2019年01月30日

渡辺明著 『増補 頭脳勝負』


副題は「将棋の世界」。2007年にちくま新書から刊行された『頭脳勝負―将棋の世界』に加筆・修正して文庫化したもの。

今年度、公式戦15連勝を含む29勝8敗と絶好調の著者が、将棋とはどんなゲームで棋士が何を考えどんな生活をしているのかなどを記した本。タイトル戦の自戦記も収められ、将棋の魅力がよく伝わる内容になっている。

ミスをした時にどう切り換えるか。これはどの競技でもそうですが、将棋でも重要なことです。(・・・)将棋の場合、ミスは多くしたほうが負けるのではなくて最後にミスしたほうが負けることが多いからです。
(スポーツの場合)コーチのポジションには、引退した選手が就くことが多いですね。ここがポイントです。スポーツでは「頭ではわかっているけども、体がついていかない」ということがあるのに対して、将棋は頭そのものが競技者の能力ですから五〇歳、六〇歳になっても現役は当り前。引退して指導者に回る年齢が遅いのです。

近年、ネットで対局の中継が見られるようになり、将棋を見て楽しむファン(「観る将」)が急増している。藤井聡太七段の活躍もあって今後がますます楽しみだ。

2018年9月10日、ちくま文庫、780円。

posted by 松村正直 at 11:38| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年01月29日

下部温泉


一泊二日で下部温泉へ。

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と言っても温泉に浸かりに来たのではなく、ここが母の家の最寄り駅。
全国的に寒い日が続いているが、母の家のあたりは比較的暖かい。


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病院の受診に付き添い、その後、一緒に町の保健福祉課に行って今後の生活についての相談をする。在宅支援担当の方がとても丁寧に話を聴いて下さって心強い。

母も思ったよりは元気だったので一安心。
でも、月に一度くらいは顔を出すようにしなくてはと思う。

posted by 松村正直 at 07:25| Comment(0) | 旅行 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年01月26日

安西巧著 『広島はすごい』


日本経済新聞社広島支局長である著者が、広島の魅力と活力について考察した本。「広島カープ」「村上水軍」「アンデルセン」「カルビー」「戦艦大和」「マツダ」「ダイソー」など、広島の歴史・文化・産業など様々なジャンルのことが取り上げられている。

なぜ広島に原爆が落とされたのか。この答えも「軍都」と切り離せない。
広島電鉄は市外に延びる宮島線を含む7つの路線で路面電車を運行しており、路線延長(35.1キロ)と輸送人員(1億122万人キロ)はともに日本一。
「カルビー」の由来はカルシウムの「カル」とビタミンB1の「ビー」。
山口の人に幕末の長州人の話題を振る時は気をつけた方がいい。(・・・)毛利はもともと安芸国吉田の領主であり、大内氏の家臣だったにすぎない。
「100円ショップ ダイソー」が典型なのだが、広島でいわゆるニッチ(すき間)市場のガリバー企業が目立つのは、鷄口となるも牛後となるなかれ≠地で行く経営者が多いからだろう。

広島人気質や県民性といった話がどれだけ科学的かはわからないが、読み物としては面白かった。

2016年6月20日、新潮新書、740円。

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2019年01月24日

武生へ


今日から2泊3日で福井県越前市の武生に行ってきます。
雪は積もっているかな?

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2019年01月22日

大阪城梅林吟行

3月7日(木)にJEUGIAカルチャーセンターの講座で、「春香る大阪城の梅林で短歌を詠む」という吟行をします。

http://culture.jeugia.co.jp/lesson_detail_17-23431.html

大阪城の梅林や天守閣を見物して歌を詠み、ランチを挟んで歌の批評も行います。

皆さん、どうぞご参加ください。

posted by 松村正直 at 18:43| Comment(0) | メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年01月21日

松村正直著 『戦争の歌』


「コレクション日本歌人選」の一冊として、先月刊行しました。

日清・日露戦争からアジア・太平洋戦争までの51首を取り上げて、鑑賞・批評・解説をした本です。「戦争の歌」を通じて日本の近代を振り返るとともに、私たちの今後を考えることができればと思って執筆しました。

分量は多くないですが、歌の選びや時代背景の考察など、かなり時間をかけて書いた本ですので、多くの方にお読みいただければ幸いです。

・岩尾淳子さん「眠らない島」
https://blogs.yahoo.co.jp/picojunkomist/16630784.html
・恒成美代子さん「暦日夕焼け通信」
http://rekijitsu.cocolog-nifty.com/blog/2019/01/post-84bc.html
・大橋春人さん「うたぐらし」
http://blog.livedoor.jp/utagurashi/archives/54750970.html

ブログ等でご批評をいただいた皆さん、ありがとうございます。

2018年12月10日、笠間書院、1300円。

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2019年01月19日

NHK全国短歌大会


今日は朝から東京渋谷のNHKホールへ。
第20回NHK全国短歌大会のリハーサルと本番が行われた。

たまには東京に住む父や兄夫婦や昔の友人にも会いたいと思うのだが、なかなか時間が取れない。13日(日)の東京も日帰りだったし、今日も日帰りで慌ただしく帰ってきた。

大会の様子は2月2日(土)の午後3:00〜午後4:14、NHK Eテレで放映される予定。
http://www.n-gaku.jp/life/competition/nhk/2018/10/01/entry-007322.html


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2019年01月18日

川の名前

 紀ノ川はここより吉野川となり白鷺一羽みづべにたてり
                   小林幸子『六本辻』

そうか、吉野川=紀ノ川なのか。調べてみると、奈良県では「吉野川」、和歌山県に入ると「紀ノ川」になるとのこと。

・瀬田川(滋賀)―宇治川(京都)―淀川(大阪)
・千曲川(長野)―信濃川(新潟)
・十津川(奈良)―熊野川(三重)
・阿賀川(福島)―阿賀野川(新潟)
・釜無川(長野、山梨)―富士川(山梨、静岡)

こんなふうに、途中で名前が変わる川は全国にたくさんあるようだ。

posted by 松村正直 at 23:29| Comment(0) | メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年01月17日

歌集・歌書一覧


私がこれまでに出した歌集・歌書は以下の8冊です。

【歌集】
・『駅へ』(2001年、ながらみ書房)
・『やさしい鮫』(2006年、ながらみ書房) *在庫あり
・『午前3時を過ぎて』(2014年、六花書林)
・『風のおとうと』(2017年、六花書林) *在庫あり

【歌書】
・『短歌は記憶する』(2010年、六花書林) *在庫あり
・『高安国世の手紙』(2013年、六花書林) *在庫あり
・『樺太を訪れた歌人たち』(2016年、ながらみ書房) *在庫あり
・『戦争の歌』(2018年、笠間書院) *在庫あり

「在庫あり」のものは、送料無料・振込用紙同封でお送りします。
masanao-m☆m7.dion.ne.jp(☆を@に変えて下さい)

また「在庫あり」のうち『やさしい鮫』以外の5点は、Amazonでも
お買い求めになれます。よろしくお願いします。

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2019年01月15日

「運営」という言葉

最近、NGT48のメンバーへの暴行事件の報道の中で、「運営」という言葉をよく見かける。「運営がきちんと謝罪すべき」とか「運営は事実を明らかにしろ!」とか「運営に取材したところ」とか。NGTにもAKBにも全く興味はないのだが、この「運営」という言葉の使い方には興味がある。

数年前から、ネットゲームをしている息子が「このゲームは運営がクソ」とか「運営が今、謝ってる」といった言い方をしていたので、「運営」=「運営者」「運営会社」の意味であることは知っていたのだが、それがリアルの場面でも使われ始めていることに驚いた次第。

この「運営」という言葉には、人の顔が見えない感じがある。「システム」や、さらに言えばSFに出てくる「マザー(コンピューター)」のイメージに通じるところがあって、私には不気味に思われる。これから、もっと日常的に使われる言葉になっていくのだろうか。

posted by 松村正直 at 08:01| Comment(0) | メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年01月14日

小林幸子歌集 『六本辻』

著者 : 小林幸子
ながらみ書房
発売日 : 2018-11-04

2012年から2017年までの作品534首を収めた第8歌集。
国内外のさまざまな場所を訪れて、歴史や死者に遠く思いを馳せている。

孔のある石がたくさん落ちてをり二百三十年前から
パンケーキふつくら焼けてアカシアの蜂蜜の蓋まだ開けられず
死なざりし紋白蝶がつぎの春黄色い蝶に変はるといへり
おまへにもみせてやるよとかまくらに子供が猫をおしこんでゐる
おとうとの灰ひとつぶも残さずに集めし刷毛使ひまた思ひいづ
この真上六百メートル上空に炸裂 スカイツリーより低く
還りこむその父のため遺されし少女の皮膚といちまいの爪
みなつきのひぐれのバスに過ぎゆける馬取(まとり)、杉瓜(すぎうり)さびしきところ
墓域への近道をして若草のなかの細溝けふも跳びたり
だれかを捜してますかと学生が声かけくれぬ ええおとうとを

1首目、浅間山の噴火で落ちた石。下句がおもしろい。
2首目、今すぐ食べたいのに蓋が固くて開かないのだ。
3首目、そんなわけないのだが、思わず信じてしまいそうになる。
4首目、猫にとってはいい迷惑でしかないのだけれど。
5首目、焼き場の係の人の丁寧な仕種に気持ちが救われたのだろう。
6首目、広島の原爆を詠んだ歌。スカイツリーとの比較が生々しい。
7首目、原爆資料館に展示されている皮膚と爪。戦地から戻ってきた父はどんな思いでそれを見たのか。
8首目、「馬取」「杉瓜」という地名の醸し出す味わい。
9首目、墓参りの時はいつもそこを跳び越えるのである。
10首目、亡くなった弟の面影を尋ねてオランダの大学を訪れた時の歌。

2018年11月4日、ながらみ書房、2500円。


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2019年01月13日

倉阪鬼一郎著 『怖い短歌』


「怖い短歌」136首(収録数は570首)を集めたアンソロジー。

「怖ろしい風景」「猟奇歌とその系譜」「向こうから来るもの」「死の影」「内なる反逆者」「負の情念」「変容する世界」「奇想の恐怖」「日常に潜むもの」の9章に分類している。

 人形は目あきてあれど病める子はたゆげに眠る白き病室
                       与謝野晶子
 誰か一人
 殺してみたいと思ふ時
 君一人かい…………
 …………と友達が来る         夢野久作
 白髪を梳きながらふと振り向けば小面をつけてゐるかも知れぬ
                       稲葉京子
 閉所恐怖で死んだ人なしとおもふとき閉所恐怖のくるしみは増す
                       小池 光
 ひら仮名は凄まじきかなはははははははははははは母死んだ
                       仙波龍英
 ひややけき彫刻台にかけのぼりまなこまで石化してゐたる犬
                       杉原一司
 こんな人ゐたつけと思ふクラス写真その人にしんと見られつつ閉づ
                       川野里子

「怖い」というのは主観的な捉え方なので、誰が見ても怖い歌もあれば、このアンソロジーに入っていなかったら怖いと思わなかった歌もある。そのあたりの幅の広さも読んでいて楽しい。

2018年11月30日、幻冬新書、780円。


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2019年01月11日

あちこち

今後のイベントや歌会などの予定です。
多くの方々とお会いできると嬉しいです。

・1月13日(日) 「塔」第2回定時社員総会&シンポジウム(東京)
・1月19日(土) NHK全国短歌大会(東京)
・1月20日(日) 第3回文学フリマ京都
・2月10日(日) 「塔」四国歌会(高松)
・3月 1日(金) 「パンの耳」を読む会(西宮)
・3月 7日(木) 大阪城吟行(JEUGIAカルチャー)
・3月10日(日) 「塔」仙台歌会(仙台)
・3月23日(土) 「塔」和歌山歌会&歌集『あすなろのままに』を読む会

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2019年01月10日

山岡淳一郎著 『木下サーカス四代記』


副題は「年間120万人を魅了する百年企業の光芒」。

1902(明治35)年創業の老舗で年間観客動員数で世界一、二を争う木下サーカスの四代(祖父・父・兄・弟)にわたる歴史を描いたノンフィクション。ちょうど今、大阪で公演を行っているところだ。

ビジネス書としての一面もあり、「一場所(公演地の選定)、二根(営業の根気)、三ネタ(演目)」を掲げて努力を続ける同族企業の秘訣がいろいろと明らかにされている。

創業者一族が経営を担うファミリービジネスは、時代遅れのようにとらえられがちだが、日本の法人企業約二五〇万社の九七%は同族会社である。
候補都市が決まったら、光三はタクシーでその街の一番高いところに上る。軍師が地形を読むように起伏や水系、道路や駅の配置を見て公演場所を見極めた。

私はサーカスが好きで、毎年のように公演を見に行っている。

木下大サーカス(2009.12.29)
キグレサーカス(2010.10.21)

1990年に現在の四代目が社長を継いだ時、サーカスは既に斜陽産業で負債が10億円にものぼっていた。そこから復活を果たし今も公演を続ける木下サーカス。これからも長く応援していきたいと思う。

2019年1月3日、東洋経済新報社、2000円。


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2019年01月09日

映画 「こんな夜更けにバナナかよ」


監督:前田哲、原作:渡辺一史、脚本:橋本裕志
出演:大泉洋、高畑充希、三浦春馬、萩原聖人、渡辺真起子ほか

筋ジストロフィーを患いながらも自立生活を送る主人公(鹿野靖明)と、彼を支えるボランティアたちの交流を描いた作品。

原作は渡辺一史のノンフィクション。どのような映画になるのか興味を持って見たのだが、高畑と三浦の恋と成長の物語を絡めて期待以上の仕上がりであった。エンディングに実際の鹿野の映像が少し映るのだが、それを見ると映画における大泉の姿や服装はかなり本物に似せているようだ。

映画化に合わせてノベライズ本『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(221ページ)が文春文庫から出ているが、ぜひ原作の方も読んで欲しい。原作は558ページという分量と注の多さでちょっと手に取りにくいけれど、圧倒的な傑作です。
http://matsutanka.seesaa.net/article/440253335.html

Tジョイ京都、120分。

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2019年01月08日

嵯峨直樹歌集 『みずからの火』


一頁一首組で163首を収めた第3歌集。

不安定な温(ぬく)い血のなかちょこれいと暗くつやめく小雨の夜に
枝ふとく春夜をはしる絶叫をあやうく封じ込めて静寂
池に降る三月の雨、穏やかな水紋としてかつていた人
暗闇の結び目として球体の林檎数個がほどけずにある
夕ぐれの緋(あか)い粒子に浸されたバスの車内の影は盛りたつ
五指の間に五指をうずめる 薄らかな光ちらばる夜の市街地
うす紅の空の底部を擦りつつ車のひかり街をつらぬく

1首目、「ちょこれいと」のひらがな表記が印象的。
3首目、池の面の水紋を見て去った人を思い出している。
5首目、夕焼けの赤さと陰影だけになった車内の光景。
7首目、垂れ込める空へとのびる車のヘッドライトか。

2018年5月25日、角川書店、2600円。


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2019年01月06日

みうらじゅん著 『「ない仕事」の作り方』


自分が好きなこと、興味を持ったことを、どのように仕事にしていくか。それまで世の中に存在しなかった仕事を、どのように成り立たせるのか。「マイブーム」「ゆるキャラ」などの新語を作り数々の「ない仕事」を生み出してきた著者が、自らの持つノウハウを詳しく明かしている。

大きな力となるのは「言葉」である。

まず、名称もジャンルもないものを見つける。そしてそれが気になったら、そこに名称とジャンルを与えるのです。

「ゆるキャラ」という名前を付けることで、そうしたジャンルが人々の意識の上に形作られる。これは、「セクハラ」という言葉が生まれたことで、(それまでも存在はしていた)セクハラ問題が顕在化したことと似ているだろう。

また、自分が取り組んでいることに対して「つまらないかもな」「観客は喜んでいるのか?」といった不安が兆した時にどうするか。

そんなとき、私が必ず唱える呪文があります。
「そこがいいんじゃない!」

この言葉一つで、マイナスがプラスに、不安が自信へと反転するのである。

他にも「自分を洗脳する」「趣味は突き詰める」「重い言葉をポップにする」「母親に向けて仕事する」などの具体的な方法が、多くの実例を挙げて紹介されている。軽そうな見た目の本だけれど、中身は深い。

2018年10月10日、文春文庫、660円。


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2019年01月05日

石床隆文歌集 『琥珀の時間』


2017年に59歳で亡くなった作者の遺歌集。
「音」所属。441首。

陽だまりをゆく紋白蝶(もんしろ)に空深し硝子のごとき秋の奈落は
足音は個性を持てり梅雨の夜の巡回に来るを聞きて眠りぬ
手鏡のわが視野にくる野良猫が砂を浴びつつ消えてゆくなり
静かなる午後のひととき卓上に置かれしメロンねむれるごとし
靴下を穿かせてくれる君の手よ朝のひかりにしなやかに見ゆ
絵画展に介護されつつ今日を来ぬガラスの額に汝が瞳見ゆ
刻々と硝子戸の傷の顕れて青天の日の翳は移ろう
徘徊の友は括られ十字架のイエスのごとく冬夜を眠る
菜の花の咲くひと隅は隔離舎の跡ぞ石碑の傾き立つを
秋祭り獅子と太鼓の来て過ぎる五分の時を一年は待つ

1首目、明るさと暗さ、天と地が反転するような一首。
3首目、病気で寝たきりの作者にとって「手鏡」は目の代わりだった。
5首目、施設の女性職員に対するほのかな恋心。
6首目、絵ではなくガラスに映った背後の職員の瞳を見続けている。
8首目、「十字架のイエスのごとく」という比喩が持つ痛ましさ。
10首目、来年の祭の日が非常に遠いものに感じられるのだろう。

2018年1月26日、本阿弥書店、2700円。


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2019年01月04日

都市研究会編 『地図と地形で楽しむ 大阪淀川歴史散歩』


淀川を中心に、地形・地名・鉄道・道路・歴史など様々な観点から大阪の各所を紹介した本。私の住む伏見にも関わりの深い話が出てくる。

近世までの川は、現代でいえば鉄道網のようなもの。

まず大切なのはこの観点だろう。水運が盛んだった時代には、川は一番の交通路であったのだ。人間と川との関わりも今とは比べものにならないくらいに密接であった。

大阪の歴史とは、そのまま「淀川治水」の歴史だといっても過言ではない。

かつて「暴れ川」と呼ばれた淀川の氾濫を防ぐために、仁徳天皇の時代から現代に至るまで数多くの試みが行われてきた。堤防を築き、川と川を切り離し、川の流れを変え、ようやく今の形ができあがったのである。

大阪へ出掛けるのがこれまで以上に楽しくなりそうだ。

2018年10月19日、洋泉社歴史新書、950円。

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2019年01月02日

短歌のシンポジウム

1月13日(日)に東京で一般社団法人塔短歌会の第2回定時社員総会があるのですが、その後に一般公開のシンポジウムを開催します。どなたでも(塔会員以外の方も)参加できますので、ぜひお越しください。

僕も、江戸雪さん、前田康子さんと3人で、「2018年の歌集を読む」という鼎談を行います。昨年刊行された歌集から8冊を取り上げてズバズバと紹介、批評していくつもりです。

日時 1月13日(日)14:00〜16:30
場所 TKP神田駅前ビジネスセンター(JR神田駅東口徒歩3分)

内容 ・講演「短歌への期待」(池本一郎)
    ・鼎談「2018年の歌集を読む」(江戸雪、前田康子、松村正直)
       石床隆文『琥珀の時間』、大森静佳『カミーユ』、
       小佐野彈『メタリック』、佐伯裕子『感傷生活』、
       嵯峨直樹『みずからの火』、永田紅『春の顕微鏡』、
       橋本喜典『聖木立』、山下翔『温泉』

事前の申し込み等は不要ですので、お気軽にご参加ください。
多くの方とお会いできるのを楽しみにしています。


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2019年01月01日

謹賀新年


新年明けましておめでとうございます。

今年も歌に文章に励んでいきたいと思います。
よろしくお願いします。

posted by 松村正直 at 21:23| Comment(2) | メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする