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憲吉は三次(みよし)の生まれ弟の三之助のちに原爆に死す
失われもうないものを言うときにむしろ生き生きとことば輝く
用のある人のごとくに晴天の四条大橋をわたりくる猫
捜索するヘリコプターをそれぞれの「本社ヘリから」撮りたるが載る
会うたびに知らない人になってゆく息子と食べるチーズフォンデュを
ちょうどいい加減はなくていつ見ても木香薔薇が咲き過ぎている
かろやかな鳥にも歌はなれるけどあらがいながら昇りゆく凧
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2022年04月30日
2022年04月29日
講座「アイヌと短歌」

5月22日(日)11:00〜12:30、毎日文化センター(大阪)で、「アイヌと短歌」という講座を行います。
バチェラー八重子、違星北斗、森竹竹市らアイヌの歌人の短歌を読むとともに、北原白秋、前田夕暮、与謝野晶子らがアイヌの集落を訪れて詠んだ短歌も紹介し、アイヌ民族の歴史や多文化共生について考えます。
教室受講とオンライン受講の併用講座となります。ご興味のある方も、特に興味はないのだけどという方も、ぜひご参加下さい!
http://www.maibun.co.jp/wp/archives/course/36106
2022年04月28日
甲斐みのり『地元パン手帖』
全国各地のご当地パンを紹介した本。
全国規模の大手のメーカーではなく、その町その町の業者が作っている地元のパン。味も形も包装も昭和っぽくて懐かしい感じがする。
昭和50年代から郡山市内のパン屋がつくりはじめるようになったクリームボックス。
新潟ではバタークリームを塗ったコッペパンをサンドパンと呼び複数の店が製造。
石川県の多くのパン屋でつくられるホワイトサンド。
高知県内のほとんどの製パン会社がつくるぼうしパン。
など、地域色満載。
京都伏見の納屋町商店街にある「ササキパン本店」も紹介されていて、早速パンを買いに行ってきた。以前から古いお店だとは思っていたけれど、大正10年の創業なのだとか。
お菓子好きが高じて地元パン採集をはじめ、地元パンを愛するゆえに、パンのよき友である、牛乳やコーヒーまでにも食指が動くように。好き≠ェするする広がって、慕わしい味が増えていく。
著者の地元パンへの愛情がたっぷり詰まっていて、豊富な写真を眺めているだけでも楽しい一冊だ。
2016年2月25日第1刷、2016年6月15日第5刷。
グラフィック社、1500円。
2022年04月26日
太田匡彦、北上田剛、鈴木彩子『岐路に立つ「動物園大国」』
1882(明治15)年に日本で初めての動物園が上野に誕生して、今年で140年。動物園は大きな曲がり角を迎えている。
当り前のように町に動物園があって、珍しい動物が見られた時代はもう終った。ワシントン条約による輸入制限や余剰動物の取り扱い、希少動物の種の保存、動物福祉の向上、生息域の環境保全など、動物園は様々な問題を抱えている。
ライオンは繁殖が容易で、一度に3頭前後を産む。「赤ちゃん」のうちは人気があるから増やす動物園は多いが、成長すると近親交配や闘争のリスクが出てくる。
ちなみにウェイティングリストができるアシカは、メスに限る。なぜなら、体が大きいオスはショーに使うには危険で、水族館側はオスを望まないためだ。だからオスは、やはり余剰になりやすい。
そもそも動物園から別の場所へと移動させられること自体が、動物にとって負担になる側面もある。動物園動物の診療に携わる獣医師は、「種の保存のためには動物の移動は避けられないが、移動によって健康を損なうリスクがある」と明かす。
つい先日、神戸から岩手へ移送する途中にキリンが死亡したという事故のニュースが流れたばかり。
http://kobe-ojizoo.jp/info/detail/?id=512
今、動物園は存在意義を問われ始めている。それは、動物園の側だけでなく、市民であり観客である私たちの側にも突き付けられた問題なのだ。
2022年3月20日、現代書館、1800円。
2022年04月25日
『北海道のトリセツ』
2022年04月24日
井堂雅夫『平成版浮世絵 京都百景』
絵師として長年にわたって活躍した井堂雅夫(1945-2016)の多色刷り木版画の作品集。「清水寺」「三千院」「鴨川」「伏見稲荷大社」「金閣寺」「天橋立」など、京都を舞台にした100の風景が描かれている。
木版画は絵師と彫師と摺師の共同作業。その伝統を守るべく、井堂はギャラリーに併設する形で版元・歡榮堂を立ち上げた。
多色刷り木版画の伝統を継承していく観点からも、木版の世界に生きる職人が、将来にわたってより良い展望を持てるようにすることが必要と考えた井堂は、歡榮堂が平成の版元として、その役割を果たす象徴的な仕事に「京都百景」を位置づけた。
100点の作品にはすべて彫師と摺師の名前が明記され、「21版24度刷り」など版木の数や刷りの回数も記されている。多くの手によって一つの作品が生み出されることがよくわかる。
作品に添えられた短い文によれば、井堂は見たままの風景を描いているだけではない。
この作品に描いた桜の木は実際にはないが、急に桜を描きたい衝動に駆られた。(直指庵)
私は、手前の何もなかった空間に赤い寒椿を活けたくなった。(宝泉院)
木版画の下絵を描く段になって、雪景色の二条城にしようと思い立った。(二条城)
以前、川瀬巴水の展覧会を見た時にも感じたことだが、様々なアレンジが絵には施されており、晴れの景色が雪景色になることもある。
https://matsutanka.seesaa.net/article/483817956.html
これは、「写実」の短歌にも当てはまる話だろう。
2009年5月20日、京都新聞出版センター、1800円。
2022年04月23日
「パンの耳D」を読む会

6月12日(日)に神戸市東灘区文化センターで、魚村晋太郎さんを招いて「「パンの耳D」を読む会」を行います。どなたでもご参加いただけますので、参加希望の方はご連絡ください。
同人誌「パンの耳D」も販売中です。
https://masanao-m.booth.pm/items/3605117
チラシはこちら→パンの耳Dちらし.pdf
2022年04月22日
花崎皋平『静かな大地』
副題は「松浦武四郎とアイヌ民族」。
1988年に岩波書店より刊行され、1993年に岩波の同時代ライブラリー版が出た本の文庫化。
幕末から明治にかけての探検家(地理学者・民俗学者・文筆家・画家)として、計6回にわたる蝦夷地の調査を行い、北海道・樺太に関する数多くの記録を残した松浦武四郎。
彼の『初航蝦夷日誌』『竹四郎廻浦日誌』『再航蝦夷日誌』『丁巳日誌』『戊午日誌』『近世蝦夷人物誌』などを読み解き、その足跡をたどるとともに、北海道の地理やアイヌ民族の歴史についての考察を深めている。
武四郎の記録は、各戸の戸主名から始まり、家族の名、年齢、続柄が列記される。ほとんど各戸毎に、誰々は「雇に下げられたり」とか「雇いに取られ」とか「浜へ下げられ」とある。
松浦武四郎自身が、せめても一人一人の名と年齢を記録にのこし、その苦しみや悲しみを後世に伝えようという思いであったろうことを、その厖大な日誌を読みつづけてきて、私はほとんど確信する。
武四郎は各地で松前藩の役人や商人によるアイヌ民族に対する横暴や抑圧を目の当たりにする。集落の働き手は漁場や遠隔地に駆り出され、若い女性は妾にされ、老人や子どもだけが残される。そのため病気になる者や結婚できない男女が増え、人口が大幅に減り続けているのであった。
この本は過去のそうした歴史を単に記しているだけではない。アイヌ民族の置かれた状況を記録して幕府や明治政府に伝えた武四郎の姿勢から、社会問題への取り組み方や歴史の見方を学んでいる。さらにそれを自らの実践へつなげていこうとするところに、一番の特色があるように思った。
2008年2月15日第1刷、2019年1月25日第2刷。
岩波現代文庫、1320円。
2022年04月21日
映画「アネット」
監督:レオス・カラックス
出演:アダム・ドライバー、マリオン・コティヤール、サイモン・ヘルバークほか
大学時代に「ポンヌフの恋人」を見て以来、レオス・カラックスはちょっと特別な存在の監督。
何とも不思議な作品で、映画館を出て京都駅までぼんやりと歩いた。
2020年、フランス・ドイツ・ベルギー・日本・メキシコ合作
京都シネマ、140分。
出演:アダム・ドライバー、マリオン・コティヤール、サイモン・ヘルバークほか
大学時代に「ポンヌフの恋人」を見て以来、レオス・カラックスはちょっと特別な存在の監督。
何とも不思議な作品で、映画館を出て京都駅までぼんやりと歩いた。
2020年、フランス・ドイツ・ベルギー・日本・メキシコ合作
京都シネマ、140分。
2022年04月20日
「別邸歌会」始まります!

関西各地のレトロな建物で2か月に1回、歌会をします。歌会は初めてという方もベテランの方も、どなたでもお気軽にご参加ください。
第1回 6月26日(日) 姫路文学館望景亭(兵庫県姫路市)
第2回 8月6日(土) 旧三井家下鴨別邸(京都府京都市)
第3回 10月2日(日) 旧水口図書館(滋賀県甲賀市)
第4回 12月11日(日) 今井町にぎわい邸(奈良県橿原市)
時間はいずれも13:00〜17:00。参加費は会場費を均等割り、ただし1000円を上限とします。
詠草2首を司会宛に(参加者が多い場合は1首にしますので、優先順位を付けて)お送りください。
ご参加、お待ちしています♪
チラシはこちら→「別邸歌会」チラシ
2022年04月19日
近藤康太郎『三行で撃つ』
副題は「〈善く、生きる〉ための文章塾」。
朝日新聞の記者&ライターで、農業や狩猟もやっている著者が記した文章の書き方指南。
新聞の連載やコラム、著書『アロハで猟師、はじめました』『おいしい資本主義』など、この人の文章はとにかくおもしろい。そして、奥が深い。その文章術が余すことなく述べられている。
https://matsutanka.seesaa.net/article/475827441.html
https://matsutanka.seesaa.net/article/476124710.html
読者は、あなたに興味がない。
読者にとって、あなたの書こうとするテーマは、どうでもいい。
冷厳な現実だ。しかしこの現実を認めるところからしか、始まらない。
結論は書き始める前には自分にも分かっていない。そこが、文章を書くことの急所だ。
企画とは、自分自身を知る作業だ。(…)自分で自分の考えていたことに驚く。また、自分で自分を驚かせられないことに、他人である読者が驚くわけがない。
文章を書く人が、本やCD、ライブのチケットにカネを惜しむようになったらおしまいです。音楽で得たカネは、音楽に返す。文学で稼いだら、文学に返す。
文章を書くことの厳しさと楽しさ、そして生活のあり方や生き方にまで話は及ぶ。どの言葉にも、30年以上文章を書いて生きてきた人ならではの説得力がある。
「常套句をなくせ」「感情を文章で説明してはならない」「陳述の力とはなにか。それは究極につづめて言うならば「てにをは」の力なのだ」「スリリングと書かないで、読み手に映画のスリルを伝える」など、短歌の世界に当て嵌まる話もたくさん出てくる。
近藤康太郎、やっぱり面白い。
そう言えば、名前も佐藤佐太郎に似ている!
2020年12月15日初版、2021年11月25日第5刷。
CCCメディアハウス、1500円。
2022年04月18日
米川千嘉子歌集『雪岱が描いた夜』

2018年から21年までの作品462首を収めた第10歌集。
米川さんの歌集では初めてのソフトカバーだ。
結社の仲間の死や長年住んだ家からの引っ越し、老いた母や義父母の世話など、全体に疲労感の滲む歌が多い。
水やりのお母さんら来ることもなし福祉協議会の花壇の消えて
ママ友はつひに友ではなかりけり道の向かうの銀の自転車
家出むと思ひしことの一度あれど歌に詠まねば思はざるごと
三十年の手紙より残すものを抜く 死にしひと疎遠になりしひとばかり
インド風宮殿のやうなロマネスコも食べる義父されど夫と和解せず
母の家より帰ればかならずおなか空きをがたまの花食べる鵯(ひよ)見る
褒められたき日の息子なり山雀はオレンジの胸ふくふくと来る
植物だけを食べる友ゐて不眠をいふ植物はたくさん夢を見るから
雪うすくしろき海星のかたちなす富士山見えて宮崎へゆく
コロナ大題詠大会はいつ果てむあたらしき題はだれが与へむ
1首目、当り前のように眺めていた光景が、いつの間にかなくなる。
2首目、本来の友とは違って子が大きくなれば疎遠になってしまう。
3首目、歌に詠まなかった、詠めなかったという事実の重みを思う。
4首目、転居に際しての整理。手紙の中では生きていて親しい人々。
5首目、食べ物に関しては頑固ではないのだが、親子関係は難しい。
6首目、上句から下句への展開が印象的。自分が食べるのではなく。
7首目、胸を膨らませた得意そうな様子にかつての息子を思い出す。
8首目、下句が謎めいていておもしろい。植物に支配されるみたい。
9首目、富士山の山頂を見下ろす構図。「飛行機」の省略が巧みだ。
10首目、何かに操られるように誰もが一斉にコロナ禍を詠む時代。
2022年3月23日、本阿弥書店、2700円。
2022年04月17日
ノヴォチェルカッスク
ノヴォチェルカッスクはロシア西南部にあって、ウクライナとの国境までわずか70キロくらい。今ニュースでたびたび報じられるマウリポリへも約200キロの距離である。
現在の日本には陸上の国境がないので、どうしても国境に対する意識が薄くなってしまう。その結果、「日本固有の領土」といった不思議な言い方がまかり通っている。
けれども、世界の歴史を見れば国境というのは決して固定されたものではなく、さまざまに移り変わっていくものだ。もともと人間が引いた線なのだから、当然のことだろう。
ノヴォチェルカッスクの歴史も、そのことを考えさせてくれる。ロシア革命の時にはドン・コサック軍(共和国)の拠点(首都)として革命軍と戦ったし、第二次世界大戦中にはドイツに占領されている。
ロシアの中では辺境に位置して、歴史的にも地理的にも中央(モスクワ)とは異なる意識が強いのだろう。思えば、中央―辺境といった概念も、国家や国境があって初めて生み出されるものでしかない。
現在の日本には陸上の国境がないので、どうしても国境に対する意識が薄くなってしまう。その結果、「日本固有の領土」といった不思議な言い方がまかり通っている。
けれども、世界の歴史を見れば国境というのは決して固定されたものではなく、さまざまに移り変わっていくものだ。もともと人間が引いた線なのだから、当然のことだろう。
ノヴォチェルカッスクの歴史も、そのことを考えさせてくれる。ロシア革命の時にはドン・コサック軍(共和国)の拠点(首都)として革命軍と戦ったし、第二次世界大戦中にはドイツに占領されている。
ロシアの中では辺境に位置して、歴史的にも地理的にも中央(モスクワ)とは異なる意識が強いのだろう。思えば、中央―辺境といった概念も、国家や国境があって初めて生み出されるものでしかない。
2022年04月16日
映画「親愛なる同志たちへ」
監督・脚本:アンドレイ・コンチャロフスキー
出演:ユリア・ビスツカヤ、ウラジスラフ・コマロフ、アンドレイ・グセフほか
1962年にソ連で起きた労働者蜂起の弾圧「ノヴォチェルカッスク事件」を舞台に、国に仕える共産党員であり、ひとり娘の母である主人公が、二つの立場に引き裂かれていく姿を描き出している。
フルシチョフによるスターリン批判や軍とKGBの対立、ドン・コサック軍の一員であった父のことなど、歴史的な背景について詳しい人ならさらに深く味わえる作品だろう。
121分、アップリンク京都。
出演:ユリア・ビスツカヤ、ウラジスラフ・コマロフ、アンドレイ・グセフほか
1962年にソ連で起きた労働者蜂起の弾圧「ノヴォチェルカッスク事件」を舞台に、国に仕える共産党員であり、ひとり娘の母である主人公が、二つの立場に引き裂かれていく姿を描き出している。
フルシチョフによるスターリン批判や軍とKGBの対立、ドン・コサック軍の一員であった父のことなど、歴史的な背景について詳しい人ならさらに深く味わえる作品だろう。
121分、アップリンク京都。
2022年04月15日
村瀬信也『将棋記者が迫る棋士の勝負哲学』
2019年から「幻冬舎plus」に連載された「朝日新聞記者の将棋の日々」をもとに、書き下ろしを加えて再構成した一冊。早稲田大学将棋部出身で新聞社で将棋を担当する著者が、21名の棋士を取り上げている。
藤井聡太、渡辺明、羽生善治、佐藤康光、森内俊之、谷川浩司、木村一基、藤井猛、先崎学、深浦康市、久保利明、山崎隆之、豊島将之、永瀬拓也、佐藤天彦、広瀬卓人、斎藤慎太郎、佐々木勇気、里見香奈、米長邦雄、加藤一二三。
近年、将棋の中継では将棋ソフトが「評価値」によって形勢判断を示すし、各棋士の強さも対戦結果をもとに日々レーティングで示されている。
https://shogidb.com/shogiDb/
https://shogidb.com/shogiDb/rating/0/0/
もともと勝ち負けの明確な世界であり、しかも現在では数字が示す世界にもなっているわけだ。それでも(それゆえに)棋士の人となりや性格、人生などのドラマについての関心が薄れることはない。
「観る将」の中には、将棋を見ている人もいれば、人間を見ている人もいる。それを完全に分けることなどできないし、どちらも大切なものなのだ。
2022年1月25日、幻冬舎、1500円。
2022年04月14日
三浦英之『南三陸日記』
2012年に朝日新聞社より刊行された単行本に「再訪 二〇一八年秋」を加えて文庫化したもの。
東日本大震災発生直後から約一年間、宮城県南三陸町に住み、毎週1回新聞に連載したコラム+写真など計54篇を収めている。
いずれも被災地の人々の暮らしや心情、そして人生が見えてくる内容だ。
被災地では、土砂にまみれた時計の多くが地震の起きた午後二時四十六分ではなく、午後三時二〇分前後で止まっている。津波が押し寄せた時間だ。
被災地の駐在記者をしていて、うれしいことは、地域の人に名前で呼ばれることである。最初は大抵、「記者さん」と呼ばれる。それが次第に「朝日さん」になり、やがて「三浦さん」へと変わっていく。職業も会社名も関係ない。人と人のつきあいになる。
歌津地区の千葉光一さん(八九)の母親の名前は「なみ」だった。一八九六年の明治三陸津波のとき、妊娠中だった祖母のくらさんは、隣の浜まで流された。家に戻ると、くらさんの母と子二人が亡くなっていた。一家は悲しみの中、半年後に生まれた娘に「なみ」と名付けた。
以前、著者の書いた『五色の虹 満洲建国大学卒業生たちの戦後』に感銘を受けたことがある。
https://matsutanka.seesaa.net/article/451019705.html
その後も多くの本を出されているので、さらに読んでいきたい。
2019年2月25日、集英社文庫、550円。
2022年04月13日
山前譲編『文豪たちの妙な話』
副題は「ミステリーアンソロジー」。
文豪の書いたミステリー(っぽい話)を集めたアンソロジー。夏目漱石、森鷗外、芥川龍之介、梶井基次郎、佐藤春夫、谷崎潤一郎、久米正雄、太宰治、横光利一、正宗白鳥の計10篇が収められている。
最後の正宗白鳥「人を殺したが…」(185ページ分)以外は、どれも30ページ未満の短篇ばかり。
別に探偵や刑事が出てきたり、殺人が起きたりしなくても、十分にミステリーになる。登場人物の心理描写を突き詰めていけば、すべての話はミステリーになるのかもしれない。
大塚英志は『文学国語入門』の中で、明治の東京で必要となったツールとして、「言文一致体」「告白」「観察」という3つの手法を挙げている。それはミステリーにも当て嵌まるものだ。
そうした意味で、ミステリーとは近代のものであり、都会のものと言っていいのだろう。
2022年2月20日、河出文庫、890円。
2022年04月12日
今後の予定
まん延防止措置が解除されて、今年は短歌関連のイベントも活発に行われる見込みだ。備忘も兼ねて今後の私の予定を書いておこう。
・ 5月22日(日)講座「アイヌと短歌」(大阪、オンラインあり)
http://www.maibun.co.jp/wp/archives/course/36106
・ 5月28日(土)ふらッと短歌(新宿)
https://matsutanka.seesaa.net/article/486299770.html
以下のものについては、詳細は後日お知らせします。
・ 6月12日(日)「パンの耳」第5号批評会(神戸)
・ 6月26日(日)第1回別邸歌会(姫路)
・ 7月23日(土)現代歌人集会春季大会(神戸)
・ 8月 6日(土)第2回別邸歌会(京都)
・ 8月27日(土)講座「啄木日記から見た短歌」(くずは)
・10月2日(日)第3回別邸歌会(滋賀)
・10月16日(日)シンポジウム(宮城)
・10月23日(日)文学フリマ福岡
・12月11日(日)第4回別邸歌会(橿原)
多くの方々とお会いして、短歌についての話ができることを楽しみにしています。
・ 5月22日(日)講座「アイヌと短歌」(大阪、オンラインあり)
http://www.maibun.co.jp/wp/archives/course/36106
・ 5月28日(土)ふらッと短歌(新宿)
https://matsutanka.seesaa.net/article/486299770.html
以下のものについては、詳細は後日お知らせします。
・ 6月12日(日)「パンの耳」第5号批評会(神戸)
・ 6月26日(日)第1回別邸歌会(姫路)
・ 7月23日(土)現代歌人集会春季大会(神戸)
・ 8月 6日(土)第2回別邸歌会(京都)
・ 8月27日(土)講座「啄木日記から見た短歌」(くずは)
・10月2日(日)第3回別邸歌会(滋賀)
・10月16日(日)シンポジウム(宮城)
・10月23日(日)文学フリマ福岡
・12月11日(日)第4回別邸歌会(橿原)
多くの方々とお会いして、短歌についての話ができることを楽しみにしています。
2022年04月11日
「パンの耳」販売中

同人誌「パンの耳」1号〜5号、販売中です。
https://masanao-m.booth.pm/
毎月第1金曜日に開催している「フレンテ歌会」(神戸市東灘区文化センター)もメンバー募集中です。お気軽にお問い合わせください。
2022年04月10日
映画「ちょっと思い出しただけ」
監督・脚本:松居大悟
出演:池松壮亮、伊藤沙莉、河合優実、國村隼、永瀬正敏ほか
ジム・ジャームッシュ監督へのオマージュが随所に感じられる作品。「ナイト・オン・ザ・プラネット」を見ているシーンやベンチに座る永瀬正敏が出てくるだけでなく、作品のコンセプトそのものに共通点がある。
主演の2人の声がいい。池松の優しく語り掛けるような口調も魅力的だし、伊藤のハスキーな声も心地よい。声って大切だな。
アップリンク京都、115分。
出演:池松壮亮、伊藤沙莉、河合優実、國村隼、永瀬正敏ほか
ジム・ジャームッシュ監督へのオマージュが随所に感じられる作品。「ナイト・オン・ザ・プラネット」を見ているシーンやベンチに座る永瀬正敏が出てくるだけでなく、作品のコンセプトそのものに共通点がある。
主演の2人の声がいい。池松の優しく語り掛けるような口調も魅力的だし、伊藤のハスキーな声も心地よい。声って大切だな。
アップリンク京都、115分。
2022年04月09日
小泉武夫『北海道を味わう』
副題は「四季折々の「食の王国」」。
北海道の食べものの魅力を四季に分けて紹介した一冊。
著者は北海道農政部アドバイザーとして15年間北海道の農産物のPRに努め、大学を定年退職後は、石狩の研究施設や札幌のマンションと東京を行き来する生活を送っている。
取り上げられるのは、ホッキガイ、ベニズワイガニ、フキノトウ、ギョウジャニンニク、シマエビ、トウモロコシ、ニンジン、メロン、ホッケ、キンキ、タラ、ワカサギ、などなど。
江戸時代には冷凍技術などなかったので、ニシンを乾燥させて身欠ニシンをつくり、それを江差から北前船で京都に運んでいた。そのとき、江差にあった豪商の横山家に伝わるニシン蕎麦のレシピも一緒に伝わっていったというのである。
北海道では、国策で明治時代から綿羊の飼育が盛んとなり、大正時代に入ると国産羊毛自給を目指して「綿羊百万頭計画」が立案され、札幌の月寒や滝川などに種羊場がつくられた。そのような背景があって、やがて食肉用の飼育も盛んになり、次第に羊肉を食べる土地柄になっていったのである。
食べものの味の説明も詳しく、テレビの食レポなどをはるかに凌駕している。例えば、ニシンの刺身についてはこんな感じだ。
口に入れた瞬間、ヤマワサビの快香が鼻から抜けてきて、口の中ではニシンの刺身のポッテリとしたやさしく柔らかい身が歯に応えてホクリ、トロリとし、そこからまろやかなうま味と耽美な甘み、そして脂肪からのペナペナとしたコクなどがジュルジュルと湧き出してくる。それをヤマワサビのツンツンと醤油のうまじょっぱみが囃し立てるものだから、たちまちにして私の大脳皮質の味覚受容器は充満するのであった。
特に、オノマトペが多く使われているのが目に付く。数ページ見ただけでも、「クリクリ」「ムッチリ」「プチュプチュ」「ガツガツ」「プチンプチン」「カチンカチン」「ガブリ」「スルリ」「ピョロロン」「ムシャムシャ」「トロトロ」と、実に多彩である。
2022年3月25日、中公新書、900円。
2022年04月08日
『近現代アイヌ文学史論〈近代編〉』の続きの続き
本書は近代のアイヌの言論人や文学作品について非常に詳細に調べ上げた労作である。それでも、随所に現時点でまだわかっていない点についての言及がある。
このように、現時点でわかっていることとわかっていないことを、明確に区別して論じている。これは大事なことだろう。
本書を踏まえて今後さらに研究や資料の発掘が進み、新たな事実が判明することもあるにちがいない。
著者の青山樹左郎という人物もどういう経歴の人物なのか判然としない。当時の樺太アイヌ研究者のなかにそうした人物は見受けられない。
この『樺太アイヌ叢話』という本にはいくつかの謎がある。/まず第一に、千徳と発行所である市光堂市川商店との関係である。(…)また、この市光堂という発行所についても情報がほとんどない。
川村の生年については一八九八年、一九〇二年、一九〇六年と研究者により分かれており、現時点では確定できない。
片平が持っているというバチェラーの遺言状なるものがどのような内容であったのか、またそれが実在していたかどうかについても不明である。
このように、現時点でわかっていることとわかっていないことを、明確に区別して論じている。これは大事なことだろう。
本書を踏まえて今後さらに研究や資料の発掘が進み、新たな事実が判明することもあるにちがいない。
2022年04月07日
『近現代アイヌ文学史論〈近代編〉』の続き
アイヌ文学にとって最大のテーマである「同化」について、著者は次のように記す。
つまり、和人とアイヌ民族では、同じ「同化」という言葉を用いていても、認識や理解に大きなズレがあったということだ。これは非常に大切な点であると思う。
また、近代のアイヌ民族にとって大きな問題であった「キリスト教」「教育」「同化政策」などについても、非常に説得力のある論が示されている。
これらはアイヌ民族に対してだけでなく、戦前の台湾や朝鮮半島などの植民地における政策や、現在の在日外国人や外国人労働者への対応などにもつながってくる問題と言っていいだろう。
当時の和人はアイヌ民族を「滅びゆく民族」と考えていて、遠からず人種・文化・言語・風習・宗教などすべてにおいて和人への吸収・一体化がなされるものとしていた。そしてそれを「同化」という言葉で語った。一方、アイヌの言論人たちは「同化」を和人とは異なった意味に捉えていた。「同化」とはすなわち和人との平等化・対等化であると考え、仮に容貌・風習・言葉を失ってもアイヌ民族であるとの意識を将来にわたって保持することを前提としていた。
アイヌ民族として言うこの「同化」には、もうひとつ、近代化の意味も含まれていた。それが教育・禁酒・生活・衛生面で改善の意味を持つ「同化」であった。このようにアイヌの人々にとって「同化」とは対等化と近代化という二重の意味、多重の論理を持っていたのである。
つまり、和人とアイヌ民族では、同じ「同化」という言葉を用いていても、認識や理解に大きなズレがあったということだ。これは非常に大切な点であると思う。
また、近代のアイヌ民族にとって大きな問題であった「キリスト教」「教育」「同化政策」などについても、非常に説得力のある論が示されている。
当時のアイヌの人たちにとってキリスト教に入信するということは、日本政府による強制同化とは異なる近代化≠ノ身を委ねようとすることであった。
アイヌ民族の名だたる論者は一様に「教育」の重要性を説いた。アイヌ民族にとって、教育とは和人との対等化を実現し、近代日本を生き抜くためのいわば唯一の抵抗の手段であった。ところが和人施政者にとってアイヌ民族教育とは、アイヌの人たちを日本に同化させるための統治の手段でしかなかった。
日本人は、建前上は「われわれ日本人」に組み入れながらも、本音ではアイヌ民族を域外の異民族として「純粋な日本人」とは認めていなかった。その一方では社会的差別を内包した強制同化によってそうした状況の早期解決を図ろうとしたわけである。日本の同化政策とは、このように、「包摂」と「排除」、あるいは「同化」と「異化」が混在・併存し、建前と本音で都合よく使い分けられた政策であった。
これらはアイヌ民族に対してだけでなく、戦前の台湾や朝鮮半島などの植民地における政策や、現在の在日外国人や外国人労働者への対応などにもつながってくる問題と言っていいだろう。
2022年04月06日
須田茂『近現代アイヌ文学史論〈近代編〉』
副題は「アイヌ民族による日本語文学の軌跡」。
近代のアイヌ文学を網羅的に取り上げて詳細に論じた一冊。広範な文献を丹念に渉猟して、緻密に論考を組み立てている。
序章ではまずタイトルに関連して、本書で扱う「近現代」「文学」「アイヌ民族」それぞれの定義を示すところから始めている。そうした姿勢が徹底されていていい。
また、注や登場人物の年譜、参考文献、人名索引の提示も行き届いており、今後この分野を論じる人にとって重要な基盤となる内容と言っていいだろう。
登場するのは、金成太郎、山辺安之助、千徳太郎治、武隈徳三郎、知里幸惠、違星北斗、バチェラー八重子、森竹竹市、貝澤藤蔵、貫塩喜蔵、辺泥和郎、川村才登、向井山雄、江賀寅三など。
アイヌ文化のなかでもとくに近現代のアイヌ文学については、その役割の大きさにもかかわらず、いまだ位置づけが十分に定まった(あるいは評価された)とは言えない状況にある。それは近現代のアイヌ文学が、アイヌ語ではなく日本語で書かれたことにより、「日本語文学」として「日本文学」のなかに紛れ、埋もれてしまっているからである。
全524ページという分厚さであるが、アイヌ民族に対する差別やマジョリティの偏見をきちんと正そうとする姿勢が貫かれており、執筆する著者の姿勢に信頼の置ける良書だと感じた。
引き続き、現在同人誌に連載中という「現代編」の刊行も楽しみに待ちたいと思う。
2018年5月31日、寿郎社、2900円。
2022年04月04日
ふらッと短歌
5月28日(土)に新宿で「ふらッと短歌」というイベントを開催します。短歌について語るトークを2本(山崎聡子×川本千栄、小島なお×松村正直)行うほか、歌集・歌書の販売やフリーペーパーの配布もします。
会場はJR新宿駅から徒歩9分の「中川ビル」3階の「ふれあい貸し会議室 新宿No18」です。
地図はこちら→https://goo.gl/maps/spvaeTHqiPN2
事前予約等は必要ありません。どうぞふらっとお立ち寄りください。入場は無料で、トークは各回1000円となります。
会場はJR新宿駅から徒歩9分の「中川ビル」3階の「ふれあい貸し会議室 新宿No18」です。
地図はこちら→https://goo.gl/maps/spvaeTHqiPN2
事前予約等は必要ありません。どうぞふらっとお立ち寄りください。入場は無料で、トークは各回1000円となります。
2022年04月03日
稲垣栄洋『生き物の死にざま』
副題は「はかない命の物語」。
2020年に草思社から刊行された単行本の文庫化で、前作『生き物の死にざま』の続篇になる。
ツキノワグマ、ウナギ、ホタル、ウスバキトンボ、カタツムリなど27種の生き物についてのエッセイが収められている。
メスが戻ってきても、オスが死んでしまっていることもある。/オスが待ちわびても、旅の途中で生き倒れたメスが戻ってこないこともある。もし、メスが戻ってこなければ、オスとヒナは、餓えて死ぬしかない。(コウテイペンギン)
「子どもを育てる」ということは、強い生物にだけ与えられた特権である。/哺乳類や、鳥類が子どもを育てるのは、親が子どもを守ることができる強さを持っているということなのである。(カバキコマチグモ)
百獣の王であるライオンの子どもたちは、どうして死んでしまうのだろうか。/その一番の原因は「餓え」である。/弱肉強食とはいっても肉食獣は、簡単に草食獣を捕らえられるわけではない。(チーター)
セミの幼虫が土の中に潜ってから、あたりの風景が一変してしまうこともある。木々が切られてなくなってしまうこともある。土がコンクリートで埋められてしまうこともある。/やっとの思いで土の中から出てきても、羽化するための木が見つからないこともあるのだ。(セミ)
それぞれ、命について、生きること死ぬことについて、考えさせられる内容だ。ただ、前作に比べるとやや教訓的な匂いが強まっている。生物の話としてだけでも十分に面白いので、あまり人生訓に寄り過ぎない方がよいと思うのだけれど。
2022年2月8日、草思社文庫、750円。
2022年04月02日
2022年04月01日
講座「アイヌと短歌」

5月22日(日)11:00〜12:30、毎日文化センター(大阪)で、「アイヌと短歌」という講座を行います。
バチェラー八重子、違星北斗、森竹竹市らアイヌの歌人の短歌を読むとともに、北原白秋、前田夕暮、与謝野晶子らがアイヌの集落を訪れて詠んだ短歌も紹介し、アイヌ民族の歴史や多文化共生について考えます。
教室受講とオンライン受講の併用講座となります。ご興味のある方は、ぜひご参加下さい。
http://www.maibun.co.jp/wp/archives/course/36106