2014年10月31日

飯泉太子宗著 『壊れても仏像』


副題は「文化財修復のはなし」。
著者の名前は「いいずみ・としたか」。

仏像修理に関する話を、面白く、わかりやすく、そして真面目に語った本。「おさえておきたい仏像の基本」「仏像だって壊れる」「仏像のお医者さん」「文化財としての仏像」の4章×10編=40編の話が載っている。

仏像の修理という特殊な仕事の舞台裏を、写真やイラストも交えて丁寧に説明してくれる。著者の語り口も率直で楽しい。

誤解を恐れずにいうなら、プラモデルと仏像の制作技術はかなり似かよっているところがある。たぶん、仏師などに木彫りのガンダムを彫らせても、かなりうまく造るはずだ。

こんな話を読むと、海洋堂の可動する仏像「リボルテックタケヤ」シリーズを思い出す。 http://www.kaiyodo.co.jp/revoltech/takeya.html

薬師如来はその名の通り、その手に薬壺を持っているのだが、単にその薬壺をなくしただけでも、「実は俺、薬壺なくしちゃってさ、釈迦に間違われて困るよ」などという、グチもこぼれるわけである。

薬師如来と釈迦如来の区別って、その程度のものだったのか!などという発見もある。

お寺や博物館で仏像を見る時の楽しみが、随分と増えそうな一冊である。

2009年6月10日、白水社、1700円。

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2014年10月30日

綾部(その4)

1950年に綾部市は日本で初めて、世界連邦平和都市宣言を行った。

「綾部市は、日本国憲法を貫く平和精神に基いて、世界連邦建設の趣旨を賛し、全地球の人々と共に永久平和確立に邁進することを宣言する」という宣言文が、市議会の全会一致で採択されている。

第2次世界大戦後、世界連邦運動というものがあったということを、梅棹忠夫『日本探検』を読んで初めて知った。

綾部市は、いまや日本における世界連邦運動の聖地になりつつある。それは、全国諸都市のトップをきって、世界連邦平和都市の宣言をおこない、その後の世界連邦運動の進展のきっかけをつくった。

1960年に書かれた文章である。綾部には、キリスト教や大本をはじめ、平和運動の下地がもともとあったのだろう。綾部駅の南口には「平和のモニュメント」が立っている。

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銘板には「綾部市は一九五〇年、日本で最初の世界連邦都市宣言をおこなった。私たち綾部市民は、これを誇りとして二〇〇〇年、綾部市制五十周年を記念し、ここに世界人類の恒久平和を願い、平和のモニュメントを建立する」とある。

今では「世界連邦」など、アニメかSFの話としか思えない。紛争の絶えない昨今の世界情勢を見ても、世界連邦など夢のまた夢の話である。
けれども、それを夢見た人々や時代のことを、非現実的と嘲笑う気にはなれない。

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2014年10月29日

綾部(その3)

宗教法人「大本」には2つの聖地がある。
大本発祥の地である綾部の「梅松苑」は祭祀の中心地、亀岡の「天恩郷」は宣教の中心地という位置付けだ。

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梅松苑は、以前訪れた天恩郷と雰囲気がよく似ている。広々とした境内には、789畳敷の神殿「みろく殿」や五大州の雛型とされる五つの島を浮かべた「金竜海」(池)、さらに大本開教100年に当たる平成4年に完成した「長生殿」などがある。

庭深く青葉の露のしたゝれる神苑(みその)歩めば朝風涼し
           出口王仁三郎『東北日記』

梅松苑と道を挟んだ向かい側には、日本基督教団丹陽教会がある。
明治から大正にかけての時代に建てられたもので、100年以上の歴史があるらしい。

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異なる宗教の建物が道を挟んで立っているのも不思議な眺めである。

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2014年10月28日

「短歌人」2014年11月号

「父を歌う、父が詠う」という特集が組まれている。
「短歌人」の特集はいつも目の付けどころが良く、しかも内容も深い。
今回の特集も、評論8篇+競詠「父を詠う」+秀歌セレクションの計25ページという本格的なものになっている。

私の歌集からも、たくさん歌を引いていただいた。
そう言えば、第1歌集の頃から自分の父のことを詠んできたし、子どもが生まれてからは、父として自分の子のことも詠んできた。そんなことを振り返りながら、しばらく読み耽った。

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2014年10月27日

綾部(その2)

グンゼ記念館のある一帯には、グンゼの建物や、社宅、寮などが立ち並んでいる。かつて学校や病院も備えた企業城下町であった名残りが随所に見られる。

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もっとも、自動化や機械化、多角経営が進んだ現在、企業の形も大きく変っているのだろう。社宅が取り壊されている現場を見かけたし、寮にももう誰も住んでいないようであった。

グンゼ記念館には、昭和2年に描かれた「五十年後ノ蚕都」という、4畳分くらいの大きさの未来図が展示されている。「蚕都」という言葉が眩しい。そこに描かれた50年後の綾部は、蚕業大学、動物園、植物園、劇場などを備えた大都市だ。

自動車の台数が「現在20」に対して「五十年後15000」とある予測はかなり的確である。けれども人口は「現在12000」に対して「五十年後175000」となっていて、実際の人口35000との差は大きい。

しかも綾部市の人口は、昭和20年代の約54000人をピークに年々減少傾向にある。地方の都市が描いた夢や、地場産業発展の願いは、今後どうなっていくのだろうか。

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2014年10月26日

綾部(その1)

前から一度訪れたいと思っていた綾部へ。
京都駅から特急で1時間あまり。
今回は普通電車で行ったので2時間弱かかった。

綾部は、グンゼの発祥の地である。
また、大本の聖地でもある。
人口約35000人の小都市であるが、見どころが多い。

まずは綾部駅の北側にあるグンゼ博物館へ。
大正6年に建てられた本社事務所が記念館となっている。

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「グンゼ」という名前はもともと「郡是」であり、郡の正しい方針といった意味だ。
「今日の急務は国是、県是、郡是、村是を定むるにあり」という言葉を受け、京都府何鹿郡(いかるがぐん)の地場産業である養蚕、製糸業を発展させようという願いが込められている。

記念館には面白いものがたくさん展示されている。
例えば、昭和初期に郡是健康保険組合が「結核予防に関する和歌俳句」を社内で募集して作成したパンフレット。

野に山に日は照り満てりいざゆきて大気を吸はむ胸をひろげて
            宮崎工場 長友三連
早ければ治るやまひを人はたゞなほざりにして不治と呼ぶなり
            今市工場 足立昌雄
日光と清き空気と栄養は医薬に勝る薬なりけり
            園部工場 大島常市

こういう歌がいくつも載っている。
短歌と言うより標語と言った方がいいのかもしれないが、究極の「ただごと歌」という感じもして妙に惹かれる。

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2014年10月25日

有馬邦明著 『山のお肉のフルコース』


副題は「パッソ・ア・パッソのジビエ料理」。

東京の門前仲町でイタリア料理店「パッソ・ア・パッソ」を営む著者が、店で出すジビエ(野生鳥獣)料理を紹介しながら、食材や料理に寄せる思いを記した本。

紹介されているメニューは、「本日のレバーペースト(キジ、エゾシカ、アナグマ、イノシシ、マガモ)」「クマのコッパ・ディ・テスタ」「エゾシカのマリネ」「コジュケイとビーツ、黒キャベツのスープ」「ツキノワグマのリゾット」「アマグマのロートロ」「ツキノワグマの脂のアイスクリーム」など。

カラー写真を見て、料理の説明を読むと、どれも実に美味しそうだ。
著者の料理に対する姿勢に教えられることも多い。

まずソテーやグリルにできるやわらかい肉をとる、次に端肉や骨についた肉をこそげとって「なんでもミンチ」にする、さらに骨についた肉を煮てテリーヌにする、最後に骨でだしをとる。脂もとる。ここまでやってはじめてジビエを丸ごと使い切ったな、と思えます。

2014年10月25日、山と溪谷社、1400円。

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2014年10月24日

紅葉の万博公園で短歌を詠む

JEUGIAカルチャーセンターで「紅葉の万博公園で短歌を詠む」という単発の企画を行います。万博公園を散策して歌を詠み、日本料理「花せんり」(ホテル阪急エキスポパーク内)でランチを食べて、その後、歌の批評を行うという会です。

まだ、だいぶ空きがありますので、興味のある方はぜひご参加下さい。
楽しい一日にしたいと思っています。

11月6日(木) 10:15〜14:00
定員 20名
参加費 5408円 (税込、ランチ代込)
お申込みは、JEUGIAカルチャー千里セルシ―(06-6835-7400)まで
http://culture.jeugia.co.jp/lesson_detail_17-15703.html

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2014年10月23日

服部真里子歌集 『行け広野へと』

冬の終わりの君のきれいな無表情屋外プールを見下ろしている
雪は花に喩えられつつ降るものを花とは花のくずれる速度
蜂蜜はパンの起伏を流れゆき飼い主よりも疾(と)く老いる犬
回るたびこの世に秋を引き寄せるスポークきらりきらりと回る
酢水へとさらす蓮根(はすね)のうす切りの穴を朝(あした)の光がとおる
ポケットの一つもない服装をしてしんとあなたの火の前に立つ
感覚はいつも静かだ柿むけば初めてそれが怒りと分かる
おだやかに下ってゆけり祖母の舟われらを右岸と左岸に分けて
けれど私は鳥の死を見たことがない 白い陶器を酢は満たしつつ
新年の一枚きりの天と地を綴じるおおきなホチキスがある

第55回短歌研究新人賞次席、第24回歌壇賞受賞の作者の第1歌集。
未来短歌会所属。
19歳から27歳までの作品から289首を収録。

上句から下句への意外な展開や、二物衝撃など、感覚と言葉の扱いに冴えがある。次々と繰り出せれる手品を見ているようで、読んでいて楽しい。

1首目は「きれいな無表情」がいい。「きれいな」も「無表情」もありふれた普通の言葉だが、この組み合わせは新鮮。
3首目は上句の蜂蜜の流れが、下句の時間の流れを巧みに導いている。
4首目は自転車の歌。「スポーク」だけでそれを表現しているのが巧み。
6首目の上句は少しおしゃれな服というイメージなのだろうが、何となく『潮騒』を思い浮かべてしまった。
8首目は祖母の葬儀の場面。「舟」「右岸」「左岸」という比喩が美しい。
10首目は印象的な新年の歌。永井陽子にも通じる新鮮な発想だ。

帯に「はるかなるものへの希求」という言葉があるが、確かにどこか信仰とでも呼ぶべき心の方向性を感じる。
今後がますます楽しみな、期待できる歌人だ。

2014年9月15日、本阿弥書店、2000円。

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2014年10月22日

柳広司著 『贋作 『坊っちゃん』 殺人事件』

著者 : 柳広司
角川書店(角川グループパブリッシング)
発売日 : 2010-11-25

夏目漱石の『坊っちゃん』を下敷きにしたミステリー。
坊ちゃんが探偵役となって事件の謎に迫る。

漱石の文体模写がうまく、時代背景を踏まえたストーリーの展開もおもしろい。
ただし、最後の謎解きが今ひとつか。

作品に出てくる「きちがいなすび」は、朝鮮朝顔=まんだらげ(曼陀羅華)のこと。高安国世の歌にもよく登場する。

2010年11月25日、角川文庫、514円。

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2014年10月21日

「棧橋」120号

1985年に創刊された同人誌「棧橋」の創刊30周年記念号&終刊号。
年4回の発行を30年間にわたって続けてきたわけで、同人誌としては前例のない長さであろう。

「「棧橋」終刊にあたって」という座談会が掲載されている。
出席者は、高野公彦、小島ゆかり、影山一男、桑原正紀、大松達知。
印象的な発言をいくつか引く。

「「棧橋」がなかったら「コスモス」をやめていたかもしれません。「コスモス」どころか、歌も続けてなかったかもしれません」 (大松)
「各自自由にやるということは、思い切った作品を作るということなんだけど、あんまり全員がそうはしてないなあ」 (高野)
「「棧橋」の作品をファックスで送って、受け取りましたというファックスを高野さんからいただいたりして、(…)そんな中で日本とも繋がっているし、歌とも繋がっていることで、自分が存在していいんだよって思えるそんな気持ちがありました」 (小島)
「やはりこういうものがないとなかなか持続しないし、持続しても短歌に燃えるという気概のようなものは出てこないですね」 (桑原)
「できればこれからは若い人たちが地域的にでもいいから集って、そのうち第二次「棧橋」が生まれたらいいし、何かのお手伝いくらいできたらいいと思います」 (影山)

「棧橋」が長年にわたって、人と人、人と短歌をつないできたことがよくわかる。
たいていの同人誌が数年で自然消滅していく中で、この持続力はまさに驚異的と言っていい。

お疲れさまでした。

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2014年10月20日

西畠清順著 『プラントハンター』


副題は「命を懸けて花を追う」。

先日読んだ小倉崇著『LIFEWORK』に「プラントハンター」として紹介されていた人の本を見つけた。

著者は明治元年から約150年続く植物卸問屋「花宇」(兵庫県川西市)の5代目。珍しい植物を追い求めて世界各国を飛び回る。

「年間移動距離地球3周分」「80万個のソテツの種」「重さ14トンのボトルツリー」「樹齢1000年のオリーブ」など、とにかくスケールの大きさに驚かされる。

その一方で、著者は冬の間ひたすら花木の枝切りを行い、代々受け継がれてきた開花調整の技術によって、それを顧客の希望通りの時期に咲かせたりする。

伝統的な職人技と革新的な発想とが見事に合わさって、この人の中で生き生きと躍動しているのを感じた。

2011年3月31日、徳間書店、1400円。

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2014年10月19日

「石神井書林古書目録」94号

近代詩歌の専門古書店「石神井書林」から、最新の古書目録が届いた。
2009年に亡くなった冨士田元彦さんの旧蔵書や冨士田元彦宛書簡などが大量に出ている。これは、かなり貴重なものだ。

いくつか挙げてみる。

塚本邦雄書簡・葉書一括(冨士田元彦宛、書簡41通、葉書79通) 324,000円
中井英夫自筆草稿「浜田到小論」 97,200円
寺山修司自筆草稿「正義派 冨士田元彦」 97,200円
前登志夫書簡・葉書一括(冨士田元彦宛、書簡96通、葉書34通) 216,000円
春日井建自筆詩稿「パゾリーニ小論」 108,000円

他にもたくさんある。
欲しいものもたくさんある。
文学館などに一括して寄付・収蔵されれば良かったのになあ、とも思う。

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2014年10月18日

『日本探検』のつづき

梅棹忠夫は京都に生まれ、関西を拠点として活動した。この本に取り上げられて場所も西日本が多い。それが、私を引きつける理由の一つであろう。

もちろん、それだけではない。

例えば、北海道における「北方文化論」の話を見てみよう。稲作に不向きな北海道において、酪農を中心とした農業開発を目指した人々がいる。その系譜の人々の中には「北方には内地とはことなる独特の文化がありえるはずだ」という確信が生まれた。

これは、戦前の樺太において、樺太独自の「亜寒帯文化建設」を目指した人々の考え方と全く同じである。連載「樺太を訪れた歌人たち」の中で樺太文化について触れたので、この類似にとても興味を引かれる。

他にも、印象的な文章が数多くある。

どういうわけか、おおくの場合われわれは、その伝統の連続感をたちきって、明治のはじめをすべての近代化の出発点とみなすかんがえかたに慣らされてきたのである。 (福山誠之館)
日本民衆の分析的自然観を、学問的に組織したのは、近代動物学ではなくて、むしろ日本民俗学であった。 (高崎山)
日本という国は、わたしは、本質的に存在の論理の力がつよい国だとおもう。そこにおいては、なにごとも、過去においてあったから、現在もあり、未来もあるのである。 (名神高速道路)
日本の土地は、すべてが明確にかぎりをもっている。「有限感」こそは、日本の土地の感覚的特徴である。 (空からの日本探検)

ウメサオタダオ、とにかくすごい。

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2014年10月17日

梅棹忠夫著 『日本探検』


「なんにもしらないことはよいことだ。自分の足であるき、自分の目でみて、その経験から、自由にかんがえを発展させることができるからだ」と述べる著者が、日本の各地を訪ねて、文明史的な考察を加えるという内容。

初出は1960年から61年にかけての「中央公論」なので、半世紀以上も前に書かれたものなのだが、少しも色褪せていない。何ともすごい本である。

梅棹は、福山へ行って江戸時代の藩校とその後の日本の教育制度について考え、亀岡・綾部に行って、大本(教)と世界の結び付きについて考える。さらに、根釧原野のパイロットファームを訪れて、北海道の開発のあり方と独立論を考え、高崎山を訪れては、日本の霊長類研究の歴史やその意味について考える。

それらは一見バラバラなようでいて、実はすべて同じ方法や考え方によって行われているのだ。それは、

わたしがこのシリーズ「日本探検」でやろうとしたことは、現代日本の文明史的位置づけを、具体的な土地と現象に即してかんがえてみようということであった。

という一文によくあらわれている。
その考察の深さとジャンルを超えたものの見方は、まさに「知の巨人」と呼ぶにふさわしい。この本一冊だけでも、そのことが十分に理解できる。

2014年9月10日、講談社学術文庫、1330円。

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2014年10月16日

佐藤佐太郎短歌賞

このたび、歌集『午前3時を過ぎて』が、第1回佐藤佐太郎短歌賞を受賞することに決まりました。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20141015-00000076-mai-soci

現代短歌社の主催で、今年新たに設けられた賞です。
「現代短歌新聞」11月号および「現代短歌」12月号で発表され、授賞式は12月3日、東京の中野サンプラザで行われます。

歌集をお読み下さった方々、そしていつも応援して下さっている方々に、厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。

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2014年10月15日

映画「南風」

監督:萩生田宏治
出演:黒川芽以、テレサ・チー、コウ・ガ、郭智博

日本と台湾の合作。言葉の通じない日本人と台湾人が、自転車で台湾をめぐるロードムービー。台北、九分(+人偏)、基隆、淡水、日月潭など、町や観光地の風景は美しいのだが、ドラマとしては今ひとつ。恋や夢の描き方がもの足りない。

一番印象に残ったのは、龍騰断橋というレンガ製のアーチ橋の遺構。
ここは、いつか訪れてみたい。

京都シネマ、93分。

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2014年10月14日

「現代短歌」2014年11月号

大井学さんが歌壇時評に「『結社』にのこされるもの」という文章を書いている。

大井は、結社の活動を「結社誌の発行」「歌会の運営」「大会等記念行事の企画運営」の三種類に大別し、さらにそのうちの「結社誌の発行」については「名簿管理システム」「費用管理システム」「出入稿管理システム」の三つに集約できると述べる。その上で、

おそらく、こうした結社の運営に必要な「業務」を考えた場合、代行サービスにアウトソーシングできないものはほとんど無いと言えるでしょう。
そこに発生している膨大な(ほぼ無賃の)労働は、やはり何等かの合理的な整理の対象としたほうが良いようにも思われます。

と記している。基本的な考え方や問題認識については同意する部分も多いのだが、自分が結社誌の編集長として10年間やってきたことが「アウトソーシング」できるものであり、「合理的な整理の対象」であると言われるのは、やはり寂しい。

私自身の結社に対する考えは、「塔」60周年記念号(2014年4月号)の「編集ノート」や座談会「編集部、この十年」、「現代短歌」2014年8月号の「高齢社会と結社」で述べてきたので、ここでは繰り返さない。

ただ、大井の考えに対しては、「そこまで言うのなら、歌作りもアウトソーシングすれば?」とか、「そもそも短歌なんてやらないのが一番合理的なのでは?」とか、そんな皮肉を言ってみたくなる。

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2014年10月11日

11月のイベント

○「紅葉の万博公園で短歌を詠む」

11月6日(木) 10:15〜14:00
定員 20名
参加費 5408円 (税込、ランチ代込)
お申込みは、JEUGIAカルチャー千里セルシ―(06-6835-7400)まで
http://culture.jeugia.co.jp/lesson_detail_17-15703.html

○講演「河野裕子と歌」

11月22日(土)14:00〜15:30
滋賀県湖南市立甲西図書館
定員 70名
参加費 無料
お申込みは、湖南市立甲西図書館(0748-72-5550)まで
 *受付開始は11月1日。
http://www.ac.auone-net.jp/~masanao/kouen.doc

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2014年10月10日

連載「樺太を訪れた歌人たち」

「短歌往来」に連載中の「樺太を訪れた歌人たち」の最終回の原稿を送った。
2年間、24回続いた連載もこれで終了。

北見志保子、松村英一、北原白秋、吉植庄亮、橋本徳壽、生田花世、石榑千亦、
出口王仁三郎、土岐善麿、下村宏と来て、最後の2回は斎藤茂吉で終えた。

好きなように書かせて下さった「ながらみ書房」さんに感謝。
来夏はぜひ樺太の現地調査に行ってみたい。


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2014年10月09日

千葉聡著 『飛び跳ねる教室』


横浜市立上菅田中学校に勤めた6年間のことを、短歌186首とエッセイで綴った本。

今年刊行された『今日の放課後、短歌部へ!』の前の時期の作品で、短歌とエッセイの組み合わせというスタイルも同じ。ただし、内容としては『今日の〜』の方がいい。『飛び跳ねる教室』には、ところどころドラマ的なクサさが感じられる。

少年はパラパラマンガのおしまいの絵になったように少女を見てた
「白い海みたいな空が見えました」一行だけの学級日誌
肉まんもアイスも買える晩春のコンビニ ついでにおでんも買おう

あとがきには「学校は、生徒一人ひとりをじっくり育てていける場所であってほしい。そして、あたたかい場所であってほしい。争いではなく、ささえ合いをめざす場所であってほしい」と書かれている。

中学生の息子を持つ親として、共感するところが多い本であった。

2010年9月30日、亜紀書房、1500円。

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2014年10月08日

小倉崇著 『LIFEWORK』


副題は「街と自然をつなぐ12人の働きかたと仕事場」。
「アメスピPAPER」に掲載された文章を大幅に加筆・再構成したもの。

著者が様々なジャンルで活躍する12人の仕事場を訪れ、インタビューをしている。一風変った職業の人が多い。

登場するのは、「プラントハンター」「コーヒー農家&焙煎師」「白神山地 山の案内人」「茶師」「ゲストハウス『シャンティクティ』宿主」「有機米農家」「レザー&シルバーアーチスト」「自転車フレームビルダー」「ギター職人」「花火師」「カスタム・ナイフメーカー」「『藤野電力』エネルギー企画室室長」。

お茶は自然のものです。自然を相手に傲慢になってしまったら、それ以上成長することなんて出来ない。自分が作るお茶が一番美味しいと思うようになったら、茶師として終わりだと思います。  「茶師 前田文男」
花火を作る時に一番大事な道具は、人間の手です。それも、指先のちょっとした感覚を頼りに仕込みます。自分の精神状態にも左右されますよ。同じものを作っているつもりでも、同じにはならない。  「花火師 青木昭夫」

こういう話を読んでいると、自分の人生はこのままでいいのだろうかと考えたりする。

2013年6月10日発行、祥伝社、1429円。

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2014年10月07日

夫婦連名

歌集批評会の案内を、夫婦連名の宛名でいただくことがこの頃多くなった。
できれば、別々に送ってほしいというのが正直なところ。

夫婦だからと言って、いつも一緒に行動しているわけではないし、例えば1人が出席で1人が欠席の場合、返信葉書にどのように○を付けたらいいのか、考えてしまう。

でも、こういうのはなかなか微妙な話なので、仕方がないのだとも思う。
歌集の寄贈の場合は、別々に2冊送っていただくよりも連名で1冊の方が有難いのだから。(あくまで、わが家に限った話です)

そのあたりの感覚は、人によっても違うし、家によっても違うのだろう。


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2014年10月06日

小関智弘著 『町工場・スーパーなものづくり』


町工場で旋盤工として50年以上働いた経験を持つ著者が、技術や技能、ものづくりについて記した本。最近「日本のものづくりはこんなにスゴイ!」といった自国自慢の本やテレビ番組をよく見かけるが、それとは違う。

渡り職人は、渡り歩くことによってつねに新しい技能を身につけて、それをつぎの職場に伝えひろめる技能の伝達者でもあった。
旋盤工は、自分のバイト(刃物・松村注)を使い捨てるようになったとき、みずからが使い捨て可能な存在に変化してしまったのである。
工はたくみと読む。工場はたくみの場であり、旋盤工は旋盤という機械を使って鉄を削るたくみを意味している。たくみたちがものを作る場なのだから、工場の仕事はおもしろい。

私も以前、プラスチック成型工場で働いていたことがあるので、共感することの多い内容であった。

1998年8月25日第1刷発行、2005年6月10日第11刷発行、ちくまプリマーブックス、1200円。

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2014年10月05日

奥村晃作歌集 『造りの強い傘』


第14歌集。
2012年、13年の二年間の歌から450首を収めている。

熱湯の大鍋に足折り曲げて押し込む甲羅剥ぎたる蟹を
ももいろのもろ足ぎゅっと握りしめ鳩は空中の線に憩えり
廃炉まで四十年の原発は四十年の雇用生み出す
信号の〈緑の人〉は自らは歩かず人を歩き出させる
胸に抱く男(お)の子の手足四本が太くはみ出す母の胸から
巨大なる楯岩(たていわ)の一部崩落しなお落ちそうな岩石残る
春風は吹き渡れども白加賀の花びら散らず満開なれば
ラファエロの描く赤子のキリストは丸々と肥え、西洋人の顔
五大堂前にし立ちて写真撮る後ろに堂の屋根まで入れて
腐葉土となるべき落葉 都会ではそのほとんどが燃(も)されてしまう

奥村さんは自ら「ただごと歌」を提唱し、実践している方だが、その「ただごと歌」の中にも面白い歌とそうでない歌がある。それは、歌が単なる事実の報告に終っているか、そこに何か発見や表現の工夫があるか、ということによるのだろう。

2首目は「電線」と言わずに「空中の線」と言っているのがいい。
4首目は典型的な発見の歌。
5首目は「太くはみ出す」に工夫があり、ややデフォルメされた印象を受ける。
8首目は「西洋人の顔」が面白い。当り前のことを新たに見出す面白さ。
9首目は建物の前で写真を撮る時の構図がパッと思い浮かぶ

2014年9月26日、青磁社、2300円。

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2014年10月04日

道修町(その3)

一度、「高安国世・三都めぐり」みたいなツアーをしてみたい。
朝、芦屋に集合して

芦屋、苦楽園 高安が幼少期を過ごした別荘跡、友人の下村正夫宅跡、
           高校時代に住んだ苦楽園ホテル跡
大阪道修町  高安病院跡、生家跡
京都、北白川 京都大学、高安家

などを巡るツアー。
その場所に関係する歌や文章などを読みながら歩いたら、楽しいだろうと思う。

最後は高安さんのお墓かな。
あるいは琵琶湖大橋まで足を延ばしてもいいかもしれない。


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2014年10月03日

道修町(その2)

道修町には、薬や医療の神様を祭る少彦名(すくなひこな)神社(神農さん)があり、その社務所ビルの3階には「くすりの道修町資料館」がある。

資料館には、大正13年当時の道修町の様子を再現した模型がある。

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丼池(どぶいけ)筋の北西角に「高安病院」があるのがわかる。
高安病院があった場所は、現在では日本圧着端子製造株式会社のビルになっている。

ちなみに居宅の方は、道を挟んだ南側の銭湯(芦の湯)の西隣にあった。
高安国世の兄、高安正夫の『過ぎ去りし日々』の中に、次のように書かれている。

この家は道修町四丁目の丼池の角から二軒目でお隣が風呂屋(銭湯)であったので朝ぶろに来た人が早くから顔を洗い歯をみがくらしくがーがー言う声、かたんかたんと木の桶を置く音が大きく反響して聞えてくるのであった。

そんな昔の様子を思いながら、近くにある「ドトールコーヒー道修町店」でアイスコーヒーを飲んだ。

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2014年10月02日

道修町(その1)

大阪船場の道修町(どしょうまち)は、江戸時代の薬種問屋から発展した伝統的な「薬の町」として知られている。現在も、武田薬品工業、塩野義製薬、大阪住友製薬などの大手製薬会社のほか、生薬を取り扱う店などが立ち並んでいる。

  IMG_3756.JPG

懐かしい仁丹の看板

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ショーケースに展示されている生薬

道修町はまた、高安国世の生地でもある。
年譜には大正12年8月11日、「大阪市東区道修町四丁目二番地」に誕生したことが記されている。かつてこの道修町に、高安病院と高安家の居宅があった。

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2014年10月01日

協同組合

先日読んだ『日本漁業の真実』は、漁業協同組合に関して次のように書いている。

組合員は出資者である一方、事業利用者でもある。当たり前のことであるが、事業は組合員のみなのためのものでなければならないので、組合員は事業運営にも参加しなければならないことになる。これは協同組合の原理である。

「事業運営にも参加」する必要があるというのが大切な指摘だろう。

換言すると、加入が認められて組合員になると、事業利用(サービスの享受)の「権利」を得ると同時に、事業運営に参加する「責任」が生じるのである。漁協自治の形成は、この組合員の参加・責任にかかっている。

短歌結社もたぶん同じことだと思う。
「権利」と「責任」のバランスが大事なのである。

posted by 松村正直 at 07:36| Comment(0) | メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする