2015年12月01日

香川ヒサ歌集 『ヤマト・アライバル』


第8歌集。「短歌研究」に2012年から14年までに掲載された30首×8回とその他の連作2編、計297首を収める。

古書店に本選びつつ自づから選ばれゆかむ一冊の書に
花あまた咲かせて庭に立つ人の囲まれてをり花の名前に
この街の博物館にある石器どこの博物館にもありて
人のため何かしたい人あまたゐて受付で人に名前書かしむ
老人も子供もしたがる買ひ物をせぬ死者のため花を買ふ人
どこにでもをりて何とも思はれず存在してゐて鳩なれば飛ぶ
木木の間に人を歩かせ歩かない木木は木の葉を降らしたりする
道路沿ひに廃線の線路走るなり鉄道沿ひに道路造られ
麻薬犬災害救助犬警察犬帰りに一杯やることもなし
少年の百年前に見た瀧が落ち続けをり詩集の中に

全体に抽象度が高く、哲学的な思考の歌が多い。
白黒の画像を反転させるように、私たちの日常のモノの見方を引っ繰り返す発想が鮮やかである。

1首目、本を選んでいるのではなく、実は本に選ばれているのだという発想。
3首目、石器に関してはあまり地域差がなく、広く共通しているということか。
4首目、ボランティア希望者の登録作業の場面。
6首目、いかにも鳩の感じ。公園や神社や駅などあちこちで見かける。
8首目、鉄道がまず敷かれて、その後、道路ができ、やがて鉄道は廃線に。
10首目、「瀧」が旧字になっているのは、百年前の詩集の表記に従っているのだろう。

2015年11月1日、短歌研究社、2800円。

posted by 松村正直 at 07:28| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする