「日本は、もはや工業立国ではない」「もはや、この国は、成長はせず、長い後退戦を戦っていかなければならない」「日本という国は、もはやアジア唯一の先進国ではない」という現状認識に立って、今後の日本の進むべき方向性や考え方を示した本。
司馬遼太郎の『坂の上の雲』に象徴される上り坂の明治の日本に対して、下り坂の平成の日本をいかに生きるか。「小豆島」「豊岡」「善通寺」「女川」「双葉」など様々な実践例を挙げつつ丁寧に説いている。
印象に残った箇所をいくつか引こう。
私が生業とする演劇は、そこに行って、やって見せなければ何も始まらないというやっかいで古くさい芸術なので、国内外を巡る旅がもう二〇年以上も続いている。
今回の改革は、大学入試の変容だけの問題ではない。今後、学力観そのものが変わっていくのだろうと私は思う。
これからの日本と日本社会は、下り坂を、心を引き締めながら下りていかなければならない。そのときに必要なのは、人をぐいぐいとひっぱっていくリーダーシップだけではなく、「けが人はいないか」「逃げ遅れたものはないか」あるいは「忘れ物はないか」と見て回ってくれる、そのようなリーダーも求められるのではあるまいか。
今回の震災で、あらためて明らかになったことの一つは、いかに東北が東京の、あるいは京浜工業地帯の下支えになってきたかという事実だった。それは電力やサプライチェーンだけのことではない。東北は長く、東京に対して、中央政府に対して、主要な人材の供給源だった。
私は平田の論の全てに賛成するわけではない。もう少し明るいビジョンも欲しい気がする。その一方で、この本が私たちに多くのヒントを与えてくれることも確かだと思う。
2016年4月20日、講談社現代新書、760円。