2015年10月01日

井上章一著 『京都ぎらい』


京都郊外の嵯峨に生まれ、現在は宇治に住む著者が、京都人(洛中に住む人)の洛外に対する差別意識や、外からは見えない京都の裏話を記した本。

「まえがき」から京都あるあるネタの続出で、何度も笑ってしまった。京都について辛辣に書いていて相当に毒のある内容なのだが、その底には京都愛が滲んでいる。きっと、この本は京都の人がむしろ好んで読むのだろう。

別にお笑い目的の本ではなく、京都の歴史や文化に関する深い考察が随所にある。あまり知られていない事実も多く、京都の見方が変わりそうだ。

ちなみに、世間ではうやまわれる回峰行も、比叡山ではそれほど重んじられていない。立派だと思われてはいるが、ある種体育会系的な業績としても、位置づけられている。
くりかえすが、室町時代の京都では、武将たちの一行をうけいれる寺が、ふえだした。人目をよろこばせる庭が、寺でいとなまれるようになったのは、そのせいだろう。
いずれにせよ、江戸時代の堂塔や庭園は、京都の主だった観光資源になっている。多くの観光客が見ているのは、江戸幕府がささえた京都の姿にほかならない。

杉本秀太郎(フランス文学者、エッセイスト)や梅棹忠夫(民族学者、国立民族学博物館名誉教授)といった京都人のエピソードも実名で紹介されている。いやはや、おそるべし、京都人。

2015年9月30日、朝日新書、760円。

posted by 松村正直 at 11:21| Comment(2) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする