毎月の「塔」の誌面で作品はずっと読んでいたが、こうして一冊の歌集にまとまると、フォーカスを合わせるように作者像が立ち現れてくるのを感じた。病気の歌やふるさとの歌に印象的なものが多い。
海に降る雪の最期を見届けず小さなトンネルいくつも続く
少しずつ不安持ち寄り病院の待合室はふくらんでゆく
秋は空を見上げる季節 約束は守らなくてもいいと思えり
いつまでも馴れない靴を選ぶとき跪(ひざまず)かれて恥ずかしくなる
秋の葉の原の駅から日の暮れる里の駅までまどろむ七分
へんてこな形に雪の溶け残る線路沿いの日向を歩く
咲くまではここがどこだか分からない分からぬままにつぼみふくらむ
心という形に池はつくられて池のめぐりを鴉も歩く
夜遅く宿に入りてもう見えぬ海を見るため窓辺に寄りぬ
一晩をかけて冷えたるような掌が朝の目覚めのかたわらにあり
4月2日(日)に東京で批評会が行われることになっており、私もパネリストの一人として参加する。他のメンバーは中川佐和子さん、佐藤弓生さん、内山晶太さん、徳重龍弥さん。はたしてどんな批評会になるか、楽しみである。
2010年8月4日、青磁社、2500円。