田舎の大きな家に、老いた両親が二人きりで暮らしている。次郎という犬が一匹いたが、その犬も去年死んでしまった。養子娘の身が、親を残して家を出てしまったという負い目が、ずっと私の中にある。
養子娘というのは、婿養子を取った娘、あるいは婿養子を取るべき娘といった意味なのだろう。河野さんは二人姉妹の長女だったから、自分が河野家を継ぐべきという考えを持っていたわけだ。「負い目」という強い言葉を使っていることに、ちょっと驚く。
そのあたりの、河野さんの実家に対する思いや「家」についての考え方が、僕には今ひとつわかりにくい。河野さんは「嫁」という言葉が大嫌いで、歌会でも「嫁」という語を使った歌に否定的であったくらいだが、僕から見ると「養子娘」という言葉も似たようなものに思えるのだ。
河野さんの家族像や家族観には、古風な部分と現代的な部分とが奇妙に入り混じっている。そんな印象を受ける。