2019年08月15日

山階基歌集 『風にあたる』 (その2)


 バス停は置かれた場所の名ではなくほんとうの名を呼べば振り向く
 ねむるあなたの苗字をぼくの字で書いて再配達の書留をもらう
 菜の花を食べて胸から花の咲くようにすなおな身体だったら
 目印のビルは更地になっているまた会うのならここになるかな
 すんなりと酔ってあなたは似顔絵になりやすそうな顔をしている
 ぼんやりと待てば受話器の向こうにはロンドン橋がなんども落ちる
 金属の文字がはずれたあとにあるコーポみさきのかたちの日焼け
 使おうとペッパーミルをつかむたび台にこぼれている黒胡椒
 梨の皮うすくへだててあかときの指とナイフはせめぎあうだけ
 籠もるためのような冬の日アパートの屋根をはずして覗き込みたい

1首目、私たちが普段バス停の名前だと思っている「××町1丁目」とか「△△市役所前」は、実は場所の名前であって本当の名前ではないのだ。
2首目、同居人の苗字を書く時の気恥ずかしさと嬉しさと。
3首目、すなおな心ではなく「すなおな身体」としたのがいい。
4首目、二人で会う時の目印にしていたビルがなくなってしまった寂しさ。
5首目、表情から硬さや装いが取れて自然な良い顔になっている。
6首目、電話の保留のメロディーの定番。ずいぶん長く待たされている。
7首目、かつて文字があった部分だけが白っぽく残っているのだ。
8首目、「使おうと」から始まって「黒胡椒」で終わる語順がいい。
9首目、皮一枚を隔てて刃先の動きを感じている指先。
10首目、ミニチュア模型のように屋根が外せたらという発想がユニーク。

2019年7月23日、短歌研究社、1700円。

posted by 松村正直 at 00:01| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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