昭和6年の入隊から始まり、昭和16年の召集、さらに18年の再召集から19年の硫黄島行きという流れを踏まえつつ、それぞれの時期の歌を引いている。
中でも硫黄島で読まれた歌は、印象深い。
ぬかづけば さびしかりけり。たこのかげ、筵の下に 亡骸を据う
明礬の洞窟に臥して十日をすぎわが体臭をいとふなりけり
壕を出でゝむかふ空深しわが空中爆雷の煙雲しづけし
師走八日昼なほあつき島の上黍の葉枯れに蝗いで居り
映画「硫黄島からの手紙」の風景などを思い出す。
「短歌往来」2月号には、西勝洋一の評論「齋藤瀏、史の旭川時代」が掲載されている。
旭川に住む西勝が齋藤親子の旭川での足跡と、地元歌人たちとの交流について記したもの。
内容的には、昨年刊行された石山宗晏・西勝洋一著『道北を巡った歌人たち』と重なる部分が多いのだが、こうした〈郷土短歌史〉は今後大事になってくるように思う。
例えば、今回の評論に出てくる酒井廣治は、一般的な短歌史ではあまり取り上げられない歌人であるが、旭川歌壇においてはかなり重要な役割を果たしている。