この分裂についても、「関西アララギ」に掲載された「編集を辞するに当って」(高安国世)、「別れる言葉」(鈴江幸太郎)、「高安編集を歓送する」(大村呉樓)といった文章を載せており、その経緯がよくわかる。
いろいろと初めて知るような事実があって面白い。昭和24年の日記には
十月十六日 高安国世著「真実」出版記念会が京都嵯峨天龍寺で開催出席。会者二十余名、西村俊一、丸山修三、岩崎美弥子らも来る。夜懇親会、十名ほど。
とあり、当時の出版記念会の小規模でつつましい様子がわかる。
あと、これは時代のせいか大村自身に理由があるのかわからないのだが、持ち物を盗まれるという記載が非常に多い。
宿直明けの今朝、校閲室に置いてあつた靴(靴下共)を盗まれてゐるのを知る。八方捜査したが見つからず、やむなく新しく買つて帰る。甚だ物騒である。(昭和16年12月3日)
今日出版局の招待宴あり、出席した所皮製ボストンバッグ盗難に遭ふ。「万葉秀歌」、中沢家の妊産婦手帳、牛乳購入券、粉乳等あり、他家のものもあり大いに弱る。(昭和20年10月1日)
中央郵便局へ「三種郵便」の交渉に行く。ズボンに入れてゐた乗車券掏摸られる。(昭和21年9月18日)
汽車混雑、夕刻帰宅。然るところ内懐の財布掏られてゐた。大いに不愉快。千円余在中の筈である。(昭和22年3月10日)
出勤の途中阪急電車にて赤皮鞄を盗難にあふ。中に高槻の柴谷君受持の選歌原稿あり大いに弱る。早速交番に届ける。一日不快。(昭和24年3月24日)
これまで大村呉樓については高安国世との関わりで少し知っているだけであったが、この本を通じて、大村のナマの姿に触れられたことは非常に良かった。
2010年11月25日、短歌新聞社、3000円。