1970年生まれの羽生善治を中心とした将棋界の「羽生世代」。16名の棋士へのインタビューを通じて、羽生世代に多くの強豪が集まり長年にわたって活躍を続けた理由に迫っている。
登場するのは、谷川浩司、島朗、森下卓、室岡克彦、藤井猛、先崎学、豊川孝弘、飯塚祐紀、渡辺明、深浦康市、久保利明、佐藤天彦、佐藤康光、郷田真隆、森内俊之、羽生善治。
印象的な発言をいくつか引いておこう。
羽生さんたちは最後の「精神世代」ですよね。いまはほとんど使われなくなった言葉ですけど、「気持ち」や「根性」を彼らは持っていました。(島朗)
昔のように最初から自分で考えて時間を目いっぱい使う将棋って、いまは年に数局しかないですよ。(略)自分のタイトル戦を振り返っても、羽生世代の棋士たちと指していた時のほうがハイレベルだったと思いますね。(渡辺明)
ギリギリの勝負をしたいという気持ちが常にあるからでしょうね。だからタイトル戦も常にフルセットまで行きたいんです。(深浦康市)
そりゃあ羽生、佐藤、森内がいなければもっと勝てたでしょう。でも、そんなことはどうでもいい。そんなので勝ってもしょうがないんです。(郷田真隆)
羽生世代がデビューして30年以上。当初は上の世代との比較で合理性やデジタルな側面が強調されていた彼らだが、今では下の世代との比較も加えて、より客観的な位置づけや評価が可能になっている。
棋士たちの発言は総じてみな謙虚だ。それは「自ら負けを認める将棋のゲーム性」によって培われたものでもあるだろうし、また勝負の世界の厳しさも感じさせるものである。
個人と個人が戦って、勝つか負けるかしかない世界。そこには、どんな言い訳も弁解も存在しない。
2020年12月20日、講談社現代新書、1000円。