お酒が入る席では、私は必ず武川さんの近くに座った。いい話、つまりけっこうきびしい批判が笑いの中できけるからだ。あの狭量が頭をもたげて放ってはおけなくなるのである。「あんたはなあ」とくればしめたもので、あとは「うそだ、うそだ」と防衛していればちくりちくりとやってくれるのが何だか浮き浮きとうれしいのである。
いい関係だなあと思う。年を取るとともに、みんななかなか本当のこと、まして批判めいたことは言ってくれなくなるものだ。それを武川さんは言ってくれたし、馬場さんも喜んで素直に聞いたのだろう。
そう言えば、馬場さんの歌集『記憶の森の時間』の中に、「武川さん」という一連があった。
語りたき武川忠一は耳遠しわれも八十を過ぎしよと叫ぶ
忠一は婉曲にして鈍刀をよそほひて斬りしよ夜更けて痛し
斬られることわかつてゐるが面白く武川忠一の隣に坐る
八十歳を過ぎた馬場あき子に意見できる人というのは、そう多くないにちがいない。長年にわたる二人の交友の深さを思うのである。