副題は「世界に誇るべき“究極の創意工夫”」。
水産庁に勤めてIWC(国際捕鯨委員会)での交渉などを担当してきた著者が、捕鯨や鯨肉について様々な角度から論じた本。その根底にあるのは、クジラを食べることが日本の伝統的な食文化であるという一貫した観点である。
私は著者が言うところの「クジラを食べたことがない世代」である。学校給食の定番であったという「クジラの竜田揚げ」も食べた事がない。この本には、クジラ一頭をあまさず食べてきた歴史や料理法などが記されており、どれも興味深いものであった。千葉県南房総市、和歌山県太地町、山口県長門市、長崎県上五島町、佐賀県唐津市など、日本各地のクジラゆかりの土地も紹介されている。
また、戦後の食糧不足を鯨肉が救ったという話も出てくる。GHQは終戦の年には小笠原諸島での捕鯨再開を認め、翌昭和21(1946)年には日本が南氷洋に出漁することを許可した。
一九四七年二月、約三四〇トンもの鯨肉を積載して、南氷洋の捕鯨から帰還した鯨肉運搬船・第三十二播州丸が東京の築地港に入港した際には、熱狂的な歓喜に国民が沸いた。
これを読んで思い出すのは、茂吉の歌である。
わが国の捕鯨船隊八隻はオーストラリアを通過せりとぞ 昭和22年『白き山』
南海より帰りきたれる鯨船(くぢらぶね)目前にしてあなこころ好(よ)や
遠洋捕鯨の再開が敗戦後の日本を元気づけた様子がよく伝わってくると思う。
ところどころに「アングロサクソン国家の誤った抑圧」といったナショナリズム色の強い表現が出てくるのが残念だが、捕鯨をめぐる現在の国際情勢を考えると仕方がないのかもしれない。
2011年6月10日、祥伝社新書、780円。