2022年02月28日

雑詠(014)

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駅前のパン屋の棚に残されてクロワッサンは夜をかがやく
みんなみんな働き者と言うように帽子をかぶるパン屋のひとは
にんげんの骨の接ぎ目に手を当ててほぐしゆくひとの太きゆびさき
パンケーキにじゅんと染みゆくはちみつの傷口はまだ濡れているのに
同じ絵を少し離れて父と見る岡本太郎美術館にて
あなたでも私でもない生き方があっただろうに冬のアオサギ
かたくなに謝罪を拒むスタッフのかなたに冬の海はひろがる

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2022年02月27日

江原河畔劇場の周辺

劇場周辺を少し散歩する。


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「江原河畔劇場」という名前の通り、裏手すぐのところを
円山川が流れている。


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近くのお寺で見つけた日清戦争の碑。
「明治二十七八年之役戦死病歿者追弔記念碑」
「明治三十年十二月二十五日」


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橋のたもとに祀られているお地蔵さん。
寒さ対策もバッチリだ。


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橋を見下ろす高台にある神社の狛犬。
近くには鹿の糞らしいものがたくさん転がっていた。

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2022年02月26日

青年団第92回公演「S高原から」

作・演出:平田オリザ
出演:島田曜蔵、大竹直、村田牧子、井上みなみ、串尾一輝ほか
会場:江原河畔劇場


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高原のサナトリウムのロビーを舞台に、入所者、見舞いの友人、医師、看護師など計16名が織り成す会話による群像劇。

人間は相手との関係によって会話の内容や言葉遣いを変える。反対に言えば、会話の言葉によって、その場にいる人々の関係がわかるということだ。2人、3人、4人、5人など様々な組み合わせの会話が演じられることで、登場人物同士の関係が自ずと見えてくる。

また、舞台にいる人同士の会話から、舞台にいない人の姿や行動も想像される。舞台以外の世界もきちんと存在している感じがするのが面白い。

「いざ生きめやも」の解釈やサナトリウムと町に流れる時間の違いなど、生と死をめぐる話も印象に残った。


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2022年02月25日

ドキュメンタリー「三十一文字を歌う」

27日まで開催中の2021年度立命館映像展オンラインで、GE Zhiwei(葛志偉)さん制作のドキュメンタリー「三十一文字を歌う」(70分51秒)が公開されています。

「壱」(0:00〜)「弐」(30:55〜)「参」(45:10〜)の三部構成で、それぞれ承香院さん(国風文化実践研究会)、堀田季何さん(俳人、歌人、詩人、翻訳家)、私が出演しています。

立命館映像展オンライン
http://www.ritsumei.ac.jp/cias/exhibition2022/#1
「三十一文字を歌う」
https://www.youtube.com/watch?v=w9fnOKeDZXw

和歌・短歌の世界の幅広さと奥深さが感じられる作品になっていますので、ご興味のある方はどうぞご覧ください。

posted by 松村正直 at 19:32| Comment(2) | メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

アメリカ、中国、ロシア

アメリカ、中国、ロシアが世界の大国であることは言うまでもない。いくつかのランキングを調べてみても、すべて世界の最上位に位置している。

国土面積 アメリカ(3)、中国(4)、ロシア(1)
人口   アメリカ(3)、中国(1)、ロシア(9)
GDP  アメリカ(1)、中国(2)、ロシア(11)
軍事費  アメリカ(1)、中国(2)、ロシア(4)
核兵器数 アメリカ(2)、中国(3)、ロシア(1)
原油生産 アメリカ(1)、中国(6)、ロシア(2)
天然ガス アメリカ(1)、中国(4)、ロシア(2)

この3つの国は、大国であるとともに日本にとっての隣国でもある。アメリカ海軍のペリー来航を機に動き出した日本の近代史も、これらの国々との戦争の歴史であったと言えるかもしれない。(肯定しているわけではありません、念のため)

日清戦争(1894‐95)
日露戦争(1904‐05)
シベリア出兵(1918‐22)
北樺太保障占領(1920‐25)
満州事変、満州国(1931‐45)
日中戦争(1937‐45)
太平洋戦争(1941‐45)
連合国軍による日本占領(1945‐52)
シベリア抑留(1945‐56)

これからも交流や友好、経済的な結び付きといった互恵関係を基本としつつ、外交や軍事も含めたパワーバランスの上で日本は舵取りをしていかざるを得ないのだと思う。

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2022年02月24日

酒井順子『鉄道無常』


副題は「内田百閧ニ宮脇俊三を読む」。

鉄道紀行文の二大巨頭とも言うべき二人を取り上げて、その人生や文章の魅力を解き明かしている。

「なんにも用事がないけれど、汽車に乗って大阪へ行って来ようと思う」 内田百
「鉄道の『時刻表』にも、愛読者がいる」 宮脇俊三

鉄道紀行ファンなら誰もが知っているこの二つの文から、本書はスタートする。

変化を好まない百閧ニ、変化を受け入れ、味わう宮脇。それは、生まれた時代の違いと言うこともできよう。百閧ェ生きたのは、戦争を挟んでいたものの、鉄道が勢いを持ち、その路線を延伸していた時代だった。(…)対して宮脇は、鉄道斜陽の時代を見ている。
百閧ノとっても、宮脇にとっても、鉄道こそがエネルギーの源だった。そんな鉄道に乗っている時に、酒が進み、食が進むのは当然だったのだろう。(…)百閧煖{脇も、酒を生涯の友とした。鉄道に乗ることが叶わなくなった後も、二人は酩酊の中に、列車の揺れを感じていたのであろう。

二人の先達に対する愛情と敬意が随所に感じられて、読んでいて何だか嬉しくなる。

鉄道好きはターミナル駅に対して、特別な思いを抱くものである。ローカル線の端っこの駅にある素朴な車止めであっても、大きなターミナル駅における頭端式ホームの車止めであっても、そこで途切れる線路からは、「もうおしまい」という寂しさと、「ここからスタート」という希望とが感じられるのだ。
鉄道は、自動車のように好きな時間に出発して、好きな道を進むわけにはいかない。線路とダイヤグラムによって二重に拘束される運命にあるが、鉄道好き達はその拘束の中でどのように自分の意思を貫くかを考えるところに、悦びを感じるのだ。

作者も大の鉄道ファンだけに、こうしたファン心理の分析にも鋭いものがある。

2021年5月28日、角川書店、1500円。

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2022年02月23日

馬場あき子『鑑賞 与謝野晶子の秀歌』


今は無き短歌新聞社の「現代短歌鑑賞シリーズ」の1冊。

『みだれ髪』から『白桜集』まで与謝野晶子の作品を鑑賞しながら、その生涯や特質を描き出している。ちょうど『定本与謝野晶子全集』全20巻(1979〜81、講談社)が刊行された時期の著作で、

晶子の異常なまでのエネルギーの一端にふれて、改めて総合評価の俟たれる作家であることを感じないわけにはいかない。

と第1章に記している。「あとがき」によれば、この全集の刊行は晶子の生誕100年を記念してのものだったようだ。

その後も、『与謝野晶子評論著作集』全22巻(2001〜03、龍溪書舎)や『鉄幹晶子全集』全40巻(2001〜21、勉誠出版)が刊行されているが、いまだに晶子と言えば『みだれ髪』=恋の歌のイメージばかりが強いのはなぜなのだろう。

北海の鱒積みきたる白き帆を鐘楼に上り見てある少女(をとめ)
                『舞姫』
磯の道網につながる一列のはだか男(を)たちに秋の風ふく
                『常夏』
空樽の中より出でし大やんま雲に入る時夕風ぞ吹く
                『朱葉集』
いさり火は身も世も無げに瞬きぬ陸は海より悲しきものを
                『草の夢』
筆とりて木枯しの夜も向ひ居き木枯しの夜も今一人書く
                『白桜集』

1984年1月10日初版、1992年5月1日4刷。
短歌新聞社、1900円。

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2022年02月22日

映画「テレビで会えない芸人」

監督:四元良隆、牧祐樹
出演:松元ヒロ

社会風刺・政治風刺の笑いを持ち味とする芸人松元ヒロのドキュメンタリー。2019年に出身地の鹿児島テレビで製作されたローカル番組をもとに、追加取材の上で映画化された作品である。

コミックバンド「笑パーティー」やコントグループ「ザ・ニュースペーパー」を経て1998年に独立した松元は、現在はテレビでなく舞台を活躍の場としている。その姿をテレビ局が追ったというのが、まず面白い。

稽古風景、食事風景、家での姿、舞台での姿、妻や息子とのやり取り、かつての仲間との再会、恩師との再会。どんな場面においても、松元の芯の通った姿勢と柔らかな笑顔は変わらない。

良質なドキュメンタリーであるのは間違いないのだが、一方で「芸人松元ヒロ」ではない表情や素顔にもっと迫って欲しかったとも思う。そこがテレビ局のディレクターである監督の限界を示しているようにも感じた。

京都シネマ、81分。

posted by 松村正直 at 16:17| Comment(2) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年02月21日

歌に流れる歳月

一人の歌人の歌を読み続けていると、歌の中に流れる歳月を感じる。最近、歌の良し悪しとは別にその歳月の重みに感じ入ることが多い。

ウォークラリー「武蔵野十里」は出発すひたぶるに動く足を集めて
小学校卒業記念に父と歩く四十キロはいかなる距離か
しみじみと武蔵野十里あるく日に志野は大きくなりてをりけり
      小池光『草の庭』(1995年)「武蔵野十里」
ウエディング・ドレスまとひて志野が来るこの現実をなんとおもはむ
癌を病む母にみせむと結婚式ひたいそぎたるふたりのこころ
武蔵野十里ともに歩きし日はきのふ小学六年の春休みなりき
      小池光『思川の岸辺』(2015年)「婚」

それぞれ1992年と2010年の歌である。小学6年生だった次女が、18年後には結婚式を挙げている。しかも、妻は癌を患っているという状況だ。45歳だった小池も63歳になっている。

一緒に「武蔵野十里」を歩いたのは「きのふ」のことのように思えるけれど、実際には18年もの歳月が過ぎている。そして、過ぎた時間は二度と戻ることはないのだ。

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2022年02月20日

大正時代

講座「現代に生きる与謝野晶子」に関連して、大正時代についてあれこれ考えている。「大正デモクラシー」や「大正ロマン」という言葉もある通り、民主主義(民本主義)や護憲運動、普通選挙運動、都市文化、自由主義的な思潮が広がった時代。国際連盟の設立や軍縮などの世界的な動きもあった。

一方で、第一次世界大戦やシベリア出兵、関東大震災と朝鮮人虐殺、治安維持法の制定など、明治以降の強権的・帝国主義的な政治の流れも続いていた。

昭和に入って日本は、世界恐慌、満州事変、国際連盟脱退、そして第二次世界大戦へという歩みを進めることになるのだが、大正時代のどこに歴史の分岐点があったのだろうか。悲惨な戦争を経ることなく民主化が達成される道筋も、どこかに存在したのかもしれないという気がしてきた。

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2022年02月19日

佐藤信之『JR北海道の危機』


副題は「日本からローカル線が消える日」。

先日、映画「日高線と生きる」を見た流れで購入した本。国鉄時代まで歴史を遡り、現在のJR北海道の置かれている状況の厳しさを分析している。

主な原因は、バブル崩壊後の超低金利政策によって分割民営化時に設けられた「経営安定化基金」の運用益が減少したこと、高速道路網が整備されて鉄道の利用者が減ったこと、高齢化・過疎化が進み札幌への人口集中が進んだことの3点だ。

札幌市の北海道全体の人口に占める比率は一九七〇年の一九・五%から二〇一〇年の三四・八%まで一貫して上昇している。

どれも構造的な問題であって簡単な解決策は見つからない。しかも、JR北海道の話だけではなく、全国に共通する問題でもある。先日もJR西日本が路線維持の難しいローカル線の収支を公表するというニュースが流れていた。
https://news.yahoo.co.jp/articles/fa884a91531d6a88e0cc0e60e3e10e7904b0e8fb

もっとも、JR北海道がずっと低迷状態だったわけではない。1987年の発足から2000年代にかけて、良い時期もあったのだ。

JR発足後の一五年間は、JR北海道も長距離列車の高速化や札幌圏の輸送力増強など、積極的に設備投資が行われた。

私が北海道に住んでいたのは1996年から97年にかけてのこと。まだ、北海道の鉄道に元気のあった時代だったわけである。

2017年10月16日、イースト新書、907円。

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2022年02月18日

特集「アイヌと短歌」

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隔月刊の短歌雑誌「現代短歌」の次号予告を見ると、5月号(3月16日発売)の特集は「アイヌと短歌」。短歌の商業誌で本格的なアイヌの特集が組まれるのは、私の知る限り初めてのことです。

バチェラー八重子、違星北斗、森竹竹市、江口カナメといったアイヌの歌人が取り上げられているほか、私も「近代短歌にとってアイヌとは何だったか」というテーマで長い評論を書きました。

「現代短歌」は一般の書店にはほとんど並びませんので、下記の取り扱い書店
http://gendaitanka.jp/bookstore/list.html

または、現代短歌社のオンラインショップにてお買い求めください。
http://gendaitanka.jp/magazine/

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2022年02月16日

溝川清久歌集『艸径』

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「塔」の作者の第1歌集。515首。
草木に関する歌と絵画、音楽の歌が多い。

おほたかの営巣ありし樹を指してなほ棲めるがに声低くいふ
改訳といへど史実に変はりなく冬の書店に並ぶ『夜と霧』
戦歴のこぼれ読めざる六文字を○印とし墓碑写し終ふ
上の子の歯型ちひさく残りたる笏(しやく)見遣りつつ雛を並べぬ
採り来たる秋野の草の種子(たね)収め古封筒の角を折りたり
ベルリンの壁とて夏に子のくれしあをき欠片が歌集と並ぶ
桃と桜ふたつの組の幼らが開門式のテープを切れり
子の文字で「なにかのたね」と書かれありバウムクーヘンの箱のおもてに
ここからはもつと寂しい川である水鳥の名をいくつ挙げても
厚紙の建築模型をたどりつつ現存せずとあるをまた読む
君のこゑが雪と言ひたり覚めやらぬままになづきの仄か明るむ
棚に遺る絵具の瓶の大小に仄けく緑青(ろくしやう)、白群(びやくぐん)透ける
連翹にやまと・てうせん・しなありて大和のちさき花を思ふも
幾振りの刃文(はもん)を見たる帰るさの堤くらきにびはの咲きをり
びはの実のつかのま見えて緑濃き君が旧居のまへを過ぎたり

1首目、貴重なオオタカの繁殖地。小声で言うのが癖になっている。
2首目、ナチスの強制収容所体験を記した本。上句に発見がある。
3首目、戦死した伯父の墓。墓碑を写すという行為に思いがこもる。
4首目、赤子だった頃に嚙んだのだろう。毎年見るたびに思い出す。
5首目、保存用に古い封筒を再使用する。結句の具体が効いている。
6首目、ドイツ旅行の土産だろう。本棚に置かれているのが面白い。
7首目、桃組と桜組。セレモニーの晴れやかな感じがよく出ている。
8首目、子がまだ小さかった頃のもの。「バウムクーヘン」がいい。
9首目、上句は川の風景とも取れるし人生の比喩のようにも読める。
10首目、設計段階で作られた模型が、建物よりも長く残っている。
11首目、まだ寝床にいる時に聞こえる声。脳裏に雪景色が広がる。
12首目、亡くなった日本画家の遺品。残った絵具に存在感がある。
13首目、「大和」「朝鮮」「支那」という名付けに時代を感じる。
14首目、刀剣展を見た後の余韻に深く浸りつつ景色を眺めている。
15首目、君がいなくなった後も変らずに季節が来れば実を付ける。

こうして読んでみると、今はもう無いもの、失われてしまったもの、過ぎ去った出来事、についての歌が多いことに気がつく。そうしたものを思い出し、振り返り、愛おしみ、記憶にとどめるために、作者は歌を詠んでいるのかもしれない。

2021年11月23日、青磁社、2800円。

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2022年02月15日

ペーター・ヴォールレーベン『樹木たちの知られざる生活』


副題は「森林管理官が聴いた森の声」。
長年ドイツで森林管理官を務めている著者が、木の生態の不思議を描いたエッセイ37篇を収めている。

木が「会話する」「助け合う」「子育てする」「数をかぞえる」「移動する」など、一見、えっ?と思うような話が次々と出てくるが、どれも最新の科学と長年の観察を踏まえた内容だ。

一本のブナは五年ごとに少なくとも三万の実を落とす。立っている場所の光の量にもよるが、樹齢八〇年から一五〇年で繁殖できるようになる。寿命を四〇〇年とした場合、その木は少なくとも六〇回ほど受精し、一八〇万個の実をつける計算だ。そのうち成熟して木に育つのはたった一本。
大雨のときに一本の成木が集める水の量は一〇〇〇リットルを超えることもあると言われている。木は自分の根元に水を集めやすい形になっている。そうやって、乾期に備えて水を地中に蓄えておくのだ。
街中の木は、森を離れて身寄りを失った木だ。多くは道路沿いに立つ、まさに“ストリートチルドレン”といえる。(…)根がある程度広がったら、大きな壁に突き当たる。道路や歩道の下の土壌は、アスファルトを敷くために公園などよりもはるかに強く固められているからだ。
木は歩けない。誰もが知っていることだ。それなのに移動する必要はある。では、歩かずに移動するにはどうしたらいいのだろうか? その答えは世代交代にある。どの木も、苗の時代に根を張った場所に一生居座りつづけなければならない。しかし繁殖をし、生れたばかりの赤ん坊、つまり種子の期間だけ、樹木は移動できるのだ。

ドイツで100万部を超えるベストセラーになっただけあって、とにかく面白い。科学に基づきながらも、科学を超えた生命の謎や神秘に触れている。

2018年11月15日発行、2021年9月15日11刷。
ハヤカワノンフィクション文庫、700円。

posted by 松村正直 at 21:13| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年02月14日

中林祥江歌集『草に追はれて』

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塔短歌会所属の作者の第1歌集。
長年、和歌山で無花果栽培をされてきた方である。
縁あって、解説を書かせていただいた。

考へて思ひあぐねし時いつも無花果畑に聴いてもらひぬ
オリーブは気弱な木なり夫と伐る相談するうち枯れてしまへり
本を読む少女の靴のつま先が折々あがる朝の電車に
ふとおもふおもひを通すと通さぬはどちらがどれだけ強いのだらう
逝くものと生れくるもののあはひにてこの世はかくも花にあふるる

現代短歌社のオンラインショップで購入できます。
https://gendaitanka.thebase.in/items/58689001

2021年12月10日、現代短歌社、2750円(税込)。

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2022年02月13日

講座「現代に生きる与謝野晶子」

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2月19日(土)に朝日カルチャーくずは教室(大阪府枚方市)で、一日講座「現代に生きる与謝野晶子」を行います。有名な短歌だけでなく、晶子が精力的に書いた評論を取り上げて、没後80年になる今も色褪せることのない魅力に迫ります。

教室&オンラインどちらでも受講できます。
どうぞお気軽にご参加下さい。

日時:2022年2月19日(土)13:00〜14:30
場所:朝日カルチャーくずは教室(京阪樟葉駅すぐ、駅ビル3階)

【教室受講】
https://www.asahiculture.jp/course/kuzuha/50362444-cbb8-c551-20f6-6176523248a7
【オンライン受講】
https://www.asahiculture.jp/course/kuzuha/11faa639-5eab-41ad-6918-6176537f2bc0

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2022年02月12日

奥田亡羊歌集『花』

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第3歌集。短歌339首と詩1篇。

ボカロP tamaGOの歌詞との合作や「ソルト・マーチ」「東京オリンピック」の映像を元にした連作、詞書を多用した「平成じぶん歌」、祖父の俳人奥田雀草の足跡をたどる連作など、様々な試みを行っている。

黄昏に遅れてくらみゆく沼の
口をひらいて人の名をよぶ

花よりも葉の斑つやめく石蕗の
暗きいのちを抱かんとする

首のないにわとり転びつつ走る
愛はつめたいものではないのか

まっすぐに立ちたる水に
一輪の薔薇が挿されて秋の日となる

ダリの絵の時計のごとく滴りて
猫の眠れる石段のぼる

形なき猫を抱けば
あたたかい袋のなかに骨が動いた

ガスタンクを巻きてひとすじ
階段のほそき影あり月の光に

ゴンドラの影のにわかに迫りきて折れ曲がりつつ尾根を越えたり

警官も怖かったろう
にんげんを殴り続けて終わりなければ

小手鞠は夜目にも見えて山吹は見えずなりたり野につづく庭

1首目、暗くなってゆく水面へと飲み込まれてしまいそうになる。
2首目、石蕗の黄色くて明るい花ではなく、葉の方に着目している。
3首目、鶏を屠殺する場面。上句と下句の取り合わせに迫力がある。
4首目、花瓶と言わず「まっすぐに立ちたる水」と言ったのがいい。
5首目、上句の比喩が抜群。「滴りて」と液体のように詠んでいる。
6首目、猫を抱いた感触がありありと甦る。骨の手触りが生々しい。
7首目「巻きて」がいい。球体に緩やかな螺旋を描いて天辺に続く。
8首目、箱根のロープウェイ。地表に映る影の描写に臨場感がある。
9首目、ガンジーらのデモを鎮圧する警官側の心情を想像している。
10首目、小手鞠の白さは、夜でもほのかに浮かび上がって見える。

二行の分かち書きになっている歌が多いのだが、単に一首を二行に分けたのではなく、一行目と二行目が連句のような関係になっていると感じた。その関係は、ボカロP tamaGOの歌詞を取り込んだ合作にも生かされている。

2021年12月10日、砂子屋書房、3000円。

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2022年02月11日

本代

詠みたい本が多くて次々に本を買っていると、あっと言う間に家中が本だらけになっていく。通称「本の部屋」だけでは収まりきれず、机の下や椅子の後ろ、畳の上にもどんどん本のタワーができていく。

一体、1年間でどれだけ本を買っているのかと計算してみたところ、2021年は計403,223円であった。年に40万円。月に3万円以上を本に費やしていることになる。なるほど、これではお金が溜まらないのも無理はない。

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2022年02月10日

オンライン講座「短歌のコツ」(全5回)

NHK学園のオンライン講座「短歌のコツ」を行います。

毎回一つテーマを決めて話をして、その後、事前に提出していただいた歌の批評・添削をします。毎月第4木曜日の夜19:30〜20:45。

どなたでも、お気軽にご参加下さい。

■ 日程(全5回)@2/24 A3/24 B4/28 C5/26 D6/23
■ 時間 19:30〜20:45(75分間)

https://coubic.com/ngaku-online/790442
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2022年02月09日

辻原登・永田和宏・長谷川櫂著『歌仙はすごい』


副題は「言葉がひらく「座」の世界」。

作歌の辻原登、歌人の永田和宏、俳人の長谷川櫂の3人が巻いた歌仙と座談会、計8篇が収められている。「葦舟の巻」(大津)、「隅田川の巻」(深川)、「器量くらべの巻」(鎌倉)、「御遷宮の巻」(横浜)、「鬼やらひの巻」(同)、「五郎丸の巻」(鎌倉)、「短夜の雨の巻」(秋田)、「葦舟かへらずの巻」(江ノ島)。

575の長句と77の短句を繰り返し、計36句の連句で一巻とする歌仙。その魅力やコツについては、捌き手である長谷川の言葉が参考になる。

一句一句視点を自在に変えられる。多面体になる、というところが連句の面白いところかな。
あえて数量的に、前句と付け句の距離がゼロから十まであるとしたら、ゼロから六まではダメだと思います。七以上じゃなきゃいけない。十一でもいいときもある。

読んでいると、ハッとさせられる付け方が随所に現れる。

樏(かんじき)を背負ひて山は八合目(永田)
御蔵(おぞう)の中に古(こ)フィルム捜す(辻原)
オークションの案内届くエアメール(永田)
木槌にさめる春のうたたね(長谷川)
宇宙から眺める地球水の星(長谷川)
一瞬のいなづま我が家を照らす(辻原)

短歌との関係で言えば、「575」「77」という韻律は同じだが、私性に関しては正反対と言っていい。再び長谷川の言葉を引こう。

もちろん誰でも年齢、性別、職業、信条をもつ特定の個人「私」である。しかし歌仙の連衆はその「私」を忘れ、付句が求める別の人物にならなければならない。
日本人がヨーロッパから学んだ近代文学が「私」に固執する文学であるなら、連衆が「私」を捨てて別の人になりきる歌仙はその対極にある文学ということになるだろう。

そもそも明治時代に和歌が短歌にリニューアルされたのは、ヨーロッパから近代文学が入ってきた影響であった。歌仙と比べてみることで、特定の個人「私」を根拠とする短歌の特徴が浮き彫りになる気がする。

2019年1月25日、中公新書、880円。

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2022年02月08日

映画「日高線と生きる」

監督:稲塚秀孝

2020年に路線の約8割が廃止となったJR北海道の日高線を描いたドキュメンタリー。

2015年の高潮被害で不通となってから廃止に至るまでの経緯や、沿線住民による廃線跡ウォークの試み、さらには競走馬の育成や昆布漁、美しい自然の風景などが映し出される。

苫小牧〜様似の146.5キロを結んでいた日高線は、鵡川〜様似の116キロが廃止され、わずか30.5キロの路線となってしまった。静内駅も浦河駅ももう列車が走ることはない。

過疎化や高齢化、自動車の普及といった背景は、全国各地に共通するものだ。廃線跡が草に覆われた姿は何とも悲しい。今は自動車全盛の時代だが、いずれ各地の高速道路も同じように草に覆われていくことだろう。

京都シネマ、81分。

posted by 松村正直 at 23:21| Comment(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年02月06日

鹿野政直・香内信子編『与謝野晶子評論集』


与謝野晶子の評論27篇を収めた本。
30歳代から40歳代、大正時代に書かれた論が中心となっている。

晶子の評論は抜群にいい。短歌よりも良いかもしれない。
実に精力的に論を書いていて、毎年のように評論集を出している。

婦人問題や男女平等の話だけでなく、政治や社会、国際情勢など、非常に幅広く論じている。大正デモクラシーの時代でもあり、民主主義についての話も多く出てくる。100年経った今でも十分に通じる内容ばかりだと思う。

(それだけ、100年経っても社会や世界が変っていないということでもあるのだけれど)

1985年8月16日第1刷、2018年8月17日第14刷。
岩波文庫、810円。

posted by 松村正直 at 18:11| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年02月04日

芥川龍之介の松江旅

1915(大正4)年、芥川龍之介は友人の実家がある松江を訪れる。
書簡に記されている松江までの旅の予定は以下の通り。

8月3日 15:20東京駅発
  4日 05:27京都駅着
     07:20京都駅発
     11:39城崎駅着(1泊)
  5日 09:08城崎駅発
     16:19松江駅着

丸2日掛かりの移動である。東京〜京都が14時間7分、京都〜城崎が4時間19分、城崎〜松江が7時間11分。乗車時間だけを合わせても、計25時間37分も掛かっている。

現在では、東京〜松江は新幹線と特急やくも(岡山経由)で6時間15分。距離の感覚がまったく違うことを実感する。

東京〜京都の比較をすると、現在は新幹線で約2時間15分。在来線ももちろんスピードアップしているのだが、在来線の時間短縮に比べて新幹線による時間短縮は桁違いだ。

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2022年02月03日

芥川龍之介に御馳走した人

芥川龍之介の書簡を読んでいるのだが、いろいろと面白い。1915年8月、芥川は松江の友人宅から東京へ帰る途中に京都に寄っている。

京都では都ホテルの食堂で妙な紳士の御馳走になつた その人は御馳走をしてくれた上に朝飯のサンドウイツチと敷島迄贈つてくれた さうして画の話や文学の話を少しした わかれる時に名をきいたが始めは雲水だと云つて答へない やつとしまひに有合せの紙に北垣静処と書いてくれた「若い者はやつつけるがいゝ 頭でどこ迄もやつつけるがいゝ」と云つた 後で給仕長にきいたら男爵ださうである 四十に近いフロツクを着た背の高い男だつた

この時、芥川は23歳。東京帝国大学の学生である。ホテルで見知らぬ人に御馳走になるという、まるで映画みたいな出来事が起きている。これも時代なのだろうか。

調べてみると、北垣静処は日本画家で本名は確。京都府知事として琵琶湖疏水の建設に当たった北垣国道の長男であった。

posted by 松村正直 at 09:54| Comment(0) | メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年02月02日

樋口明雄『田舎暮らし毒本』


東京から山梨県北杜市に移住して20年になる著者が、田舎暮らしで出会った様々な困難について記した本。これから移住を考えている人に参考になる内容だ。

「毒本」とあるので、田舎の閉鎖性や陰湿な人間関係などの暗い話が書かれているのかと思ったら、そうではなかった。「ログハウス」「薪ストーブ」「狩猟問題」「電気柵問題」「水問題」といった話が中心である。

何しろ20年にわたって自ら田舎暮らしを続けている著者であるから、どちらかと言えば肯定的な内容であり、困難をどう乗り越えたかの実践例となっている。もちろん相当な覚悟は必要であるが、決して田舎暮らしに否定的な本ではない。

田舎暮らしにスローライフなんて存在しない!(…)田舎暮らしはとにかく多忙だ。朝から晩まで汗水流して働きづめである。
田舎暮らしの基本のひとつ。それはとにかく何でも自分でやるということ。都会にいて、たとえば蛇口から水が出なくなったり、トイレが壊れたり、家電製品が故障したりすれば、業者を呼ぶ。(…)ところが――田舎では違う。

新しい土地で出会う想定外の事態にどう対応するか。様々なトラブルを毒にするか薬にするか。そんな覚悟を問い掛けてくる一冊である。

2021年9月30日、光文社新書、900円。

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2022年02月01日

講座「文学者の短歌」

文学者の短歌.jpg


2月6日(日)に大阪で、講座「文学者の短歌」を行います。

森鷗外、芥川龍之介、村岡花子、宮沢賢治、中島敦、北杜夫、石牟礼道子などの歌を紹介して、一人一人の個性に迫るとともに、短歌の持つ魅力について考えます。

オンライン受講もありますので、ご興味のある方はぜひご参加下さい。

日時:2022年2月6日(日)11:00〜12:30
場所:毎日文化センター(JR大阪駅より徒歩8分)

http://www.maibun.co.jp/wp/archives/course/36106

posted by 松村正直 at 06:45| Comment(3) | カルチャー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする