2013年06月01日

鈴木竹志著 『高野公彦の歌世界』

第1部「高野公彦のうた」と第2部「高野公彦と宮柊二」の二部構成。

1部は高野公彦の歌を時代順にたどっていく内容で、歌人高野の軌跡がよくわかる。「コスモス愛知」に連載されたものということで、著者の思い出も随所に交えつつ、高野像を描き出している。
五月の日てりわたりけり峠路の北の原発に南の漁村に 『淡海』
原子炉のとろ火で焚いたももいろの電気、わが家のテレビをともす 『水行』
人体にピアス増えゆくさまに似て列島に在る原発(げんぱつ)幾つ 『水苑』

東日本大震災以前から高野に原発の歌があることは知っていたが、それが30年以上も継続的に詠まれていたことを、本書であらためて知った。
今日の短歌は、中味というか主題性ということを重要視しがちで、肝腎の描写ということを問題にしないが、短歌の最も大切なことがらは、描写なのではなかろうか。
歌の世界は、どうも亡くなった者に対して冷たい傾向がある。何かいつも急かされているかのように、新しいものを求める傾向が強く、ある程度実力のあった歌人も、亡くなると、もう話題に上らない。

こんなふうに、現在の短歌に対する著者の思いが述べられているところなども、印象に残る。評論を書くという行為自体が、こうした風潮に対する著者の回答にもなっているのだろう。

2部については、また明日。

2013年5月1日発行、柊書房、2700円。

posted by 松村正直 at 01:14| Comment(2) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする