「わたしの歌の出発」という特集があり、30名の歌人が短歌を作り始めたきかっけを書いている。その中に河野裕子さんの「サフランの歌など」という文章がある。
河野さんは、田舎で小さな呉服雑貨商をしていた家に、母親が買った中城ふみ子『乳房喪失』『花の原型』、明石海人『白描』という3冊の歌集があったことを述べ、さらに次のように書く。
短歌好きの母は、折りにつけて、娘時代に覚えた歌を口遊んでいた。聞くともなしに聞いていて、すっかり覚えてしまった歌が何首もある。
ゆふぐれになりにけらしな文机(ふづくえ)の鉢のサフラン花閉ぢにけり
という歌は、作者名もわからないまま母から私に伝えられた歌であり、早春の光りが射す頃になると、決まって思い出す歌である。
河野さんが耳で覚えたというこの一首は、一体だれの歌なのだろう。