2017年07月01日

岩尾淳子歌集 『岸』


2012年から2016年までの作品354首を収めた第2歌集。

帆をたたむように日暮れの教室に残されている世界史図説
夕立のにおいのこもる路地奥の鮨屋に烏賊はすきとおりたり
目のはしにあなたの溲瓶を見ておりき山雀みたいに向きあいながら
川風が吹き込んでゆく和菓子屋の奥のちいさな庭のみどりよ
この家の隅々までを知りつくしぷつんと掃除機うごかずなりぬ
父が締め母が開いてまた締めるしずく止まらぬ栓ひとつあり
葦分けて水ゆくように制服の列にましろき紙ゆきわたる
敷石の割れ目の草を越えようとして自転車はわずかに浮かぶ
酒瓶の置き場所少し動かせば鼻を寄せ来て猫はあやしむ
全天にちからあふれてわたつみに高速艇はあぶらを燃やす

1首目、大判の教科書が置いてあるだけの場面だが、「帆をたたむように」と「世界史」が響き合う。昼間の賑やかな教室との対比も感じさせる。
2首目、上句の薄暗い感じのなかで烏賊の透き通るような白さが際立つ。
3首目、2013年に亡くなった米口實さんを詠んだ歌。「山雀みたいに」がいい。衰えていく師の姿を見守ることしかできない。
4首目、店の奥に坪庭が見えている。そこだけ明るくて、緑が鮮やか。
5首目、上句が面白い。確かに掃除機が一番よく知っているかもしれない。
6首目、パッキンが劣化しているのだろう。蛇口のことを詠みつつ、古くなる家や老いていく両親の姿も感じさせる。
7首目、教室でプリントを配っている場面。初・二句の比喩がいい。制服の紺色とプリントの白の対比が目に浮かぶ。
8首目、発見の歌。「わずかに浮かぶ」が的確な表現だ。
9首目、猫の動きがよく見えてくる。まず鼻を近づけて、様子を窺っている。
10首目、けっこうスピードが出ているのだろう。速さを言わずに「あぶらを燃やす」と言ったのがうまい。

教師生活の歌や両親の歌、阪神淡路大震災を思い返す歌などが印象に残る。日常を詠んだ歌にも落ち着いた味わいがあり、第1歌集『眠らない島』とは雰囲気が違ってきたように感じる。

2017年6月9日、ながらみ書房、2500円。

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2017年06月30日

第20回「あなたを想う恋の歌」


今年も越前市の「万葉の里 あなたを想う恋の歌」の審査員を務めることになりました。7月1日から10月31日まで作品を募集中です。
http://www.manyounosato.com/

投稿料は無料(!)、最優秀賞は賞金10万円(!)、HPからの応募もできます。皆さん、ふるってご応募ください。

ちなみに、前回の最優秀作は

「コンゴより君を想ふ」とメールあり熱帯雨林の夜にいだかる
                     大下 香

でした。今年も良い歌と出会えますように。

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本の部屋


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今日は「本の部屋」の整理をする。

私の住むマンションは3LDKで、6畳の和室×2、6畳の洋室、12畳のLDKという間取り。和室の一つは息子の部屋、もう一つは私と妻の書斎、洋室は「本の部屋」となっている。そのため、私と妻はLDKに寝ていて、食卓の近くにベッドがあるという異様な状態が続いている。

それにも、もう慣れてしまったが。

不要な雑誌はちり紙交換へ、不要な本は古本屋へ、本棚に入らないけれど残しておきたいものは妻の実家へと運ぶ。

「本の部屋」を抜けた先にはベランダがあり、そこに洗濯機が置かれている。そのため、最低限の通路だけは確保しなくてはならず、定期的に本の整理が必要となるのだ。
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2017年06月29日

「塔」2017年6月号(その2)

ちぎっては食べちぎっては食べるパン私の中に暴力がある
                     鈴木晴香

上句は何でもない光景だが、下句がおもしろい。下句を読んでからあらためて上句を見ると、「ちぎっては食べ」の繰り返しに迫力がある。

わが辞表受け取らざりし人なりき春一番の日に逝きたまふ
                     安永 明

職場の上司だったのだろう。作者の能力を評価し、身を案じて慰留してくれた人である。何年たっても、忘れられない出来事だったのだ。

ゆつくりと日のまはりゆく春の日に手紙を書けば手紙の来たり
                     福田恭子

下句がおもしろい。手紙を書いた相手ではなく、別の人からの手紙だろうと読んだ。のどかな春の感じがよく出ている。

過去からは逃げられないな まふたつの藍色のうつはに断面の
白                   小田桐夕

上句と下句の取り合わせがうまい。表面は釉薬が塗られ絵付けもされているが、内側は白いまま。それが自分の過去を思わせたのだ。

県北のひとの会話にひと混じる「南の人」の不思議なひびき
                     浅野美紗子

同じ県に住む相手が使う「南の人」は「南国の人」ではなく「県の南部に住む人」の意味。その県の人にだけ通じる言葉遣いの面白さ。

ゆびさきにばんそうこうが見えている舞台衣装の女のひとの
                     高原さやか

舞台で演じている女性の素の部分が見えてしまったのだ。絆創膏という小さなものが、一瞬で舞台の世界を現実に引き戻してしまう。

あみだなに寝そべりあみのすきまからとろりと落ちてしまう
夕ぐれ                 坂本清隆

スライムのように少しずつ形を変えながら落ちていく感じ。電車の中での空想だろうが、平仮名書きがなまなましい体感を生んでいる。

窓にうつる自分の影とむかひあふ一列ありぬTSUTAYAの夜に
                     岡部かずみ

店の外側の窓ガラスに向って立ち読みをしている人々。じっと動くこともなく、横一列になって黙々と雑誌などを読んでいる。
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2017年06月28日

「塔」2017年6月号(その1)

少し奥に切り株ひとつあつたはず 鳥の声して深くなる森
                     亀谷たま江

以前にも歩いたことのある森のなかの道。かつての記憶と重ね合わせるように少しずつ奥へ奥へと歩みを進めていく。

障泥烏賊(あふりいか)は一匹だけで泳ぎます 髪きられつつ
耳は聴きをり               谷口純子

美容院の座席で聞いている話。アオリイカの大きなひれを馬の泥除けに見立てて「障泥(あおり)」という名前が付いたらしい。

籐椅子に眠りは徐々に滴りて指につめたいよどみとなりぬ
                     万造寺ようこ

籐椅子に掛けながらうつらうつらしている感じがうまく表現されている。だらりと腕が垂れて、指先が少しずつ冷えていくのだ。

何をなした人にはあらねど曾祖父の曾孫としての我だと思う
                     相原かろ

有名人でも偉人でもないけれど、その人がいなければ今ここに自分はいないという思い。「曾祖父の曾孫」と言葉を重ねたのがいい。

ちりとりの緑がいちばん鮮やかで桜の根もとに立てかけてあり
                     河原篤子

周囲の風景の中で一番鮮やかで目に付くのだろう。桜の木や庭の様々なものよりも、何でもないちりとりの存在感が上回っている。

妻のなき父と夫のなき吾と桜紅葉の堤を歩く
                     吉川敬子

それぞれ伴侶をなくした父と娘の散歩。お互いに何も言わなくても心が通じ合うのは、やはり親子ならではという気がする。

鍋、薬缶、かつて光っていたものを集めて磨く春が来たので
                     中山悦子

斎藤史の「うすいがらすも磨いて待たう」を思い出す。でも、こちらの歌が磨くのは鍋や薬缶。家庭の生活感が溢れている。

ドーナツの油でべたつく指の先舐めたる舌は口中に消ゆ
                     筑井悦子

自分ではなく誰かの舌だろう。舌が口の中に入るのは当り前のことなのだが、「口中に消ゆ」と表現するとまるで手品のようで面白い。
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2017年06月27日

北海道集会(その2)


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北海道庁旧本庁舎(赤れんが庁舎)。

1888年(明治21年)に建てられたもの。遠くから見ると背後の高い建物が邪魔なのだが、近くまで寄ると隠れてくれる。


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赤れんが庁舎に来た目的は、この樺太関係資料館。

実物や写真のほかに、模型や図解もあって、予想以上に充実した内容だ。樺太関係の常設の展示としては日本で一番かもしれない。


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歌会の会場となったノースエイム。

庁立・北高会(北海道庁立高等女学校および札幌北高等学校の同窓会)が運営する会館。歌会は25名(道内16名、道外9名)が参加して、賑やかだった。
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2017年06月26日

北海道集会(その1)

6月24日(土)・25日(日)は「塔」の北海道集会へ。

札幌駅前の通りを歩いていると、いきなり馬車と遭遇。
北海道らしさ全開だ。

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馬車が普通に車道を歩いていて、その後ろに車が付いて走ったり、
追い越したりしているのが不思議な光景である。


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北3条広場でたまたま開催されていたフラワーカーペット。
4日間だけの展示だったようで、運が良かった。
http://www.sapporo-flowercarpet.com/


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「天馬」の海の幸とたっぷり野菜の海鮮スープカレー、1100円。
あさり、ムール貝、えび、いかなどが入っている。
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2017年06月23日

北海道へ

明日の第1回「塔」北海道集会に参加するため、2泊3日で
札幌へ行ってきます。

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2017年06月22日

広瀬友紀著 『ちいさい言語学者の冒険』


副題は「子どもに学ぶことばの秘密」。
岩波科学ライブラリー259。

子どもたちの言い間違いを手掛かりに、なぜそのような言い方が生まれるのか、人間はどのように言葉を学んでいくのかを実例に沿って解き明かした。大人になると忘れてしまう言葉の不思議や秘密が、子どもの眼を借りて生き生きと描き出されている。

つまり、「た―だ」「さ―ざ」「か―が」の間に成立している対応関係が成り立っているのは、「ぱ(pa)」と「ば(ba)」の間のほうなんですね。
「おんな」+「こころ」は「おんなごころ」で「こころ」が濁音化(連濁)するけど、「おんな」+「ことば」で「おんなごとば」になることはない。なぜだろう?という問いの答えは「ライマンの法則」とよばれています。
「タニシ」と発音した音声のなかにtanという音があるかを尋ねた場合は、日本語話者のほとんどはYESボタンを押さなかった一方、英語話者とフランス語話者は(…)YESと反応したと報告されています。

日本語話者が日本語の仕組みをわかっているかと言えばそんなことはなく、かえって当り前すぎて気が付かないことが多い。そうした点をあらためて知るには、子どもや外国人が日本語を学ぶ方法が参考になる。

「日本語の授業で、「っ」ってどう習いましたか?」
「次の音の構えをしながら、つまりスタンバイしながら1拍分の長さをおくことです」

自分が普段使っている言葉について深く知ることは刺激的で、新たな可能性を開いてくれることだと思う。

2017年3月17日、岩波書店、1200円。

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2017年06月21日

「Tri」第5号

短歌史に関する評論同人誌。今回のテーマは「ろんそう!」。
寺井龍哉、大井学、浅野大輝、濱松哲朗、花笠海月の計5篇の論考が載っている。A5判、104ページという厚さ。

濱松哲朗「これからの「短歌史」のために」は、2007年の佐佐木幸綱と私の論争を取り上げたもの。

あの論争が不毛な言い争いに終わってしまったのはなぜなのか。濱松は双方が前提とする文脈が大きく違っていたことを、佐佐木と私それぞれの作品や評論なども踏まえて丁寧に論じている。

非常にスリリングでおもしろく、また、納得のいく内容であった。

私は論争の当事者だったわけだが、当事者だからと言って論争の全体図がわかっているわけではなく、むしろ当事者ゆえに見えない部分が多いのだろうと思う。今回、濱松さんの詳しい解説を読んで、初めて「なるほど、そうだったのか!」と気づくところがたくさんあった。

松村の評論は、一首のうちに描かれた〈われ〉以上に、その〈われ〉に課せられた「運命」や、そう書かざるを得なかった「作者」の「運命」を追ったものが多い。
松村は時に「行動を選択しない〈われ〉」を作中に描くことがある。

こうした指摘も、自分ではあまり意識していなかったけれど、確かにそうだなと思う。自分の中にある何かが、評論にも歌にもやはり抜きがたく滲み出ているのだろう。

2017年5月7日、H2O企画、700円。

posted by 松村正直 at 13:45| Comment(0) | 短歌誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年06月19日

三浦英之著 『五色の虹』


副題は「満州建国大学卒業生たちの戦後」。

1938年に満州国の最高学府として、首都新京(現:長春)に設立された建国大学。そこでは「五族協和」の理念のもと、日本人、中国人、朝鮮人、モンゴル人、ロシア人の優秀な学生が集まり、6年間の共同生活を送っていた。

本書は彼らの栄光と挫折、そして戦後の苦難の歴史を記したノンフィクションである。

著者は建国大学の卒業生を訪ねて国内はもとより、中国、モンゴル、韓国、台湾、カザフスタンへも取材に行っている。その取材力、調査力、筆力に圧倒される。

敗戦による満州国の崩壊は、日本人の運命を大きく変えた。それだけでなく、他民族の学生もまた、傀儡政権の大学に通っていた「日本帝国主義への協力者」として、厳しい境遇に置かれることになったのだ。

理想と現実の違いや歴史を多面的に見ることの大切さを、あらためて強く感じる。近年の東アジア諸国との緊張関係を思う時、「民族協和」という理想は今もなお達成されていないのだと思わざるを得ない。

今年読んだ本の中でナンバー1。

2015年12月10日、集英社、1700円。

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2017年06月18日

サハリンへ行くには

サハリン(樺太)に渡るには、船か飛行機に乗ることになります。

〇船
北海道サハリン航路の船(定員80名)が、6月から9月にかけて週に2〜3往復、稚内―コルサコフを4時間30分で結んでいます。
http://hs-line.com/schedule.html

〇飛行機
オーロラ航空の新千歳―ユジノサハリンスク便は週に3往復、所要時間1時間20分。同じく成田―ユジノサハリンスク便は週に2往復、2時間30分です。
http://www.uts-air.com/aurora/annai/

皆さん、ぜひサハリンへ!
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2017年06月17日

那部亜弓著 『知られざる日本遺産』


副題は「日本統治時代のサハリン廃墟巡礼」。
八画文化会館叢書vol.3。
廃墟や珍スポットの紹介で有名な八画文化会館の本である。

「かつて恵須取には樺太で紙生産能力No.1の王子製紙工場があったらしい」との情報を手掛かりに、今は廃墟となっている樺太の工場を訪ね回った記録。

王子製紙の恵須取工場、知取工場、敷香工場、真岡工場、落合工場、豊原工場、大泊工場、さらにサハリン各地に残る日本時代の遺構の写真が収められている。敷香、真岡、大泊の工場には行ったことがあるので懐かしい。

私は人より海外の空気を吸った方だと自負しているが、このサハリン行脚ほど金がかかった旅はない。(…)限られた5泊6日の時間の中で、すべてを回りきるには、自由がきく車のチャーターが必要になる。それも未舗装の砂利道をゆくので4WD車で。(…)そして、何より情報がない。

著者がサハリンを訪れたのは2009年のこと。基本的な状況は今でもそれほど変っていない。

2015年8月、八画出版部、1000円。

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2017年06月16日

小塚拓矢著 『怪魚ハンター』


2010年に地球丸より刊行された『怪物狩り』に加筆・修正して改題したもの。

「自分より大きな魚が釣りたい」という夢を追い、「大学時代に5回、オレは海外に釣り旅に出る」と宣言した著者。

アマゾンの「神龍」ピラルクー、アフリカの「牙」タイガーフィッシュ、モンゴルの「鬼」タイメン、パプアニューギニアの「闘神」パプアンバス、アフリカの「幻獣」ムベンガなど、体長1メートルを超える魚を釣り上げる様子が実に生き生きと伝わってくる。

本書はそうした大物釣りの記録であるとともに、18歳から24歳までの初々しい青春の記録でもある。

新潟から実家の富山までのお盆帰省に際して、「24時間で何km歩けるか」を実験した。強盗に襲われるなどして一文なしになったときに、とにかく歩いてでも空港にたどり着くために。いち生物として、自分のスペックは、いかほどなのか。人として、知っておかなければいけない基礎情報だと思った。
結局、僕が持っていたのは、出発する勢いと、諦めない信念と、そのふたつだけだった。そしてきっと、必要だったのはそれだけなんだろう。

その後も自らの立ち上げた会社で釣り具の企画・販売をしながら怪魚釣りを続け、既に世界46か国を訪れたと言う。そのエネルギーに、ただただ圧倒される。

2017年1月5日、ヤマケイ文庫、900円。
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2017年06月15日

羽生善治、NHKスペシャル取材班著 『人工知能の核心』


2016年5月放映のNHKスペシャル「天使か悪魔か 羽生善治人 工知能を探る」の取材を通じて得た知見をもとに、人工知能の可能性と課題、今後の人間社会のあり方について考察した一冊。

チェス、囲碁、将棋などにおいて、既に人工知能は人間の実力を大きく上回っている。だから、この本でも「人工知能vs人間」の勝負の話はほとんど出てこない。

話はもっと先に進んでいる。「コンピュータ将棋と人間の棋士の間で起きている様々な事象が、今後、人工知能が社会で応用されていくときに想定される事態を先取りしている」という認識に立って、この本は書かれているのだ。

社会のなかで多くの人々が人工知能の出した結果にいかに納得するか、というテーマもあると思います。
人間らしい安心感や安定感のある「美意識」を人工知能が持つのは、社会に受け入れられていく上で大事なことだと考えています。

確かに、「効率」や「正解」「最適解」といった観点だけではなく、「納得」「安心感」といった要素が人間にとっては大事なものなのだろう。「人工知能について知ることは、人間について深く知ることでもあるのかもしれません」という指摘は、まさにその通りだと思った。

2017年3月10日、NHK出版新書、780円。
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2017年06月14日

「アララギ」 昭和17年2月号


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用があって古い「アララギ」を読んでいる。
昭和17年2月号。

前年12月8日の真珠湾攻撃や12月10日のマレー沖海戦の華々しい戦果が、多くの歌となって誌面に載っている。

ペンシルバニヤに命中したる直後にて空中魚雷の白き雷跡
(らいせき)            山口茂吉
ほふり得しレキシントンの轟きを自ら聞きて還りたる艦(ふね)
                   佐藤佐太郎

高安家の人々の歌も載っている。

巨艦(おほきふね)ほふりはてむと身をもちて火炎に入りし
稚(わか)きますらを      高安やす子
戦はいづちと思へばせきあへぬ心となりて空を仰ぎつ
                   高安国世
今まさに艦勇ましく戦ふに灯火管制下二人の吾子は眠れり
                   高安和子

それぞれ「二月集 其一」「壬午集(土屋文明選)其三)」「壬午集 其一」に掲載。

ちなみに表紙の絵は、マネの「エミール・ゾラの肖像」。
http://art.pro.tok2.com/M/Manet/z047.htm

扉に茂吉がこの絵の鑑賞を書いている。
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2017年06月13日

海豹島

北原白秋の『フレップ・トリップ』は、大正14年の樺太旅行を描いた紀行文の名作である。2007年に岩波文庫から新版が出ており、現在でも手軽に読むことができる。

その『フレップ・トリップ』の最大の山場と言えば海豹島(かいひょうとう)だろう。白秋が訪れた当時、島には3万頭のオットセイと30万羽のロッペン鳥が棲息していた。その圧倒的な迫力を、白秋は文庫で50ページにわたって描いている。

現在、その島はどうなっているのか。

白秋が訪れてから90年以上が過ぎた今も、実はロシアの自然保護区となって昔のままの姿をとどめているのだ。その様子は、写真家斉藤マサヨシさんのHPの「CHURENI island チュレニー島の海鳥と海獣たち」に記録されている。

全31枚。圧倒的な迫力と美しさである。
http://westen.jp/photos/sakhalin/chureniisland/

ぜひ一度行ってみたいなあ。
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2017年06月11日

馬場あき子歌集 『渾沌の鬱』

2013年から15年までの作品を収めた第26歌集。
現代三十六歌仙シリーズの28。

豆の種もちて帰化せし隠元の豆の子太り信濃花豆
魂はけふすすき野の空にゐたりしがうつし身いわし焼きをりわれは
台風は南大東島にありてわが庭の石榴すでに落せり
まな板を干せば無数の傷みえて去年より今年へ年改まる
窓の向うに梅の花二つ咲いてをり今朝こまやかにからだも動く
芭蕉より一茶に人気ありといふフランスにけふ初雪が降る
降り沈む雪は音なくにひがたの街たひらかになして更けたり
母を亡くしし人より届くかぶらずしその亡き母の賜ひしごとく
何ごともをはりはつひによからずと自らいひて深くうなづく
若きらにまじれば心はなやぐを連れだちて若きらは若き彼方へ

1首目、インゲン豆の一種である花豆。その来歴を感じさせる。
2首目、魂と身体が離れてしまったような感覚。夜食の準備をしながらふと現実に戻るのだ。
3首目、何千キロも離れている台風の風がやって来たのだろうか。
4首目、何も変わらないようでいて、毎年少しずつ傷が増えていく。
5首目、「こまやかに」がいい。寒さが少し緩んで、身体の調子もよくなっていく。
6首目、「芭蕉」「一茶」「フランス」「初雪」という流れの面白さ。
7首目、「にひがた」が平仮名なのがいい。輪郭がなくなるまで雪に包まれていく町。
8首目、北陸の方なのだろう。母の代から毎年欠かさず送ってくれる。
9首目、「終り良ければすべて良し」とはいかないのが現実。
10首目、若者は若者で集まって、年寄りの相手になろうとはしない。

八十歳代後半を迎えた作者の年齢的な感慨が随所ににじむ。
それが何でもない日常の歌にも陰影を添えているように思う。

2016年10月27日、砂子屋書房、3000円。

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2017年06月10日

カルチャーセンター

大阪、芦屋、京都でカルチャー講座を担当しています。
短歌に興味のある方は、どうぞご参加下さい。

◎毎日文化センター梅田教室 06−6346−8700
 「短歌実作」 毎月第2土曜日
  A組 10:30〜12:30
  B組 13:00〜15:00
   *奇数月を松村が担当しています。

◎朝日カルチャーセンター芦屋教室 0797−38−2666
 「はじめてよむ短歌」
  毎月第1金曜日 10:30〜12:30

◎朝日カルチャーセンター芦屋教室 0797−38−2666
 「短歌実作(A)」 毎月第3金曜日 11:00〜13:00
 「短歌実作(B)」 毎月第3金曜日 13:30〜15:30
   *偶数月を松村が担当しています。

◎JEUGIAカルチャーセンターイオンタウン豊中緑丘 06−4865−3530
 「はじめての短歌」
  毎月第3月曜日 13:00〜15:00

◎JEUGIAカルチャーセンターKYOTO 075−254−2835
 「はじめての短歌」
  毎月第3水曜日 10:00〜12:00

◎JEUGIAカルチャーセンターMOMOテラス 075−623−5371
 「はじめての短歌」
  毎月第1火曜日 10:30〜12:30

◎醍醐カルチャーセンター 075−573−5911
 「初めてでも大丈夫 短歌教室」
  毎月第2月曜日 13:00〜15:00

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2017年06月08日

早坂隆著 『兵隊万葉集』


日中戦争から太平洋戦争、そして終戦へ至る時期に詠まれた歌を紹介しつつ、戦況などの解説を加えた本。戦争を詠んだ短歌を「当時の人々の率直な思いが込められている貴重な戦史資料」として捉え、そこから歴史を学ぶという姿勢で書かれている。

支那兵の死に浮く水を汲み上げてせつなけれども呑まねば
ならず                  上原酉松
汝が父の遺骨迎ふるも知らずして汽車にゆるるを喜びをりぬ
                      伊藤さよ子
大方は米国製なる工作機の耐用期間をわが思ひ見つ
                      山本広治
吾が前に少年二人戦ひに死にゆくことを事もなげにいふ
                      寺田幸子
手垢つきし愛(かな)しき本はわが名書きて征かざる友にわか
ち与へぬ                 玉井清文

引用されている歌の選びが良い。ただし、句ごとに一字空けという形で引用されている点が気になる。

これは「幅広い読者を対象とする新書の性格に鑑み、読みやすさを優先して、基本的に五・七・五・七・七の五句体に区切って表記した」ということなので、仕方がないのだけれども。

2007年7月30日、幻冬舎新書、740円。

posted by 松村正直 at 18:54| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする