと形容していいかわからないほどであった。
「帝国主義」とは、すなわち大帝国(グレーターエンパイア)の建設を意味する。大帝国の建設は、そのまま自国の領土の大いなる拡張を意味する。
米国は本当にキューバがスペインから独立と自由を勝ちとる運動のために戦ったのか。それなら、なぜ一方で、あんなに激しくフィリピン人民の自由を束縛するのか。なぜあんなに激しく入りピンの自主独立を侵害するのか。
帝国主義者たちは手に入れることができる新市場の余地が乏しくなったので、世界各国はすでに互いに他国の市場を奪い合う兆しをみせている。

ここに記されている内容は、歴史的に見れば1914年に起きる第1次世界大戦や、1945年の日本の敗戦などを見通したものと言えるだろう。幸徳の先見の明が光る。

「死刑の前」は、大逆事件で罪に問われ39歳で刑死した幸徳が、死を前にして自らの死生観などについて記したもの。全五章が予定されていたが、一章を書いた段階で処刑されたために未完となっている。

死刑! 私にはじつに自然な成り行きである。これでいいのである。かねてからの覚悟があるべきはずである。私にとって死刑は、世の中の人々が思うように、忌まわしいものでも、恐ろしいものでも、何でもない。
私は長寿自体が必ずしも幸福ではなく、幸福は、ただ自己の満足をもって生き死にすることにあると信じていた。もしまた、人生に社会的な価値(ヴァリュー)とも名づけるものがあるとすれば、それは長寿にあるのではなく、その人格と事業が、彼の周囲と後代の人々に及ぼす感化・影響の如何にあると信じていた。今もそのように信じている。

死刑を前にして、驚くべきほどの落ち着きようだと思う。あらためてすごい人物だと感じる。

1911年1月18日に死刑の判決が下り、早くも24日に死刑が執行された。この人を死刑にした国に、私たちは生きているのである。

2015年5月20日、光文社古典新訳文庫、860円。

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2022年10月27日

平田オリザ×藻谷浩介『経済成長なき幸福国家論』


副題は「下り坂ニッポンの生き方」。

劇作家・演出家で『下り坂をそろそろと下る』を書いた平田と、『デフレの正体』『里山資本主義』などの著書のある藻谷との対談集。

国語の近代化、統一は、スピードの違いはあれ、どの近代国家も経てきた道のりです。ただ、国家が成熟した段階になると、今度は生物多様性と一緒でいろいろな価値観を持った人がいたほうが組織は長生きする。(平田)
東京に住んでいる人は職場の沿線に住むんだけれど、地方は車社会なんで、職場から三〇分圏内ならばどこに住んでも同じです。本当に地方では若い世代が住む自治体を選ぶ時代になっています。(平田)
東京は世界最大の町ですが、若者が自分たちの半分の子どもしか残せない町になってしまっているという点で、生物学的に失敗しているのです。(藻谷)
私はよく演劇教育を導入する先生方に「おとなしい子に無理して声を出させないでいいですよ」と言います。おとなしい子は「おとなしい子」っていう役を演じたら一番うまいんです。(平田)
私はこれまで全国で五〇〇〇回以上講演してきたのですが、毎日が「分からない人に分かるように伝えるにはどうするか」を探求する戦いであり、「話というのはいかに伝わらないものか」を痛感する敗北でもありました。(藻谷)

会社も、短歌結社も、自治体も、そして個人も、ただ漫然と続けているだけでは生き残っていけない。明らかにそういう時代になってきている。

それはもちろん大変ではあるのだけれど、一方で、工夫しがいのある、さまざまな可能性のある時代だとも言えるかもしれない。

2017年9月25日、毎日新聞出版、1000円。

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2022年10月26日

映画「男はつらいよ」

1969年公開のシリーズ第1作。

5、6回は見たことがあるのだけれど、ビームスのコラボ商品発売と連動して劇場で上映されるというので、また観に行った。
https://kyoto.uplink.co.jp/movie/2022/9953

とにかくエネルギッシュで楽しい作品。

寅さんが柴又に帰ってくる→騒動を巻き起こす→また家を飛び出す→旅先で女性と出会う→再び柴又に帰ってくる→旅先からの葉書、という「寅さん」シリーズの基本的な流れはこの第1作で作られている。

今回初めて気づいたのだが、ヒロインの冬子が短歌を口ずさむ場面がある。

口笛は幼き頃の我が友よ吹きたくなれば吹きて遊びき

これは、啄木の〈晴れし空仰げばいつも/口笛を吹きたくなりて/吹きてあそびき〉をアレンジしたものだろう。

それにしても、出てくる人たちがみんな若い。50年という歳月をしみじみと感じる。

そう言えば、さくらと博の結婚披露宴の舞台となった料亭「川甚」も、昨年閉店したとのニュースが流れたっけ。

アップリンク京都、91分。

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2022年10月25日

大崎市

先週、国際啄木学会の大会に参加するために、宮城県の大崎市へ行ってきた。大崎市という名前にはなじみがないが、中心地は古川。2006年に古川市と周辺の町が合併して大崎市という名前になったようだ。

せっかくなので少し観光をすることにして、まずは「尿前(しとまえ)の関」(宮城県大崎市鳴子)へ。鳴子温泉の近くである。


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ここは、奥の細道の旅で芭蕉が訪れたところ。

南部道遥に見やりて、岩手の里に泊る。小黒崎・みづの小嶋を過て、なるごの湯より尿前の関にかかりて、出羽の国に超えんとす。この路(みち)旅人稀なる所なれば、関守にあやしめられて、漸(ようよう)として関をこす。

続いて、県境を越えて「封人(ほうじん)の家」(山形県最上町堺田)へ。正式名は旧有路家住宅で重要文化財に指定されている。


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入口に立つ芭蕉と曾良。

「封人」とは国境を守る人のことで、ここは芭蕉が泊まって有名な句を詠んだ家と伝えられている。

大山をのぼつて日すでに暮ければ、封人の家を見かけて舎(やどり)を求む。三日風雨あれて、よしなき山中に逗留す。

  蚤虱馬の尿する枕もと

続いて、封人の家から歩いて「堺田分水嶺」へ。JR陸羽東線(奥の細道湯けむりライン)の堺田駅からすぐのところ。


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ここで左右に分かれた流れは、西側は102km下って山形県酒田市の日本海へ、東側は116km下って宮城県石巻市の太平洋へ向かう。まさに、運命の分かれ道だ。

ちなみに、国際啄木学会の会場となったのは、吉野作造記念館(宮城県大崎市古川)。


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民本主義を唱え大正デモクラシーを主導した政治学者、吉野作造はこの古川の地に生まれた。新幹線の古川駅を出ると「吉野作造生誕の地」という大きな標柱が立っている。

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2022年10月24日

國友公司『ルポ路上生活』


路上生活の実態を探るべく、2021年7月23日から2か月間、東京でホームレス生活を体験してみたルポルタージュ。「東京都庁下」「新宿駅西口地下」「上野駅前」「上野公園」「隅田川高架下」「荒川河川敷」の6か所での暮らしが描かれている。

ホームレスと話をするときは「夏と冬どちらが辛いか」と質問をするようにしたのだが、ほぼ全員が「夏のほうが辛い」と答えるのだ。その理由はやはり、「冬はNPOやボランティアが防寒具をくれるから」だ。
共に過ごす相手次第で生活の色は大きく変わる。それは普段いる社会においてもホームレスの世界においても同じである。
――炊き出しを求めて路上生活者たちが長蛇の列を――。
みたいな文言をよく新聞やニュースで目にするが、私が見た限りでは「メニューと場所を見比べて魅力的な炊き出しに食べに行っている」といった状態だ。

何となくホームレスは孤立しているというイメージを持っていたのだが、実際には仲間同士の情報交換や食料の分け合いもあれば、NPOやボランティア団体による炊き出しなどの支援もある。そうした、人と人とのやり取りが本書の多くを占めている。

もちろん、2か月の潜入取材ですべてがわかるはずもなく、こうした手法を批判的に見る人もいるだろう。でも、ホームレス自身の多くは表現手段を持っていないので、彼らの姿を伝えるという意味で貴重な記録だと思った。

2021年12月27日、KADOKAWA、1500円。

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2022年10月23日

講座「続・文学者の短歌」

12月3日(土)に毎日文化センターで、講座「続・文学者の短歌」を行います。

大阪梅田の教室でもオンラインでも受講できますので、ご興味のある方はぜひご参加ください。時間は13:00〜14:30(90分間)です。

https://www.maibun.co.jp/wp/archives/course/36106
https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/02fz66kqxgn21.html

近代以降、短歌は多くの人々に親しまれてきました。歌人として知られる人物だけでなく、さまざまな文学者たちも歌を詠んできたのです。短歌は若き日の彼らの文学の出発点となり、また終生愛する詩型ともなりました。

本講座では、柳田国男(民俗学者)、高村光太郎(詩人、彫刻家)、加藤楸邨(俳人)、中原中也(詩人)、三浦綾子(小説家)らの短歌を紹介しつつ、その時代背景や人生をたどります。その上で、短歌という詩型の持つ特徴や魅力にも迫りたいと思います。

posted by 松村正直 at 10:24| Comment(0) | カルチャー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年10月22日

歌集・歌書の販売

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歌集・歌書を割引価格にて販売中です。
https://masanao-m.booth.pm/

・『やさしい鮫』(2006年)
・『風のおとうと』(2017年)
・『紫のひと』(2019年)

・『短歌は記憶する』(2010年)
・『樺太を訪れた歌人たち』(2016年)
・『戦争の歌』(2018年)

いずれも在庫の数に限りがありますので、どうぞお早めに。

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2022年10月21日

今後の予定

下記のイベント、歌会、カルチャー講座に参加します。
多くの方々とお会いできますように!

・11月3日(祝)講座「永井陽子の奏でる言葉」(京都)
 https://culture.jeugia.co.jp/lesson_detail_2-49709.html

・11月26日(土)中林祥江『草に追はれて』を読む会(和歌山)

・12月3日(土)講座「続・文学者の短歌」(大阪)
 https://www.maibun.co.jp/wp/archives/course/36106

・12月4日(日)現代歌人集会50周年大会(京都)
 https://site-7297482-2187-9948.mystrikingly.com/#_4

・12月11日(日)第4回別邸歌会(橿原)
 https://matsutanka.seesaa.net/article/492669970.html

・2月5日(日)「パンの耳」第6号を読む会(神戸)
・2月12日(日)第5回別邸歌会(高槻)
・3月18日(土)講座「多様化する短歌の「今」」(くずは)
・4月22日(土)第6回別邸歌会(和歌山)

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啄木の予言?

啄木は「歌のいろいろ」(1910年)の中で

仮に現在の三十一文字が四十一文字になり、五十一文字になるにしても、兎に角歌といふものは滅びない。

と書いている。

いくら何でも51文字なんて大袈裟だろうと思うかもしれないが、なんとそれから20年後の『プロレタリア短歌集1930年版』を見ると、50音以上ある歌がいくらでも載っているのである。

自分(づぶん)で作つた米をみんな地主(づぬし)にとられて冬がくる、小作はひいひい飢えとる亀ちやのとこじや二升鍋で藁、煮てくつとるだよ/岡部文夫
どんなに俺等が懸命に働こうとよ、原綿が悪くつて運転が早やけりやいつでも糸がモツコモツコになる/吉田龍次郎
おまへらの言ひさうなこつた、臨時同情週間だなんて、人間の一生は永いんだよ、臨時じやだめさ/田邊一子
がらんとした湯槽(ゆぶね)の中にクビになつたばかりの首、お前とおれの首が浮んでゐる、笑ひごつちやないぜお前/坪野哲久

まるで啄木の予言が的中したみたいだな。

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2022年10月20日

アミの会編『おいしい旅 初めて編』


初めて訪れた場所で味わう食べ物を描いた小説のアンソロジー。

「アミの会」は実力派女性作家集団≠ナ、さまざまなアンソロジーを刊行しているようだ。本書では、坂木司、松尾由美、近藤史恵、松村比呂美、篠田真由美、永嶋恵美、図子慧の7名が執筆している。

登場する舞台と食べ物は、「下田のキンメコロッケ」「台湾のパイナップルケーキ」「オランダのニシン、フライドポテト」「糸島の塩むすび」「箱館のコーヒー」「サハリンのシベリア風水餃子」「松山の鯛茶漬け」など。

箱館(函館)とサハリンが入っているのを見て購入。どちらも懐かしい場所だ。

箱館の市電は現在二系統だけが残されていて、東の終点は『湯の川』、西は『どつく前』、途中『十字街』で分岐して、南端『谷地頭』が終着になる。
サハリンはとても風光明媚な場所だった。道端に咲く花も、なだらかな山並みも、曇りがちの空でさえもきれいだった。何より、食べた料理の何もかもがおいしかった。

引用していて気が付いたのだけど、函館の市電の停留場名は「函館どつく前」と、「つ」が大きい。これは、「函館どつく株式会社」という社名の「つ」が大きいかららしい。
http://www.hakodate-dock.co.jp/jp/

1896年創立の古い会社だが、「函館船渠」「函館ドック」という社名を経て、現在の「函館どつく」になったのは1984年のこと。老舗ならではの旧かなっぽさを出しているのだろうか。

2022年7月25日、角川文庫、720円。

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2022年10月19日

成田龍一『大正デモクラシー』


シリーズ日本近現代史C。

大正デモクラシーの概要や評価がよくわかる一冊。「大正デモクラシー」という言葉は大正時代だけでなく、「日露戦争後の一九〇五年ころから、一九三一年九月の「満州事変」前夜までのほぼ四半世紀」を指すのだそうだ。

民本主義の議論は、帝国の根幹にふれるところまでには及んでいない。大日本帝国憲法の壁とともに、帝国意識が大きく立ちはだかっている。そもそも、民本主義の基礎をなす立憲主義の出発点は、「内に立憲主義、外に帝国主義」を唱えるところにあった。
民本主義の歴史的な評価が揺らぐのは、内政的には自由主義を主張しているが、それが国権主義と結びつき、対外的には植民地領有や膨張主義などを容認し、帝国とのきっぱりとした態度がとりにくいためである。

このあたりに、大正デモクラシーを支えた思想である「民本主義」の柔軟性と弱さが潜んでいたのだろう。

孫文は、一九二四年一一月に、神戸で「大亜細亜問題」と題した講演を行い、ヨーロッパの「覇道文化」とアジアの「王道文化」を対比し、日本は双方を有しているとした。そして、孫文は西洋の覇道の「番犬」となるか、東洋の王道の「干城」」となるかを問いつめた。

結果論になるけれど、このあたりに歴史の分岐点があったのかもしれない。もし1945年の敗戦へ至る道とは違う道に進んでいたら、その後の日本は、そして今の日本はどうなっていたのだろうか。

2007年4月20日第1刷、2021年8月16日第17刷。
岩波新書、860円。

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2022年10月18日

別邸歌会のご案内

「別邸歌会」の第4回以降のご案内です。
お気軽にお申込みください。


「別邸歌会」チラシ 2022.10.12.jpg


posted by 松村正直 at 23:00| Comment(0) | 歌会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

貫始郎歌集『海港以後 ごんぞうの歌』

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「綱手」1995年8月号の付録として刊行された冊子。刊行の経緯について田井安曇が「あとがきに代えて」に、次のように書いている。

『海港』一冊を残しただけで、第二回綱手大会(舞子海岸)の頃死んでしまった貫始郎さんのことが大変気になっていた。何とか誌上歌集の形ででも、彼の大柄で情の濃やかな「ごんぞう=沖仲士=の歌」を残したく思い、同じ海仲間の小林高雄さんに作品の蒐集をおねがいした。

収録されているのは1982年〜1989年の作品。

夕焼ははてなく赤し門司戸畑職安めぐりて職のなかりき
せり・わらび・木の芽を摘みて食いて来て失業保険半ば尽きたり
荷役船来ずなりし街に住み老いて霧笛鳴る夜の港恋い行く
去りゆきし友の行方のわからねど共に鋼積む夢に逢いたり
ごんぞうを知るかと問えば知らざりき港見下ろすこの若きらの
海よりの夜霧入り来る屋台のなかごんぞう歌を思いきり唄う
傾きて廃船置場に沈む艀十八鉄丸の文字のなつかし

船内荷役(沖仲士、ごんぞう)の仕事はなくなり、作者は新たな仕事を探す。それでも、荷役の仕事や船の風景を懐かしむ歌が何首も詠まれている。

列なして来て去る車の排気ガス通行券渡す痰吐きながら
機器ならぶ方四尺の箱のなか六十歳われの終いの職場か

作者は有料道路の料金所の仕事に就くが、その仕事についてはほとんど歌に詠んでいない。繰り返し詠まれるのは『海港』と同じく荷役の歌である。再び荷役の仕事に戻ったのかと思うほど、何度も現在形で仕事の様子が出てくる。

アケビほどに盛り上りたる淋巴節に放尿にゆく歩みぎこちなく
補助歩行器にすがりて歩む足もつれもしもし亀よと唄い出したる
音たてて溲瓶に落つる吾が尿を麻酔のさめしベッドに聞きおり
襁褓して尿管いれられ臥すわれの打ちつけられし蛙に似たる
三十キロやせて六十キロの吾の顔かがみに映る眼にひかりあり
吾の死はちかきかこの日ごろKくるYくるOが続けてくる

1986年以降、病気の歌が見られるようになる。亡くなるまでの2年あまりは病院での生活だったのではないか。そんな病気の歌の後にも、現役の荷役仕事の歌が詠まれている。それらは、おそらく病院のベッドの上で詠まれたものだ。現実にはリンパ節が腫れて痩せ衰えた身体になっても、貫始郎は「ごんぞうの歌」を詠み続けた。

それは、単なる懐かしさだけではないだろう。自らが生涯をかけて取り組んできた仕事を、歌の形で残したいという思いがあったからだと思う。時代の移り変わりとともに消えて忘れられていく荷役の仕事を最後まで詠み、1989年に貫始郎は60代で亡くなった。

1995年8月1日、綱手短歌会、1000円。
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2022年10月17日

現代歌人集会50周年大会

12月4日(日)にアークホテル京都で、現代歌人集会50周年大会が
開催されます。
 https://site-7297482-2187-9948.mystrikingly.com/#_4

講演:永田和宏氏「あの時代の熱気―現代歌人集会発足の頃」
基調講演:林和清理事長
パネルディスカッション:
 藪内亮輔氏、道券はな氏、進行・鈴木晴香理事
総合司会:魚村晋太郎理事

参加費:2000円
お申込み・お問合せ:永田淳(青磁社)
 TEL:075-705-2838 FAX:075-705-2839 info@seijisya.com

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2022年10月16日

貫始郎歌集『海港』(その3)

石炭はバケット荷役に変るとぞ飯場には四十人の仲仕ら居るも
二十八屯を摑むとうバケット吊られいて石炭荷役吾らには来ず
荷役減り花田飯場も閉ざすとう鍛冶屋も籠屋も去りてゆきたる

多くの労働者が従事していた荷役の仕事も時代とともに機械化が進み、やがて飯場が閉鎖されてゆく。

作者も25年働いた荷役会社を退職し、歌集刊行の4年前から有料道路の料金所で働くようになる。荷役の仕事は厳しくて大変であったが、作者はそれを嘆くだけでなく、誇りをもって取り組んでいた。

歌作を始めたばかりの昭和四十九年、第七未来合同歌集『汗と心と生活のうた』に参加した折、いろんな職業の歌は数多く詠まれていたが、船艙の歌、荷役の歌はすくない。現場にいる私は、船艙や荷役の歌はこの私にしか詠めないのだという自負を持っている。悲しい自負なのだと赤面しながら作って来たのである。

「この私にしか詠めない」という思いの強さが、歌集『海港』の大きな魅力になっている。

1983年12月20日、牙短歌会、2000円。

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2022年10月15日

貫始郎歌集『海港』(その2)

歌集の跋文は石田比呂志が書いている。

貫始郎は、「未来」の会員として近藤芳美の門弟であり、「牙」会員としてぼくの友人であるが、年一度の大会、あるいは月々の歌会にも顔を出すことが少ない。ぼくはそれをしばしば嘆いたけれども、彼は、一日たりとも労働を休むことが出来なかったのだ。そうして、彼は、単独で、こつこつと生活の歌を紡いで来たのだった。

なるほど、言われてみれば貫始郎の歌と石田比呂志の歌には共通する点があるように思う。

二次会に石田比呂志が来いと言い銭なき吾に銭握らする

船で荷役の仕事をしているのは男性ばかりではない。

荷役終え市場に入りゆく女らの仕事着の背に塩吹きいたる
乳はると乳しぼりいる女あり荷役音こもる船艙の隅に

こうした女性たちについては、林えいだい『関門港の女沖仲仕たち』に詳しい。
https://www.shinhyoron.co.jp/978-4-7948-1086-1.html

1983年12月20日、牙短歌会、2000円。

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2022年10月14日

貫始郎歌集『海港』(その1)

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作者の貫始郎(松尾利則)は沖仲仕(港湾労働者)として北九州の港で働いていた人。港に大型クレーンが整備されコンテナ船が普及する1970年代頃までは、貨物船と艀や埠頭の間の荷揚げ・荷下ろしに従事する多くの労働者がいた。「沖仲士」はその中でも船内荷役を担当する人々のことである。

船底に積荷の鋼の来るを待つ体寄せ合い暖とりながら
鉱石に赤く浸みたる仕事着を踏み洗いおり水の澄むまで
メキシコの岩塩の塊り砕きおれば形くずれし靴の出で来つ
水かけて夜食食みおり船艙に満たす残りの肥料八千袋
炭塵のよどむ船艙に荷役する口中の粉炭吐きすてながら

甲板の下の貨物を積み込む船艙での作業である。荷物は鋼、鉱石、岩塩、肥料、石炭など様々だ。夜間の仕事も多く、暑い日も寒い日も関係なく一年中作業は続く。

殴ぐられし男と殴ぐりたるわれとパトカーに肩を並べて坐る
横たわりたちまち眠る沖仕らの偽名と思う名を知れるのみ
労災補償さえなき吾ら地下足袋に滑りを防ぐ荒藁を捲く
花嫁の兄われ立ちてみずからの職言わぬ自己紹介を終う

飯場に集う日雇い労働者は、悪い労働条件や待遇でも働かざるを得ない事情を抱えている人が多かった。社会的な差別も受けており、「沖仲仕」という言葉も現在は差別語とされている。

うす暗く深き船艙に舞う雪の積もりて白し世に隔りて
夜の霧の流るる海に吊る鋼が荷役灯の灯を受けつつ青し

船艙から見上げる雪の白さや、吊られた鋼の青さが、過酷な現実とは別の世界のように美しく感じられる。

1983年12月20日、牙短歌会、2000円。

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2022年10月13日

うぬまいちろう『日本全国地魚定食紀行』


副題は「ひとり密かに焼きアナゴ、キンメの煮付け、サクラエビのかき揚げ…」。

日本各地の漁港をめぐり、その土地で獲れる魚を使った料理を紹介した紀行文。

登場するのは、羅臼の「黒ハモ丼」、酒田の「ニジバイガイの握り」、銚子の「イワシ塩焼き」、駿河湾の「サクラエビのかきあげ丼」、尾道の「白ハゼの煮付け」、太良の「ワタリガニ」など、計18か所の料理。

ちなみに日本全国津々浦々の漁師町や港町のお寺には、ご本尊様が流れ着いたり網にかかったりするシチュエーションの伝説が多々あるが、流れ着くもの、来るものを拒まない、あっけらかんとした漁師町や港町の気質を感じる話である。
ちなみにマグロといえば、こちこちに凍って真っ白になったもの、もしくはセリにかけられて横たわり、黒光りするものを思い浮かべる方が多いと思うが、実はマグロの本来の背色は濃紺から徐々にグラデーションしていく鮮やかなブルーである。

こういった蘊蓄もたくさん出てきて楽しい。

2021年3月31日、徳間書店、1500円。

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2022年10月12日

映画「8 1/2」

監督:フェデリコ・フェリーニ
出演:マルチェロ・マストロヤンニ、アヌーク・エーメ、サンドラ・ミーロほか

1963年の作品。「午前十時の映画祭」にて。
タイトルは「はっかにぶんのいち」。

今となっては古風な言い方なので、受付で告げる時にちょっと緊張してしまった。帯分数を「か」と読んでいたのは、いつ頃までのことなんだろう。

京都シネマ、138分。
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2022年10月11日

フレンテ歌会

毎月第1金曜日の13:30〜17:00に、神戸市立東灘文化センター(JR住吉駅すぐ)で「フレンテ歌会」を行っています。

参加者は十数名。自由詠と題詠の計2首を出して批評します。
興味のある方は、ぜひご参加ください。

「フレンテ歌会」のTwitterアカウントもできましたので、よろしくお願いします。
https://twitter.com/furenteutakai

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2022年10月10日

「くにたち短歌大会」選評座談会

NHK学園60周年記念「くにたち短歌大会」の選評座談会がZoomで無料公開されます。
https://college.coeteco.jp/live/8676cx27

日時は10月20日(木)17:00〜18:00。小池光、永田和宏、松村正直の3名が入選歌などについて語り合います。

みなさん、どうぞお聴きください。

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2022年10月09日

稲垣栄洋『世界史を変えた植物』


2018年7月にPHPより刊行された『世界史を大きく動かした植物』を改題し、加筆・修正して文庫化したもの。著者は近年、驚異的なペースで次々と面白い本を出している。

本書は、さまざまな植物が人間とどのように関わり、人の暮らしや歴史を変えてきたのかを解説したもの。取り上げられているのは、コムギ、イネ、コショウ、トウガラシ、ジャガイモ、トマト、ワタ、チャ、コーヒー、サトウキビ、ダイズ、タマネギ、チューリップ、トウモロコシ、サクラ。どれも食材や嗜好品や鑑賞用として身近なものばかりだ。

双子葉植物は茎の断面に形成層という導管と師管から成るリング状のものがあるのに対して、単子葉植物では形成層がない。このように単子葉植物の構造が単純だが、じつは単子葉植物の方が進化した形なのだ。
自然に恵まれた豊かな地域と、自然に恵まれない地域があった場合、農業が発達するのは後者である。
香辛料が持つ辛味成分は、もともとは植物が病原菌や害虫から身を守るために蓄えているものである。冷涼なヨーロッパでは害虫が少ない。一方、気温が高い熱帯地域や湿度が高いモンスーンアジアでは病原菌や害虫が多い。そのため、植物も辛味成分などを備えている。
世界で最も多く栽培されている作物はトウモロコシである。次いでコムギの生産量が多く、三位はイネである。トウモロコシ、コムギ、イネという主要な穀物は世界三大穀物と呼ばれている。四位がジャガイモ、五位がダイズであり、食糧として重要なこれらの作物に次いで生産されているのがトマトである。

植物学×世界史という組み合わせで、知らなかった話や意外な話がたくさん載っている。読み終えて、「人類の歴史は、植物の歴史でもある」という著者の言葉に納得した。

2021年9月23日、PHP文庫、820円。

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2022年10月08日

三上延『ビブリア古書堂の事件手帖V』


副題は「扉子と虚ろな夢」。
扉子シリーズの第3弾。

取り上げられるのは、映画パンフレット『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』、樋口一葉『通俗書簡文』、夢野久作『ドグラ・マグラ』など。

本が好きで、本に人生を変えられ、本に狂わされていく人々。

書籍を人間の外部記憶と定義づければ、人間は脳だけでなく蔵書によっても思考していると言えるわ……少なくとも、蔵書から人間の思考を一部は辿ることができる。

確かにそういう面はあるだろうなと思う。

シリーズものは次第につまらなくなって読まなくなることが多いのだけど、ビブリア古書堂はなぜか読み続けている。これで栞子シリーズ7冊+扉子シリーズ3冊。最初に読んだのが2012年なので、もう10年以上読んでいることになる。
https://matsutanka.seesaa.net/article/387138686.html

2022年3月25日、メディアワークス文庫、670円。

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2022年10月07日

オンライン講座「短歌のコツ」

NHK学園のオンライン講座「短歌のコツ」が、今月から新しいクールに入ります。
https://college.coeteco.jp/live/8676cxww

・10月27日(木)
・11月24日(木)
・12月22日(木)

日程は上記の3回で、時間は19:30〜20:45の75分間。前半に秀歌鑑賞をして、後半に1人一首の歌の批評・添削を行います。

ご興味のある方は、ぜひご参加ください。
お待ちしております。

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2022年10月06日

前田康子歌集『おかえり、いってらっしゃい』

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2017年から2022年の作品440首を収めた第6歌集。
https://gendaitanka.thebase.in/items/66850262

社会人となって家を離れた二人の子や病気の後遺症の残る母を詠んだ歌が多い。また、ハンセン病や水俣、沖縄に関する社会詠も積極的に詠んでいる。

馬乗りに押さえつけたることのあり圧縮袋の空気抜かむと
老眼鏡をシニアグラスと言い直し少し先へと老いを延ばせり
水の面(も)の引き攣れるごと氷はり緋色の鯉はその下を行く
我は娘(こ)を 娘は夫を叱りいて夫は老いたうさぎと話す
行間がゆったり組まれているように日暮れに雲がうまく散らばる
重すぎてとまれぬままに熊蜂がカリガネソウをまた吸いにゆく
  ビニールシートの下から手を差し出しお金を払う
まちがった方の手を出すキツネの子 混じりておらむ春の日のレジ
目玉焼きにも上下があると写真家は皿を回して位置を定める
  舌読に使われた点字版を初めて見た
舐められてやがて言葉となりてゆく速度思えり点字亜鉛版に
付箋外せば剥げてしまいし文字のあり 療養歌人の古き歌集に

1首目、相手が人だと思って読み進めると、下句で違う展開になる。
2首目、モノは同じなのだが、世間では「老い」を避けようとする。
3首目、薄氷の張った皺や歪みを「引き攣れる」と捉えたのが秀逸。
4首目、家族間の力関係がユーモラスに描かれていてほのぼのする。
5首目、上句の比喩が程よい雲の感じと、自身の心境を表している。
6首目、清楚な紫色の花と熊蜂の取り合わせ。花粉が蜂に付着する。
7首目、コロナ禍の手だけのやり取りを『手袋を買いに』に喩えた。
8首目、食べる際には関係が無いが、写真の見栄えには関係がある。
9首目、長島愛生園での歌。視覚も指先の感覚も失われた人のため。
10首目、歴史や記憶が忘れられていく寂しさのようなものが滲む。

2022年8月26日、現代短歌社、2000円。

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2022年10月05日

米原万里『旅行者の朝食』


2002年に文藝春秋社より刊行された単行本の文庫化。

ロシア語や翻訳や食べ物に関する37篇を収めたエッセイ集。世界各地の文化や歴史のことがあれこれ出てきて、ひたすら面白い。

ヨーロッパ文明圏の言語と日本語を取り持つ通訳者たちが最も恐れていることの一つに、スピーカーがいつギリシャ語やラテン語の慣用句や有名な詩の一節を原文のまま口にするか予測不可能ということがある。
トルストイの『戦争と平和』であれ、ツルゲーネフの『貴族の巣』であれ、十九世紀ロシアの貴族社会を描いた小説を読むと、地の文はロシア語なのに、作中人物たちの会話がしばしばフランス語の原文のまま載っている。
(『ちびくろサンボ』の)原作は、パンケーキとなっているが、ナンをイギリス人の原作者はパンケーキと言い表し、それを日本語に翻訳する際にポピュラーなホットケーキに超訳したのだろう。虎のバターも、実は原作では、インド料理でよく使うギーとなっている。
(正餐式に)酸味のあるパンを用いるか、カトリック教会で一般的だった酸味のないパンを用いるかをめぐって、十一世紀半ばには激論が東西教会間で交わされているのだ。教皇レオ九世が、「正餐で酸味のあるパンを用いてはならない」と断を下したことによって、ビザンチンの正教会本部は、カトリックと袂を分かつしかなくなった。

この人の本は、もっと読んでみよう。

2004年10月10日第1刷、2021年12月5日第26刷。
文春文庫、600円。
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2022年10月04日

講座「永井陽子の奏でる言葉」

11月3日(祝)にJEUGIAカルチャー京都 de Basic.(四条駅、烏丸駅から徒歩3分)で、特別講座「永井陽子の奏でる言葉」を開催します。今も多くの人に愛され、短歌史に独自のかがやきを放ち続ける永井陽子の歌を読み解きます。

時間は13:00〜15:00。

有名な歌からあまり知られていない歌まで、できるだけ多くの歌をご紹介したいと思います。どうぞお気軽にご参加ください。

https://culture.jeugia.co.jp/lesson_detail_2-49709.html

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2022年10月03日

「パンの耳」第6号刊行!

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同人誌「パンの耳」第6号を刊行しました。
15名の作品15首とエッセイ「海のうた」を掲載しています。

弓立 悦  「三日月の匂い」
鍬農清枝  「パワースポット探して」
雨虎俊寛  「メーデーコール」
長谷部和子 「銀色のトランク」
紀水章生  「風のリンカク」
添田尚子  「銀色のオリーブ」
甲斐直子  「青い魚」
佐々木佳容子「いもうとの息」
松村正直  「烏鷺の争い」
和田かな子 「青きおむつの」
岡野はるみ 「木々のにおいの立ち込めていて」
河村孝子  「数学少年」
木村敦子  「谷から丘」
乾 醇子  「たゆたひうかぶ」
澄田広枝  「曼珠沙華まで」

定価は300円。(送料込み)
現在、BOOTHで販売中です。
https://masanao-m.booth.pm/

松村まで直接連絡いただいても対応できます。
よろしくお願いします。

2022年10月20日発行、A5判、48ページ。

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2022年10月02日

第3回別邸歌会


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13:00から、旧水口図書館(滋賀県甲賀市)で第3回別邸歌会を開催した。参加者14名。一人2首の計28について議論して17:00終了。

その後、近くの喫茶店でお茶をして18:30に解散。

帰りは近江鉄道の水口駅から帰った。昔ながらの素朴な駅舎。


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次回は12月11日(日)に、今井町にぎわい邸(奈良県橿原市)で開催します。お気軽にご参加ください!

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2022年10月01日

映画「沈黙のパレード」

監督:西谷弘
原作:東野圭吾
出演:福山雅治、柴咲コウ、北村一輝

人気の「ガリレオ」シリーズの劇場版第3作。
主演の3人、みんな好き。
オープニングがとても鮮やかだった。

T・ジョイ京都、130分。

posted by 松村正直 at 18:08| Comment(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする