2021年03月31日

旧奈良監獄(その2)


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中央監視所。

「第一寮」から「第五寮」までの5つの収容棟(2階建)が放射状に広がっていて、中央の監視所からすべて見渡せるようになっている。


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こうした構造は建築家ジョン・ハビランドにちなんで「ハビランド・システム」と呼ぶそうだ。そういえば、以前訪れた網走監獄もこの形になっていた。


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収容棟。

廊下の中央部分は吹き抜けになっていて、2階から1階を見下ろすことができる。


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独居房(単独房)。

洗面所と便器と窓と分厚い扉。面積は4.7平方メートル。


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重屏禁房。

かつて規律違反を犯した受刑者を閉じ込めるために使われていた懲罰室。通称マル房。円筒形の狭い土蔵のような空間で、内部は暗い。


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重屏禁房の壁に残る落書き。

「俺は毎日悲しい様な淋しい様な切ない日ゞを送っている 丸房に入って来る者よ・・・」。いつの時代のものだろうか?

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2021年03月30日

旧奈良監獄(その1)

旧奈良監獄の内部を見学できると聞いて行ってきた。
1908年完成の赤レンガ造りの建物で、2017年に
重要文化財に指定されている。


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表門。

左右にドーム型の屋根の付いた円塔がある。
これが監獄の入口とはとても思えない。


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庁舎・講堂。

表門から入って、まずはこの建物へ。
窓の上のアーチや石とレンガの装飾が美しい。


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医務所。

診察室や処置室、歯科治療室などが備わっている。


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建物の回廊部分。

西洋の教会か大学にでも来たような雰囲気だ。


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旧奈良監獄全体の模型図。

中央の監視所から放射状に延びている部分が収容棟で、
全部で約500室あるとのこと。

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2021年03月29日

雑詠(003)

******************************

訃報ひとつ届いていたり出町座を出てしばらくは川べりを行く
春浅き分譲予定地、一列に生えたばかりの電柱が立つ
〈ミスボルド〉〈ミッスブァイルド〉〈イザベウビルト〉明治日本を旅するバード
だいぶ日も長くなったな春菊とえのきを切って豚バラで巻く
膝のうえに男のあそぶ知恵の輪の解けて終点、終点である
花びらが浮いて流れてゆく春の大仏殿という独居房
なんのためであるのかももうわからなくなってはじまるせいかリレーが

******************************

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2021年03月28日

『駅へ』の構成

私の第1歌集『駅へ』のあとがきには「配列は、一部の連作を除いてほぼ制作年代順にしてあります」と書いてある。

ところが、今回トークイベントのために再読していて気が付いたのだが、実は制作年代順でない部分がけっこうある。第2歌集以降と比べると、もっとも制作年代順ではない歌集かもしれない。

T
「フリーター的」 1999年角川短歌賞次席
「函館 一九九六」
「アルバイト募集」 1999年12月号「塔」作品特集
U
「グランメール春日201号」 2002年2月号「塔」風炎集
「福島 一九九七」
「天神橋」
「兎雲」
「石塀」
「あなたがいた夏」
「砂浜」
「未婚の父」
「湖」
「木登り」
「梅酒」
V
「ウォーター感覚」 2000年歌壇賞候補作
「大分 一九九九」
「ストロー」
「秋晴れ」
「睫毛」
「鳥居を渡る」
「墓石」
「結婚式」 2000年6月号「塔」作品特集
「靴箱」 2000年角川短歌賞候補作

歌集には1996年から2000年までの作品が収められているのだが、このように1999年・2000年に詠んだ連作を要所要所に配置した構成となっている。

それらは新人賞への応募作など、もともと連作として詠んだものばかり。それ以外の新聞・雑誌への一首単位の投稿歌や「塔」の月例作品が制作年代順にならんでいるわけだ。

全体として、函館・福島・大分と転々としてきたことや、フリーターの一人暮らしから結婚へという流れがストーリー仕立てで(わかりやすく)提示されている。その点が良くも悪くもこの歌集の大きな特徴になっているのだろう。

(『駅へ』新装版は野兎舎のSTORESにて販売中です。)
https://yatosha.stores.jp/items/600d346831862555b743dcdb


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2021年03月27日

伝書鳩の歌

伝書鳩の群の風音(かざおと)はおもおもし再び吾の上を
すぎたる       岡部文夫『寒雉集』
新聞社に〈伝書鳩部〉のありしころ年初の空を飛びし鳩たち
        高野公彦(「朝日新聞」2019年1月1日)

俄然、伝書鳩に興味が湧いてきた。

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2021年03月25日

ウポポイ

北海道へ行ったら絶対に訪れたいと思っていたウポポイ(民族共生象徴空間)へ。最寄駅はJR室蘭本線の白老駅。


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ここから徒歩で約10分。シャトルバスも出ている。

ウポポイはポロト湖畔の広い敷地にある複合施設で、国立アイヌ民族博物館を中心に、体験学習館、体験交流ホール、工房、伝統的コタンなどが点在している。


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ブロニスワフ・ピウスツキの胸像と国立アイヌ民族博物館。

博物館の展示は映像や音声もふんだんに取り入れた充実したもの。それ以外にも、伝統芸能や口承文芸の実演、伝統工芸の実演・体験、楽器演奏の鑑賞・体験など多くのプログラムが用意されていて、体験型の学びの場となっている。


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美しいポロト湖の風景。

周囲約4kmの海跡湖で、名前は「大きな沼」を意味するそうだ。

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2021年03月23日

澤宮優『イラストで見る昭和の消えた仕事図鑑』


昭和の頃にはあって今では見かけなくなった仕事を平野恵理子のイラスト入りで解説した本。

取り上げられている職業は、赤帽、灯台職員、井戸掘り師、炭焼き、金魚売り、貸本屋、寺男など114種類。中でも一番印象に残ったのは新聞社伝書鳩係。

鳩を訓練・育成するのが「伝書鳩係」で、新聞社内でも専門職として遇され、異動もなく、少人数で仕事を行った。彼らは鳩を会社から貰うと、社屋の屋上に鳩舎を作り、毎朝夕に規則正しく飛ばせて運動させ、飼育した。
昭和十五年、三宅島噴火のスクープ記事を新聞社が報道できたのは伝書鳩の送稿によってであった。

おお、そんな仕事があったとは!
昭和三十年代半ばまでは伝書鳩が使われていたらしい。

川に鉄筋の橋が架かると、それまで対岸まで人を乗せていた渡し船の人たちはどこへ行ってしまったのだろう。傘が安価に買えるようになると、傘の修理をして生計を立てた人はどうなったのだろう。いつも夕方に子供たちを楽しませてくれた紙芝居のおじさんたちは、テレビの登場でどこへ行ったのだろう。

様々な職種が成り立っていたのは、生活が貧しかったためである。でも、食べていくための手段・方法が多くあったわけで、見方によっては豊かな社会だったと言えるのかもしれない。

2021年2月25日、角川ソフィア文庫、1480円。


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2021年03月22日

赤穂

赤穂へ吟行に行く。
午後から雨の予報だったが、幸いなことに降らなかった。


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赤穂城跡。

とにかく広い。三重の堀を渡って、二之丸庭園(整備中)、本丸御殿、本丸庭園、天守台など、ひたすら歩き回る。


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大石神社の赤穂義士石造群。

兵馬俑みたいだなと思ったら、実際に「兵馬俑工芸技術伝承者作製」と書いてあり、中国で造られたものらしい。


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花岳寺にある野口雨情の詩碑。

「春のあけぼの/花なら桜/武士の鑑ぢや/赤穂義士」。

赤穂はとても良いところだった。
ぜひまた訪れてみたい。

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2021年03月21日

『駅へ』復刊記念のトークイベント


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3月27日(土)20:00〜21:00、第1歌集『駅へ』復刊記念のオンラインのトークイベントを行います。『駅へ』について、短歌について、あれこれ喋ります。無料ですので、お時間のある方はどうぞお申込みください。

https://ekie.peatix.com

また、イベント開催にあわせて、『駅へ』その他に関する質問・感想等も募集しています。何でもお気軽にお寄せください。

https://forms.gle/5ULTBHH7dduTvhCU9

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2021年03月20日

「パンの耳」第4号

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同人誌「パンの耳」第4号を刊行しました。
14名の作品15首とエッセイ「好きな相聞歌」を収めています。

添田尚子  「だれかの時間」
弓立 悦  「枯れ葉が肩を」
乾 醇子  「遠巻きに」
小坂敦子  「湯煎にかける」
森田悦子  「白羽二重」
河村孝子  「そのへん ファンタジー」
甲斐直子  「キャラメル」
長谷部和子 「うはのそら」
鍬農清枝  「コロナが教えてくれた森」
岡野はるみ 「しっぽ」
佐々木佳容子「どこかにいつも」
松村正直  「土を掘る」
木村敦子  「ぼたもち」
升本真理子 「竜巻雲」

定価300円でBOOTHにて販売中です。
https://masanao-m.booth.pm/items/2830304
直接メール等でご連絡いただいても対応できます。

どうぞよろしくお願いします。

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2021年03月19日

村上稔『買い物難民対策で田舎を残す』


徳島で「移動スーパーとくし丸」を立ち上げた著者が、買い物難民対策の現状と課題をまとめた本。コンパクトな体裁であるが内容は充実していて、信頼できる書き手だと感じる。

(明石海峡)大橋開通当時の我々は、「これから徳島は本土と地続きになってますます発展する」と信じて疑わなかったのですが、結果はその反対。「ストロー現象」の教科書にでも載るような事例になってしまったのです。
食べることは(とくに高齢になるほど)生きる楽しみの大きな部分を占めるものですから、豊かであることが求められます。(…)人は非常時でもない限り、「食べられたら何でもいい」とはならないものです。
ウイルスが明らかにしたのは、これまでずいぶん長く推し進められてきた一極集中、効率化のための密へ密へという方向性に、巨大なリスクが潜んでいたということです。

買い物難民対策は、単に買い物の話にとどまらず、中山間地域に暮らす人々の健康や福祉、さらには集落の存続にまで関わる問題である。山梨に住む私の母も、運転免許を返納してまず買い物に困ったことを思い出す。中山間地域と都市部が表裏一体の関係であることを思えば、都市部に住む人にとっても無関心ではいられない話なのだ。

2020年10月6日、岩波ブックレット、620円。

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2021年03月18日

平井弘歌集『遣らず』

著者 : 平井弘
短歌研究社
発売日 : 2021-03-12

391首を収めた第4歌集。

語り掛けるような口調や暗喩的な表現を用いて、現代の社会や政治状況について繰り返し問い続けている。全体に不安や危惧の色が濃く、記憶や無意識を浮かび上がらせてくるような感触がある。読んでいるうちに、何が確かなことであるのか次第にわからなくなってくる。

いつのことだか思ひ出してごらんだからあんなことなかつたでせう
どの本棚からだつてほんたうのところアンネのへやへはひれます
はじめから手に鎌などついてゐたらたまらなからう蟷螂ひとつ
おほいのは差別にならず三ぼん脚のからすがボールを押さへる
自販機みたいでどうもいけない夜どほしあかるいこのさきのさくら
きのふからそこだつたか花梨の実もうひとつしたの枝とおもふが
おほすぎるとだれも摘まないつくし数つてさういふことだつたんだ
ほんたうに桃とおもへるうちはいい桃だから手にとつてごらんよ
とびあがつたのは鴉の影のはう押さへるところはおさへてゐる
沈んだところのふたつてまへまではみづ切りの石もその気だつた
まだいいからおまへが鴉だつたときにみたことを話してごらん
熱があるのよねと触れてくる手の湿りがどうしやうもなくをんな
蟹くひざるつてのは弱いはうが喰はれつぱなしつてことだものね
寄り道せずに帰つておいでかへれるのをよりみちといふんだけど
どこでどう越えたものだかおもしろいね川がですね右になります

1首目、事実がなかったことにされ記憶が消されていくことの怖さ。
2首目、私たちの暮らしも、一歩入ればアンネの部屋に通じている。
3首目、前脚が鎌でなければ蟷螂は違う生き方をしていたのかも。
4首目、サッカー日本代表のエンブレムにもなっている八咫烏。
5首目、ライトアップされた桜はどこか人工的な空々しさをまとう。
6首目、大きな花梨の実を見ていて、自分の記憶があやふやになる。
7首目、人間の心理を鋭く突いた歌。たくさんあると価値が下がる。
8首目、桃と思っているものが本当に桃なのかがわからなくなる。
9首目、鴉の本体は押さえていて、影だけが飛び上がっていくのだ。
10首目、水に沈む直前までは自分が沈むことになると気づかない。
11首目、こう言われると自分が以前は鴉だったような気分になる。
12首目、女性に対する恐れや怯えの感情が「湿り」から伝わる。
13首目、なるほど、猿蟹合戦というのは弱者が強者に勝つ物語か。
14首目、もう元の場所には帰れなくなってしまいそうな怖さだ。
15首目、左に見えていたはずの川がいつの間にか右に見えている。

言葉の多義性を含む詠み方なので、様々な解釈が可能だろう。何人かでじっくりと読み合ってみたくなる歌集だ。

栞に載っている平井本人の「「遣らず」ト書き控え」は、この歌集について多くのヒントを与えてくれる。でも、自ら解説してしまうのは少し無粋かもしれない。

2021年3月10日、短歌研究社、2500円。

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2021年03月17日

小樽啄木会編『啄木と小樽・札幌』

1962年発行の『啄木と小樽・札幌』と1947年発行の『秘められし啄木遺稿』に収められた小樽啄木会同人の文章を合わせて一冊にまとめたもの。

特に後者は、今から70年以上前に啄木がどのように捉えられていたかを伝えていて興味深い。

啄木が歌壇に新風をもたらしたとき、これを俳体歌または俳諧式実感歌と呼び、いはゆる専門歌人から白眼視された。(略)一見、平明蕪雑な表現方法は、因習技巧家たる彼らをして、徳川時代の俳諧歌と同い卑俗な歌人と蔑視せしめたものであらう。啄木の歌の一般普及性といふことは、彼の芸術の卑俗性を指してゐるものとは今日では誰も信じてはゐないのである。/油川鐘太郎「啄木雑記」

ここで「俳諧歌」(滑稽味のある歌)という捉え方が出ている点に注目したい。啄木自身が「へなぶり」(狂歌の一種)と言っていることにもつながる話だと思う。

1976年10月20日、みやま書房、850円。

posted by 松村正直 at 20:57| Comment(0) | 石川啄木 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年03月16日

金田章裕『和食の地理学』


副題は「あの美味を生むのはどんな土地なのか」。
著者の名前は「かねだ」ではなく「きんだ・あきひろ」。

米、酒、味噌、醤油、茶、ダシ、漬物、干物、果物といった和食に欠かせない食材が、日本各地にどのような景観を生み出してきたのかを考察した一冊。写真も豊富でわかりやすい。

日本海沿岸の港町や瀬戸内海沿岸の港町などにも、大阪に見られるような、とろろ昆布などの昆布加工業が発達している。太平洋側のカツオ節の道の景観とは対照的な、昆布の道の景観が日本海側に点在し、さらに瀬戸内海沿岸にも点在するのである。
スグキ漬け、千枚漬け、柴漬けの三種の漬物は、いずれも乳酸菌発酵の漬物である。京都の伝統的な漬物を代表するものであるが、京の三大漬物と呼ばれることもある。
今は人気のない山中に一、二本の柿の木が見つかることがある。調査によってしばしば、そこにかつて存在した集落が廃村となった痕跡、あるいは廃屋の跡を確認することができる。

一つ一つの話は面白いのだが、ところどころ著者の個人的な話が挟まれるのが気になった。オーストラリアやイタリアのワインの話などは要らなかったのではないか。

2020年12月15日、平凡社新書、860円。

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2021年03月15日

三井淳平作「神奈川沖浪裏」

大阪梅田の阪急三番街にブリックミュージアムという場所があり、レゴ作品が展示されている。

https://www.h-sanbangai.com/attraction/brick-museum/



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中でもスゴイのが、この「神奈川沖浪裏」。

レゴ認定プロビルダーの三井淳平さんが北斎の代表作を立体化してレゴ作品にしたもの。製作時間400時間、ブロック50000ピース。角度を変えて眺めるとまた新たな発見があって、見飽きることがない。


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レゴの可能性は限りないな。
制作動画も公開されているけれど、もう圧倒的。

https://www.youtube.com/channel/UCPkshG2WB3N4hI9HBUKiDjg


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2021年03月14日

映画「BOLT」

脚本・監督:林海象
美術:ヤノベケンジ
出演:永瀬正敏、佐野史郎、大西信満、月船さらら他

震災や原発事故に関する3つのエピソード「BOLT」「LIFE」「GOOD YEAR」で構成された作品。

「BOLT」は象徴的、「LIFE」は写実的、「GOOD YEAR」は幻想的。雰囲気の異なる3篇であるが、主演はいずれも永瀬正敏。全体で一人の男の物語にもなっている。

出町座、80分。

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2021年03月13日

松村正直『駅へ』復刊記念onlineトークイベント

3月27日(土)20:00〜、Zoomを使って『駅へ』復刊記念のトークイベント(無料)を開催します。

https://ekie.peatix.com/

皆さんからの質問などをもとに、『駅へ』について、短歌について、あれこれ喋ります。初めての方も、お久しぶりの方も、どうぞお気軽にお申し込みください。

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2021年03月12日

犬養楓歌集『前線』

著者 : 犬養楓
書肆侃侃房
発売日 : 2021-02-11

救急科専門医として救命救急センターで働く作者の歌集。240首。

胆汁のごとき匂いと色をしてカンファレンスで冷めた珈琲
デジタルの時刻表示をちらり見て死亡宣告本人へする
鼻腔より死後処置液を入れられて業者専用出口より出る
獣医なら殺処分するための服こちらと向こうを行き来する我
汗よりも落としておきたいもの多く院内シャワーの空きを待つ列
パトカーを降りて検死に臨むとき白衣の袖を二度折り返す
重症者多く減る日の特徴は決まって朝の寒さ厳しく
逝きて後PCRの結果出て今年の冬に人は二度死ぬ
メス置けば励ますことが救急の医師の仕事の八割である
呼吸器を外せばすなわちこの世とは一つの大きな肺胞である

1首目、「胆汁のごとき」が生々しい。医療従事者ならではの比喩。
2首目、亡くなった本人はもう声を聞くことはできないのだけれど。
3首目、遺体は葬儀会社により運ばれる。生きた人とは違う出口で。
4首目、鳥インフルエンザや豚コレラの現場でも防護服が使われる。
5首目、シャワーを浴びて強いストレスや鬱屈を洗い流すのだろう。
6首目、下句の具体が効いている。現場の緊迫感が伝わってくる。
7首目、回復したのではなく亡くなったのだ。寒い日には特に多い。
8首目、死後に感染が判明して新型コロナの死者数に加えられる。
9首目、医学的に最善を尽くすだけでなく励ますことが大事なのだ。
10首目、地球上の人はみな同じ空気を吸い一つにつながっている。

2021年2月7日、書肆侃侃房、1500円。

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2021年03月11日

『イザベラ・バードと日本の旅』のつづき(2)

もう1点興味深いのは、バードが北海道のアイヌ集落を訪れた理由についてである。

注意すべきは、アイヌ社会の特質を明らかにする旅であったということとキリスト教普及の可能性をさぐる旅という二つの特質が結びついていたこと、換言すれば、バードの平取での調査は、その二年前にデニングによって始められた英国教会伝道協会によるアイヌ伝道と不可分に結びつくものとしてあったということです。

このデニングの後任が、アイヌ研究家として知られるジョン・バチェラー。すなわち、『若きウタリに』を出したアイヌの歌人バチェラー八重子の養父ということになるのだ。

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2021年03月10日

『イザベラ・バードと日本の旅』のつづき(1)

翻訳の言葉の問題について、もう少し。

農作業をしている農民がかぶっているものを、バードの原文がhatだということで高梨氏や時岡氏は帽子と訳します。(…)しかし、正しくは前者は菅笠(…)、帽子と訳したのでは明治という時代も日本の文化・伝統も浮かび上がってきません。

この、「帽子」と訳すか「菅笠」と訳すかという問題は、なかなか難しい。もちろん文化的な背景を踏まえれば「菅笠」が正しいのだけれど、外国人がそんな言葉を知っているはずもない。

個人的には山口雅也『日本殺人事件』のような、外国人の見た不思議なニッポンの姿も好きなので、農民が(西洋的な)帽子をかぶっている姿が一瞬思い浮かぶのも悪くないように思う。

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2021年03月09日

金坂清則『イザベラ・バードと日本の旅』


イザベラ・バード研究の第一人者で『完訳 日本奥地紀行』の翻訳も成し遂げた著者が、「旅行記を科学する」という姿勢に基づき、バードの旅の本質や特徴を明らかにしていく。

その緻密で厳格な取り組みは圧倒的で、無名女性の物見遊山の旅のように言われることもあった「日本奥地紀行」のイメージを一変させている。バードは世界中を旅した有名な旅行者であり、キリスト教の伝道という使命を持ち、英国公使館や日本政府の支援・協力を受けての半ば公的な旅であったと捉えるのである。

バードの旅は、外国人が自由に旅=移動できる範囲が局限されていた時代にあって、地域的制限を受けない旅だったという点で、きわめて特異なものだったのです。
このような事実は、日本の旅が滞在総日数のほぼ四分の一を公使館で過ごす旅として計画されていたことを示します。
私はバードの日本の旅の目的の一つがキリスト教の普及の可能性を考えることにあったという、従来等閑視されてきた事実を、彼女の記述を通して明らかにしました

「日本奥地紀行」の翻訳に関しても、著者は歴史的・文化的背景を踏まえた訳を徹底的に(ちょっとコワイくらいに)追求する。

たとえばwestern Japanを西日本(高梨氏)とか日本の西部(時岡氏)と訳したのでは新潟の位置についての西洋人の認識を読者は理解できず、「本州西岸」[日本海側]としなければならない

なるほど! 日本人は「本州西岸」という捉え方は絶対にしないので、これには全く気づかなかった。地理学者である著者の面目躍如といった感じがする。

2014年10月15日、平凡社新書、880円。

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2021年03月08日

大森千里歌集『光るグリッド』を読む会

昨日は「塔」岡山歌会&『光るグリッド』を読む会へ。
参加者26名。12:00〜17:00、岡山県立図書館にて。

もう「塔」の会員ではないのだけれど、『光るグリッド』の解説を書いている関係で参加させていただく。

私にもこんなパワーが欲しいのよ 乾燥わかめ三倍となる
ゆっくりと箱の中にも秋が来てそそそそ素麺並んでねむる
わたしにもやさしい背中があったよね ランプのような猫の背をみる
             大森千里『光るグリッド』

コロナの影響で歌集の批評会も20名を超える集まりも久しぶり。たっぷりと歌の世界に浸った。

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2021年03月07日

映画「プラットフォーム」

監督:ガルダー・ガステル=ウルティア
出演:イバン・マサゲ、ソリオン・エギレオール、アレクサンドラ・マサンカイほか

原題はスペイン語で「El hoyo」(=穴)。
名作「CUBE」を思い出させるワンシチュエーションスリラー映画。

聖書のモチーフを背景としながら、経済格差や貧困問題、食糧問題、人間の欲望などを抉り出している。ただし、かなり強烈なシーンもあるので注意が必要だ。

アップリンク京都、94分。

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2021年03月06日

円城塔『文字渦』


2018年に新潮社より刊行された本の文庫化。
川端康成文学賞、日本SF大賞受賞。

文字をめぐる、文字による、文字を使った、文字のための、12篇の連作短編集。タイトルは中島敦の「文字禍」と同じかと思ったら「文字渦」であった。

兵馬俑、テキストファイル、ポケモンバトル、源氏物語絵巻、遣唐使、空海、Unicode、インベーダーゲーム、王羲之、阿閦仏国経、犬神家の一族、紀貫之など、実に様々な事柄が下敷きになっていて、迷宮のような世界を作り出している。

一度読んだだけでは、到底その迷宮から抜け出せそうにない。

2021年2月1日、新潮文庫、710円。

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2021年03月04日

「中國紀行CKRM」vol.22


書店でアイヌ特集の組まれた雑誌を見かけて購入。

〈中国の「今」を旅して、日本の「原点」を見つめる〉というコピーのある雑誌で、創刊時は「中華浪漫」というタイトルだったらしい。だからCKRMなのか。

写真や図版が豊富に載っていて、内容も充実している。

今のJR飯田線の「天竜峡〜三河川合」は(川村)カ子トがアイヌ測量隊を率いて断崖絶壁での測量作業をやり遂げ、難工事の末に開通させたものである。
そもそもオホーツクというのは、樺太のほぼ真北に位置するロシアのハバロフスク地方に属する港町の名前である。
アイヌの文化圏や、その直接的な交易対象である民族たちには、今ある「国」の領域とは無関係な広がりがあった。

いろいろと知らない話もあって楽しい。江戸時代の菅江真澄や松浦武四郎についても興味が湧いてきた。

2021年2月28日、アジア太平洋観光社、909円。


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2021年03月03日

斉藤光政『戦後最大の偽書事件「東日流外三郡誌」』


2006年に新人物往来社から刊行され、2009年には新人物文庫に入った作品の復刊・再文庫化。巻末に「新章 あれから十二年―偽書事件の今」が追加されている。

1975年から77年にかけて青森県の『市浦村史 資料編』に掲載されたことで有名になった「東日流外三郡誌」(つがるそとさんぐんし)。地元の東奥日報の記者である著者が、その真贋論争を取材したルポルタージュ。

とても面白い。

稚拙な偽書である「東日流外三郡誌」が、なぜ公的な文書に載り全国的な反響を呼ぶに至ったのか。著者は取材を続けていく中で、偽作者である和田喜三郎の手口を明らかにしていく。

それは、仏像などの古物を売り付ける際に偽の古文書でお墨付きを与えるというもの。神社のご神体や安東氏の財宝、役小角の墓、安倍頼時の遺骨、大量の和田家文書など、まさに何でもありの状態だ。

津軽半島の寒村をどうにか有名にしたいという切ない村おこしの気持ちと、人間ならだれしも持っているささやかな功名心。それらが複雑に絡んで生まれたのが『市浦村史資料編 東日流外三郡誌』と言えそうだった。

さまざまな人間の欲望が入り混じって拡大した偽書事件。その真相を明らかにした著者の執念が光る一冊である。

2019年3月25日、集英社文庫、800円。

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2021年03月02日

松村正直の歌集・歌書

20年ぶりに復刊した第1歌集『駅へ』(新装版)が、版元の野兎社のオンラインストアで販売中です。
https://yatosha.stores.jp/items/600d346831862555b743dcdb

それ以外の歌集・歌書についても、BOOTHで割引価格にて販売しております。
https://masanao-m.booth.pm

どうぞご利用ください。

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2021年03月01日

中津昌子歌集『記憶の椅子』


333首を収めた第6歌集。

来なかった揚羽のことをいつまでも覚えてあおく山椒茂る
白鷺がいっぽん、いっぽん、脚をぬき歩む鴨川夏草高し
ガラス越しに雨の見えれば雨はいいしずかに落ちてゆくだけだから
細い裂(きれ)のようなる空がこの路の形に沿って大きく曲がる
大理石から体は生まれ出ようとし左の膝がおおきく曲がる
大いなる浴場なりし石壁を斜めに分けて影と光は
死者なれば憚ることなく名を呼ぶに木賊は青くかたまりて立つ
青葉の林を父母と並んで歩いている誰もこちらを向かない写真
眠れねば眠れるひとの吐く息のほとりに青く靡きてわれは
空に影は落ちないものをたかだかと吊り上げられて鋼材揺らぐ

1首目、「来なかった」ことは来たことよりむしろ忘れられない。
2首目、「いっぽん」は一本でありまたオノマトペにもなっている。
3首目、窓の外の雨を眺めつつ、何か思い出しているようでもある。
4首目、ヴェニスの歌。比喩がよく、石畳の細い路地が目に浮かぶ。
5首目、彫刻の姿を動的に捉えたことで、生々しさが生まれている。
6首目、ローマの歌。浴場跡に残された石壁に過去と今が交差する。
7首目、亡くなってからの方が呼びやすい。「に」に重みがある。
8首目、カメラを向いてないというだけでなく、もう戻らない過去。
9首目、隣に眠る人の寝息を聞きながら、なかなか眠れないでいる。
10首目、上空の鋼材を見上げていると天地が反転した気分になる。

現実を描きながら、不思議な奥行きや膨らみを感じさせる歌が多い。目に見える風景の奥に目には見えない風景が浮かんでくるようだ。

2021年1月25日、角川書店、2600円。

posted by 松村正直 at 07:55| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする