副題は「原発事故後を生きる人々」。
原発事故による避難生活を送る人々の姿を描いたノンフィクション。多くの避難者への取材を通じて、原発事故の実態や社会の様相を浮き彫りにしている。
国・行政側が、放射能汚染に対する住民感情として用いる「不安」という言葉は、「不安を抱える人の側の情報や性格に問題がある」というように、その責任を個人に転嫁する意図で使われている。
原発事故の本質を抜き去った「復興計画」が進み、その流れに乗らない人は、「復興」を妨げる人間として責められる。「団結からはみ出した人を非難し、排除する」というようなメンタリティだ。
こうして原発事故の被害について口にできない被害者と、福島内のことだから関われない、他人事だから関わらないという世間によって、原発事故の記憶は「風化」し、何事もなかったかのようになっていくのかもしれない。
この本が出てから4年。最近また「原発」や「復興」に関するニュースがよく報じられるようになっている。そうしたニュースを見るたびに、この本の内容が思い出される。
例えば、8月24日には岸田首相がエネルギー政策を大きく転換して原発の新増設を検討することを表明した。
貧しい地域に原発とお金がやってくる、住民の命や健康よりも企業の利益を優先させる、という構造から変えなくては、根本解決にならない。裁判に関わるようになり、被害と加害の構造を改めて知った、と中島さんは言う。
原発の再稼働や新増設に向けた動きは、深刻な原発事故から11年経った今も、こうした「構造」が何も変っていないことを意味しているのだろう。
また、8月30日には福島県双葉町の特定復興再生拠点区域の避難指示が解除された。これまで全町避難が続いていただけに、「復興」の明るいニュースとしてテレビでも取り上げられていた。
避難指示解除や帰還をめぐっては、土地を追われた人々が自宅に帰れるのがすなわち良いこととして語られることもあるが、そんなに単純な話ではない。そこには、まだ安全が確保されていないと判断した人の避難の長期化、世代間の放射能汚染に対する判断の違いなど、簡単に元通りにはならないヘ原子力災害特有の問題が横たわっている。
避難指示の解除によってすべての問題が片付くわけではない。それにもかかわらず、「復興」をめぐるニュースで原発事故の幕引きが図られ、「原発」の再稼働や新増設が進められつつあるのだ。
2018年9月30日、人文書院、2200円。