気弱くして同じ時代に苦しめば高安君の歌にいらだつ
『静かなる意志』
追ひつめらるる思ひ語りしあくる朝訳詩にむかふ君がひととき
『歴史』
今の日に無知を羨しとただひとり高安君の葉書吾にあり
『歴史』
吾がためにリルケを読めり沈黙より意外にはげしき君の
ドイツ語 『歴史』
ドイツ語の夜学終へたる部屋くらく貧しき青年に君交り居き
『冬の銀河』
ミュンヘンに発ち行く友よ土解けし木の間の夜道送り歩みつ
『喚声』
名前ではなく「君」「友」と書かれているものも多いが、近藤芳美『歌い来しかた』に歌の背景が記されている。
その高安が突然に上京し、わたしに逢うために来た。四八年の秋だったのか。京橋の職場に来たのを咄嗟にはわからなかった。上京が一つの決意であったと彼は告げた。京都にいて戦災を知らず、戦後の東京の動きを心の焦燥としてその日まで見守っていた。初めて逢い、互いに若者のように語り合った。
戦後の一時期、ふたりの交流は盛んであった。
他にも、大辻隆弘『子規から相良宏まで』に収められている講演「高安国世から見た近藤芳美」では、両者の交流が詳細な年譜とともに語られている。興味のある方は必読です。