副題は「これからを生きための「練習問題」」。
大学入試改革をめぐる議論を皮切りに、演劇的手法を取り入れたコミュニケーション教育や地方自治体の新しい取り組みなどに触れ、これからの社会で生きていくために必要な力について考察している。
「何を学ぶか?」よりも「誰と学ぶか?」が重要になる。それは学生の質だけではない。教職員も含めて、どのような「学びの共同体」を創るかが、大学側に問われているのだ。
大学入試と言えばつい自分が受験した時のことを思い浮かべてしまうのだが、それはもう30年も前の話であって、今では大きく変っている。「大学全入時代」を迎えて、大学も漫然と運営していたのでは生き残ることができない。
インターネットの時代になり、知識や情報の地域間格差はなくなっていく。すると逆に、生でしか観られない部分で大きな差がつく時代となってしまう。東京の有利さが増幅されやすいと言ってもいい。
岡山県奈義町の項でも触れたことだが、本来、自治体は「来ない理由」に着目しなければならなかった。来ない理由は、「医療、教育、文化」に対する不安である。医療は、全国津々浦々、相当に整備が進んだ。あとは教育と、食文化やスポーツも含めた広い意味での文化、居場所作りだ。
都市と地方の格差やU・I・Jターンの話についても、詳しく論じられている。東京から兵庫県豊岡市に移住し、豊岡の劇場に拠点を移したのも、そうした問題意識が根底にあってのことなのだろう。
2020年3月20日、講談社現代新書、860円。