2016年09月01日

『鳥の見しもの』 のつづき

夕焼けの原料になる雲たちを見上げてゆけり大雨のあと
あけがたに目覚めてここはホテルだった青白い滝のようなカーテン
窓のした緑に輝(て)るを拾いたりうちがわだけが死ぬコガネムシ
きりきりと吊り上げらるる鋼材の或る高さより朝の陽を浴ぶ
無人なるひとときエスカレーターは黒き咀嚼をくりかえしつつ
オカリナのなかに眠れば小さな穴が星座のように見えるのだろう
後ろ歩きしつつ畦(あぜ)塗る男ありいちめんの水が暮れゆく夕べ
亡き人の本に巻かれている帯がつばきの花のいくつか隠す
扇風機の羽透けている向こうには亡き祖母が居て麦茶をはこぶ
血に砂は固まりやすくベッドには砂人形のごときが置かる

1首目、「夕焼けの原料」がおもしろい。雲があるからこそ夕焼けが映える。
2首目、目覚めた時の風景がいつもとは違うので、一瞬あれっ?と思うのだ。
3首目、「うちがわだけが死ぬ」が発見。外観はまるで生きているみたい。
4首目、朝日が低い角度から射している。光と影のコントラスト。
5首目、段差が次々と飲み込まれていく様子は、言われてみればなるほど「黒き咀嚼」である。
6首目、メルヘンのように美しい歌。ふだん外側からしか見ることのない穴の内側を想像している。
7首目、「いちめんの田」ではなく「いちめんの水」。一字の違いで歌が生きる。
8首目、表紙に描かれている椿の花。隠れているということが、死者のイメージともつながる。
9首目、回転する扇風機の向こう側に、懐かしい昔の光景が浮かぶ。
10首目、砂漠での戦争をイメージした連作の一首。生々しくて怖い。

posted by 松村正直 at 07:30| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする